第55話 目標達成したけどお疲れの覇王



 よそ様の家でゆっくり休める程覇王は図太くない。


 っていうか、気を抜ける瞬間が全く存在しないのです。


 まだ旧レグリア王城であれば私室という、完璧とは言えないけれど多少は気を抜く場所がある。


 しかし、流石に他国の砦とあっては、如何に客室を宛がわれていようとも気を抜ける筈もない。


 それに狭い部屋の中、待機する為の部屋もない以上プレアも同じ部屋に居るのだ。


 これはもう、全力で覇王ムーブ継続するしかないので……。


「これで後は神聖国、それと帝国だな。両国から使者が来れば本格的に神聖国と事を構えることになる」


「は、はい!」


 ……無理に話しかけない方が良かったかもしれない。


 もう三か月は一緒にいると言うのに、相変わらずプレアは俺が話しかけると緊張の極みって感じだ。


 しかし緊張しなくても良いんじゃよ?と俺が言ったところでな……。


 意味がないと言うか、むしろ悪化しそうだよね。


 キリク達が迎えに来てくれるまでに慣れてくれるんじゃろうか?


 ……こればっかりは、俺がどうにかしてやれることじゃないよな。いや、こればっかりというか、これに限らず俺がうちの子達にしてやれることなんてたかが知れているけど。


 それはさておき……。


「これで民に少しは楽をさせてやれるな。キリク達が合流すればそのような心配も完全になくなるのだがな……」


「そ、そうですね!本国と繋がれば、何の憂いも無くなります!」


 晴れやかな笑顔で言うプレアに、俺は頷きながら言葉を続ける。


「あぁ。だが、一年もの間、エインヘリアに住んでいながらも苦しい生活を送らせるのは……容認できない」


「……」


「一年という期間は過ぎてしまえばあっという間だが、これから先一年と考えるには非常に長い期間だ。そして民の不満が爆発するには十分な期間とも言える。ただでさえ、民達はレグリア王国時代に不満を貯め込んでいる訳だからな。しかし、エインヘリアとなった以上、その地で民による蜂起がおきるなぞ言語道断だ」


「は、はい!おっしゃる通りかと!」


「現状で打てる手は限られているが、それでも可能な限り民を安心させねばなるまい。神聖国は民の不安に付け込むのが得意なようだしな」


「オロ神聖国……本当に不敬な国です。フェルズ様を召喚しておきながら謝罪をするどころか誤魔化そうとする始末。フェルズ様がお許し下さるのでしたら、私がオロ神聖国を牛耳る愚か共を潰したいのですが……」


 かなりマジな表情でプレアが言うけど……いや、それはダメよ。


「それは許可出来ないな。プレア自身はウルル達のような隠密系のアビリティも持っていないし、ジョウセン達の様に無双の力を持っているわけでもない。それに英雄の中にはリズバーンのような強者やリカルドのような特殊な能力を持った者がいる。俺は無為にプレアが傷つく様な事は望まんぞ?」


 神聖国にも英雄が居て、その能力が分からない以上プレアに無茶なことをさせるわけにはいかない。


「……」


「プレアは強くなりたいのか?」


 悔しげな表情を見せるプレアに俺が問いかけると、プレアはゆっくりと口を開く。


「……国を、皆を、フェルズ様を守れるようになりたいです」


「くくっ……俺は戦う事だけが強さだとは思わんし、プレアや他のメイド達も十分過ぎる程、エインヘリアや俺の事を守ってくれていると思っているぞ?」


「は、はい……」


 納得しては無さそうだけど、俺の言葉にプレアは頷く。


「……だが、そうだな。今後もこういった事がないとも限らない。エインヘリアに戻ったらプレア達メイドも含め、どんな仕事がしたいのか、どんな能力が欲しいのか……確認するのも良いだろうな」


「っ!」


「考えておくと良い。自分がどうなりたいのか、どのような能力を欲するのか」


「は、はい!」


 俺の言葉に、今度は驚いた様な喜んでいる様な……なんとも言い難い表情を見せるプレア。


 ちょっと……いや、かなり可愛い。


 喜びたいのを我慢しているけど、堪えきれずに口元がもよもよとしているプレアから視線を外す。


「今回は塩の取引と魔道具による技術支援だけだが、今後は魔導具や研究成果の販売等でこちらも金を稼げる態勢を整える必要がある。当面は戦闘用のものがメインとなるだろうが、レヴィアナたちの話では戦闘用の魔道具は魔力の消費が激しいようだからな。売る側としては悪くない商材ではあるが、問題はヒエーレッソ王国にはそこまで余裕がないことだな」


「れ、レグリア地方程ではないにしても、この国もかなり疲弊していますし、防衛のための魔導具であってもランニングコストを用意するのは難しいかもしれません」


「やはり帝国と取引をすることが必須だ。取引相手がヒエーレッソ王国だけでは金を稼ぐというよりも、お互いの苦労を混ぜ合わせて薄めようとするようなものだからな」


 無いところから搾り取る事は出来ない。


 神聖国相手に阿漕な商売をして当面を凌いでから潰す手もあったけど、聖職者相手は交渉が面倒そうだしな。


 逆に帝国の貴族は契約を重視するってことなので、一度約定を交わすことが出来れば面倒が少ないだろう。


 俺が良い感じに交渉出来るとは思えないけど……レイフォン辺りはそういう交渉が得意そうだし、丸投げだな。


 帝国との交渉は返礼の使者が来てからになるし、少し時間が空く。


 予定では神聖国の連中とほぼ同時に来るはずだし……レイフォンやエリストンの仕事がもりもり増えるな。


 まぁ、優秀だから仕方ないね!


 出来る人の元には仕事とお金が集まるもんだ!


 ちゃんとお給料一杯上げるから頑張ってもらいたいね!


 お給料出るの一年後になると思うけど……。


 そんな事を考えた瞬間だった、突然窓の外が一瞬だけ明るくなった。


 明るさ的には太陽が昇ったような明るさだったけど、今は夜になったばかり……日が昇るまで後十時間くらいはあるだろう。


 雷にしては温かみのある色というか、白い光というより昼光色って感じだったんだよね。


 そう思いながら、俺は壁についている小さな窓から外の様子を窺う。


 かなり夜目が効く方ではあるけど、んー流石に何が起こったかはさっぱり分からんな。


 森の方は完全に真っ暗だし……でも何かがあるとすれば森だよな。


 俺がそう考えると同時に鐘の音が鳴り響く。


「プレア。俺の傍を離れるなよ?」


「は、はい!」


 俺の言葉に力強くプレアが頷く。


 プレアは大丈夫として……レヴィアナ達と合流するべきだな。


 傍にいれば大抵の事からは守ってやれる筈だし……そんな風に考えた俺が行動に移すよりも一瞬早く、部屋の扉が強く叩かれレインが緊迫した声で入室の許可を求めてくる。


「陛下!大丈夫ですか!?入ってもよろしいでしょうか!?」


「問題ない!レヴィアナもそこにいるな?二人とも部屋に入れ!」


 砦の壁は分厚いし、声を張らないと外まで聞こえないだろうと思いそれなりに大声でドアの向こうに声をかける。


 すぐにレヴィアナとレインが部屋に入ってきたが、扉が開いた瞬間、砦の中で駆けまわる者達の喧騒も入り込んできた。


「何があったか分かるか?」


「いえ、外が一瞬光ったことしか……」


「ふむ……」


 俺達は他国の要人だからな……すぐに誰かしらが説明に訪れる筈だろうけど……。


「まぁ、流石に勝手に動き回る事は出来んしな。外を警戒しつつ、砦の者が来るのを待つとしよう」


「「はい」」


 レヴィアナとレインが緊張した面持ちで頷き、プレアはメイドモードと言うかおすまし顔で小さく頷いた。


 なんで俺と話す時だけ緊張した感じなんだろうか……?


 そんな設定は付けていないと思うけど……俺は俺で緊張感無くそんなことを考えていたのだが、すぐに扉が強めにノックされてエラティス将軍の副将が部屋にやってきた。


「慌ただしくして申し訳ありません、エインヘリア王陛下。森にて異常が確認されました。よろしければ会議室まで移動して頂けますでしょうか?この砦の中で一番堅牢な場所ですので……」


「ふむ……エラティス将軍やヒルマテル公爵もそこにいるのかな?」


「ヒルマテル公爵閣下は会議室に移動していただいておりますが、将軍は防壁に向かっております」


「……そうか」


 緊急事態なら二人一緒にいてくれた方が良かったのだけど、現場指揮をしなきゃいけない将軍と最優先で守らないといけないヒルマテル公爵が一緒に居るのは難しいか。


 さて……どうしたものか。


 副将に返事をする一瞬で、どちらに行くべきかを急ぎ悩む我覇王。


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