どうやら俺らは帰るらしい。

 空港に併設されたレストランに入った。

 空港と言う事だけあってか、外国人や観光客の姿が多くみられる。

 

 メニュー表を手に取り、中身を見る。

 レストランという事だけあり、洋食や和食など様々なメニューが記載されている。

 

 「何にします?」

 「んー、とんかつ」 

 「オムライスにします!」

 「じゃあ私はハンバーグで」


 呼び出しボタンを押し、店員さんに注文していく。

 注文が終わり雑談に入る。

 

 「楽しかったですね」

 「ああ、良い経験になった」

 「私も凄く充実出来て楽しかったー!」


 振り返ってみると色々あったが本当に楽しかった。

 二日前の朝、不安だらけで心配だったが、いざ飛行機に乗ってみると気圧で耳がおかしくなったりと初めての体験で凄く面白かった。

 まあ、心々音には申し訳ないと思っている。

 観光も面白かったし、初めて逆ナンにもあった。

 人の多さという東京ならではの影響を肌に実感できた。

 

 二日目も初めての企業訪問みたいな感じだったし、宮前さんのお姉さんと二宮代表にも会えた。

 会議も社会人らしくてとても面白かったし、宮前さんの過去も知れた。

 その後は琴音姉さんと浅草観光をした。

 姉さんと話すのはなんだかんだ言って楽しかった。


 二日間という短いようで長かった思い出の余韻に浸りながら、二人を見た。

 俺の幼馴染でいつもそばに居てくれたみるくと俺が初恋の人だという美少女の心々音。

 少し変わり者の二人だけど、俺はこの二人と一緒に旅行が出来て本当に良かった。


 「俺は、二人と旅行が出来て良かったよ」

 「ふふっ、急に改まってどうしたんですか?」

 「なんか、りょーくんらしくない!」

 「感謝を伝えただけだ。ほんとそれだけ……」

 「うわー、りょーくん照れてる!」

 「珍しい、いつも意地しか張らないくせして今日は女の子みたくなっちゃって」

 「う、うるせえな。良いだろ、俺は本当に感謝してるの!二人が居なかったらこんな楽しい旅行は出来なかったと思うし」

 「そうですね、私も涼真くんとみるくちゃんと旅行が出来て良かったです」

 「うんうん、私も心々音ちゃんとりょーくんの三人で旅行が出来て良かった!」


 三人で笑い合い、これまでの感想を話し合う。

 楽しい時間と言うのはあっという間で、少ししか話していないのに料理が来た。

 料理を食べながらも楽しく話し合い、食べ終えた後も少し談笑し店を出た。


 「美味しかったですね」

 「朝ご飯食べてないから余計に美味かったわ」

 「激しく同意!」


 昼飯を食べ終わった後は適当にお土産屋さんや飛行機が飛び立つ瞬間が見られるデッキに行ったりして時間を潰した。

 そして時刻は5時を回った頃、俺のスマホが激しく震えた。


 「はい、もしもし」

 「あ、琴音だけど」

 「着いたか?」

 「あ、うん。どこに居る?」

 「えっと、一階のお土産屋だ。東京バナナとか売ってるとこ」

 「おっけ、そっち向かうわ」


 琴音姉さんからの電話でもうこちらに着いたとの事。

 そろそろ東京から離れなければならない、何だか寂しさが込み上げてくる。

 

 「どうしました?」

 「あ、琴音姉さんが来るって」

 「……分かりました。みるくちゃんに伝えてきます」


 心々音は少し嫌そうな顔をした後、少し離れたみるくに琴音姉さんが来ることを伝えに行った。

 まあ、心々音からしたら好きな人に異性の同居人が出来るわけだから嫌なのは当たり前か。

 まあ従姉だし、惚れることは神に誓っても無いがな。

  

 「お、いたいた」


 きき覚えのある声が聞こえた。

 振り返ってみるとそこには赤一色のキャリーケースを引いた琴音姉さんが居た。

 前回あった時とは服装がだいぶ違く、心々音が好んで着ているボーイッシュファッションではなく、全身をクリーム色で固めたポワポワさせた雰囲気を感じる服装になっていた。


 「何か服変えた?」

 「んー、まあ変えた。なんか黒で固めてもあまり良い印象は与えられないかなって」

 「心々音にか?」

 「まあ、そんなとこ。みるくちゃんから聞いたよ、その子凄く怒ってたって」

 「怒ってたわけじゃないと思うけど、多分妬いてたんだと思う」

 「妬いてた?」

 「何か俺に惚れてるらしい」

 「ぷっ、そうなの?」

 「ああ」

 「付き合う気は?」

 「無いとは言い切れないが、今は良い」

 「そっか、涼真らしい」

 「なんだそれ」


 今日の琴音姉さんは何だか雰囲気が違う。 

 いつもはもっとガツガツ行くくせして、今日は踏み込んで来る感じが無い。

 会話をしっかりと聞いて、まともな意見を述べる。

 人が変わるとはこういうことを言うのだろうか。

 姉さんの事について不思議に思っていると、向こうの方から心々音とみるくが歩いて来た。


 「あ、ことねえ!」

 

 みるくがちょこちょこと走って来て琴音姉さんに抱き着く。


 「おーみるく!おっきくなったねぇ!」

 「ことねえ久しぶりー!会いたかったよー!」

 「ああ、私も会いたかったぞ!」

 

 二人がラブラブしている間、俺は遠目で二人を見ていた。

 すると脇腹に何か小さな衝撃が走った。

 隣を見てみると少し不機嫌そうな心々音に脇腹をつつかれていた。


 「どうした。何か気に食わないか?」 

 「いえ別に、それよりはい」

 

 心々音から小さな袋を渡された。

 それを受け取り、上から触ってみると何かぬいぐるみのようなものが入っているように感じた。


 「くれるのか?」

 「はい、一応私も同じものを買ったのでカバンか何かにつけてくれると嬉しいです」

 「そっか、ありがと。大事にするわ」

 「いえ、全然……」

 

 心々音は顔を赤くさせるのと共にそっぽを向き顔を隠した。

 照れ隠しなのだろうか。

 俺は感謝しつつ、紙袋を開けた。

 紙袋を開けてみると中には『東京限定!』と大きくかかれた東京バナナのストラップ型のぬいぐるみが入っていた。

 心々音らしいというかなんというか、凄く嬉しい。

 俺はカバンにぬいぐるみをしまった。

 

 「みるくを堪能したし、もうそろ行くか?」

 「そうだな、時間的にも早めに入っといた方が良いか」

 「……そうですね。私も同感です」

 「私は皆に合わせます!」


 全員が納得したので4人で手荷物検査場に行き手荷物を預けた後、心々音がチケットを発行してゲートをくぐった。

 さて、ここまで来ると旅行も本当に終盤。

 あとは飛行機に乗って帰るだけだ。


 ゲートをくぐり琴音姉さんに話しかけられた。

 

 「私、適当に飲み物買ってくるわ」

 「おっけ」

 「あ、私も行きたーい!」

 「みるくも来るか?」

 「うん、飲み物無くなっちゃたし」

 「じゃあ行くか」

 「うん!」


 二人を先に行かせ、俺は心々音を待つ。

 少しして検査を終えたのか心々音がゲート奥から出てきた。


 「お待たせしました……って二人は?」

 「何か飲み物買いに行った」 

 「なるほど、みるくちゃんにはチケットを渡して置きましたし、先に搭乗口に行きましょうか」

 「おっけ」


 心々音と二人で歩き、搭乗口を目指す。

 話す話題も無く、微妙に気まずい空間になってしまっている。

 何か話題は無いだろうかと思い、考えてもみるが特に話題は無い。

 まあ搭乗口についてから適当に何か話せば良いか。

 そう思っていると心々音が話しかけてきた。


 「涼真くん」

 「ん、どした」

 「私はあなたを好きでいても良いでしょうか」

 「いきなりどうした」

 「いえ、なんか琴音さんとのやり取りが目に焼き付いてしまって。凄く仲が良さそうで、見ているこっちまで『凄く仲が良いんだな』と思わせられてしまって……」

 「なんだそれ、面白いな」

 「えっ?」

 「俺たちだって仲良いだろ。そもそも告白されて答えを保留にした状態でこんなに仲が良い奴らは俺らしかいないだろ」

 「確かにそうですが……」

 「それに、姉さんとは従姉だ。仲が良いのは当たり前なんだよ」

 「……」

 「恋に関しては答えが出せない俺が悪い。だから、心々音は抱え込まずに自分の思うようにしていていいと思う」

 

 確かに、琴音姉さんに妬いてしまう心々音の気持ちは分かる。

 俺も好きな子が自分以外の異性と仲良さそうに話してたら妬いてしまうと思う。

 でも、だからと言って抱え込んで自分が本当に好きなのかを分からなくなってしまう。

 そうなってしまえば恋なんて終わりに過ぎないと言うか、そうなってしまったらダメなんだと思う。

 

 自分の気持ちを伝えて、ダメだったらそれで終わりにすれば良いし、良かったらそのまま突き進む。

 まあ持論だからあんま過信しない方が良いけど、俺的には恋はこんなものだと思っている。


 「なんか、涼真くんらしいです」

 「そうか?」

 「はい、私もまだまだですね。必ず、あなたを堕としてみせます!」

 「何回目だ?それ」

 「知りません!」

 「なんだそれ」

 「うるさいですね。あ、着きましたよ」


 搭乗口に着き、俺は椅子に座った。

 隣に心々音が座り荷物を床に置く。

 

 「ふう、疲れました」

 「おい、もたれかかるな」

 「これぐらいは良いじゃないですか。二人ですし」

 

 いつもなら引き剥がすが今日は東京旅行最終日、それに心々音には大変お世話になった。

 今日だけ、これくらいは許しても良いか。

 俺は甘い考えになりながら、結局心々音を引きはがすことは止めた。


 「今日は嫌がらないんですね」

 「まあ、東京ではお世話になったからな。心々音が嫌じゃないなら良いよ」

 「えへへ、ありがとうございます」

 

 心々音の頬が俺の肩に当たる。 

 暖かい感触が俺の肩を包み、高揚感がさらに俺を包む。 

 もし心々音と付き合ったらこんな事が毎日のように起こるのか。

 そんな事を考えながら、俺はみるくと琴音姉さんを待った。

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幼馴染の家に行った俺は配信に映り込んでしまったらしい。 竜田優乃 @tatutayuno

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