第26話 新たなる既存の国
手加減できる我覇王。
いやぁ、頑張った。
俺、超がんばった。
覇王剣使わずに範囲攻撃系のスキルで敵兵ぶっ飛ばしまくった。
おかげで俺の体力結構削れた!
プレアは泣きそうな顔に、ウルルからはかなりの時間じっと見つめられた。
アレは相当怒ってると思う。
まぁ、覇王剣使えば体力は回復するんだけど……これ使うとどんなに手加減してももれなく真っ二つだからな。
まだ魔力収集装置は設置していないにしても二千五百人も虐殺しちゃったら、それだけで月の魔石収入が二万五千も減ってしまう。
というわけで藁を数本束ねたワラソードを使って敵兵をぶっ飛ばした訳ですが、その結果がメイドさんと外務大臣に怒られる覇王という訳ですよ。
今回の戦いでプレアが回復魔法を使おうとするのを止めるのが一番大変だったかもしれん。
なんだかんだ言ってジョウセンとの修行のお陰でだいぶ手加減上手くなって来てるとはいえ、専用装備で一般人は攻撃できない。
王女さんやその護衛の女騎士にワラソードを見せた時は頭大丈夫か?って目で見られたのも良い思い出です。
さて、そんな戦いから数日。
既に国内にはこの土地がエインヘリアの物であると布告をして、当面は今まで通りの生活をするようにお触れも出したし、国外にも使者は送った。
後はどんな花が咲くか……それはキリクのみぞ知る。
王女さんの頑張りで国内の貴族の五割ほどは恭順した。
残った連中の内半分はこの前ぶっ飛ばして財産全没収の上、本人達は処刑……その家族はとりあえず捕縛して、今後どうなるかは本人達次第といったところ。
そして恭順もせず挙兵もしなかった連中は……聖国と帝国にそれぞれ寝返った。
まぁ、寝返ったというか、立地的に元から繋がりがあったって感じだからね。
妙なことになっているレグリア王国に残るよりは、さっさと強国に組み込まれた方が良いって事だろう。
反旗を翻した連中は、寝返るには領地の場所的に厳しいって感じだったからね……まぁ、運が悪かったと思ってもらうしかない。
連中の処刑の前に、俺を召喚した連中の処刑も行われた。
連日の処刑で俺としてはうんざりと言った感じだったけど、やはり王都の民達にとっては良いガス抜きみたいな感じになっていた。
そんな民達も、もう暫くは苦しい生活をして貰う事になる。
俺が上に立ち、ここがエインヘリアになったからといって急に御飯が増えたりするわけじゃないからね……。
本国と繋がっていればいくらでも食糧支援が出来るし、国境の守りも召喚兵に任せられるんだけど……キリク達がここを見つけてくれるまではそうもいかない。
バロメッツの種くらいは常にポケットに入れておくべきだったか。
食糧事情も回復するし、羊毛製品も爆発的に国民に広がる。
さらに国境沿いにバロメッツを埋めまくれば防波堤にもなるだろう……魔物相手だと御飯にしかならないかもだけど、人間相手には防御力は絶大だ。
まぁ、ポケットに入る程度の数じゃ防波堤にはならないだろうけどね。
俺に内政チート的な知識や能力があればここから国を立て直す事も出来たんだろうけど、俺個人にあるのは筋肉チートだけなのでその辺りは救援待ちだ。
キリクやイルミットに相談すれば何かしら手立てを考えてくれるとは思うんだけど、どう相談したものか……。
相談というのは問題点をしっかりと把握し、その事に関する知識を多少なりとも有しているからこそ出来るもので、何を質問したらいいか分からない状態の奴がしてもロクなことにはならない。
問題点……強国二つに狙われていて、別方面から魔物を操る国にも狙われている。
経済も産業もがたがたで国庫もスッカスカ。
軍事は辛うじて一方面を守っているけど、いつ崩れてもおかしくない状況。
諜報関係はざる。
治安は悪く、食いっぱぐれた民が野盗化している。
街道の状態が悪く、危険も多い為流通もままならない。
優秀な人材が中央から遠ざけられていた為まともな人材がいない。
……。
人もない金もない飯もない。
流石は滅亡寸前の国。
無い無い尽くしで、足りないもの上げるより有るもの上げる方が早いわ。
あるもの……。
疲弊した軍。
疲弊した民。
疲弊した土地。
精神的に疲弊した覇王。
可愛い外務大臣とメイド。
後は……。
「魔導技術か……」
うちの大陸には存在しないタイプの魔法の道具や魔法を生み出す技術。
貴族連中が売り払ってなければ、魔道具の現物や他国には無い技術が存在しているだろう。
短期的には売り払って現金を得る手もあるけど、微妙だよな。
周辺国は三国。
ヒエーレッソ王国とオロ神聖国、ランティクス帝国の三か国。
ヒエーレッソ王国とオロ神聖国は属国と宗主国の関係だし、一国と考えて良いかもしれない。
技術を流す先としてオロ神聖国は無しだな。
連中は俺がこの大陸に召喚されることになった原因と言っても良い。
そんな奴等にくれてやるものは……いや、待てよ?
逆に考えてみよう。
オロ神聖国は絶対に潰す。
それは間違いない……だったら一時的に技術を売ってやり、当面を凌ぐ金をむしり取ってから潰しても良いのではないだろうか?
技術なんてものは、手に入れたからといって即座に反映させられるものではない。
手に入れて組み込んで実験して……まぁまぁ、実用化するまでに時間がかかる。
俺が欲しいのは即金。
キリク達がここを見つけてくれるまでの間、他国の干渉や魔王軍の侵攻を凌げるだけの金だ。
その後はオロ神聖国を潰すだけ……技術を売ってやったとしても、それを活かす間を与えず潰す。
……仮に何らかの技術発展を遂げていたとしても、その技術ごと取り込むだけだ。
悪くない気がしてきたな。
寧ろ、今の所戦う予定の無い帝国よりも技術を売るには良い相手か?
流石に先立つものが無い状況では、内政をしようにも動きようがない。
しかし、技術はそんな安売りできるものではないと言っても、流石に内政で使うような金額を確保できるかというと、流石に首を傾げざるを得ないけど……検討の余地ありといったところだ。
国内の経済が死んでる以上他所から持って来るしかない……いや、略奪って意味じゃないよ?
しかし、元の大陸にしろこの大陸にしろ……無いなら他所から奪えば良いってのが主流って気持ち、この状況だと分かってしまうな。
知ってはいたけど、やはり俺はキリク達だけではなくエインヘリアという国そのものにおんぶ抱っこだったと改めて実感する。
キリク達が見つけてくれるのをただ待つだけというのも情けないけど……手っ取り早いのはほんとそれだよな。
現在エインヘリアでは飛行船をバンバン東に向けて飛ばしているみたいだけど、飛行船の連続航行時間って一月なんだよね……。
往復を考えるなら探索に使えるのは半月。
十五日でいける範囲内に橋頭堡を作り、そこからさらに飛んで行くって感じで捜索範囲を広げていく計画のようだ。
橋頭堡を作るというのは……飛行船の発着場もそうだけど、それよりも魔力収集装置を設置することが必要となる。
そして魔力収集装置を設置するには当然集落が必要な訳で……コレが中々大変だ。
部族単位の集落ばかりであれば、上手く交渉すれば魔力収集装置を設置することが出来るだろうけど、そこがどこぞの国に所属する集落だったら魔力収集装置を設置するのはかなり難しい。
まず言葉が通じない。
次に召喚兵が使えない。
言葉は仕方がないにしても召喚兵が使えないのはかなり痛い。
召喚兵は呼び出してから一週間で消えちゃうからね。
十日以上飛行船で集落を探すとなると、途中で召喚兵は消えてしまう。
補充するには魔力収集装置のある場所に行かなければならない。
……超便利な召喚兵だけど、遠征にはかなり不向きだ。
まぁ、うちの子達なら召喚兵が居なくても国の一つや二つピクニック気分で潰せるだろうけど、やはり数を並べるというのはそれだけで効果的だからね。
キリク達にはかなり苦労をかけていると思う。
……俺達を見つけるまでに世界の半分くらいにエインヘリアが影響を及ぼすかもしれないな。
ほんと召喚とか許せんな。
それと……うちに船を送り込んできた連中。
そいつらも放置しっぱなしという訳にはいかない。
聞き取りで分かった情報だと、俺達の大陸から南西に船で二か月近くかかる距離に連中の大陸はあるらしい。
途中にある島々に立ち寄り補給することでようやくたどり着いたそうだけど、二か月の航路で大陸と呼べるほどの大地は俺達の大陸が初めてだそうだ。
途中の島々を植民地化して随分好き放題しているようで、今回も調子に乗って強気に出たらしい。
まぁ、新大陸発見ではしゃぐのは無理もないし、これまで植民地化するのに全然苦労せずに連勝しまくっていたのなら気が大きくなるのもこれまた無理もない。
それでも、流石に新大陸相手の初めての接触ならもっと慎重にやるべきだったとは思うけどね。
連中に関しては今の所尋問による情報収集と、造船技術や魔物に襲われない方法等の技術を習得する為の調査くらいしかしていない。
今エインヘリアの最優先事項は俺との合流だ。
船の連中は情報収集さえ怠らなければ多少放置しても問題はない。
……そういえば、俺がこちらに召喚される前に懸念していた本国への通信技術等は有していないようでした。
考えすぎだったみたいだ……キリクの予想通りということだね。
エインヘリア本国の方はそんな感じだ。
こっちはこっちで厳しいけど、あっちはあっちでてんやわんやって感じだよね。
後問題は……フィオから聞いたんだけど、ルミナがドアの方を見ながらよく甘え鳴きをするようになったらしい。
未だかつてこれ程俺が部屋に戻らない事が無かったからな……随分と寂しい思いをさせてしまっているようだ。
……ほんと、オロ神聖国更地にしたろかな?
今この瞬間も鳴いているかもしれないルミナを想うと、召喚を画策した連中への殺意が湧いてくる。
……。
……ふぅ、今後の方針を決めないとな。
ウルルが今急ピッチで諜報関係を鍛えてくれている。
そちら方面だけでもしっかりしてくれれば、対外戦略は動かしようがある。
帝国に聖国。
レグリア王国から離反した連中を抱え込んだことで、うちの印象が悪い事は向こうも承知の筈。
俺という英雄が召喚され、トップが変わり国の名前も変わった。
連中がこちらに対しどう動くか。
それを知る日はそう遠くない筈だ。
俺はフェルズ……覇王フェルズだ。
何の因果か、異世界に覇王として呼び出され、その後新婚なのに別の大陸に召喚されてしまった可哀想な単身赴任者だ。
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