第4話 頭に閃く天の啓示
味気ない通路を歩いていると壁に切れ目があるのを発見した。
覗き込むと階段がある。ただし上しか登れない。
「まじか。下に降りる階段がないだって? 上に上がるしかない?」
これだけ高い階なのに、下に降りる階段がないなんて、と驚いて上の階を見上げた。
ーー妹分を助けに屋上へ行け!
「!?」
突然頭に響く女性の声に、ぐるんと視界が一転した、気がする。
実際はふらついてもいないし、地面が動いてもいない。
だけど明らかに『私』の中で、何かのピースがカチっとハマった。視界が開けたような、天からの啓示が降りてきたような感覚を覚える。
「そうだ。私は……妹分を助けにきたんだ。その為に来たんだ」
それが出来なければミッション失敗だ。
妹分が『誰』で、どんな『顔』をして、どんな『危険』が発生して、『助けを必要』としているのか、詳しい情報はサッパリ分からない。
「でも、行かなきゃ! 私じゃないと助けられない展開なんだろ?」
意気込んだ『私』は階段を駆け上がった。
「あ、れ?」
一階上の階に上がったところで、次の階に進む階段がなかった。
「そうだった」
唐突に勝手に口から出てくる言葉。
「ああ、そうだった。各フロアに点在する階段を探して、上がらないといけなかった」
記憶はないけど、そう思ったので言葉が出る。
(なるほど。言葉が勝手に出ることで、現在の指示が分かるって事だな! 斬新なシステム!)
そうと決まればさっさと進める。『私』はさっさと通路を走り、階段を見つけるたびに上へ駆けあがった。
どのくらい時間をかけただろうか。
ワンフロアずつしか進めないのが苛立ったし、ゾンビに出会って逃げるのも苛立った。予想以上に時間を食う。
(ううう。時間内にミッションクリアできる?)
屋上まであとどのくらい上がるんだろうか。
何故か景観に変化がないので、高さでおおよその階を予想することができない。
(もしかして、景観に変化が無いのは、空間が歪んでるから? 小説によくある結界とか。その中にいるから外部と遮断されている)
ビル内部がやけに変な作りで妙に広いのも、あとゾンビが徘徊しているのに、外は至って平和そうなのも、結界のせいで次元がずれているからと考えると、容易に頷ける。
「そっか。凄いな」
練り練りされた夢設定にもう一度感心しながら、フロアを駆け巡った。
上の階を発見すると上がる。
それを繰り返していくと、『私』の中で徐々に焦燥感が募っていった。
肉体疲労ではない理由で、心臓がドクドク脈打つ。全身の血液が逆流しているような、頭に血が昇って高血圧になっていくような、兎に角変な感覚が『私』を襲う。
「なんだ? なんだ? 嫌な気配が上から感じる。これは……ヤバイ、ぞ」
おそらく、時間がもう残りわずかだ。
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