わたくしの婚約者が御前会議で馬鹿をやって、連行されちゃいました。――わたくし?わたくしは……

柳生潤兵衛

御前会議

 

「陛下。よろしいでしょうか?」


 この場は、国王陛下もご同席なさるボニーク王国御前会議。

 国家の重要な政策を決定し、無事終了かと思ったのも束の間、陛下に発言の許可を求める声が響いた。


 発言の主は、バーミキュラ伯爵令息ミヒャエル。

 今年二十歳を迎える彼は、王立学園を首席で卒業後、国政をつかさどる王宮内務部に登用されて以降、飛ぶ鳥を落とす勢いで出世している。

 いわばスーパーエリート。


 この御前会議には今回初めての出席だけれど、巷では陛下が「優秀なミヒャエルの顔を見たい」とおっしゃったとささやかれている。

 法務長官の御父上から伯爵位を継げば、いずれは宰相に取り立てられるのではと、もっぱらの噂があるお方。

 そして、わたくしタチアナの婚約者でもあります。



「許す。申してみよ」


「ははっ」


 うやうやしく席を立つ彼は、初の御前会議の為にわざわざ新調した白い礼服に身を包み、金色に輝く髪を――サイドは刈り上げトップは風にもなびかぬように七三に――カッチリと整えている。

 そして、そのエメラルドグリーンの瞳はしっかと国王陛下を見据える。


 彼の後ろに並ぶ秘書官席に座る私は、嫌な予感に襲われた。

 ミヒャエル……何を言うつもりなの? 変な事は言わないでよ?


「以前陛下から御裁可頂きました私ミヒャエル・バーミキュラと、後ろに座るタチアナ・フィスラー嬢との婚約の破棄を御赦おゆるし頂きたく存じます」


◆◆◆


 わたくしはタチアナ・フィスラー。十五歳。男爵家の長女。

 長く伸ばしたミルクティーベージュの髪を御団子に纏めて働いているので、実年齢よりも幼く見られている。

 この国、ボニーク王国では十六歳になれば結婚を許される。

 わたくしとミヒャエルは、わたくしが十三歳の時に三年飛び級で王立学園を卒業したのを機に婚約を結びました。


 彼の卒業の二年後に、わたくしも卒業。わたくしも首席でしたよ。

 バーミキュラ伯爵が後継ぎの出世を確実なモノにする為に、しがない男爵家のわたくしとの婚約を熱望されたそうです。

 わたくしは、歴代首席卒業者の中でも学園創設以来最優秀の成績だったそうで、伯爵は父に頭を下げてまで頼んできたと、父は今でも嬉しそうに話しているくらいです……。


 『わたくしの婚約がフィスラー男爵家の為になるならば』と、貴族令嬢として彼との婚約を受け入れました。


「どうか正式な婚姻を済ませるまでは、息子の秘書官として傍で支えてやってくれないか」


 伯爵のたっての願いもあって、わたくしはミヒャエルの秘書官として彼を支えてきたのに……。

 それに、ミヒャエルは思っていたよりも“使えない男”だった。


 教科書通りの凝り固まった思考に、不測の事態への対応力の無さ! それでよく主席がとれたわね?! と思うくらいです。

 そのくせ出世欲、野心の塊!

 この二年間、彼を支えるのは大変だったわ……。


 ミヒャエルに施策を決めさせるときは、事前にどう転んでも国の為になる様な選択肢を厳選して、その中から彼に選ばせたり――

 普段の会話の中で巧みに思考を誘導して、彼が自分で立案したと思えるようにしてあげたり――

 時にはわざと「それは絶対ダメ」と諫めて、反発した彼にそれをさせるように仕向けたり――


 ありとあらゆる手を使って、彼の手柄が増えるように手助けをしてきたのだけれど……それが増長の原因になってしまったのかしら?


◆◆◆


「なっ! なんだと!?」

「婚約を破棄だと?」

「陛下のご裁可だぞ!」

「若造が何を勝手な事をっ!」

「ま、まてミヒャエル! 早まるなっ!」


 一瞬の沈黙ののち、ミヒャエルよりも陛下のお近くにはべる方々をはじめ、皆様が一気に彼をなじりだした。

 列席しているお義父様は、慌てて彼を止めようとしている。


 私は彼に近づき、小声で問いかける。


「ちょっと! どういうつもりです?」


 ミヒャエルはわたくしに目を向けることなく、鬱陶うっとうしそうにまるでハエでも払うかのようにわたくしを手で払い退けた。

 わたくしは仕方なく席に戻るけれど……。


「ミヒャエル……。理由は?」

「ははっ! 私が考えますに、我らが畏敬いけいの念を以ってお仕えする陛下の治世は盤石であります」


 ……ますます嫌な予感がするわ。


「ですが……陛下の次世代も盤石とは限りません」


 陛下には十二歳になられる王子殿下がいらっしゃるのに……。

 それに、王子殿下も王女殿下も陛下がお年を召してからお生まれになった待望の御子。

 不敬! 陛下にも王子殿下にも不敬よっ! ミヒャエルを止めなくては!

 周りの方たちも青ざめていっているわ。


「ちょっとミヒャエル! 不敬よ!」


 ……後ろからささやくけど、聞こえていないのかしら? まさか無視?


「そこで陛下! うれいを取り除く為に、先日お生まれになった王女殿下と私の婚約をお許し頂きたいのです」


 陛下のこめかみに血管がっ! ああ~ピクピクと!

 しかもお生まれになったばかりの王女殿下と二十歳! 歳の差二十歳! 法律は無いけれど、赤子との婚約なんて犯罪的よっ!


 あ~、クラクラしてきたわ……。


「き、貴様ぁ!」

「言うに事欠いて王女殿下とだと?」

「身の程を知れっ!」


「身の程を知れ?」


 ミヒャエルの瞳が怪しく光る。


「――私は仮にも御前会議に臨席を許された身。しかも、この中の誰よりも若い!」


 わたくしの方が若いですけど……秘書官ですから除外ですね。


「その私が、王女殿下と婚姻することは、この国にとって益になりこそすれ、害になることなど万に一つもありますまい!」


 自惚うぬぼれここに極まれり! 


「私はこれまでの職務で、一度たりとも失敗しておりません。いかがですか陛下? 将来の国政はミヒャエルにお任せいただけませんか?」


 もはや周囲の方達はミヒャエル及びバーミキュラ家の終焉を悟り、静まり返っておいでです。

 そう、このままミヒャエルにしゃべらせ続ければ、本人のみならず一族にまで累が及ぶ処分は免れない。

 当然、彼の秘書官であるわたくしも……

 でも、ミヒャエルのこの愚行がこれ以上エスカレートする前に、なんとしても止めなければいけないわっ!


「法務大臣! 彼の発言は『 不敬罪 』にあたるのでは?」


 場内に響く私の――数少ない女性、しかも男性よりも甲高い――声に、誰もが注目してきた。

 法務大臣はミヒャエルの父親。

 衆人環視の中、自分の息子の罪を処断するのはお辛いはず……。

 でも、この馬鹿の発言は本来『 大逆罪 』級。ここで『 不敬罪 』に問うておかないと、ご一族が道連れになります!

 おつらいでしょうが、どうかわたくしの本意をお汲み取り下さい。お義父様!


「はあ? 不敬罪だ? 何を言い出すのだタチアナ!」


 ミヒャエルがわたくしの言葉に反応してきました!

 今ですよ、お義父様! ミヒャエルを止めるなら今しかありません!


 お義父様に目で合図を送ると、血の気が引いてはいるようですが、しっかりとうなずいて下さった!


「たかが俺の秘書官の分際で――」


 ミヒャエルがわたくしの胸ぐらを掴もうとした瞬間。


「ミヒャエル・バーミキュラに『 不敬罪 』の疑いあるを認める! 詮議せんぎの為、連行せよ!」


 法務大臣の声に、城内の衛士が駆けつけてミヒャエルを取り押さえる。


「なっ何をする! この俺の言葉のどこが不敬なのだ! 父上も血迷われたか!」


 ミヒャエルが衛士に羽交い絞めにされ、取り囲まれ、連行されていくところに国王陛下の声がかかる。


「諸君! ミヒャエルが連れ出される前に明確にしておくことがある!」


 騒然とした場内が、陛下のお言葉で鎮まった。


「へっ! 陛下、このくだらない茶番をお止めください! 王国の将来が――むぐっ! むーうー」


 せっかく鎮まったところでミヒャエルが騒ぎ立てるので、衛士がきつくミヒャエルの口を塞ぐ。

 よくやってくれました!


「さきほどミヒャエルが申したタチアナ嬢との婚約の件であるが、婚約破棄などではなく婚約自体を無かった事とする。今も過去も両者に婚約関係は無いものとする。……それを踏まえた上で、余と王子、王族に対する不敬を断罪せよ。よいな法務きょう?」


 国王陛下のご下命に、お義父様が「ははっ」と返事をすると、衛士の連行の足が再び動き出した。

 ミヒャエルは拘束を解こうと足掻いて、何かを訴えようと唸っているものの、叶わずに場外へ連れ出されていった……。



 はぁ~っ。ひとまず修羅場にならずに済んだわね。

 さて、次はわたくしね……。


「法務きょう! 今回の件は彼の秘書官であり婚約者でもあった、わたくしタチアナ・フィスラーにも責があるものと存じます。どうぞ、わたくしも――」

「――そのようなモノは無い。王国法にいて『 不敬罪 』は、罪人本人にのみ適用される。部下には適用されないし、タチアナ嬢は奴の婚約者であった事など無い・・・・・・・・・・・・・・のは周知の事実。よって君には何ら責は無い」



 ミヒャエルの連行後、議場は落ち着きを取り戻したがバーミキュラ法務きょうは自身の解任を緊急発議し、粛々と議決された。

 議場を後にするお義父様――伯爵……。

 ミヒャエルのせいで、お可哀そう。あの馬鹿息子!


 国王陛下のお隣にいらっしゃるルクルーゼ公爵閣下が場を取り仕切り、御前会議は幕を下ろす。


「タチアナ嬢! 我が息子と婚約してくれぬか?」

貴女あなたに、今まで婚約者がいないのを不思議に思っていたのだ! 是非私の息子と!」

「我が子爵家とフィスラー家は確か、懇意にしていたはずっ。出来ればお父上を交えて食事会でも……」


 ひえ~!

 会議が終わった途端、おじさま方がわたくしに群がってきます!


「け、けいら! 抜け駆けはずるいぞ! こういう事は、フィスラー男爵に話を通すところからだ」

「そうだ! 男爵はいずこに?」

「タチアナ嬢! お父上はどこにいらっしゃる? お姿が見えないぞ?」


「ち、父はここにはおりません……」



 父は、王立学園を凡庸な成績で卒業後、王宮に取り立てられる事も無く領地に戻り、爵位の継承後も自分の領地・領民の為に経営に励んでおります。

 小さな領地で特筆すべき産業も特産も無いのですが、真面目で実直な父は、都市・農業・産業の各基盤を安定させる事によって疫病・飢饉・災害に強い領地を創り上げました。

 他領との交易に頼らずとも生活を賄える、高い自給率の優秀な領地経営をなさっていると、わたくしは誇りに思っています。



「ではどちらに?」

「り、領地に……」

「おお! 早速お父上に申し込まねば!」

「あっ、こら! 抜け駆けするな」


 自然と周りを取り囲まれてしまって、わたくしが困っていると、大きな咳ばらいがひとつ。


「オオッホン!」


 皆が鎮まると、その咳払いの主はルクルーゼ公爵閣下。

 場内の誰よりも年配で、白髪の長いあごひげが特徴的な好々爺。


「あ~。ちとタチアナ嬢とお茶でも飲みたいのじゃが……みなさん良いかな?」


 皆さん公爵閣下が言うのを無下むげにできないので、惜しそうにわたくしから離れて下さる。


「タチアナ嬢。こんな爺さんじゃが、お茶でもいかがか?」

「は、はい。お伴致します」


◆◆◆


 十五歳の女性のわたくしよりも少し小さいくらいの公爵閣下に付いていくと、そこは王族の控えの間でした。


「もう一人、お茶仲間がおるが……いいじゃろ?」


 中に入ると、国王陛下でした! ひえ~!


 アレクセイ・ボニーク陛下。

 透明感のあるスカイブルーの瞳にロマンスグレーの御髪おぐしの五十代の威風堂堂たるお姿で、すでにテーブルについておられる。


 お茶会という物ではないけれど、いわば国王陛下の私的なお茶の時間への同席といった感じ。

 それでも陛下よ! き、緊張する~。

 挨拶を済ませるとお茶の時間。


「今日は大変じゃったのう? タチアナ嬢」

「わたくしの不徳の致すところで、大変お見苦しい物をお見せ致しまして、申し訳ございません」

「なぜタチアナ嬢が謝る? そなたに落ち度は無いぞ?」


 そして、お茶の時間は公爵閣下が中心になってお歳の事とかお身体がどうとか、そういった話が延々と続く。

 わたくしにも白髪が生えて背中も曲がってくるかな? といったところで、国王陛下が「今日はその話をする為にタチアナ嬢を呼んだわけではない」と釘を刺して下さった。


「おお~、そうじゃったそうじゃった。年を取ると話が長くなってしまうわい」


 そう言って「ほっほっほ」と髭を撫でながらお笑いになる。


「では、タチアナ嬢。急な話じゃが、ワシの娘にならんか?」

「……へ?」


 わたくしが呆気に取られていると、公爵閣下が「ワシのひ孫程のお嬢さんには、衝撃的じゃったか? ほっほっほ」とお笑いになった。


「いやいや、『ワシの娘になってワシと暮らせ』という意味では無いぞ?」


 知っての通り、国王陛下には十二歳になられた王子殿下がいらっしゃって、その婚約相手になって欲しいとの事でした。


 ええーっ? 


「おおおお、お、恐れながら! わたくしは十五歳です。十二歳の殿下には、と、歳が釣り合いません! それに男爵家ですし……」


 わたくしがドギマギしていると、国王陛下が口を開いた。


「そもそもの話をすると、――」


 国王陛下は、内務部に若いのに優秀な者がいるとの評判を聞き、それほど優秀ならばいずれ引き上げてやろうかと調査なさったそう。

 それがミヒャエル・バーミキュラだった。


 王立学園首席卒業といえど、登用時の人物考査では噂が立つほどの優秀さでは無かった。不思議に思った陛下は更に調査させたという。


「調べれば調べるほど、タチアナ・フィスラーという秘書官の名前が出てくるではないか。学園創設以来最高の神童と名高いのはもちろん、内務部の連中も『ミヒャエル・バーミキュラの功は全てタチアナ嬢の操縦の賜物たまもの』と言っておるそうではないか?」


「そ、そのような事はございません……」

「謙遜などせずとも良い。これは余の手の者の公正な調査に基づくものだ。そして、年齢の事だが――」


 実は、王子――ベネディクト殿下が、王宮内をお団子頭でとてとて歩き回るわたくしを見初みそめたとのこと。


 とてとてって……。


「どうもベネディクトの方が……な? そなたに一目惚れしたらしくて、な。そなたの事を周囲に聞いて回っているのだ。余としては、どのようにしてそなたの事を諦めてもらおうか、思いあぐねておったのだ。だから……歳の差どうこうの前にベネディクトの希望なのだ」

「これから何十年も人生を共に歩むのじゃぞ? たかが三歳の差など、無いも同然じゃ。ほっほっほ」

「それに、そなたの知識、教養、作法、どれをとっても充分に国母たる資質ありだ。最後に、家格だが――」


 従来、王族が婚姻する場合、国内貴族においては家格が伯爵家以上でなければ認められなかった。これは王国法にも定められいる。


「ほっほっほ。そこでワシじゃよ。公爵家じゃよ」

「タチアナ嬢が公爵家の養女となれば、ベネディクトとの婚約に何ら障壁は無くなる。当然、余も王妃も異論は無い」

「ですが、そのような大事な事を、わたくしが一人で決める事はできません。父にはミヒャエルとの婚約白紙化の件も伝えていないのに……」


「フィスラーには、こちらから使者を立てて協議する。急な事ゆえ、この席を設けてそなたの様子をうかがっておるだけだ」


 陛下はそうおっしゃいますけれど……、今日の今日ですよ? さっきの今ですよ?

 私の心を見透かしてか、公爵閣下が「ほっほっほ」と、相変わらず笑いながら説明して下さいました。


 ベネディクト殿下の片想いの恋煩いを、陛下から相談されていた閣下も、わたくしやミヒャエルの事をお調べになったそう。

 そこで、ミヒャエルが分不相応の野心を持つ馬鹿だとお気付きになって、試しに御前会議に呼んでみてはと、陛下に進言したそうです。


 ここまでミヒャエルの行動を予測していたとしたら……このお爺さん、もしかしてとんでもない策士です?


「まさか、あれほどまでの野心を抱く――いや、無謀な考えを持つ馬鹿であったとは思わなんだ。ほっほっほ」

「奴がタチアナ嬢との婚約破棄を言い出した時は、『渡りに船』と思ったが、不穏な続きがあって驚いたわ。だから、そなたの機転は良かったぞ? タチアナ嬢。あのまま続けて発言させておっては『 大逆罪 』も視野に入れねばならなんだ。それではバーミキュラ法務きょうの命まで危うかった。いや、良い機転であった」


 これからは王家とフィスラー家の話し合いになるので、わたくしに思うところあらば、父上を通して王家と協議するように言われました。


 言える訳ないではないですか!



「ところで、タチアナ嬢は純潔じゃろか?」


 帰り際、唐突に公爵閣下から問われたわたくしは、「じゅ、純潔ですけど」と、正直に答えてしまいました。


 恥ずかしい!


 顔を赤くしながら、足早に内務部へ向かい、ミヒャエルの執務室の私物を整理。

 皆さんの心配げな視線、好奇の眼差しを受けながらも、そそくさと王宮を後に。

 取るものも取り敢えず、お父様の領地へ急ぎます。


 三日かけてようやく領地の屋敷に着くと、さっそくお父様が「どういうことだ」と聞いてきました。


「実は、ミヒャエル様が御前会議で、王室に関して不敬な発言をしまして……」

「違う! いや、それもだが、他家から婚姻の申し込みが殺到しているのだ! それに陛下からも!」


 議場に居合わせた方々をはじめ、噂を聞いた貴族家からも続々と書状が届いているようです。

 そして、バーミキュラ伯爵からも謝罪があったとの事。

 お父様は、何が何やら分からぬまま数日過ごしているそう。

 わたくしも似たようなものです!

 ちなみにミヒャエルは、当然ながら廃嫡され、裁判を待つ身だという……。


 他家からの婚姻申し込みはともかく、わたくしは数週間領地に腰を据えて、父と二人で王家とのやりとりを進めることに。

 最終的に陛下と面談する事になり、わたくし達は三日かけて王都へ向かいました。


◆◆◆


「よく来てくれたな、フィスラーきょう。それに、久しいなタチアナ嬢。なに、顔合わせ程度に思うが良い。それほど緊張するでないフィスラー卿」


 国王陛下の御前でガチガチに緊張している父母とわたくし、陛下と王妃殿下、それにルクルーゼ公爵閣下で最終的に婚約の話が詰められていく。

 そこに、急に扉が開いてベネディクト殿下が入っていらっしゃった。


「タ、タ、タチアナ嬢。お会いできて嬉しいです!」


 陛下そっくりなアイスブルーの大きな瞳を輝かせながら、お顔を赤く染めてご挨拶下さいました。

 わたくしも立ちあがってご挨拶。身長は同じくらいですけれど、すぐに追い越されそうですね。


「こちらこそ殿下にお会いできて光栄です。殿下には一日も早くお会いしとうございました」


 殿下はパァっと明るくなって「本当ですか?」と喜んで下さる。


「普段王宮でお見かけする時のお団子髪も可愛らしかったですが、今日のお下げになった姿も、す、素敵です」


 また顔を赤くして褒めて下さいました。

 ……殿下の方こそお可愛らしい!


 諸々の手続きを経て、わたくしはルクルーゼ公爵家に養女として迎えられ、正式にベネディクト殿下と婚約が結ばれました。

◆◆◆


 一方、ミヒャエルは裁判にて『 不敬罪 』が確定。

 労役十五年を言い渡され、辺境の王領での公共事業での労役を課せられた。

 辺境の自然の中、朝から晩までの肉体労働で、かえって健全な精神が芽生え、二十歳の青年は己の考えの浅はかさを悔いているそう……。


◆◆◆


 わたくしは婚約者として王太子妃教育を受けながら、殿下とお会いし親睦を深め、時に家庭教師のように殿下のお勉強のお相手も務めもする。


「タチアナ嬢。妃教育はどうですか?」

「はい。皆様よく教えて下さって、順調でございます。殿下」

「そうですか。では、ぼくも負けていられませんね……。さっ! 勉強しましょう」

「はい! 頑張りましょうね?」


 その甲斐あってか、殿下も一年飛び級で十五歳で学院を卒業。

 以降、殿下は政務に励み、わたくしも陰ながらお支え致しました。


◆◆◆


 そして、殿下が十六歳を迎えた誕生パーティー。


「タチアナ、待たせたね。君は私の初恋の人だ。一目見た時から君に恋に落ちて、それは五年近くたった今でも続いている。毎日君に恋に落ちている。今日、君に改めて申し込むよ」


 もうとっくにわたくしの背を追い越したベネディクト殿下が、スワローズテールコートの内側からリングケースを取り出して、片膝をついて下さる。


「私と結婚して下さい」

「わたくしもお慕い申しております。よろしくお願い致します」



 翌年、二十歳になった私はベネディクト殿下と結婚致しました。

 


                                  【了】



【後書き】

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わたくしの婚約者が御前会議で馬鹿をやって、連行されちゃいました。――わたくし?わたくしは…… 柳生潤兵衛 @yagyuujunbee

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