第16話 オコノギ


 翔太が猫たちの入った段ボールを持って先頭に立ち、翔太と大樹は近所を徘徊していた。


 「あのお、子猫を貰ってくれませんか」


 いきなりの小さな訪問者に、ドアを開けた住民たちは目を丸くするが、大抵は「うちでは飼えないの。ごめんね」という返事が返ってくる。


 「猫くらい飼ってもいいじゃんか」

 

 翔太は泣きそうな声で、口を尖らせて言った。


 すると、大樹が足をとめた。「オコノギ駐車場」の看板が目に入る。


 「翔太君、ちょっと」


 「大ちゃん、どうしたん」


 「それ以上行っちゃだめだ。オコノギさんがいる」


 ここには近づいてはならないという場所がある。それは駅の近くのコインパーキングだった。その駐車場には怪物がいる。オコノギさんと言うらしい。

 散歩してると鎌を持って追いかけてきた、近くを散歩していると犬を蹴りころされた、女の子が頬をぶたれた。そんな嫌な噂が絶えない。

 大樹はオコノギさんが恐ろしかった。学校の帰り道、そこを通れば近道だが、大樹は必ず迂回するようにしていた。


 「大丈夫だよ。俺、オコノギさんと話すもん。ほらあそこの水やりしてるおいさんやろ?おーい、おいちゃん」

 

「おう、翔太か。久しぶり元気か。どうしたんか」


 笑顔でオコノギさんは挨拶した。


(翔太君、早く行こう?怖いよ。あの顔の笑い方おかしいよ)


(大丈夫だって、大ちゃん。これまで何かあったこととかないんやけん)

 

翔太はオコノギさんに近づき、手に持っていた段ボールを差し出した。


「おいちゃん、これ。猫。貰わん?」


 オコノギさんのニッタリとした笑顔が吹きとんだ。


「うちの敷地に猫を捨てていく気か」

 

 そこには、目と歯をむき出しにし、ハの字に眉を吊り上げた鬼が立っていた。


「やばい、大ちゃん逃げるぞ」


翔太は大樹の手を引き走り出した。


大樹が振り向くと、待てこのガキどもと叫ぶオコノギが手を振り上げ叫んでいた。

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