第25話 死闘

 ※悟視点




 痛い。尋常じゃなく、痛い。

 後、くらくらするな。血を流しすぎたな。

 でも、行くしかないんだ。行くぞ。



 99階層の扉を潜る。

 …ああ、何というか、100層は日本の自然を凝縮したような所だな。

 …至る所に鳥居がブッ刺さってるのは、変わらんが。

 そんなことはどうでもいい。ボスは——————




 ダァァアンン!!!!



「……来やがったな。……はあ、でかすぎだろ。」



「ニ、ニンゲン!オ、オデニナニカヨウカ!!!」



「しゃべった。」



「オオ、オデニナニカヨウカ!!!!ヨウガナイナラカエレ!!!」



「……悪いが、こっちもギリギリでね。帰る訳にはいか———————」



「ニンゲンハイツモソウダ!オデノコト、リヨウスルダケリヨウシテ!」



「…………。」



「イラナクナッタラ、スグニコンナトコロニトジコメテ!!オデ、オデ、ズットヒトリボッチ!!!」



……なるほどな。



「…オマエモ、オデニヒドイコトスルンダロ!?」



「……したくてする訳ではないんだが……ああ、そうだ。言い訳はしない。俺は、俺のために、お前を殺す!」



「ヤッパリソウカ!!!ニンゲンメニンゲンメニンゲンメ!!!!ニクイニクイニクイニクイニグイニ゛グイ゛!!!!ゴロ゛ス゛!!!!」



「ああ、来いよ。」

どうも限界が近いみたいだしな。

俺にお前をおもんばかっている余裕はない。

俺は、俺の都合を押し通させてもらう。




「嗚呼アアアアアアアア!!!!」




 来た。

 おそらく、1000メートルはあろうかという、途方もない巨体が、一歩ごとに地震を発生させ、ソニックブームを撒き散らしながら来る。

 そして————————


 

「くっ、何てパンチなんだ!」

 連打。印象的には、数百年の時を生きたような巨木が、毎秒10000回ほど、マッハ5強の速度で叩きつけられるような感じである。

 その威力は想像を絶するものであり、戦闘開始1秒ほどで、周辺の地形は見る影のなく変わり果てているのだが、



「嗚呼アアア!ウゴクナ!!アタラナイ!!!!」

 


「それは出来ない相談だ。」

 まあ、かわせないことはない。

 今の俺の速度であれば問題ない。

 何なら、少し余裕があるくらいだ。だから、


「こっちからも行くぞ。」

 斬る。手始めに、鬼のように振り回されるヤツの腕を斬る。



「グアアア゛ア゛ア゛!イタイ゛イ゛゛!!!ヤ゛メ゛ロ゛!!!」



「くそっ、全然浅いな。」

 魔絶刀が通るには通るのだが、如何せん、ヤツの腕が太すぎる。斬り落とすには、相当の魔力消費が必要か。



「そして当たり前のようにすぐ治ると。」

 本当に一瞬で再生した。

 


「……弱点を探すか。」



 目。

「グアアア゛ア゛ア゛!オ、オデノメガアアア!!!」

 すぐ再生。



 首。

「グアアア゛ア゛ア゛!ヤメロオオオ!!!!」

 すぐ再生。



 心臓。

「グアアア゛ア゛ア゛!オマエ!オマエ!!!」

 10回ほど、心臓(魔核)がありそうな場所に、魔絶槍を突き入れるが、正確な場所は、把握できず。

 すぐ再生。



 頭部、その他。

「グアアア゛ア゛ア゛!イ゛ダイ゛!!!!」

 こちらも、数10回魔絶槍をぶち込んだが、効果なし。

 その他にも核がありそうな部位は、一通り攻撃してみたが、効果なし。

 すぐ再生。






 が、収穫なし、というわけではなかった。


「………心臓か?」


 各部位の、再生速度の違い。

 基本的にどこであれ、恐ろしいほどの再生スピードなのだが、ヤツの胸部を刺した時、その再生スピードは、それはもうとんでもないものだった。刺した槍を引き抜く際、再生する肉体に押し出される感触があったほどだ。

 なら、後は、ヤツの胸部を、ただひたすらに刺し貫くだけだ。



ズンズンズンッ!!!



 依然として危険な速度でこちらを狙ってくる両腕をかわし、槍を標的に合わせて突き刺す。

 かわして、突き刺す。かわして突き刺す。かわして——————



「グアァァアアア゛ア゛ア゛!!!アブナイトコバカリネラッテ!!!オデカラハナレロ!!!!!」



「あっぶね!?」



 突如、無規則に腕を振り回してきた。何とかかわして、距離をとるが、




「シイィィネ゛エエェェ゛エ゛!!!!!」


 

ガァアアアアアアンッ!!!




 「何!?そんなんありかよ!?うおおおおおおおおお!?」



 まさかの、地面を全力ちゃぶ台返し。

 砕けた大小様々な岩石が亜音速でこちらに飛んでくるので、必死にかわす。



「ウアアアアアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!」



 かわす。



「ガアアアアアアア゛ア゛ア゛!!!!!!」



 かわす。



「嗚呼アアアアアアアアアアアア!!!!!!」



 かわし続ける。

 流石に近距離で交わし続けるのは不可能なので、一度距離を取らざるを得なくなったが。




「距離あると、攻撃できないんだよな……」



 一呼吸おくと痛覚、その他の体の不調を訴えるサインが激しく主張を始める。

 正直、かなりきつい状況だ。

 間違いなく、これまでで1番。

 少し前から、ずっと立ちくらみのような感覚が続いている。



「……早く決着をつけたいんだがな……アイツも攻撃やめてなんか山の方に行ってやがるし…」



 何をするつもりだろうか?

 山の裾に手をぶち込み、踏ん張って持ち上げる。

……へえ、そんなエグいこともできんだなあ。



「っ!いかんいかん、ぼーっとしてた。

あいつ、まさかとは思うがあの山投げたりしないよな……」



 ヤツは、遠くから、こちらを真っ直ぐに睨みつけながら言う。

「モウ、オデハカンゼンニオコッタゾ。オデノホンキ、ミセテヤル!!!!ウラアアアア!!!!」




「やっぱ投げるかあ。」

 山が飛んでくる。

 ヤツはマジの本気のようで、投げつけられた山は分裂しながら、亜音速でこちらに飛んできている。

 当然、余波を含めて、全て回避する。

 全力疾走だ。

 の、途中、何とかヤツの方を伺うと、巨大な岩石を振りかぶっていた。





————そこからは地獄の当て鬼の始まりだった。



 鬼はアイツ。 

 逃げるのは、俺。

 ヤツは、なんでも投げてくる。

 そのどれもが、一欠片に至るまで、俺にとっては当たれば致命の一撃となり得る。

……まあ一応、魔絶鎧でガードしているつもりではあるので、2、3発直撃したぐらいではなんともならないだろうが、何発も浴びれば、魔力も尽き、やはり致命の一撃になってしまう。



 山を投げ、




 巨石を投げ、




 鳥居を投げ、



 湖の水をすくい、投げつけてくる。


 

 途中からは、砕いて破片にした方が効果が高そうだと気づいたのか、バレーのサーブの要領で砕きながら打ち出してきた。




 何とか、全力疾走で回避できているものの———



「アタレアタレアタレ!!!!!!」


ズガアアアアーーンッ!!!


「はあ、はあ、はあ。」




「シネシネシネシネシネシネシネ!!!!!!」


ッダーンッ!!!!


「っく!はあ、はあ、はあ。」




「オジイ゛ッ!シネシネシネシネシネシネ!!!」


ッッッパーンッ!!!


「くそっ!はあ、はあ、これ、じゃ、ジリ、貧、だぞ!」



—————————もちろん、長くは持たない。



 全力で回避を続けながら悟は思考する。



 失血量がおそらく限界まできている。

 これまで、鍛えに鍛え抜いてきた魔力と肉体により、まだ全力疾走はできるのだが、それももう、体感的には、5分と持たない。

 過ぎてしまえば、後はなぶり殺しにあうだけだ。



「ア?サテハオマエ、ツカレテキタナ?シネシネシネシネ!!!!」



「はあ、はあ、はあ、はあ。」



 何とか現状を打破し、暴れ狂うヤツを仕留めなければならない。

 ヤツの投擲を回避することは、まだできるんだ。

 投擲を回避しながら、ヤツに接近することだって、何とかなるはずだ。

 だがら、問題はその後だ。



「クラエ。ソシテ、シネ。」


「くっ、はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。」


 

 如何にして、ヤツの息の根を止めるか。

 息の根を止めたくとも、ヤツの体がデカ過ぎて、魔核の場所がわからない。

 そして、チマチマやっても、さっきと同じになってしまうし、それだけでリミットを迎えるだろう。



「シネシネシネシネシネシネシネシネシネシネ。」


「ぜぇ、はあ、ぜぇ、はあ。」



 なら、一撃だ。

 一撃必殺以外はあり得ない。

 全身全霊の一撃でヤツを葬り、その先へ、心愛へと向かうしかない。

…賭けの要素が強すぎるが。

 が、どうせ、やらなきゃ死ぬだけなんだ。



「はあ、はあ、なら、やってやる。」



 準備はいいか?

 覚悟は決まったか?



「イツマデモ、チョコマカトウゴキヤカッテ………モウイイ、ソロソロオワリニスル……」



—呼吸は整えた。

—攻撃に全振りするため、防御は捨てた。

—今、この場を生き抜く覚悟はとっくにできてる。



「シイィィイ゛イ゛ネエエエエエエ゛!!!!!」



 じゃあ、いこう。



——駆ける。

 魔力を練りながら、ヤツを目指して一直線に、最短最速で。

 ヤツの方も、巨石を握りしめて、こちらへと一直線で駆けてくる。

 


 かなりあった俺とアイツとの距離が凄まじい勢いで縮まっていく。


10000。

 


8000。



5000。



1000。

「ラアアアアアア!!!!!シネェエエ゛!!!」

 ぶっ放しやがった。

 回避だ。

 限界頂点までスキルと集中力を使い、迫る岩石の破片を足場に、弾幕の薄い上空へと、跳ぶ。

 その過程で、破片の一つが右足の太腿に掠り《かす》右脚が吹き飛んだが、今は関係ない。

 ヤツはもう目を前にいて、俺はもう、足を使う必要性など、ありはしないのだから。



 100。

 練り続けた魔力。

 俺という存在、その全てが持つ魔力を練る。

 インベントリを維持するだけの魔力すらも使い、引き出しているため、前進する俺の後ろには、これまで俺が倒し、食う暇もなくそのままになっていたモンスターの死骸が盛大にばら撒かれている。

 そんな、混沌とした様相を呈しながら己へと迫る俺を見て、このデカブツは何を思うだろうか。

 恐怖?驚愕?嘲り?それとも無感情?

 まあ、何でもいい。

 この一撃で、それら全てを無に帰してやるのだから。



 50。

 練った魔力を左腕に終結させる。

 そして、ヤツの胸部、その全てを貫く巨大な槍を想像し、創造する。

 ヤツは、何やら慌てているようだが、もう遅い。



 10。

 振りかぶって、睨みつけて、渾身の力で————















 

 0。

大穿槍パイルバンカー


ッッッッダァァァァァァアアアンッッッ!!!!!


















「はあ、はあ、はあ、はぁ、はあ、はあ、はあ」



 やりきった。

 全てを出し切った。

 渾身の力をぶつけた。

 もう、何も残ってない。

 すっからかんだ。

 そろそろ着地だが、これはもう、諦めて転がるしかない。

 そして、気になるのはヤツを倒せたかどうかだが——————



ザザザザ———————ッ

「ぐっ、はあ、はあ、いてえよ。」



——————転がった先、見えたのは——————



「はあ、はあ、はあ。…ははっ、はははははっ!」

 


—————————胸部にどでかい穴を開けられ、倒れ伏し、完全に沈黙したヤツの姿だった。







————佐藤悟、




「しゃああああああああああああああ!!!!!」




————死闘の果て、迷宮主ダンジョンボスダイダラボッチ撃破。




「あああああああああああああああ!!!!!!」




————並びに、百迷宮が一つ、妖の迷宮完全制覇




「ああああ!!!っ!ごほっこほっ」




————なお、瀕死。

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帰りたいんだ、何としても。 テツノシン @rui-ji

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