第17話 鬼
学校の帰り道。今日は雨が降っている。大樹は傘を忘れた。仕方がない、雨の中を走って帰るしかない。濡れて帰ると、親に怒られるのは目に見えていた。大樹はショートカットをしようと、いつもは通らない小道を走っていた。どこかの私道を駆けていく。自宅への方向はこっちで合っているはずだ。
砂利道を走っていた時、不意に大樹の襟元をぐいっと引っ張るものがいた。
「坊ちゃん、雨に濡れて大変だね。」
優しそうな笑顔のオコノギさんが、傘をさして立っていた。
「傘を貸してあげようか?」
オコノギさんは、自分の持っている傘をさしだしてきた。
「お母さんに怒られるだろう?これを持っていきな。君はどこの学校だい?」
「えーと、そこの小学校です」
大樹はつい、後ろを振り向いてしまった」
「おい、坊主。aの時の。お前はどうしてここにいるんだ?ここは俺の土地だぞ」
おじいさんの笑顔が吹き飛んだ。眉間の皺がせりあがる。目を見開き、四白眼になっている。
「俺はそこの小学校のやつらに迷惑してんだ。いつもいつもいつもいつもうるさくしやがって。お前らのせいでここに停めるやつはほとんどいないんだ」
大樹は胸倉をつかまれた。体が浮いている。凄い力だ。じりじりと体は後退してゆき、しまいにはコンクリート製の塀に押し付けられた。大樹が顔を横に向けると、「オコノギ駐車場」と書かれた黒い看板が見えた。
「どうしてくれるんだ。ああん?どうしてくれるんだよ」
大樹の顔に唾がかかる。耳元で叫ばれ、耳の中で金切り音が響く。
「ここの土地は先祖から受け継いだ土地なんだ。お前らのせいで土地が汚れる」
塀に頭がぶつかる。痛い。
「誠意をみせろ。誠意を」
何度も頭がぶつかる。
「警察に突き出されたいか?おれに頭をカチ割られたいか?」
頭の痛さが麻痺してきた。
「お前らのせいで。俺は金がないんだ。どうしてくれる」
オコノギさんは大樹の耳殻を引っ張り、そこに大声を流しこんでくる。右耳の耳鳴が激しくなっていく。蝉のような音が聞こえる。
パァン。乾いた音が響いた。
大樹の体がボトリ、と砂利の上に落ちた。オコノギさんは右目を両手で抑えてうずくまっている。
「おい!大ちゃん、大丈夫?」
翔太が塀の脇から顔を出した。右手にはエアガンを持っている。オコノギさんは獣のような左目を翔太に向けると、両腕で空気を搔きながら、翔太に向かって駆け出して行った。
ああ。痛い。怖い。翔太君、逃げて。大樹の意識は四散するように遠のいていった。
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