第3話 元カノ、再会!②
「は、恥ずかしすぎる......私変なこと言ってないわよね......? いや、大丈夫。健全な雑談しかしてなかったハズ......」
高校二年生から一年間ほど付き合っていた、今目の前で頭を抱えている元カノだ。
ちなみに、面と向かって喋るのは実に二年ぶりである。
「え、お前他の人には変なこと言ってんの? 引くわ、引くわぁ」
「はっ、いや、違うから。別にあのアプリでメッセージ続いてた人なんて、他に全然全くいないから」
真波はそう弁解した後、持っていたストローを俺の胸にブスリと突き刺した。
「あんたこそ、一回変な雰囲気にしようとしたこと覚えてるからね。遠回しに経験人数訊 いてきた時だけ、メッセージブチるか迷ったっての」
「そんなつもりなかった、やめてくれ! まじでこの件はお互いに忘れよう」
「そうね、それで手を打ちましょう」
真波は息を吐いて、席に着く。
本来なら今日は晩御飯を共にする予定だったのだが、今は眼前にあったカフェで落ち着いている。
再会して早々に飲みに行けるようなテンションではない。
「......つーかさ、ラインブロックしただろ」
「え、してたっけ」
「してるよ、高三の時にな。卒業式の後に送ったライン一向に返ってこないから気付いた」
「いつの話持ち出してきてんのよ、小さい男ね」
「違うって、俺はあの時──」
「はいはい、どうどう」
そう言って真波は俺の言葉を遮る。
俺が押し黙ると真波はカフェラテを飲み干し、店員に向かって手を上げた。
俺のカップには、まだ少しコーヒーが残っている。
つまりは、そういうことだろう。
チャットアプリで出会うというとんでもない偶然が起きない限り、俺たちが二人きりで再会するという事態は起こり得なかった。
お互い、そんなつもりで今日此処へ来ていない。
だとすれば、ここで解散するのは至って自然な流れといえる。
「ここの代金は俺が持つよ」
せめてもの見栄で、俺は自分の財布を鞄から取り出した。
バイト代で買った新品の財布だ。
カフェの代金なんて大した値段ではないかもしれないが、割り勘より印象は良いだろう。
だが、真波はあからさまに顔を顰めた。
「何言ってんの?」
俺は目を瞬かせた。
ひょっとしてこの会っていない期間のうちに、男から奢られることへ否定的な考えを持ったのだろうか。
だが、その後に続いた真波の言葉は予想外のものだった。
「アンタも来るのよ。私、今日美味しいもの食べるつもりでね、この一週間ずっとずーーっと食べたい物を我慢してたの。その対価がこれ? カフェラテ? いや、信じらんない。無理無理、行くわよ」
「......ダイエットで脳まで瘦せ、ブッ!?」
最後まで言い切る前に、真波の鞄にぶん殴られる。
いらないことを言おうとした俺にも非はあるが、倍返しどころの話じゃない。
ジンジンと痛む頰を押さえているうちに、店員さんがやってきた。
「お会計纏めて、カードで」
男がデートで言うとカッコいいランキングNo1の、憧れの台詞。
だが皮肉にも、その言葉を発したのは俺ではない。
顔を上げると、真波が俺を見下ろしながら口を開く。
「次はアンタが奢る番ね」
「絶対そっちの方が高くつくよな、そんなこったろうと思ったよ!」
有無を言わせない口調に抗議の意味も含めて喚いたが、真波は意に介さない面持ちで腰を上げた。
「うっさい。周りに迷惑でしょ」
最後にそんなド正論を置いて、真波は先に店を後にする。
俺は慌てて周囲に頭を下げながら、恨めしげに思った。
無理やり誘われても断れなかったのは、もしかすると心のどこかでこの再会を──
いや、違う。
鼻を鳴らして、真波の後について行く。
退店を知らせるチャイムの音が、俺の背中を追い掛けた。
【試読版】この恋は元カノの提供でお送りします。 御宮ゆう @misosiru35
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