第2話 ケース352 広崎 浩二の場合:僕に合うひとがヤンデレってことですか?
足を踏み入れるとそこは別世界…というわけでもなく、少しファンシーなフリルや装飾はあるものの、あまり普通の店と変わらなかった。
少し変わった点があるとすれば、壁紙が紫なことぐらい。
お店のひとが紫色が好きなのかな?
「本日はこちらのお店に来たくてこられました?それともたまたま?」
と先ほどの綺麗な人が聞いてきた。
「あ、たまたまです」
と答えると、
「そうですか、よかったら当店の説明だけでも聞いていってください」
とお茶を出してくれた。
普段はあまり、こういうお店に無理やり呼び込んで説明を、というのはあまり好きではないのだが、この店の雰囲気かはたまたこの人の魅力なのか、僕は説明を聞かなければならないという気になってしまった。
お願いします、というとその人は話し始めた。
ここは紹介所であること、しかし普通の紹介所ではなく、ヤンデレしか紹介することのできない紹介所であるということ。
なにそれ?
僕は戸惑ってしまった。
普通、誰か限定の紹介所というかのはあまりない。ましてや、ヤンデレ限定だなんて。というか、この現実にヤンデレという存在がいるのか?出会ったことないけど。
そんな疑問が僕の顔に出ていたのか、その人は言った。
「ヤンデレってそんな現実にいるのか?って思いますよね。実はいらっしゃるんですよ、たくさん。
しかし、ヤンデレの方の多くは恋愛に困難を抱くことも多くて…。なので、ここで紹介させて頂いている、といった形を取っているんです」
なるほど、そういう場所もあるのか。なぜか、妙に納得してしまった。
この家の不思議な雰囲気も、あの店員さんの妖艶な魅力も、変わった店だから、といった点を考慮すれば、何の問題もない。
しかし、僕には不要な場所かもしれない。特にヤンデレと出会いたいとも思っていないし。
そう思っていると、店員の人は、
「もし、今までの恋愛にお困りでしたら、お話聞かせてください。何かお力になれるかもしれません」
と言ってきた。え?恋愛に困ってるってわかるの?ってまぁ、こんな怪しいところにほいほい入ってくる人なんて恋愛に興味あると思われても仕方ないか。
でも、はじめての人に
「重いって毎回振られるんですよー」
とは言いづらい。
そう思っていたが、店員さんの目を見ているとなんだか相談したくなってくる。
この人なら解決してくるんじゃないかって。
僕はポツリポツリと言い始めた。
いつも重いと言われて振られてしまうこと、今回もそう言われ振られてしまい、ここにたどり着いたこと…。
なるほど、そうなのですね、と店員さんが相槌を打つ。
その相槌が上手だからか、聞き上手なためか、彼女にどのように接してきたか、どんな時に彼女に会いたいと思うのかなど様々なことを話してしまった。
気がついたら一時間ほど経っていた。
こんなに自分の恋愛について話したのははじめてだ。
「僕は、恋愛に向いてないんですかね…」
と僕はポツリと言葉をこぼした。
すると店員さんは、
「もしかしたら、お客さまにはヤンデレの方がお似合いかもしれません」
と突然言い出した。
いや、なにそれ。僕結構悩みを言ったと思うんだけど。こんだけ話を聞いといて結局は営業?
僕はその対応に呆れ、興醒めした。
やっぱり店員とかに言うもんじゃないな。
しかし、その店員さんは、こう言った。
「お客さまはいつも重いと言って振られると言われてましたよね?
ヤンデレの方は大体が愛されているという実感を常に感じていたい方が多いです。そのため、重いというのは、ヤンデレの方にとってはとても好まれるのです。なので、お客さまが恋愛に向いていないわけではなく、ましてやお客さまが悪いわけでも無いのです。
お客さまは、自身の恋愛波長と合う方と今まで出会うことができていなかっただけなのです」
え?
思っていたとは異なる言葉が出てきて僕は戸惑った。
てっきり、ヤンデレの魅力を今から語られ、強引に入会させられるのかと思ったが、違った。
僕が悪いわけじゃない、と言われた。
僕は戸惑うと同時に、嬉しかった。
そうか、僕が悪いわけじゃなかったのか…。
って、ん?僕にはヤンデレが合う?
ヤンデレと出会いたいあなたへ〜ヤンデレ限定の紹介所へようこそ〜 ナガレカワ @naga_rekawa
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