非生物しか描けない男と生物しか描けない女の純愛配信生活〜2人で1つの最高漫画、そこに誰も入ってはいけない〜

ネリムZ

第1話

 彼は雨宮あまみや天音あまね

 彼は配信者である。

 自分が描いた漫画を自分で声当てして投稿している。

 そこそこの人気があり、現在はコメント欄を見ている。


『相変わらずごつい武器やな』


『マイナー武器登場来たあああ!』


『洗濯機は武器なのだろうか?』


『つまらん』


『人掛けよゴミ』


 アンチから褒め言葉やいいねが欲しいありふれた定型文まで、様々なコメントを見ていた。


「人、か」


 彼は何回も、人を描こうとしていた。

 他の動画の人の描き方を見たりして勉強していた。

 しかし、気づいたら武器のように成っていたのだ。

 その瞬間、彼は人を描くのを諦めた。


「お、そろそろ時間か」


 彼には1人、尊敬し大好きな配信者が居た。

 その名も『人絵描きちゃん』である。

 その人が描き、声を当て、配信する漫画は恋愛モノだ。

 しかし、その恋愛よりも気になるモノがある。

 それは、登場人物が全員裸体で風景などはフリー画像のみと言う事だった。

 一応規約違反に成らないように細工はしてある。


「綺麗な絵描くよな」


 リアルのような絵はSNSで、こう言う動画は二次元の描き方をしている。

 天音はリアル過ぎる絵はあまり好まない。


「僕も、こんな絵が描けたらな」


 最高のバトルファンタジーの漫画を描くのに。


 ◆


「ふむふむ。今日も上場ね」


 彼女は西園寺さいおんじ莉奈りな

 彼女は配信者である。

 そこそこの人気があり、自分で漫画を描いて声を当てる。

 莉奈が描く人物は細部まできちんとこだわっている。

 キャラ設定もしっかりしており、web小説はとても人気が高い。


 漫画の人の絵もストーリーも綺麗なのだが、それ以外がとんとダメだった。

 そんな莉奈が尊敬し大好きな配信者が居る。

 その人が居たからこそ配信を始めたと言っても過言ではない。


 その名も『武器絵描き君』である。

 この人が描く漫画は全部が武器か道具であり、道具であっても武器に成る。

 擬人化ではなく、その武器同士の会話や戦闘になっている。

 そのコメディーと武器の欠点やメリットを絡んだコント会話がとにかく面白い。


「私も、こんな激しい動きが出来る漫画が描けたらな」


 そしたら、異能戦闘モノを描くのに。


 ◆


 教室に向かい、席に座って絵を描いている。

 描いているのは当然武器である。

 今後の話の展開で新たな武器を出すので、その姿を作っているのだ。

 漫画はタブなどを使っているが、使う素材はノートに描いている。

 その方がモチベが上がり、イメージが湧いて来るのだ。


「よ、今日も描いてんのか」


「あ、みつる君。おはよう。今日は遅刻しなかったね」


「おいおい当たり前だろ。単位がやばいからな」


「あはは」


 神楽かぐら光。

 天音の友であり、配信者である事を知っている人物だ。

 中学からの幼馴染で、中学の頃は荒れに荒れていた。

 天音と出会い、ヤンキーからは足を洗ったのである。


 放課後、天音は急いで学園内の図書館に向かった。

 図書館で家具家電の本を取り、見ながら絵を描く。

 ボールペンを取り出して描いて行く。

 下書きする事無く描いていく。

 自分のイメージをそのまま描く事が出来て、それで完成したモノを使うのだ。


「あれ」


 しかし、何時も使っているボールペンが無かった。

 それが分かった瞬間、天音は走り出した。

 大切な物。それがボールペンなのだ。


 他にも、今まで描いていたノートも落としているのだが、気づいては居なかった。

 1番重要なのは、そのボールペンなのだ。


 ◆


(これは)


 廊下を歩いていると廊下にノートとボールペンが落ちている事が分かった。

 ボールペンには名前が書いて無く、ノートには名前があった。


(クラスが書いてないけど、職員室に持ってけば良いよね)


 しかし、こう言うのがあると見たくなるのが人間と言う物。

 見た目はスケッチブックである。

 莉奈は中身を見た。


「こ、これは!」


「す、すみません!」


 ◆


 天音の目の前には莉奈が居た。

 この学園で1番の美女と言われ、スクールカーストてっぺんの才色兼備の彼女。

 告白された回数は数知れず、クール系であり一つ一つの動作に気品を感じる。


(あー最悪だああ! なんで西園寺莉奈さんが僕のノートとボールペン持ってんだよおおお! こんな所を男子生徒に見られたら⋯⋯うう)


 尚、女子生徒に見られたら莉奈が迷惑を被る。

 こう言う場面を写真に収められ、莉奈に彼氏が!? と言う記事が出来る。


「あの、それは、僕ので、その、拾って、くれて、ありがとうございます!」


「貴方⋯⋯武器絵描き君!」


「え」


「ちょっと待てね」


(いや、それよりもノートとペンを返してください)


 臆病者である天音はそれを言う事が出来なかった。

 そんな天音に対して莉奈は1冊のノートを提示。

 それを見ろと言う事だった。

 天音はそれを見てさっさと戻ろうと思い、見ると、目を見開いた。

 眼球でも取り出すんか! っと言われそうなレベルで目を大きく開いた。


「ま、ままま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、ま、まままさか」


 どんだけ『ま』を言うのか、天音は遂に言葉を出した。


「人絵描きちゃん!」


「そう。で、貴方は武器絵描き君でしょ?」


「は、はい」


 互いにファンだから、互いにその人の絵が好きたがら、絵を沢山見て来たから、分かるのだ。

 その目の前の人が尊敬している人だと。


 しかし、だからなんなのだ。

 天音が好きなのは『絵』である。

 莉奈が好きなのは『絵』である。

 と、言う訳で、それ以上の会話は続かなかった。


「あの、返してください」


「あ、すみません」


 莉奈はノートを渡した。

 そして、2人は家に帰った。


 天音は漫画を描いて居た。

 週に1回日曜日の夜7時に投稿している。


(まさか人絵描きちゃんが同級生だとは⋯⋯)


 その事が頭から離れ無かった。


 ◆


(まさか武器絵描き君が同じ学校に居たとは)


 莉奈は1冊のノートを取り出す。

 それにはweb小説でも投稿していない。そもそも小説にしていないプロットや設定が載っている。


「⋯⋯叶うかしら」


 コラボ。

 それが今の莉奈の目標。


「⋯⋯でもどうやったら良いのでしょうか」


 莉奈が取った行動は、情報収集だった。


 ◆


 あれから数週間が経ち、何時ものように教室で弁当を食べようとした時に教室がざわめいた。


「な、西園寺莉奈さんがうちの教室に来たぞ!」


「何事か!」


「はっ! まさかこの俺の告白の答えかな?」


 立ち上がり、突然来た莉奈に堂々と向かって行ったのはこのクラスの一のイケメン。

 ちなみに学園イケメンランキング総合では3位である。

 告白アンド玉砕したのに、「答えが変わった」と信じて疑わない。


「すみません。どちらか存じ上げませんが、今日は雨宮天音さんに用があって来ました」


 まさかの名指しである。

 弁当を光と食べていた天音。

 その手の箸が止まって、とても美味しそうな卵焼きが空中に止まっている。


(あれ、これまずくない?)


「おいおいなんでアンナ陰キャなんかを!」


「これどう言うこと?」

「分かんない」


「お、なんだなんだ」


 他のクラスからも野次馬が現れ、道が出来て莉奈は天音に近づき、1冊のノートを取り出して渡した。


「これ、読んで感想を聞かせてください」


「え、あ」


 断る事も賛同する事もなく、ノートを渡されて帰って行く莉奈。

 莉奈が教室を出て行った後、天音の教室はうるさく成った。

 そのノートには何が書いてあるのか、男達が天音に群がるが。


「うるせぇ。黙って食えねぇだろ」


 光がそう言うと、その騒ぎも終わった。

 例のイケメンナルシスト男は崩れ落ちていた。


 今日の帰り道。

 天音は公園のベンチに座ってノートを見ていた。

 そこには人物の絵(裸)にストーリーのプロット、設定資料などなど。


「これ、面白そう」


 完成したらどんな漫画に成るのだろう。

 とてもワクワクしたが、ノートをそっと閉じる。


「西園寺さん。これ見せて何が言いたいんだろ⋯⋯」


 そうして、家に帰ると、ドアの前に例の女の子、西園寺莉奈が居た。

 天音は数秒硬直し、閃いた。


「あ、部屋間違えたか」


 ここはタワマン最上階。

 フロア全体が部屋の管理人専用の特別室。

 タワマン所有者が住む為に作られたこの場所。

 間違える訳ない。


(取り敢えず、警察呼ぶか)


「あの、警察呼ぼうとしていませんか」


「ひっ! す、すみません。その、何用で」


「ノートの回収と感想を聞きに」


「あ、どうぞ。それと、良かったと思います。面白そうでした」


「そうですか! でしたら、一緒にコレを漫画化してくれませんか!」


「え」


「実は、私って人しか描けなくて、だから、バトルモノを描きたくても魔法とかも描けないんですよね。いやまぁ1度描いた事はあるんですけど、迫力がないし、裸体しか描けないので、配信するのも難しいし時間が掛かってしまい」


「そ、うなんですね」


「それで、武器絵描き君である雨宮さんのお力を借りたいのです! 貴方の描く服や防具に武器! どうか、私と二人三脚で漫画を描いてくれませんか!」


(まさかこうなるとは! え、どうしたらいいの? 誰かー! 助けてぇー!)


「ダメ、ですか」


 クール系のありがちな照れくさそうに口元を隠し、斜め下を向きながらもチラチラと見てくるあざとい喋り方を放つ莉奈。

 当然、普通の男子である天音も少しドキリとするが、そこは普通精神スキルで耐える。

 反応がない事は悟った莉奈はズキンと心が痛む。

 少し涙目になる。


 その攻撃は絶大だった。

 天音の心にダイレクトアタック、さらにクリティカルヒット。

 現在の天音のHPが数値化されると言うのなら、残り23だろう。

 そこで莉奈のトドメの一撃が放たれる。


「私の好きな漫画家さんと、一緒に描きたかったです」


 好きな漫画家、それは互いに互いの漫画が好きだと言っている。

 そして、天音の中に流れ込んで来る。

 これからの生活が。

 自分が好きな漫画家とコラボして漫画を描く。

 好きな漫画の絵を目の前で見れる。


「分かりました。その漫画、僕も気になります。一緒に、頑張りましょう!」


「⋯⋯ッ! ありがとうございます!」


 明日は土曜日、早速明日から始まりだ。

 場所は天音の家となった。

 道具を持って莉奈が来て、天音が通す。

 中はとても片付いてあった。


「綺麗ですね」


「まぁ、一人暮らしですしね」


 莉奈硬直。

 ここはタワマン最上階で上は屋上である。

 しかも、ワンフロア全体が部屋となっている広い部屋である。

 そこに一人暮らし。驚くのも当然と言うモノである。


「一人暮らし?」


「はい。お父さんが世界渡って空道の大会に沢山出ていますから。妹はお父さんのファンで追っかけしてますね」


「お母様は?」


「⋯⋯僕が小二の時に癌で」


「⋯⋯ッ! すみません。こんな事を⋯⋯」


「良いんです。僕はもう、受け入れてますから。それよりも父の方が心配ですよ。この事が受け入れる事が出来ず、会社辞めて空道に現実逃避するようにめり込んで、あっちの壁にあるトロフィーやメダルの他にも、その引き出しの中に沢山メダルが入ってます。着払いで送られて来るんですよね」


 暗い話は辞めて早速漫画を描いて行く。

 内容は現実ファンタジーの異能バトルモノであった。

 最初に2人が何が描けるのかを様々なお題の中で試し行く。


「まさか私って動物と描けたんですね」


 人しか描いて居なかったので莉奈は分からなかった。


「風景も描けたんですね僕」


 天音は武器や防具、服しか描いて居なかったので風景の木などが描けてびっくりしている。

 そして、2人は2人が協力して描いた漫画を配信する用のチャンネルを作り、各々のSNSにて報告した。

 そして、最初の1話を土曜日の夜7時から投稿を開始する。


 結果は上場だった。

 裸体の人間しか描けないが、その二次元の中でも綺麗な人物。

 笑いの所はとことん笑えるように、シリアスな所ではとにかくキメている。

 キャラの見た目も細かく作り、正に神作と言われる漫画を描く事に成功した。

 2人で違う部分を描いているので、合成など上手くしないといけないので、1話作るだけでも相当の時間が掛かる。

 今回は導入で人を引き込むだけの話だ。


 アシスタントが居る訳でもないので、作成にとても時間が掛かる。

 しかし、これに期待してくれている人達が多いのも事実。

 2人は大きな決断をした。

 それが、自分達の個人チャンネルを一時的に2人の漫画の1章が終わるまで休載した。

 それだけの覚悟があるのだ。


 そのチャンネル名は『ウェポンヒューマン』である。


「終わりましたね」


「結構巻きでやってしまいましたね。2話目から気をつけましょう。もう夜ですし、今日はうちに泊まって行ってください。深夜に1人帰すのは心配です。晩御飯作りますね」


「分かりました。ありがとうございます」


(⋯⋯あれ? これって男女のお泊まり? え、ナチュラル過ぎて平然と受け入れてしまいましたが、まだ開始して数時間ですよ? それでお泊まりする仲なんですか! 私、お友達ともお泊まり会なんてした事ないのに! え、てかさっき料理って! 料理出来るの! 料理って料理人に任せるのが常識じゃないの?!)


 注意、莉奈はお金持ちの令嬢です。一般的な常識とは離れています。


 天音は味噌カツに味噌汁、ご飯と普通に料理を作った。

 莉奈はそれを目を点にしながら見て、箸を握って、味噌汁を飲んだ。

 なんで箸を握ったのか、それは誰にも分からない。


(男女のお泊まり、男女のお泊まり)


 ただ混乱していた。本当に何故箸を握ったのか誰にも分からない。


「あちっ」


「あ、大丈夫ですか!」


「はい。すみません。少し混乱していました」


 少し(9割)混乱している莉奈。


 晩御飯はとても美味しかったそうです。


(料理人が作るよりも美味しかった)


 料理人じゃなくても料理は作れる。それを莉奈は知った。

 先に風呂に入って良いと成った莉奈は風呂に入る。


(狭い)


 失礼に値するので言葉には出さない。

 パジャマも用意してくれていた。

 妹の物らしい。


「あがりました」


「はい」


 きっと風呂上がりの莉奈を見たら殆どの男子はトキメクだろう。

 それだけ不思議の色気を醸し出していた。

 しかし、漫画を描いて、その達成感だけに支配されている天音は何も感じなかった。


(少し胸元が広い)


 莉奈は別に小さい訳では無い。ただ、妹さんが大きかったのだ。

 年下である。


 次に風呂に入った天音は湯に漬かりながらとある事を口走った。


「あれ、僕なんでナチュラルに西園寺さんを泊めようとしてんの?」


 ま、良いかと思ってしまう天音。

 天音は風呂好きで、長風呂だ。


 2時間も風呂なら出て来ない天音を心配した莉奈は風呂場に向かった。

 洗面台のドアを開けて中を見ると、タオルで下半身部分を拭いていた天音が居た。


「「⋯⋯」」


 1泊おいて、さぁどうぞ。


「「ぎゃあああああああああああ!」」


 生きている中で1番の叫びかもしれない。

 防音性能が高い場所だから良いが、そうでない場合はただの迷惑行為なので気をつけよう。


「すみません。僕長風呂で」


「い、いえ。私もノックをするべきでした。はしたないですね」


 再びの沈黙。


(裸見られたァァァァァ。はっず)


(めっちゃ良い筋肉してたなぁ。今すぐノートに残したい)


 実は互いに冷静だったり。

 そして、莉奈は妹の部屋に寝る事に成った。

 そこは自分の部屋よりかは狭かったが、あんまり荷物は無かった。

 お父さんと思われる写真やグッズが多いが、それよりも目立っていたのがあった。

 それは、家族の写真だった。

 笑顔な父と小さな天音、そして母親に赤ちゃん。


「良い家族ですね」


 莉奈は両親の愛情を知らない。

 両親は仕事仕事で全然構ってくれて無かったのだ。

 ベットに横になり、眠る。


 莉奈を家に泊めた事を言った天音はビデオ通話で家族会議をしていた。


『お父さんびっくりだよ。天音が彼女を、しかも泊めるなんて』


『ヤルなら自分の部屋だけにしてよね!』


「何を勘違いしているのかな?! てか、お父さん、もう大丈夫なの?」


『ああ。5か月前に立ち直ったさ』


「連絡してよ! 心配してたんだよ!」


『すまんすまん。それと、4ヶ月後に帰るから、その時に彼女さん紹介しろよ』


「ちゃうわ!」


 久しぶりに父の笑った姿にほっこりする天音であった。


『お兄ちゃん、もう1回言うよ、や』


 通話を切った天音は寝た。


 莉奈が起きてリビングに行くとそこには朝食が出来ていた。


「美味しです。お料理、お上手ですね」


「一人暮らし長いですから。ある程度の家事は出来ますよ」


「凄いですよ」


 莉奈は調理実習などないお嬢様学校に通っていた。

 高校からは学び忘れた一般の常識を学ぶ為に通わされている。

 しかし、現在は調理実習を行ってない。

 10月にある。


「あの、これは提案なんですが。主人公とヒロインのデートイベントがあるじゃないですか」


「そうですね」


「私、そう言うよく分からないんですが、大丈夫ですか?」


「⋯⋯」


 天音は基本的に家から近く割引も多い市場で買い物をする。

 家具家電はネット通販である。

 風景は天音担当である。

 人や動き、モンスターや文字は莉奈が担当し、他は天音が担当である。

 風景も全部こだわり、伏線を張りたいので自分で描きたい。

 しかし、目で見ないとそう言う所が分からない。


「「⋯⋯」」


 食卓が沈黙に包まれる。


「行き、ますか」


「そうですね」


 これはもうデート。誰が何と言おうと、総理大臣が言おうと、紛うことなきデート。

 しかし、2人にとってはこれはデートではなく取材である。

 しかし、ここで問題がひとつある。


「あ、私一度帰って着替えて来ますね」


 そう、莉奈は服を借りている状態で、昨日の服は制服なので着替えたい。

 しかし、ここで天音がとある事を言う。


「洋服なら、家に沢山ありますよ。サイズが分かりませんから自分で見てください。こっちです」


 食器などを片付けて天音が莉奈をとある部屋に案内する。

 そこには様々な洋服とその服を作る為の材料のマネキン、そして服が描いてある物があった。


「こ、ここは」


「ここは母の仕事部屋です。僕のお母さんは服のデザイナーだったんです。特注で依頼される時に作っていました。今では僕が使っています」


「え」


「あ、説明しますね」


 天音は母親の事を尊敬していた。

 母は仕事をしている時は真剣な顔だが、どことなく楽しそうで、その姿を見るのが天音は好きだった。

 生物が描けないが非生物が描けるしそれがとても上手い。

 それは母譲りである。


 天音は在宅で学校に隠して時々依頼を受けて服を作っている。

 配信の他にもこれで金を稼いでいる。

 しかし、不動産などの大家さん収入があるので誤差だが。


「お母さんの事を忘れて欲しくないので、続けているんです」


「⋯⋯ふ。立派ですね」


 かっこよくも可愛い笑顔でそう言った。

 莉奈は有難く選ぶ事にした。


(どれも可愛い)


 水色のワンピースを着ている莉奈。

 莉奈は銀髪碧眼であり、そのワンピースはとても似合っていた。

 しかし、特になんとも思わない天音。

 ここは「似合ってるね。とても可愛いよ」とでも言ってやるのが常識だ。

 しかし、そんな常識はどうでもいい天音と、そんな常識を知らない莉奈。

 2人は近くのデパートに足を運んだ。


 デパートの中に入った2人は驚いていた。

 天音は純粋に広く様々な店がある事に驚き、莉奈は人が多い事に驚いていた。

 2人は中を探索する。


「あの、昨日の事で少し相談が」


「ん? なんですか」


「雨宮さんの筋肉今度はまじかで見せてくれませんか! 生身で見るのとはやっぱり違うと感じたんです!」


「⋯⋯それが、助けに成るなら」


 好きな人の漫画がより良く成るなら自分の身も使う天音。

 他の客からは小声で話されていた。


「あ、あの子可愛くない?」

「ねぇ! 肌つやつやよ。良いなぁ〜」

「あの服どこで売っているのかしら?」

「きっと高価の物よ」

「そんなの着てこんな所に来ないでしょ」


「お前ナンパしてみろよ」

「いや、近くに男いるやん」

「いやいや。あんな平凡な男だったらきっと行けるって、あれは使用人だろ」


 と様々な話が立つ。

 西園寺莉奈とはそれ程までの美貌があり、それを天音が作ったワンピースがそれをさらに引き立てる。

 珍しい場所に来ている莉奈の顔は少し緩やかだ。

 故に、普段はクールに見られている莉奈でも可愛く見える。

 そこに可愛めのワンピースだ。


 そんな正に聖母のような莉奈の隣に立つ平凡な男は正に使用人。

 隣に立つのがおこがましいと思われるような男だった。


(う、周りの目が)


 後はとにかく色んな所に行ったり、ご飯を食べたり、天音が作る料理の方が美味しいと感じる莉奈だったり、と取材デートを楽しんだ。


 帰ったら漫画の作成だ。

 莉奈は自分の家に帰って、ワンピースを返す事を約束した。


(別に良いのに。良い子だな)


 ここは莉奈が普通だ。

 借りた物は綺麗にして返す。

 いくらちょっとした失敗作であってもそれは変わりない。

 それにオシャレを本気で極める人やプロにしか失敗作だと分からない。


 2話目のプロットを見て、必要な風景や道具を描いて行く。


(漫画を描いて、ここまでワクワクしたのは久しぶりだな)


 基本的に武器のコントを描いていたので、こう言うのは新鮮で楽しいのだ。

 そして、天音達は翌日きちんと学校に行った。


「あ、天音さん」


 2人はたったの2日でとても距離が近く成った。

 互いに下の名前で呼び合う程に。


「あれ? 莉奈さんもこっちの道なんですか?」


「いえ。天音さんと今後の話がしたかったのでこっちにしました」


「そうなんですね」


 もうそれ恋に落ちてるやん。とか言われそうだがそう思ってない2人。

 2人はビジネスパートナーのようなものだ。

 互いに互いの絵が好きで、漫画が好きで、そして一緒に漫画を描いている。


 学校に着いたら2人は別れる。

 どうして一緒に登校しているのか、様々な噂がすぐに学校に広がった。

 それは尾ヒレを沢山付けて、誤解と誤解を呼び、噂がどれだけ薄っぺらい物でも、金曜日のノート渡し事件があり信憑性が高い。

 結果、天音は放課後体育館裏に呼び出された。

 例のイケメン男である。


「なんのよ⋯⋯」


 言葉? そんなの聞いてやる必要はない。

 イケメンは先制攻撃で天音を蹴飛ばして体育の壁に押し当てた。

 鞄には大切なボールペンがあり、傷つかないように鞄を投げた。


「おん? 何かあるのかなぁ?」


 イケメンの取り巻きが鞄を掴み中身を漁る。


「辞めて」


 手を伸ばし辞める事を願う。


「いやぁ。ダメだなぁ。ブスが調子に乗った罰だ。お前なんかが莉奈と親しげにする罪を清算しろ」


 腹を蹴るイケメン。

 取り巻きが鞄の中からボールペンを取り出す。

 綺麗に保管され、1個の筆箱に1本だけ入っているボールペン。

 インクが無くなったら交換し、何回も交換したボールペン。


「お願い、それだけは」


 それを聞いた取り巻きはニヤリ。

 そして、ゆっくりとボールペンに力を加えた。


「辞めろ」


 その取り巻きの顎を蹴りあげる天音。

 その動きは一瞬で、ここに居る人には目で追えなかった。

 ボールペンを大切に持つ天音。

 天音は前髪を掻き上げる。


「お前らさぁ。俺の大切なこのペン壊そうとした、罪。きちんと清算してくれるんだろうなぁ」


 光がヤンキーから足を洗った原因がここに再び、現れた。

 妹達がまだ家にいた頃に、タワマンの地下にあるジムで父に鍛えられ。

 妹の技を耐える為に技を覚えた天音。

 天音は武術を学んでいるのだ。

 そんな奴に対し、大して喧嘩も強くない数人の群れを作らないと誰かにイキる事も出来ない人間は相手に成らない。


 数秒後にはイケメン達は地面に転がっていた。

 イケメンの髪を持ち、自分の顔まで持ち上げる。


「これ以上俺に関わるなよォ? 次関わって来たら、どうするか分かんねぇからなぁ」


「は、はい」


 イケメン達はこれ以上天音に関わる事はないだろう。

 天音は帰路に着いた。


(ち、ペンが壊れそうに成ったのは確かに辛いが、そろそろ戻らない? 俺ってお前のフリ上手くないよ? やるけどさぁ。そこまで泣くなよ。無事だよ? 安心しろよ。いつでも俺が出るからさ。これは俺にとっても大切な物だし)


 校門の前に立つ美女が居る。

 その人物は莉奈で、今日も漫画作成である。

 莉奈は天音の姿が少し違う事に気づいた。

 何処と無く雰囲気が違う天音。


「はっ! あ前髪上げたんですか? 似合ってますね。とってもカッコイイです」


(よく純粋な気持ちでそんな事言えるな。さてと)


「本当ですか。ありがとうございます」


「貴方誰ですか?」


(あるっえぇ?)


 そこに現れるのは光である。


「あれ、天音と⋯⋯西園寺さん! ⋯⋯おけ! 俺は邪魔しません! 天音、幸せに成れよ」


(なんの勘違いしてんだあああああ! これのどこをどう見たらそう見える!)


 莉奈は天音を疑い、顔を近づけて睨んでいる。

 傍から見たら普通に恋人に見える。


「で、誰ですか?」


 光は離れたフリをして物陰に隠れて2人の事を見ている。

 今の武術家天音は気配を察知しその事が分かっている。


(ちくしょう何処で分かった! おい! 速く戻って! ⋯⋯え、そんな近距離で戻ったら恥ずかしいって? だったら俺はなんだよ!)


 天音はしゃがんで少し離れる。

 そして、天音は前髪を下ろして元に戻る。


「あ、の? 僕は僕ですよ」


「あ、元に戻りましたね。なんか声が低く成ってましたよ」


 声で分かったようだ。


 それからも2人は共に漫画を描いたり、一緒に登校したり下校したり、学校内でも一緒にいる事が増えた。


(天音。彼女出来たからって友をなえがしろにするなよ)


 光、ヤンキーである事バレていて友達が少ない。

 とにかく少ない。

 一緒にご飯を食べる仲は天音くらいだ。

 天音は莉奈と一緒に弁当を食べ、時々天音が莉奈に対して弁当を作っていたりする。


「天音さんの作る弁当、本当に毎日食べれますよ」


「ありがとうございます。そう言ってくれると作ったかいがあると言うモノです」


 漫画の方は上場。

 既に登録者が50万人を超えている。


 今日も天音の家で漫画を描いている時だった。

 SNSのDMに一通にメートルが届いた。

 内容は、商業化の話だった。


「莉奈さん!」


 その事を話す。

 これで編集者が付いて、アドバイスを貰いながら漫画を作って、売れる。

 しかし、莉奈は激しく反対した。


「どうしてですか?」


「だって、これは、私がプロットやストーリーを作った」


「そうですね」


「そして、私と、貴方で肉付けをした」


「そうですね?」


「そこに編集者が付いて、アシスタントとか色んな人が関わって来るかもしれません」


「そうですね。売り物にするなら作業時間も考えてアシスタントは欲しいですよね」


「それが、嫌なのよ!」


「え」


「これは私と貴方の漫画! それ以外の何物でもない! そこに売り物とか、そんなのは関係ない! この漫画に私が求めているのは、私達が描いて、面白いかだけ! 売れるか、売れないか、編集者の意見、背景等の描きにアシスタント、そんなのが入り込んではダメなのよ!」


「ッ!」


「1から私達が作った。32話まで! 私達が視聴者の意見を入れる時は互いに面白そうと感じた時、売れるか売れないからまた話が変わる!」


 息切れながらも莉奈は続ける。


「貴方がその話を受けたいのなら受けてください。私は、一切関与しません。私は、私と貴方が描いて、面白いと思うモノしか描きたくない。誰かの意見、誰かの思いなんて関係ない。それだけです。今日は、帰りますね」


 莉奈は天音と一緒に漫画を描く事に途中からこだわっていた。

 アシスタントなんて要らない。

 漫画を1から全部自分達で描く、そこに意味があるのだ。

 天音は家を出て走った。


 エレベーターの前で待つ莉奈の腕を引っ張る天音。


「莉奈さん」


「なんですか」


「この話は無かった事にしましょう」


「良いんですか? あんなに嬉しそうだったのに」


「僕は、僕も、莉奈さんだけと描いた漫画を見てもらいたいんです」


「⋯⋯。あの、天音さん」


「ん? なんですか?」


「最近、気づいた事があるんです」


「なんですか?」


「貴方と居ると、気持ちが高ぶって、作業も捗って、逆に言うと貴方が傍に居ないと作業が進まないんです」


「お恥ずかしながら、同じです」


「嬉しいです。私はこれからも、貴方の一緒に居たいと思ったんです。独占したいと思ったんです。一緒に漫画を描いて、知らない事を沢山知って、これからも、ずっとずっと一緒に居たいって、思っているんです」


「僕もです」


「そして、貴方と居ると高ぶるこの気持ち、逆に貴方が居ないととても寂しいんです。結論、言いますね。私は、貴方の事が好きなようです。漫画を一緒に描くだけではなく、これからは他の事も一緒にしたいです。私はきっと、私が思っている以上に貴方の事が好きです」


「僕、も。莉奈さん。貴方の事が──」


 エレベーターが到着し、音が鳴って天音の声が遮られた。

 しかし、きっと天音の表情や目を見て莉奈には伝わった。

 莉奈は振り向き、エレベーターに乗った。


「今日は帰ります」


 これまで見せた事の無い笑みを、天音に見せた。

 感情の整理をしたい莉奈。

 しかし、最後に言った。


「これからもよろしくお願いします天音さん。私のボーイフレンド」


 天音も負けじと言う。自分の言葉が遮られた事に気づかず。


「はい。こちらこそ、莉奈さん。僕の、〜〜」


「言ってくださいよ」


 エレベーターのドアが閉まりかける。


「僕の、最高の彼女ベストガールフレンド


 ドアが閉まる。

 真っ赤な顔の莉奈。それは普通に恋する乙女の顔だった。


(⋯⋯私もベスト入れるべきだったああああ! 負けたあぁああああ! ぐゃじいいいいい)


 それでも、莉奈は嬉しい。


「これから、楽しみです。はぁ、私幸せ過ぎますよ」

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