第15話 秘密基地
大樹の家は冷蔵庫を新調した。それには当然、冷蔵庫の大きさの段ボールがついてくる。翔太がこれを見逃すはずはない。大樹と翔太はこの和室に置いた段ボールを、カッターで思いの限り切り割き、ガムテープでグルグルに貼り合わせる。
段ボールの中から翔太がひょっこりと顔をだした。
「ここは俺の部屋やけんね。そっちは大ちゃん。」
翔太は窓型に切った段ボールで作った、中の仕切りを指さした。大樹は段ボールの中を横から覗き込んだ。
「なんか翔太君の部屋のほうが大きくない?」
「知らん。気のせいやろ。」
やがて不格好に歪み、原型が失われていく。ついにこのきりっと直立していた段ボールは、水が足りずに枯れかけた植物のように元気を失ってしまった。だが、二人は満足げにそれを見つめる。秘密基地が完成したようだ。
翔太は、大樹の家の近くにある自動車学校跡に、この秘密基地を持ち込もうと提案した。
自動車学校跡。学校の建屋自体は大昔に取り壊されていたが、そこには当時の練習用の白線や廃棄しきれなかった車が残されていた。そして、誰も管理していないことをいいことに、ゴミが不法投棄されていた。釘が飛び出た木の廃材、回らないスロット台、大量の空き缶、空き瓶、水に濡れてはりついた雑誌。
誰も必要としないそれらだが、大樹たちにとっては宝の山だった。そこに、この素敵な秘密基地を加えようという腹積もりだ。
いっせーの。二人が秘密基地を持ち上げると、それは真ん中からくったりと歪んだ。だが二人は気にしない。息を合わせて運んでいく。
和室から出て、居間を通り、美容室を抜けていく。大樹の母親とその客が、また子供たちがおかしなことを始めたのだろうかと眺めてくる。美容室のドアを開け、道路を渡り、クラクションを鳴らされ、緩やかな坂道を登り、到着。
二人は秘密基地を、廃棄された車の横にボスンと投げ置いた。
「意外と軽いね、これ。風が吹いたら転がらない?」
「そやね。あとで毛布でも持ってきて中に入れようか。とりあえず地面に固定しようや」
翔太は秘密基地をアスファルトにガムテープで固定しようと試みたが、砂利が引っついてくるばかりで、べろべろに剝がれてしまう。何度やっても地面につかないため、翔太はあきらめてしまった。拗ねたように下を向き、もじもじしている。翔太はそのやるせない気持ちをぶつけるため、近くの空き缶を軽く蹴り上げた。
それはカツンカツンと4回ほど不規則に跳ねると、やがて横に転がった。コロコロと流れていくうち、その空き缶は真新しい小さな段ボールにコツンとぶつかり、止まった。そこから小さな鳴き声が聞こえた。みー。
なんやろ。二人がそこへ駆け寄る。段ボールを上から覗き込むと、子猫が四匹いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます