第34話 祭りの後で

ぱちり、と目を開けた。


頭がくらくらする。

特に後頭部がズキズキと痛む。

いや、痛いと言えば、身体中が痛い。


息を大きく吸い込み、浸透させ、心臓を中心に凝縮し、身体の中を巡らせる。そうすることで、身体から力が少しずつ湧いてきて、身体の不調が徐々に良くなっていくものだ。


「シーニス、立てるか?」


少しだけ顔を上げると、ルーパスが見下ろしていた。

その位置関係で、初めて自分が地面に横になり、上体だけ起こした姿勢でいることに気づく。


「端から見ていて、どう考えても途中までお前の勝ちだと思っていたのだがな。

残念だったな」


そう言われて、ようやく自分が、あのいけ好かない、ぽっと出の魔人と勝負していて、そしてどうやら負けたらしいということを悟った。


「……オレはどうして負けたんだ?

さいごの方が、良くわからなかった……」

「俺も、何がどうなったのか、正直言って、良く分からん。

お前がユウに投げ飛ばされた後、あいつがすごい勢いで駆け出してお前の後ろに回り込み、起き上がってキョロキョロしているお前の背後から殴り付けた。そのままお前は気を失った。

それが全てだよ」


……ちゃんと意識していれば、ヤツの攻撃ごときではオレには通らない。

不思議な力が皮膚を、肉を強くし、衝撃に耐えられ、しかも治りが早くなる。

だが、敵は近くに居ないと思い込んで、警戒が足りなかった。だから、単純な攻撃が、芯まで響いてしまった。


あの試合の最初の方では、アレはそんなこと知らなかったはず。

だからヤツは最初に全力で攻めてきて、オレはそれを受けきれた。


なら、ヤツは俺をわざと油断させて、警戒させなかったのか?

それとも偶然?

だが、最後だけならともかく、途中でもヤツの口に乗せられていたような?


「あーーーーー!!!

チクショウ、わからん!」


鼻で胸をベチベチ叩きながら、シーニスは考えることを放棄した。


「どうだ?

まだユウのことを憎んで、殺してやりたいと思っているか?」


ルーパスは、オレの目を覗き込むように聞いてきた。


全く、他者に気を遣うのをやたらと面倒臭がるクセに、すぐに他者に気を回すのだから。

そんなだから、一人が楽とか言って、すぐ引っ込んじまうんだ。


「もういいよ!

あんなヤツとケンカするのは、もうメンドくさくて、やる気がうせちまったよ!」


そう言って、ごろんと舞台に寝ころんだ。

意地っ張りのシーニスが、生まれて初めて、負けを認めたのだった。


***


「ユウー?

ユウはどこ行ったぁ?」


妖精が声を張り上げて、未だ興奮覚めやらない魔族達の間をすり抜け、歩いていた。


「サッキ、どこかにハシっていったゾー」


老犬の頭の上で、果物をついばみながら、甲高い声で蜂鳥が答えた。

ちなみに、その下にいる老犬は、傍若無人な小鳥の振る舞いにも、泰然として無表情にしている。

諦めている、とも言うかも知れない。


「え~?

さっき、目覚めたばっかなのに!?

ふらふらだったじゃん!」

「ナンかルーパスとコソコソはなしていて、そのあとツレだって行ったぞ?」

「あの二人、なんだかんだで気が合うよね……」


妖精が、少し困った顔で左右を見回している。


「どうした?」

「ちょっとね……人間達が、自分達がどうなるのか気になるらしくって、すごい聞かれるんだよね」

「なるほど、それはそうだろう!

わかった、オレ様が、ユウがドコにいるのか聞いてきてやるよ!

そこでまってろ、チビスケ!」


蜂鳥は早口でまくし立てて、話し終わる前にすでにどこかへ飛んでいってしまった。


「お前の方が、チビだろうに……随分とひどい呼び名だよなぁ」

「オイボレも大概だぞ?」


魔族は、自分達に名前をつける習慣がないから、お互いを渾名で呼びあっている。

大抵はろくなものではない。

妖精はチビスケ、老犬はオイボレ、蜂鳥は羽音からブンブンと呼ぶ奴もいればチビドリと呼ぶ奴もいる。

そういうものだから気にするな、と言わんばかりに、老犬は自分の渾名を引き合いにだしつつ悠然と尻尾を左右に振った。


「でも、ユウが喧嘩の祭りをする、とか言い出した時にはどうなるかと思ったけど、みんなすごい興奮して楽しそうだね?」


ユウとシーニスの決勝が終わってから随分とたつが、まだ周囲は歓声と興奮の声に満ちている。


「食い物まであるからな」


そう言って、老犬はがしがしと骨をかじっている。

ユウが、砦の食糧倉庫から、片端から略奪してきた、とか言っていた。

あのシーニスと戦うのに、準備もせずに何をしたかったのか。


「てめぇ、バカにしていやがるのか!」


突然、背後で怒号が聞こえた。

驚いて思わず少し飛び上がってしまった。


「うるせぇ、アルジェンティさんこそ最強なんだよ!

アルジェンティさんなら、あんなふうにはならなかったにきまってる!」


更なる大声と共に歓声が聞こえる。

後ろを振り向くと、燃えるように赤い剛毛の猪の魔人と、艶のある黒い毛並みの大柄の熊の魔人が、今にも相手に飛びかからんばかりに対峙している。


「ダメだよ、試合以外の喧嘩は禁止だろ!」


妖精は叫ぶが、大歓声に呑まれて、声は消えていった。

むしろ、周囲の囃し立てる声の方が、比較にならぬほど多く、うるさい。


そのまま気持ちが昂った二頭は、感情のまま互いに挑みかかり――


「うるさいって言ってるでしょ!」


涼やかな怒号と同時に黒い翼が閃き、翼に殴られた魔人達が反対方向に吹き飛ぶ。


「ルーパスに言われたでしょ!!

今日は、試合以外の喧嘩は禁止。

もう忘れちゃったの!」


エルナはそうやって怒るが、当の二頭は既に気絶して倒れていた。

森の娘の名前は、伊達ではないのだ。


ギャラリーも、エルナの剣幕にそそくさと場を移動する。

この無法者に見える魔族達も、ヒエラルキーは弁えているのだから。


「まったく、いったい何件、仲裁したらいいってのさ!

今朝から、止めた喧嘩の数なんか、数えきれないよ!」


ぷりぷりと怒るエルナに、あれは仲裁とは言えないんじゃない?などとは言えない。

口をつぐんでいる妖精に、エルナが話しかけた。


「それで、ユウはどこに行ったの?

いい加減、この役目も終わりにして欲しいのだけど……」


艶やかな髪をかきあげながら、気怠げに周囲を見渡す。


「それが、僕も探しているんだけど、全然見つからなくて……」

「まったく、どこで遊んでいる……」


ドーン!


耳に直撃するような、凄まじい音が聞こえてきた。

大気がビリビリと震えているようだ。


「どうしたのっ!?」


エルナが慌ててあたりを見回す。


ドーン!!


更に、辺りに響きわたるような音が、天から音が降ってきた。


上!?


慌てて上を見る。

何かが上に向かって射出され―――


ドーン!!!


空飛ぶ物体が赤く光ったかと思うと、三度、森を揺るがすような音が聞こえた。


見る者が見れば分かるが、砦の攻防で城館からシーニス達を襲った、弩弓の大矢だった。

それが、わざわざ上に向かって放たれ、空中で光と大音響を放っている。


あんな光と音を出されては、注目せざるを得ない。周囲の喧騒が、一瞬で静かになる。


「ヘーイ!

レディース&ジェントルメン!

本日のケンカはお気に召しましたかな!?」


大声で叫びながら繁みから飛び出し、さりげなく置かれていた岩の上に飛び乗った人物。


変な形の、円筒状の帽子をかぶり、大きめの布で上半身を覆い隠す。

顔は真っ白に塗られて、目の回りや頬に、不思議なマークが描かれている。

鼻も変な色に塗られていた。

俗に言うピエロ装束なわけだが、そんなことはこちらの世界の住人には知る由もない。


あるものは目を見開いて、別のものは呆然と、ただただ闖入してきた怪人を見ることしかできなかった。


「おーーーっと、びっくりさせちゃったかなー!?

スマンスマン、ほんとにスマン!

だーーーけど、ほんとに驚くのは、これからだぜ!!」


突然、怪人の後ろの繁みがざわざわと動きだし、直後につむじ風を巻き起こして繁みの葉が渦を巻きながら、舞い上がった。

その奥には、白っぽい石で円が描かれている。

その中にあるのは、大きな甕がいくつか、うず高く積み上げられた食べ物、何より中央にある巨大な篝火、そこに炙られる肉、肉、肉。


鋭敏な嗅覚を持つものなら、すぐにその肉が普通の肉でないことが分かる。


強い塩気の乗った、木が焦げたような匂い。

その中に、微かに含まれる香り高い草葉の薫り。

その濃縮された肉の香が、火に炙られ脂が焦げる香りと混ざりあい、彼らの鼻腔をくすぐる。


その篝火の傍らに、腕を組んで仁王立ちしているのは、彼らのボスであるルーパス。

その奥には、彼ら魔族が連れてきた人間達が、小さくなって座っていた。


意味不明すぎて、もうどうしていいか分からず、立ち尽くす魔族達。


それを見た怪人は、つかつかと近くの魔人に向かって歩み寄り、いきなり肩を組む。


「へい、兄弟!

そんな呆然としてないで、こっちに来いよ!」


完全に悪ノリしている怪人に呑まれて、連れられるままに篝火の近くまで歩み寄る。


「ほら、食べてみろよ」


目の前に、こんがりと焼けた、不思議な肉の塊を受けとり、おそるおそる端っこを齧ってみる。


「あちぃっ!」


慌てて口を離す魔人に、それを見てげらげら笑う怪人。


「おいおい、大丈夫か兄弟!

落ち着いて食えよ、まだまだあるぜ!」


そう言って、別の肉にかぶり付く。

あふれだす脂の匂い。

魔人は喉を鳴らし、そっと肉に噛みついた。


「……なんだこれ、うめぇ……」


そう言って、ガツガツと食べ始めた。


ユウがレシピを伝え、ルーパスと合同で作り上げた、魔王謹製のベーコンの御披露目である。

ルーパスと一緒にベーコン造りに熱中しすぎて、肝心のシーニス対策が進まなかったことは、皆には秘密なのだ。


ニヤリと笑い、それを見届けた怪人は、つかつかと前に歩いて近づき、声を張り上げて呼び掛けた。


「さあ、兄弟達よ、ここに入ってきて、一緒に楽しもうじゃないか!

ただし!ここの内側では、決して喧嘩してはいけない!

喧嘩はするなら、ここから出て行ってもらうからな!

応じる者だけ入ってこいよ!

一緒に楽しもうぜ!!」


魔族達は、ざわざわと互いを見合いながら、意を決したように、一匹ずつ白い石でできた境界線を越え、円のなかに足を踏み入れて行った。


中には、砦から失敬してきた山盛りの食べ物や飲み物があり、それが食べ放題。

更に、甕には酒が入っていて、これは今回の喧嘩祭りに参加した者だけが、飲むことを許されていた。限定したのは、酔っぱらいが多すぎると、騒動の収拾がつかなくなると、ユウが嫌ったためだ。


多くの魔族は、酒を飲むのも初めて。

興味津々であるが、飲むことを制限され、悔しい思いを味わっている。

でも、さすがにルーパスには逆らえない。


「さあみんな、楽しんでいるか!?

良かったら、来年もこの祭りをやろうじゃないか!

出場したら、お前ら酒が飲めるぞ!」


ピエロ装束をしたユウの言葉に、一斉に歓声が上がる。


こうして、第三魔王軍初めての祭りの後で、初めての大宴会が開かれたのだった。


***


「まったく、こんなことやるんなら、最初に教えておいてくれれば良かったのに!」


妖精がぷりぷり怒っていた。

親しくなってきたと思っていたユウが、何も言わずにこんなイベントを計画していたのが、軽くショックだったようだ。


「皆で動くと漏れる。

ま、仕方ない」


相変わらずの鷹揚さで肯定する老犬。

妖精の怒りに同調はしてくれないようだ。


「でもまあ、こんなこと、私達じゃあ想像もつかなかったよね。

人間の世界では、こう言うことも良くあるのかな……」

「いや、そんなコトないぞ?

少なくとも、トリデとかで、こんなバカさわぎしているのは知らねーな」


少し遠い目をして語るエルナに、時々砦の様子を見に行っていた蜂鳥が補足する。


「つまり、ユウが変だってことだね?」

「誰が変だって?」


いきなり後ろから妖精の頭をぼふ、と鷲掴みにしてから、ユウが隣に寝転んだ。


「疲れたー!

終わったー!

はは、はははは、ははははははは!!」


寝転ぶなり、突然笑いだす。


「あ、あれ……?

シーニスとのケンカで、頭でも打っておかしくなっちゃった……?」


かなり引き気味に見ている妖精の目の前で、ひとしきり笑ったユウが、がばと上体を起こした。


「いや~、久し振りにバカできて、楽しかった……

こんなにバカやったのは、いつ以来だか」


ふう、と一息つくユウに向かい、老犬が問いかける。


「話はついたのか?」

「あらら、バレてたか……

ああ、全員に話しはつけてきたよ」


ユウは苦笑しながら答えた。


「え、なんの話?」


エルナが翼をぴこぴこ動かしながら、身を乗り出してきた。


「いや、今回の奴隷解放の件でさ、奴隷を貰ったやつらのところ全員に回ってきて、約束忘れんなよって念押ししてきたんだ」

「え?でも、ユウが勝ったのだから、別にそんなことしなくてもいいんじゃないの?」

「ソウダゼ!

オレ様のシルかぎり、ニンゲンもらったやつらはヒャクくらいはいたハズだろ!それぜんぶまわってきたのか?なんでそこまでスル?」


妖精と蜂鳥が、目を丸くしている。


「確かに言うとおりなのだけど、でも取り上げられる方からしたら、どうだろう?

いろいろ、納得いかないと思うんだ」


そこで言葉を区切る。


目の前で、エルナが小首を傾げて、こちらを見ている。

美人がこのポーズを取ると、なんでこんなに可愛く見えるのか?

などと、どうでもいいことを考えつつ、続けた。


「だからさ、こうしてみんなで騒いで楽しんで、いい気持ちになったところで、それとなく念を押して回ったのさ。

やっぱり不満なヤツらもいたから、酒を飲ませたり、上手い肉を口に押し込んだり、小突きあったりして、何とか納得させたよ」


「大変だったな」

「まあね。

でも、片棒を担いだルーパスはもっと大変だったよ。

この計画を話して、協力をお願いしたら、すごい嫌な顔して、全力で拒否してきたからな、最初は」


それでも、最終的に引き受けてくれたルーパスには感謝しかない。

彼は、今も皆が暴走するのを抑えるのに必死だろう。


「でもさ、あんな白く顔を塗ってさ、変な風に喋らなくても、普通にやれば良かったんじゃないの?

最初に空に何かを打ち上げて爆発させたのもユウだろ?あれも必要だったの?」


妖精が、至極もっともな質問を重ねてくる。そりゃ、そう思うよね。


「この森の魔族達は、気性が激しいからさ、あの喧嘩の後で興奮している時に、俺の話を聞いてくれないんじゃないかな、と思ったんだよ。

だから、花火……じゃなかった、爆発する矢で皆の気を引いて、化粧して驚かせて、あと余計なこと考えられないように話しまくって、最後に食べ物で興味をひく。

ここまでやれば、俺の話を聞いた上で、祭りの続きを楽しんでくれるかな、と思ったんだ」


最終的には、ルーパスの威を借りる必要があったけどな、と頭の中で補足する。ルーパスも、事前に相談した時には、その必要性を理解してくれた。


「今回は、手伝ってくれた皆、受け入れてくれた魔人達、楽しんで盛り上げてくれる奴ら、みんなに感謝だな」


そう言って、再びごろんと横になる。


爽やかな風と、宴の喧騒が心地よい。

このまま寝てしまいたいかも……


「おい」


気持ち良くしていたら、頭の上から、がらがら声が降ってきた。


「ずいぶんとゴキゲンだったみてぇじゃねえか。ああ?」


重い目蓋を持ち上げると、そこに声の主、シーニスの巨体があった。


「ちょっと、シーニス!」


慌ててエルナが立つが、それをシーニスは手を上げて制する。


「あわてんな、べつにケンカしにきたわけじゃねぇ」


よっこらせ、と起き上がり、胡座をかいてシーニスと向き合う。

身長差がありすぎて、首が痛い。


「ムリしやがって。

オレのトツゲキをくらって、マトモでいられるハズがない」


そう喋りながら、対面に同じく胡座をかくシーニス。

そんな体勢がとれるとは…どんな骨格してるんだ、このサイモドキは。


「なんで、こんなことしたんだ?

ニンゲンをカイホウしても、お前にはナニもいいことがない。

お前だって、あのトリデでおなじ目にあってきたんだろ」


そう言っていったん言葉を切り、そしてゆっくりと聞く。


「お前はニンゲンのところに行きたいのか?」


対峙している者同士の目と目が合う。

そして生じる、一瞬の静寂。

お前は敵になるのか?そう問われている。

嘘や誤魔化しは通用しない。


「俺は……嫌いなんだ。

ああやって、力ずくで自由を奪われて、何かに強制されるのが。

見ているだけで反吐がでそうだ。

それが、魔族であれ、人間であれ。

全部、ぶっ壊したくなる」


一切の嘘も偽りもない気持ち。

気に食わないから、破壊した。

ただの衝動の結果。


「そうは思わないか?」


そう言って、相手の目を見た。

周囲の喧騒を余所に、沈黙が続く。


「がはははははは、わかったよ、お前の勝ちだ!」


そう言って、シーニスは長い前肢を伸ばして肩をばんばん叩く。

いや、痛いって。


「わざわざ、オレの子分どものところに話しに行ってくれたんだってな。

オレもケンカのケツはヤツらに守らせるつもりだったがな」


「気にするな、てか痛いんだよ」


肩をさすりながら文句を言う。


と、突然、シーニスに両肩をがっと掴まれた。


「シーニス!?

なにやってんの!?」


妖精が、慌てて声を掛ける。


それにシーニスは答えず、肩を掴んだまま。

やがてシーニスの両手に光が点り始める。

淡くか細い、柔らかい光。

少し、蛍の光を思い出す。


その光がじわじわと身体を覆い始め、身体が徐々に楽になっていくのを感じた。


「この光は、治癒の光。

この森でこれができるの、シーニスだけなんだ」


エルナが説明してくれた。

え、前に話していた、唯一の治癒能力者て、シーニスのことなんだ!

そりゃ、あのとき断られたはずだよ。


……似合わない……


全身を包む、温かくじわじわと癒される感覚、それに多少の気怠さ。


やがて身体を覆う光が薄れ始め、そして微かな光を残したまま、シーニスが手を放した。


「これくらいでいいだろう。

子分たちを気にしてくれた礼だ。

今回のことで何かあったら、いってくれや」


そう言ってシーニスは立ち上がり、背を向けた。その背中は、絶滅危惧種の番長の風格を感じさせる。


「いいか、今回はまあ、負けておいてやるが、次はないからな。

なおしてやったが、まだお前がつよいとみとめたワケじゃねーぞ。

カンチガイすんなよ!?」


こちらを肩越しに見遣りながら、そう言い捨てて、夕日に向かってのっしのっしと去っていった。

番長キャラのツンデレ発言とか、笑ってしまうから止めてくれ!


変な想像をしてしまい、肩を震わせて吹き出すのを堪えながら、それでもこの森も悪いところではないかな、と思うのだった。

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