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次の日、僕は目をこすりながら、白い天井を見上げていた。


なんだか変だ。

でも、知っている天井だった。

なんだろう、この違和感は。


窓の外を見ると、今日は天気が悪いのか、空は一面曇っていた。

こういう朝は気分が悪い。

スカッとした青空が見たいのに。


なんだかのどの調子が少し悪い。

そういえば昨日は冷房をかけっぱなしにしてしまった気がする。




「おはよう」


彼女が先に起きていた。

声に元気がない。

顔色も悪いようだ。


「夏風邪、引いちゃったかも」


鼻をすする音がする。


「熱は?」


僕は彼女のおでこに手をあてる。


「……手、冷たい」


彼女が笑う。

違う、君が熱いんだ。




「熱あるよ。もうちょっと寝てな」


薬を探そうと棚を漁りながら、ふと気づいた。


顔色が悪いだって?


もう一度彼女に近づいて頬を手で挟む。


「冷たいよ」


違う、君が熱いんだ。

君の頬は熱いんだ。

なのになぜ、君の顔色はそんなに悪いんだ。

なぜそんなに青白いんだ。


……白い。白すぎる。

まるで人形のように。

死人のように。




急に気分が悪くなり、流し台に吐いた。

口からは胃液しか出ない。

昨日、なにを食べたっけ。


横を見ると昨日の鍋があった。

ああそうか、カレーを食べたんだ。


蓋を取って中を覗くと、真っ黒な液体が入っていた。


「なんだ、これ……」


彼女が心配そうに、僕の背中を撫でてくれる。


「これ、なに……」


「昨日のカレーじゃん」


「焦げてる……」


「焦げてないよ」




脳が鈍く回転を始める。

昨日のカレー。

昨日は焦げていなかったのに今日は真っ黒だ。


訳がわからない。

僕は頭を振る。

ひじがガラスのコップにあたり、床でガラスの割れる音がした。


「あらあら、危ないから、ほらどいて」


彼女が片付けようとしゃがみこむ。

僕もしゃがみこんで、ガラスを拾おうと……


「痛っ」


「あーあー、もう、大丈夫?」


指先を切ってしまった。

指先から墨汁が流れ出す。




遠くでテレビの音がする。


「今日は全国的に快晴です」


アナウンサーが天気予報を告げる。


頭が理解することを拒否している。


ぼんやりとしたまま、フラフラとベランダへ向かう。


「ねえ、どうしたの? 本当に大丈夫?」


彼女の声が後ろで聞こえる。

君こそ、熱があるんだから今日はゆっくり寝てなよ。

そう言おうとしたが声にならない。


空を見上げると真っ白な曇り空だった。


下を見下ろすと真っ白な向日葵が僕を見上げていた。


僕はようやく理解し、声をあげて泣いた。


★おしまい★

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【短編】あの頃の僕らにはもう戻れない モルフェ @HAM_HAM_FeZ

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