第二部 第二章 魔物と戦う我覇王
第29話 ゲットだぜ
さて、なんだかんだでまたエインヘリアの領土が増えましたよっと……なんでなん?
増やすつもりが全然ないのにどんどん増えるんだけど……元の大陸が落ち着いてもう増えないよなぁと思っていた所に黒船……もとい外洋船襲来。
あぁ、これはまた戦争案件だなと思っていた所に突然召喚による別大陸転移。
これもなぁ……俺一人が召喚されただけだったら、わざわざ国を獲る必要はなかったんだよね。
ウルルとプレアの二人が一緒に召喚されちゃったからな……うちの子達が傍にいる以上、俺は全力で覇王ムーブをしなければならないのだ。
これはもう四年以上前……俺がこの世界に呼び出され、まだフィオの事すら知らなかった頃からの誓いだ。
これだけは、どうしても破りたくない。
うちの子達が幸せに暮らすこと。
……今世における最初の誓い。
俺はうちの子達に幸せになってもらう……それには、俺が完璧な王でなくてはならないのだ。
うちの子達はみんな俺に幻想を抱いているからな……全力で応えるつもりではあるけど、凡人である俺にはかなり荷が重い。
だからこそ、うちの子達がいる前では気を抜けないし覇王ムーブに全力を注がなければならない。
その結果が……レグリア王国併呑である。
まぁ、戦力も殆ど無いわりに……エインヘリア本国にいる状態と比べればだけど……上手くやった方ではないだろうか?
離反とかで王国領の三分の一くらい削れてしまっているけど……まぁ十分だろう。
それに帝国の方に着いた地方領主はともかく、聖国の方に着いた貴族達はお気の毒だけど今後潰すことになる。
聖国……オロ神聖国はレグリア王を操って俺を召喚した。
それを許すつもりはないし、俺が潰さなかったとしてもキリク達が絶対に潰す。
俺が潰すなと言わない限り、聖国はもう確実に滅ぶ。
それは間違いない。
だが問題も当然ある。
言うまでもない……相手が宗教国家という事だ。
しかもレヴィアナの話では、この大陸全土に信徒を持つ宗教らしい。
どう考えても面倒な相手だ。
正直俺が相手をするには手に余る。
間違いなくキリクやイルミット案件だろう。
大陸最大の宗教と宗教国家……もう聞くからに厄介な相手だ。
正直神とか宗教とかどうでも良い俺としては、これ以上ないくらいに理解出来ない相手と言える。
いや……上層部にいる連中の考え方は理解出来る。
どんな組織であろうと、大事なのは利益だ。
どのように利益を得るか。
どれだけ利益を確保できるか。
どうすれば利益を上げられるか。
王侯貴族だろうと宗教家だろうと政治家だろうと考えるのはそれだけだ。
まぁ、それは仕方ない。
人間社会はギブアンドテイク……利益を求めねば生きていくのが難しいのだから。
しかし、信仰を理由に弾圧したり戦争を起こしたり……他の宗教を攻撃する連中は意味が分からん。
特にそこに命を賭けちゃう部分は全く理解出来ない。
宗教って心の安寧の為に存在するものじゃないの?
何で自ら騒乱を起こしちゃうの!?
先も述べたが、俺は人が起こす行動の全てが利益に関係するものだと考えている。
別にお金を得る事だけが利益ではない。
物理的に、精神的に満たされる為。
または物理的、精神的なマイナス要素を取り除く為。
どう言い繕おうと根幹にあるのはそれだ。
プラスを得るかマイナスを取り除くか……基本的に人が起こす行動はそのどちらかだと思うんだけど、狂信者の類はそれに当てはまらない事がままある。
まぁ、彼らなりの利益がそこにはあるのだろうけど……どれだけ心を尽くし説明されたとしても俺には理解出来ないだろう。
何度も言うが、別に宗教が悪いと言っているわけではない。
こういう世界だ。
心の安寧の為宗教という拠り所は必要だと思うし、そこを弾圧するつもりは一切ない。
だが、信仰を理由になんやかんやと他人を攻撃したり他の宗教を攻撃したりというのは、ほんと意味が分からんから止めて欲しい。
お前らの神はお前らの中だけで完結してくれと……。
外に持ち出したら、それは信仰ではなく政治だ。
そして政治となった時点でそれは救済ではなく利己的な何か……宗教の皮を被った別物だ。
政治とは、内側にいる者達の利益の為に行われるものだからね。
まぁ、宗教も心の安寧という利益を求めて信仰されるものだとは思うけど……信仰心があるなら、自ら神秘を欲に塗れたものに引きずり下ろすなよと思う。
無論、人が運営する組織である以上金は必要だ。
人は霞を食って生きてはいけない。
それは分かるが……連中は無駄に金をかき集める。
集めた金を救済に使うならともかく、私腹を増やしたり軍備を整えるのに使ったりとやりたい放題しだすともうね……。
オロ神聖国も……御多分に漏れず、自ら組織した軍を使って他国に攻め入ったり、他の宗教を弾圧したり、異教徒を滅ぼしたりと……ため息交じりにしか語ることの出来ない連中らしい。
心の安寧を与える筈の宗教が、信徒をより狂暴にしてどうするんだと……。
だからこそ、俺は政教分離が大事だと思う。
どれだけ創設時の志が立派であろうと、関係者が多くなり、そして何より金が集まると歪んでしまうものだ。
まぁ、俺のからすれば、欲に塗れたヤツの方が理解出来るし相手にしやすいけどね?
今はまだオロ神聖国について軽く情報を聞いただけだけど……はっきり言って面倒な宗教だ。
オロという神を信仰している様だけど、そのオロ神の教えは五人の使徒から地上に伝えられたって話らしい。
その使徒にはそれぞれ弟子が一人ずつ付いており……五人の使徒が最初の教皇と大司教に、そして弟子が神聖国における貴族の開祖という事のようだ。
教皇や大司教は選挙による選出なのに、貴族は長子相続。
弟子の方が血筋残しとるやんって感じだけど……現状、大司教以上は全員貴族出身の者しか選出されないらしいので、じゃぁ使徒どこ行ったって感じだ。
更に歪な感じなのは……教皇や大司教は、貴族よりも地位が高いというところだ。
貴族家は長子相続なので、基本的に教会に入るのは家督を相続しない次子以降……それはつまり、教会で上り詰めれば実家を相続するよりも権力を得られるのだ。
まぁ、表向き、貴族より上に立てるのは教皇と大司教の五人だけらしいが……。
つまり、教会での競争社会を勝ち抜けないと出世できない聖職者と、特に何もしなくてもある程度の地位が約束された貴族という図式。
そりゃ聖職者の方が政治的にも強い人間が育つよね。
因みに大司教以下の司教であっても、大貴族には劣るけど普通の貴族程度の権力は有しているそうだ。
はっきり言って、国を運営しているのはオロ神教であり貴族達ではない。
では何故貴族が存在するのかというと……雑務と生贄だ。
雑務はその名の通り、細々とした仕事をやらされるという事。
そして生贄は……別にオロ神とやらに捧げる血の儀式的なものではなくもっと生臭いもの。
政策が失敗した時等に民の目をそちらに向けさせる……責任を押し付けるという意味での生贄だ。
ぶっちゃけ、オロ神とやらに捧げられる贄にされる方がなんぼか楽って感じだろう。
神にささげられる方は一回死ねば終わりだけど、槍玉にあげられるほうは……規模によっては歴史に名を残したり、子々孫々に至るまで恨まれたりと碌な事にならない。
特にこの世界は、一族郎党に責任取らせるってのが普通だしね……。
実際、そのせいで没落したり潰れたりする家は多いらしい。
もはや貴族である事自体が罰ゲームみたいな感じだ。
まぁ、生活は保障されていたり、そこそこ良い暮らしをしているみたいだからリスクオンリーって訳でもないみたいだけどね。
特に大貴族だったり金儲けが得意な家は中々好き勝手しているようだし、貴族達がただ単純に犠牲となっているという訳ではない。
いつの世もどこの世も、責任を押し付けられるのは下っ端ということだ。
成功は聖職者……と呼びたくもない連中の手に。
失敗は貴族に……。
オロ神聖国とやらはそういったシステムで運営されているらしい。
まぁ、他国の政治体系に文句を言うつもりはないし、好きにしてくれって感じだ。
問題は、政治体系がどうとかではなく……信仰を理由に他所へと攻撃することを平然とやってのけるという事だ。
オロ神聖国はランティクス帝国と並ぶこの大陸の二大強国。
両国は幾度となくぶつかっているそうだが、大規模な戦争になる前にお互い引くらしく優劣は付いていない。
領土は帝国の方が広く経済力も強いが、聖国は軍事力が強い。
まぁ、その差は微々たるものらしいけどね。
聖国の方はともかく、出来れば帝国とは仲良くやっていきたいものだ。
聖国は召喚に絡んでいるけど帝国は絡んではいない。
帝国が謀略を仕掛けていたのは、レグリア王国であってエインヘリアではない以上、現時点で俺は帝国に害意は無いと言える。
先日の反乱軍鎮圧に前後して、帝国と聖国、ついでにヒエーレッソ王国……つまり領土を接している三か国に使者を送っている。
勿論、エインヘリアからの使者だ。
と言ってもいきなり喧嘩を売る様な物ではない。
召喚により別大陸の王である俺が呼び出された。
召喚とは即ち誘拐の事であり、レグリア王家はその責任を取り国そのものを我がエインヘリアに献上することとなった。
しかし、その事を不服とし貴国に鞍替えをしたいと望む貴族達がいる。
可能であれば彼らを受け入れてやって欲しい。
この宣言が貴国に届くよりも以前に旧レグリア王国領より離反した土地を、エインヘリアの物だから返還するように要求することは絶対にしないとエインヘリア王フェルズの名において誓う。
今後はエインヘリアとして貴国と良い関係を結んでいければと願う。
また、旧レグリア王国が結んでいた一切の条約は受け継がぬものとして処理されたし。
大体こんな感じだ。
まぁ、この宣言自体はすぐに受け入れるだろう。
帝国と聖国は両方ともレグリア王国から離反した貴族が臣従を求めている筈だからね。
当然その理由……レグリア王国で何が起こったかは連中が伝えるだろう。
突然現れた得体のしれない国。
しかも英雄がトップに立つ国だ……当然連中は一つでも多くの情報を求める。
だからこそ、一方的にあれこれ決めつけているこの宣言を受け入れるだろう……時間稼ぎの為に。
因みに各国への使者となったのは、うちに臣従した連中だ。
正直言えばウルルが良かったんだけど、彼女は忙しいからね。
メッセンジャー如きにウルルは使えない。
ヒエーレッソ王国の王都が一番近くて、一ヵ月。
帝国と聖国は二か月近くかかる距離らしい……まぁ、使者を送るタイミングをずらしたから、一番早く使者が話をするのは聖国だけどね。
移動に時間がかかるから、運が良ければキリク達がここを見つける方が早いかもしれないけど、それを当てにする訳にはいかない。
俺の宣言が届けば、両国ともすぐに動き出す……いや、現時点で動いている筈だ。
しかし当然、こちらも殴られっぱなしという訳でもない。
既にウルルに鍛えられた密偵の第一陣が活動を開始している。
まぁ、訓練を始めて一ヵ月少々しか経っていないので実力は外交官見習い未満って感じらしいけど、現状への対抗手段として最低限は仕込んだとのことだ。
まだ防諜も諜報も人手が足りない。
第一陣の仕事はレグリア王国時代に完全に死んでしまった国内の情報網の再構築と他国の密偵狩り。
本格的な諜報活動は第二陣以降の仕事になる。
狙うのは当然聖国だけど、帝国も放置しておくわけにはいかない。
それに西の国境付近にも視察に行く必要があるだろう。
当面は王としてというよりも一人の英雄として動くことになるだろうな。
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