最終前話 鬼と少年

 一つ積んでは父のため、二つ積んでは母のため。三つ積んではふるさとに残る兄弟わがため。

 

 子供たちの声がこだまする。あたりでは、着物をきた少年少女がひたすら石を積んでいる。


 はじめはここから逃げ出そうと思ったが、どこまでも河原は続き、その先が見えない。周りには、金棒を持った獄卒たちが目を光らせ、子供たちの積んだ石を崩し、泣き出した子供を蹴散らしている。


 少年は、先ほど蹴とばされた石を再び拾い上げ、積み始めた。その時、ふと気配を感じ、後ろを振り返ると、そこには他とは雰囲気が異なる鬼がいた。


 鬼は朱色の顔を近づけてきた。


 「おい、坊主。帰りたくはないか」


 また殴られるかと思い、両手で顔面を庇う姿勢になった翔太は不意をつかれた。


 「お前にろうそくの火を分けるやつがいる。」


 その鬼の巨体はうっすらと消えてゆくと、鬼の顔だけが面として残り、地面に転がった。


 (面をつけ、河を登れ)


 翔太は鬼の面を顔につけた。


 少しでも不審な動きを見せると駆け付けて仕置きをする鬼たちだったが、翔太には眼もくれない様子である。


 河原の上流へとかけだした。

 

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荒穂の面 @natsume30843

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