ヌハム星人観察記録

結騎 了

#365日ショートショート 114

 ヌハム星人の繁殖は独特だった。

 多くの生物が体外に排出した頑丈な殻に子を守らせるのに対し、ヌハム星人はなぜか体内に宿す方法を採っていた。その身体は柔らかく、少しの衝撃で脆く傷つくのに、それでも身に子を宿すことにこだわっている。当然のごとく子は体内で成長し、排出時にはヌハム星人の孔が極端に肥大化。やがて、艶かしい個体が糞のようにぶるりと捻り出される。その様子はやけに生々しく、学者たちは記録映像を見ては顔をしかめた。

 育成も特徴的であった。ヌハム星人の子は昼夜を問わず騒音を撒き散らし、相対する母体は常に疲弊を余儀なくされた。知能が発達してからは、母体の偏った価値観を教え込まれ、それが絶対的だと疑わずに子は知性を育んだ。母体が黒と言えば全てが黒となり、白と言えば白となった。学者たちは疑問を抱く。これでは、あまりに個体の能力に依存している。種の平均的な精度をどうやって保つのだろう。あるいは、保つつもりがないのか。

 案の定、観測していたヌハム星人の子は成長し、程なくして母体を殺した。母体の育成論に反発したものと思われる。

 学者たちは笑い飛ばした。なんだこの種は、とんだ欠陥だ。こんな不完全な繁殖でよく増えたものだ。心配ない、放っておいてもいずれ絶滅するだろう。

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