どうやら旅行は終わりを迎えようとしているらしい。

 頭の痛みを覚え、俺は体を起こした。

 隣に置いてあったスマホを手に取り、時刻を確認する。

 現時刻は9時、俺にしてはかなりの寝坊だ。

 隣を見てみると昨日と同様、心々音とみるくが同じベッドで仲が良さそうに寝ている。

 

 チェックアウトは12時と言っていたので起こすのは止めておくことにした。

 それにしても、昨日の夜は楽しかった。

 

 まずホテルの隣にあるAONEに行き、北野には無いうどんチェーン店『満開うどん』で夜飯を済ませた後、ゲームセンターでめちゃめちゃ遊んだ。

 

 まず満開うどんについてだが、テレビやCMなどで度々目にしていたため存在自体は知っていたが食べてみた事は無かった。

 最初は併設されているレストランにでも行こうと思ったのだが、俺が満開うどんの看板を見つけて恥ずかしいながらも行きたいという旨を伝えたところ、みるくも同情してくれて夜飯が決まった。


 俺はすだちうどん、みるくはかけうどんと付け合わせの野菜のかき揚げ、心々音は釜揚げうどんを頼んでいた。

 今でも凄く美味しかったことを覚えている。

 やはり満開うどんでしか味わえないダシとすだちの酸味、うどんのコシが混ざり合いチェーン店でこんなものが出してしまっても良いのかと思ってしまうほど。

 それに値段も490円とお安く、手に取りやすい価格だった。

 

 北野にも伊達製麺といううどん屋があるが、そこはかけうどんで400円もして少しお高いする。

 満開うどん、流石チェーン店と言った所だろうか、ぜひ北野にも出来てほしい。


 夜飯を終えた後は2階のゲーセンでクレーンゲームをしたりメダルゲームをしたりと充実出来たし、帰り際にプリクラも撮った。

 こちらも心々音と一緒に撮った機械とは違く、最新版の機械で機能が充実していて二人とも楽しそうにしていたし俺も楽しかった。

 

 顔の大きさを自由にいじれたり表情を笑ったり怒ったりさせたり、他にも色々な機能があった。


 「んんぅ……」


 何か声が聞こえたのでそちらに視線を移すとみるくが起きていた。


 「あぁ……おはよう、りょーくん……」

 「おはよう、もう9時だぞ?」

 「あへっ……もうそんな時間なの……?」

 「今日で東京観光も終わりだ、なんだか悲しいな」

 「だね、んーっと。眠いなぁ……」


 みるくが体を伸ばすためか腕を天井に突き上げる動作を取った。

 その瞬間、みるくの着ている上着が少し上がりすらっとしたお腹が見えた。

 やばい、なんか変に意識してしまう。

 

 邪念を振り払い、みるくも起きたので心々音も起こすことにした。

 

 「おい、起きろ」

 「んんむぅ……今何時ですか……」

 「12時だ」

 「12時……12時……12時!?」

 

 心々音はチェックアウトの時間だと思ったのか、目をかっぴらき体を勢いよく起こした。


 「ぷっ、嘘だよ。今は9時」

 「はぁ……?なめてます?」

 「いや全然、お返しだよ、お返し」

 「くっ、確かにそうですねムカつきますが。とりあえず着替えを済まして10時にはホテルを出ましょうか」


 心々音の提案により女子二人を先に着替えさせて、二人の着替えが終わったら俺が脱衣所を使い外用の服に着替えた。

 全員が着替え終わり少しした後、最後に忘れ物が無いかを確認して部屋を出た。


 「ここともお別れか」

 「案外楽しかったですよ?」

 「案外ってなんだよ」

 「案外は案外です。最初は少し心配だったんですから……」


 心々音は少し切なそうな表情を浮かべエレベーターに乗り込んで行った。

 俺とみるくも乗り込み、エントランスに向かう。

 

 エントランスに着き、心々音がカードキーを返しに行った。

 心々音を待つべく、みるくと二人イスに座って待って居ると俺のスマホが鳴った。

 誰からだと思い確認してみると昨日会った琴音姉さんからだった。


 「はい、もしもし」

 「あー、もしもし?」

 「どした?」

 「今日の帰りって7時の便?」

 「あー、うん」

 「おっけー、その飛行機のチケット取ったから一緒に帰ろうぜ!」

 

 こいつ、マジふざけてる。

 行動力があるのは凄い事だし尊敬もしている。

 でも昨日の内に連絡ぐらいは出来ると思うし、いくら何でも突発的すぎる。

 これは少しは怒らないと。


 「おい、ふざけてんのか?」

 「ん、なんだよ」

 「いくら何でもいきなりすぎだろ」

 「いや、昨日連絡したじゃん」

 「は?」

 「いやいや、だから連絡したって。あんたもしかして私のLIMU通知OFFにしてない?」

 

 確認するため一度スマホを耳から外す。

 LIMUを開いてみると確かに琴音姉さんからのLIMUが来ていた。

 内容は「明日のチケット取れたから、そっち行くね」との事。

 これは、誰が何と言おうと俺が完全に悪い。

 

 一時期姉さんと頻繁に連絡を取り合っていた時があったのだが、送られてくる内容が全てしょうもない内容で、あまりにもウザいので通知を消していた事をすっかり忘れていた。

 

 「す、すまん……俺が悪かった」

 「ぷっ、分かればよろしい。んじゃ、行くからよろしくね」

 「ああ……」


 俺は乾いた声で電話を切った。

 一応みるくには姉さんが転校することを伝えたが、心々音には拗ねていた事もあり伝えていないし俺の家に居候することに関してはみるくも知らない。

 マズい方向にだけは進まないで欲しいが、どうなるかは分からない。

 こういうのは早めに伝えた方が良いか。


 丁度心々音が戻って来たので俺は琴音姉さんの事を伝える事にした。


 「ただいまです」

 「うっす、お疲れ」

 「じゃ、行きますか」

 「ちょっとまてぃ、話がある」

 「どうしました?」

 「昨日俺の従姉の話をしただろ?」

 「まあ、はい」

 「琴ねえのことー?」

 「そう、それで単刀直入に言うと俺の家に住むことになった」

 「……」

 

 二人とも俺の方を見た後少し黙り、やがて二人でコソコソ話し始めた。

 話が終わったのか知らないが、再度俺の方を見てくる。

 なぜかは分からないがその視線はとげが刺さったかのように痛く感じた。

 

 「みるくちゃん、この人置いて行きましょう」

 「そうだね、置いてこうか」

 

 そう言い二人は俺を無視して歩き始める。

 

 「ちょいまてやぁ!」

 「はい、なんですか」

 「何で置いてく!」

 「だってねえ……」

 「何だよ……」

 

 心々音はため息を吐くと「まあ置いてくのは嘘ですけど、そういうのはもっと早く言ってくださいね」と呆れ気味に言われた。

 俺はなぜか劣等感を感じながら「すみません……」と頭を下げて二人の後に付いて行った。

 

 ~~~


 最後にどこかに観光へ行こうかという話になったが、誰も行きたい場所が無かったので空港に向かう事にした。

 二日前来た道と同じ道を引き返す。

 りんかい線に乗り、その後はモノレールに乗る。

 今度ここに来る時は修学旅行で来るのか。

 その時はきっと夢の国やスカイツリーにでも行くのだろう。

 

 他の観光地は修学旅行までお預けだな。


 空港に着いた。

 昼飯どころか朝食すら食べていないため流石にお腹が空いた。

 スマホを取り出し時刻を確認すると12時になっていた。

 そしてLIMUの通知も来ていたので開いてみると琴音姉さんからで「何時ぐらいに合流できそう?」と来ていたので「もう合流できるよ」と返して置いた。


 「お腹が空きましたね。レストランにでも行きましょうか」

 「そうだな」

 「私もお腹空いたー」

 

 心々音の一声によって俺たちはレストランに向けて歩き始めた。 

 色々あった東京旅行、それももうすぐ終わりだと思うと何だか悲しいが、夏休みにこのような思い出を作れたことはとても嬉しい。

 さあ、最後に空港を楽しんで気分良く北野に帰ろうじゃないか!

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