第315話 何が出るかな。グミ!
呼びかけても、
瞼がぴくぴく動いている。
レム睡眠中で、何か夢を見ているかもしれない。
「仕方ありません」
加無木は五センチ角の紙を取り出し、指でピッと弾く。
紙が瞬く間に折り込まれ折り鶴になると、一直線に飛んで
「いった!」
針を刺したような、チクッとした痛みに悲鳴を上げて目を覚ます。
折鶴はただの紙に戻り、
「いたいー。なにかが当たって……あれ?」
「おはようございます。到着しました」
最悪の目覚めを与えた加無木が淡々と挨拶を述べる。表情筋が固定されているのか終始無の表情を崩さない。
そのため彼が怒っていると感じた
「す、すみません。起きました」
と申し訳なさそうに謝った。
「いえいえ。お気になさらず」
加無木が少しだけ目尻を上げた。本人は微笑んでいるつもりだが大変わかりづらい。
「お二人ともすぐに報告したいでしょうが、まずは医療室に向かい、メディカルチェックとメンタルチェックを受けてください。私がご案内します」
言い終わるとすぐに、加無木は運転席から降りて
「……気遣いどうも」
エスコートだと分かったが、
加無木は気分を害した様子もなく、ぺこりと会釈をしてから反対側へ向う。
完全に入れ違いになってしまったが、加無木は気にすることなく「では医療室へ」と声をかけた。
加無木は振り返って問いかけた。
「何か疑問がありますか?」
「先にオフィスに顔を出したいんだけど」
報告は後回しでも良いが、本部に戻った旨だけは伝えたかった。しかし加無木は「今は無理です」と小さく首を振る。
「顔をみせるだけでも駄目なの?」
「
「本部に戻るのはおそらく明日。そのように聞いていましたので、先に検査を受けるほうが時間短縮になるとこちらで勝手に判断しました」
「部長に声がかかるほどのことが……? 何があった?」
「恥ずかしながら、自分は詳細を知りません。上司に貴女方を送迎するように言われ、
「そして今からご案内する医務室に玉谷さんから手紙を預かっています。詳細は御自分の目で御確認ください」
「わかった。医務室に行くから、案内よろしく」
本部正面玄関から中に入る。多くの者が出払っているのか一階に職員の数は少なかった。
三人一列に廊下を進んでいる途中で、
「そうだったー」
「
両手で隠すように握りながら、足取り軽やかに息吹戸の傍に寄って、ズイっと差しだす。それは三.五センチの半円の大粒グミ……『乙姫心のアモールグミ』であった。
「ライブ限定のグミをいただいたんです! 美味しいと評判なのでぜひ
透明な小袋で包装され、オレンジからブラッドオレンジにグラデーションになっている。
見ていると食べたい欲求が沸き上がったので、加無木はグミから目をそらした。
「それは確か、チケット購入者のみ買えるという噂のグミですね。
ギクリ、と
「……いえ、これは製造工場宣伝担当の
「スタッフ全員に配られ……つまりスタッフと間違えられたということですか? カミナシの制服で向かったのに?」
加無木が疑問符をつけたので、
「私もその、はい、その時はスタッフ証をかけていたので頂けたんです……ええと、プチトラブルがあって制服がボロボロになりまして、だから身分証代わりに……」
と端的に事情を述べた。
制服をボロボロにした結果のグミ入手は、決して褒められることではない。
加無木は半分呆れたような眼差しを浮かべるも、
「なるほど、トラブルが良い結果をもたらしたと。レアゲット御目でとう御座います」
幸運を掴んだことを称賛した。
「えへへ。そう言って頂けると嬉しいです」
と
和やかな空気の中、
恐ろしいモノを見るような眼差しで差し出されたグミを凝視する。
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