そしてそれから[ソラとマイが空と舞になった日]
“あの日”──桜合家でマイとソラがふたりきりになった日、何があったかと言えば──実は、全然たいしたことはなかったのである。
無論、まったく何もなかったというワケでもなく、簡潔に言えば舞の部屋に来たソラがマイに告白し、“彼女”もそれを受け入れ、晴れてふたりが恋人同士になったのは確かだ。
その際、緊張しつつも唇を重ね、無事にファーストキスも済ませたわけだが、結局そこから先へは進まなかった。
ひとつには、ふたりとも長年の想いが通じ合った幸福感に酔って、互いの身体を抱きしめ、口づけを交わしているだけで満足していたということもある。
しかし、それ以上に、互いの立場が交換された(そしてその状況にすっかり馴染んでしまった)現状で、そのまま「そういうこと」をしていいのかという躊躇いがあったからだ。
さらに付け加えるなら、マイもソラも、中学三年生という年齢の割には健全というかその種の
しかし──星崎・桜合両家公認の(バ)カップルとなった彼らが、ずっと清い仲であろうはずもなく……。
夏が過ぎ、暦が秋を迎える頃、今度は星崎家の空の部屋でふたりきりになった“少年と少女”は、ついに一線を越えようとしていた。
「本当にいいんだな、マイ?」
「は、はい……ソラくん、私のこと、抱いて、くださぃ……」
語尾が消えそうになっているのは、慎み深いマイだけにやむを得まい。
それまでも周囲から「優しく面倒見がよくて女らしい」と見られていたマイだが、あの告白のあとはよりいっそう女子力を磨くことに熱心になっていた。
その甲斐あってか今の“彼女”は、たとえあの神社の神様による“立場交換の補整”がなくとも、客観的に見て言動、性格、ルックス、その他諸々踏まえてとても魅力的な“女の子”だと断言しても、どこからも文句は出ないだろう。
一方、ソラの野球馬鹿一直線と言ってもよいほどの部活への傾倒ぶりは、夏休み中の全国大会2回戦で惜敗したことでいったん区切りがついたようで、夏休みが終わると同時に野球部を引退し、もう少し(様々な意味で)男子中学生らしい毎日をエンジョイするようになっていた。
その過程で“思春期の男の子”らしいスケベ関連の知識も悪友連中から色々吹き込まれ、それに呼応するように本人のリビドーと性知識も増大しており、可愛い恋人と×××することを妄想して夜中に悶々と自家発電に励んだことも1度や2度ではなかった。
そしてついに、その妄想が現実になる時が来たのだ!
「(焦るな! こういう時の女の子はデリケートだって聞くから、ゆっくりと……)キス、するよ?」
逸る気持ちを抑えて目の前の恋人を抱きしめ、口づけを交わす。
この2年半あまり野球部のハードな練習を続け、それに応じた量の食事を健啖に摂ってきたせいか、順調に成長したソラは、今ではマイよりも数センチ背が高く、体格もたくましくなっている。
一方、マイの方は身長は一年生時の162センチからあまり伸びず、三年の春の身体計測では165センチ・48キロと、もはや肉体的にも「15歳の少女」としてなんら違和感のないものに仕上がっていた。
そんな状態で、自分の腕の中でうっとりと目を閉じ、ほんのり頬を赤らめている華奢な“女の子”の体(いい匂い付き)を感じたなら、“思春期の男子”としては、「この子を自分のモノにしたい!」という欲望がふつふつと沸き上がってくるのも、ある意味当然と言えるだろう。
「ソラくん──好き……♪」
さらにその上、トロンと薄目を開けたマイにそんなことを囁かれては、もはやソラを押し留めるものは何もなかった。
「オレも好きだよ、マイ」
そう言うとソラは再びマイの唇をふさぎ、そのまま背後のベッドに押し倒す。
(マイが欲しい)
己の欲望に素直になったソラはマイの身体に覆いかぶさるようにしてキスを続ける。
静かな部屋に響くのは、時折漏れる互いの吐息と舌と粘液が絡み合う湿った音のみ。
「んんっ……あぁっ!」
一方、マイの方もソラに負けず劣らず興奮の渦に囚われていた。
体中が熱く火照り、下腹部がジンジンと疼く。
唇を重ね、舌を絡めているだけで、とてつもなく淫靡な気持ちが昂っていく。
(もっと乱れたい、ソラくんにメチャクチャにされたい)
日ごろ品行方正を心がけていたマイが、ついに自分の欲望を認めた瞬間、ソラが唇を離した。
「あっ……」
たったそれだけのことで、マイは喪失感に泣きたくなる。
潤んだ瞳で、間近にあるソラの顔を見上げる。
「ソラくぅん……私、切ないよぉ」
「マイ……マイぃ!」
その瞬間、ソラの中で何かが切れた。
むしゃぶりつくような荒々しいキスとともに、愛しいマイの肢体をキツくキツく抱きしめる。
「マイ、すっげぇ可愛いよ」
「ソラくん……うれしぃ…」
「マイ…!!」
どれだけの間そうしていたかは分からない。それは3分だったかもしれないし、あるいは30分程経ったのかもしれない。
息を荒げながら再び唇を離すと、二人は瞳を見つめ合い、その中に愛欲の焔が燃えていることを互いに確認する。
もはや躊躇いはなかった。
顔を紅潮させ、熱い吐息を漏らすマイ。額にはわずかに汗がにじんでおり、そこに前髪が貼りつく様は、清楚な“少女”をそこはかとなく淫らな雰囲気へと変貌させていた。
「マイ……脱がすよ?」
「──はぃ」
ソラ自身の要望で着ているチアリーダーのコスチューム──チェリーピンクで超ミニなワンピースを、彼の手がゆっくりとマイから剥ぎ取っていく。
期待と興奮に震える指先で上半身のボタンを外してはだけさせると、薄桃色のレース飾りのついたブラジャーが顔をのぞかせる。
「マイ、すごく色っぽいよ」
「は、恥ずかしいから、あまり見ないでくださぃ……」
ソラは、ほとんど平坦だが微かに隆起しているように見えるマイの胸を下着の上から触った。
「はぅ……ぁんっ!」
……
…………
………………
「はぁはぁ、はぁ、ふぅ……」
名残惜しいが“結合”を解き、空は舞の隣りへゴロリと横たわる。
「ん…………ふふっ、とうとうシちゃいましたね」
先ほどまでの快楽の名残りに火照り、目を潤ませながらも、舞はどこか満足げに悪戯っぽい微笑を浮かべている。
不思議と大人びたその表情にドキリとしながらも、空は右手を舞の顔へと伸ばし、艶っぽく紅潮した頬を優しく撫でた。
「もしかして、後悔してるのか?」
「まさか。むしろ、もっと早くシていたらよかった──なーんて言う、エッチな女の子は嫌いですか?」
上目遣いで空を見つめつつ、わかりきった答えを聞く舞。
素直に答えるのはシャクな気もしたが、あえて空は直球で答えを返した。
「いいや。可愛らしくて面倒見がよくて、さらにエッチでオレにベタ惚れの彼女が嫌いな男なんていないって」
「ベ、ベタ惚れって……」
「違うの?」
「──合ってます」
恥ずかし気に彼の胸に顔を埋める舞を見ていると、先ほど放出しきったばかりのはずの下半身が再び滾り始めたのを空は感じた。
「な、なぁ、舞……」
「え!? も、もぅ、思春期の男がケダモノって本当なんですね」
呆れたという表情を作りつつも、舞の方も嫌がってはいないようだ。
それだけではない。
もうすっかり今の立場に慣れたとは言え、これまで僅かに感じ続けていた薄膜のようにピッタリ貼りついた違和感。
その最後の一枚が溶け出して、「ようやくあるべき自分になれた」、そんな解放感を、肉体的悦楽とは別に二人は今感じていたのだった。
<おしまい>
そして輝く星空のように 嵐山之鬼子(KCA) @Arasiyama
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