結城光星としてこの場に

「───ッ!」


 空間に一時的な足場を生み出す、スキル【月歩】。それを上手く用いて、彩花あやか志乃しのの正面へと現れた。


「なんのつもりッスか? 答え次第では………今ここで殺すッスよ?」


 彩花あやかの手に握られていたのは、先程使っていた拳銃ではなく、【厄災】とも言われた『トレスダンジョン』の攻略報酬───〝マジックバレット〟であった。


「いいねぇ、その殺気。幾つもの修羅場をくぐってきた殺気だねぇ〜」

「…………」


 お互いの膠着状態こうちゃくじょうたい。───そして数秒後、近くで瓦礫がれきの崩れた音が合図だったかのように両者は動き出した。


「ふっ!」


 風魔法と火魔法を纏った弾丸は、加速ブースト。さらに加速ブーストを経て志乃しのへと狙い進んでいた。


「…………ふ〜ん、初めて見たねぇ。銃に魔力を流す事で『魔弾』が作られるアイテムはねぇ〜」

「そりゃどうも───ッスね!」



 ポンプショットガンに似た銃である〝マジックバレット〟の能力は、弾丸に魔法が乗せられている───通称『魔弾』を作成する事が出来る。

 一見、〝マジックバレット〟は付与魔法エンチャントに全く似た能力であるが、完全なる上位互換と言った方がいい。



「吹っ飛ばせ───【超爆発エクスプロード】!」

「…………!?」


 そして、『魔弾』とは本来〝聖剣エクスカリバー〟と同じで、本来どの生物・・・・にも有効的な攻撃を与える事が出来る………が、今回は少し違っていた。


「いやぁ、流石に今のはヤバかったねぇ〜」

「ちッ!」


 肌の1つも射抜く事なく志乃しのは無傷でその場に佇まいていた。そして次の瞬間───


「【魔力波動マジックインパクト】」

「しまっ───ぐっ!?!?」


 志乃しのの手から出された魔力の塊は、大きな音と共に彩花あやかは避ける間もなく地面に叩きつけられた。


「結構惜しかったねぇ〜?」

「ふざけんじゃ………ない……ッスよ」


 強者の雰囲気オーラ、強者の余裕。───強者の全てを醸し出している志乃しのは、ただ淡々たんたんと言葉を話していた。


「まぁ、貴重な実験材料を無くすのは痛いけどぉ───ここで殺すねぇ〜?」

「…………っ!?」


 ナイフを突き出したかのような言葉を言い終えた志乃しのは、空から風の刃を無数に出現させた。


 そして、それをみた『少年』は動き出していた。







1重シングル付与魔法エンチャント───【暴風剣ミストラル】!」


 無数に迫り掛かる風の刃を、俺は【暴風剣ミストラル】で防ぎ切った。


「へぇ〜、凄いねぇ。この一瞬で『風の刃を相殺』させたなんてねぇ〜」

「はっ、うるせぇ。お前の評価なんか願い下げだ」



 相手には分からない、恐怖の感情。

 相手には見れない、震える手足。

 相手には聞こえない、絶望の声色トーン


 それすらも全て心の奥底に伏せ、俺は結城ゆきしろ光星こうせいとしてこの場に立っていた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

チュートリアルダンジョンの無限牢獄に閉じ込められた俺 〜今日から日常を送りたいと思っています〜 M.N @ATFWX

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ