引きこもりになった幼馴染から告白された
りんごかげき
引きこもりになった幼馴染から告白された
幼馴染の南マチは引きこもりだ。
高校生になって、友達作りに失敗したらしい。
中学生の頃までは、明るくて活発な女の子だった。
でも今は、人をダメにするクッションに埋まりながら、天井を見上げている。
「寝ても、眠くて、寒くて、体に力が入らない。集中できなくて、楽しい気持ちになりにくい。家から出ることが恐くて、ずっと横になって、一日を過ごしている。ずっとこのままなんだと思う、わたし」
「病院の先生から、お薬もらっているんだろう? きっとよくなるよ」
最近、南マチはいつもパジャマ姿だ。
お風呂にも入っていないし、外出もしていない。
「何かをやらなきゃダメだと思うんだけど、動きたくないんだもん。うっすら頭痛がして、胸騒ぎがする」
「今朝のお薬、ちゃんと飲んだ?」
「忘れた」
「もう……」
お薬の数を数えると、ちゃんと飲んでいたようだ。
「わたし、中学生の頃までは、自分ってお茶目だと思っていた。でも、お茶目なんかじゃなかったんだ」
「オマチは十分お茶目だよ。その、オマチは可愛いからさ……? みんな嫉妬しちゃっただけなんだよ。僕にはわかる」
南マチは、呟く。
「わたし、この世界にいる人はみんな優しくて、お友達になれるって思っていた。でも、ちがった。わたしは井の中の蛙だったんだ」
「とにかく、ちゃんと、しっかり休んで」
「休めないんだよ、つらくて」
「目を閉じて、深く呼吸して」
僕はオマチの洗濯物を干しながら、優しく語りかける。
よく、こうなってから、彼女の家でお世話役をしていた。お隣さん同士だし、両親も仲がいい。
「オマチは、高校生になるまでちょっと運がよすぎたんだね。人から嫌なことされるのって、小学生、中学生の内に経験しちゃうものなんだよ。でも、オマチは高校生になって初めて経験して、びっくりしちゃっている」
「ふふ、七海、カウンセラーみたい。病院の先生と話している時よりも安心する。……眠たくなってきた。でも、どうせ、眠れないんだ」
「眠たくなったら、寝てもいいからね? 夕ご飯作っておくから、一緒に食べよう」
「七海……」
くいくい、と人をダメにするクッションの上で、南マチは僕を手招きする。
洗濯物を畳んだ後、向かうと、手のひらを向けてきた。
「握れってこと?」
「ん……」
僕が彼女の手を優しく包み込むと――思いの外、強い力で引き寄せられた⁉︎
「うわっ!」
ぼふっ。
南マチを怪我させないように、優しく包み込む。
すると、背中に腕を回された。
長い前髪の間から、お隣さんの瞳が、こちらを見ている。
僕は緊張したまま、抱きしめられている。
南マチは、想い人のほっぺに、自分の柔らかい頬をすりすりしてきた。
「あったかい。病院のお薬より、ずっと効く……」
「もう、オマチ? 十分力があって、ホッとしたよ」
幼馴染は涙をこぼしながら、ようやく本音を教えてくれた。
「わたしは、七海のことが好き、好き……」
「うん、なんとなく、知ってた」
僕は、そっと南マチの手を取ると、にっこりした。
「明日、家の周りをデートしようか」
「お散歩じゃなくて……?」
オマチの言葉を聞いて、僕はまた笑いかけてしまった。
彼女はひさびさに、幸せそうに微笑んでいた。
引きこもりになった幼馴染から告白された りんごかげき @ringokageki
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