第3話 ゾンビと遭遇した
動きを観察していると、ゾンビはこちらに気づき顔を向けた。
瞳孔は完全に白目だ。どこを見ているか把握できない。鼻と口からどす黒い出血があり、むき出しの肌に絞められたような青い痣が残っている。
(視覚で反応した! 素早いタイプかも!)
夢の中では多種多様なゾンビが出てくる。
対処を間違えると即仲間入りになるので、一匹とはいえ油断は出来ない。
そして1匹出てきたら、周辺に30匹はいると思わなければならない。
(ここ、ドア沢山。もしその中全て、ゾンビがいるとしたら……)
ゾクゾクゾクと背中に冷たいものが走る。
一瞬怯んだのが伝わったのか、ゾンビが両手を挙げて体を大きく見せてきた。
「ウウウ、アアアア」
話しかける程度の音量の声をあげながら、ゾンビが大きく口をあけた。口の中からもう一つの口が5センチほど伸びて、威嚇するように口を開け、ギザギザの牙を見せつけた。
(インナーマウス、だと!? 寄生体型なの!?)
素手では無理だと判断して、即座に回れ右で元来た道へ戻る。
『私』が逃げると察知したゾンビが「ウウウ、アアアア!」とくぐもった叫び声をあげながら、緩慢な動きで手足をばたつかせて追いかけてくる。
ガチャ、ガチャ、ガチャ
ゾンビの声に反応した様に、複数のドアが開いた。
『私』はチラッと後方を確認すると、男女五体のゾンビが追手に加わっている。手足をばたつかせる走りをやっているので、なんかちょっと、コミカルな仕草だ。
傍からみたらコミカルなだけで、後方から追ってくる姿は危機感を煽られる。
(うん、人間を攻撃する寄生型ゾンビかぁ。最悪)
数が多いので逃げるに限る。
短距離選手のように颯爽と駆け抜けると、ゾンビたちを引きはがすまで時間はかからなかった。
(うーん。この体、予想以上に戦闘に特化した感じだね。凄い)
俊足だ。そして動体視力も良い。
眼鏡が慣れていなくて少し邪魔だが、走ってずれることはなかった。
数分後、『私』は後方を確認してゆっくり速度を落とした。
「ふぅ。振り切ったみたい」
ピタッと立ち止まる。どこをどう走ったか全然分からないが、先ほどとは違うエリアにきたようだ。商業施設の内装ではあるが壁の色が違う。
シーンと静まり返る通路にぽつんと立って、ほんの少し乱れた呼吸を整えた。
「んえー? 息があがる?」
肺の中の二酸化炭素交換を行いながら、『私』は首を傾げる。
動いて息が上がるなんて、今まで体験した事が無いことだ。
「こんなこと初めて」
妙にリアルだなあ。と肉体から伝わる感覚に疑問を持った途端、思考に霞がかかる。
手で額を押さえる。肌に触れる触感も明瞭だ。
(……? 恐らく私は何か大切な事を忘れて、何か重要な事を見落としている。でも今の段階だと分からない)
『私』は思い出そうとして数秒考えるが、すぐに諦めた。
「ん。まぁ、夢なんだから時間がきて目覚めればいいよね」
深く考えるのを止めてそのまま進む。
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