第19話 終わり方
「地方領主の統治に対してのエインヘリア王陛下のお考えは理解出来ました。しかし急に貴族を廃し、今後全ての土地は国の直轄地とすると言っても受け入れられるとはとても……」
眉を顰めながら言う王女さんに俺は頷く。
「当然だな。特権を手放せと言われただけでそれを手放す馬鹿はいない。当然不満を抑え込むだけの力が必要だ。エインヘリア本国と繋がればそんな不満は一蹴出来るが、流石に個人の武力だけでそれを押さえつけるのは……不可能ではないが面倒だ」
とにかくわかりやすい暴力である魔法は、回数制限が厳しいからなぁ。
以前エルディオンの城を消し飛ばした時みたいに魔法を一発見せてやれば、逆らおうなんて気力も消し飛ばせるとは思うんだけど……。
「では……?」
「そうだな。とりあえず、レグリア王女の派閥の中で信頼できる者……レグリア王国という枠を失ってでも民の為に動くことが出来る者を集める事。次に派閥の外の者でも同様に考えることが出来る者。その次に、優秀な者。最後にこちらに従わない連中と思慮の浅い者を纏めてだな」
「……順に説得すると?」
「最初の二者は説得というよりも説明で通じる筈だ。お前と共に立ち上がった者達は既にこの国の終焉を認識している。ならば、より希望の感じられる終焉を選ぶだろう。次の者達も同様だが、賛同者を増やしてから声をかける必要がある。頭が回る故その流れに従うだろう。最後の連中は今後の礎となってもらう」
「……殺すのですか?」
「明確に歯向かわなければ殺さんよ。心の中で不平不満を……いや、多少それを口にするまでは許す。だが、武器を手に反旗を翻せば根切りとなろう」
「……」
根切り……あんまりやりたくはないけど、エインヘリアという規格外の力を十全に発揮できない現状、単純に、馬鹿でも分かるように力と恐怖を知らしめるには……やるしかないんだよな。
うちの子達が居れば元の大陸でやっていたように、殆どの相手を殺すことなく圧倒することが出来るんだけどね。
しかし、無い物ねだりをしても仕方ない。
キリク達がここに来るまでに最低限場を整えておかないと、覇王の能力疑われちゃいそうだし……。
俺の物騒な物言いに王女さんは難しい表情で考え込んでいる。
恐らく王族として、貴族達の強かさや面倒くささ、それから有用性……それらを良く知っているからこそ悩んでいるのだろう。
俺にとって貴族って宗教系と同じくらい面倒な相手ってイメージだけど……これまた宗教系と同じくらい必要な物……必要な連中なんだろうね。
いや、広い国土を分割して統治する領地貴族は当然必要だし、貧しい暮らしで生活に余裕のない民には宗教による癒し……拠り所は必要なんだと思う。
うちの大陸のフェイルナーゼン神教は、本当に弱者救済のための……救いの為の宗教だったけどねぇ……。
流石に不信心な俺でもクルーエル達の在り方を馬鹿にすることは出来ないし、積極的に支援したいと思える。
この大陸の宗教がどんなもんかは知らんけど……この国にも教会とかあるんだろうな。
……宗教か。
正直うちの本国には来て欲しくないところだけど……往来の自由を許すなら伝播は時間の問題だろう。
いや……本国との移動は基本的に転移によるものになる。
そして転移は許可制……全力で防ごうと思えば防げるな?
その辺りは、オロなんちゃらいう奴等を見極めてからかな。
そんな感じで、俺は先の事を考えているけど……王女さんは今現在の事で頭がいっぱいのようだ。
黙り込んで悩んでいるようだけど……そろそろこの段階で伝えるべきことは伝えたと思うし、はっきりとした回答が欲しいところだね。
国は潰す。
貴族も潰す。
でも民は救う。
近隣諸国は対応次第。
そしてここがエインヘリアになって以降、一度でも魔王国が攻め込んできたら……山を越えて潰す。
王女さんは……代官ではなく暫くは俺のサポートって感じで傍に置く必要がある。
能力的にはそこまで秀でてはいなさそうだけど、慕う人は多そうなんだよね。
ウルルの調べでも、結構人気ありそうな感じだったし……王女さんの派閥を取り込む以外にも役に立ってくれそうなんだよね。
それになにより、民にも期待されているみたいだし……。
「エインヘリア王陛下。エインヘリアは……我が国の……いえ、この地に住まう民を救ってくださいますか?」
真剣な……睨む様な目で俺を見ながら問いかけて来る王女さん。
彼女にとっての最優先がそこなのはこれまでの会話から分かってはいたし、そんな目になるのも無理はないだろう。
そして当然俺の答えは……。
「当然だ。大げさな表現に聞こえるだろうが、我がエインヘリアは無謬の楽土と呼ばれる国だ。その実感を得るには少し時間が必要だがな」
まぁ、そう呼んだのは民じゃなくってうちの子だけどね。
「……以前お話しした通り、既に我が国は詰んでおります。帝国を選ぼうと聖国を選ぼうと未来はなく、双方の手を払いのけてもいずれ魔王国に蹂躙されるでしょう。私達に選べる未来は……どう滅びるか。それしかありませんでした。ですが……エインヘリア王陛下を召喚しておきながら、厚かましく恥知らずな願いとは存じておりますが……どうか民の事をお願いできないでしょうか?」
何の証拠も見せていない俺に託すのは……あまり良くないと思いますよ?
いや、俺が言うのもどうかと思うけど……。
王女さん詐欺師とかに騙されやすそう……心配になるね。
現在進行形でなんちゃって覇王に騙されている訳だし……まぁ、それはさて置き。
「くくっ……消去法で我がエインヘリアを選ぶか」
「……」
明らかに失敗したという表情を見せる王女さん。
いや、あんまり虐めるつもりはないんじゃよ?
でもなんかこう……王女さんを相手にすると、何故かいつも以上に皮肉が冴え渡るというか……王女さんが生真面目なタイプだから揶揄ってしまう的な?
余り知り合いには居ないタイプだよね……俺の知り合いって強かな娘が多いし。
「くくっ……まぁ、良い。諸手を上げて我等の支配を受け入れなかったことを失敗だったとすぐに言わせてやろう」
気にしていないというつもりで言ったんだけど……なんか聞きようによっては脅しているようにも取れる様な?
実際王女さんの表情が完全に固まっちゃったし……まぁ、いいか。
「さて、これで今後の話が出来るな。プレア、彼女に書類を」
「はい!」
プレアが気合の籠った返事をする……数日俺の傍で世話をしてくれているけど、相変わらず俺が声をかけると堅いんだよな。
まぁ、暫くは俺とウルルとプレアの三人だけしかいないし、しばらくすれば慣れてくれると思うんだけどね。
さて、それはそうと……俺に命じられたプレアは書類を直接王女さんへと渡す。
傍に控える女騎士が何か言いたげに体を少しだけ揺らしたが……ぐっと堪えた。
うん、本来うちのメイドであるプレアが王女さんに直接手渡しなんて許されないのだろうけど、つい先程王女さんはエインヘリアに降ると決めたからね。
別に俺としては直接手渡ししなくても良かったんだけど、プレアは当然の様に王女さんに手渡した。
喧嘩を売っている……訳ではないと思うけど、まぁ、プレアもいきなり召喚されて怒っていたのは間違いないし、鬱憤が溜まっていたのだろう。
まだ調印を交わした訳でもないのに、明確に上下関係を見せつけるのは……まぁ、状況が状況だけに、早いか遅いかでしかないか……。
「……陛下。この書類は……」
俺の……プレアの渡した書類には、先程話した説得する貴族達の一覧が載っている。
王女さんは酷く驚いた様子でその書類を食い入るように見る。
「先程伝えた説得する貴族の優先順位だ。一応意見は聞くつもりだが、基本的にはその書類の優先順位に従って動く」
「……へ、陛下。この書類の文字は……私達が使っている文字のようですが……エインヘリアでも同じ文字を使っているのですか?」
俺の呼び方がエインヘリア王陛下から陛下に変わったな。
他国の王ではなく、自国の王として呼んでいると言う事だろうか?
「あぁ、この地の文字はウルルが覚えた。今後は我々の使っている文字を共通語とするが、今回はこの地の文字を使った方が説明が早いのでな」
「も、文字を覚えた?陛下たちがこちらに来てまだ五日と経っていないのですが……」
「我が国の外務大臣であれば文字の習得くらい、造作もなき事よ」
俺には無理だけどね!
「……そんな筈が……いえ、失礼いたしました。しかし、どうやって貴族の名と派閥……そして優先順位を?」
「調べた」
「……」
書類を手にしたまま硬直する王女さん……ついでに女騎士。
まぁ、流石にウルルの仕事は……俺でも一体何がどうなってそうなったの?ってレベルだけどね。
文字は覚える。
レグリア王国の現状の裏取りしながら貴族の派閥と個々人の情報を得る。
さらに周辺国との関係性も調査。
それと……未だに床に転がされたまま放置されているおっさんについて。
他にも細々としたあれやこれやを……ちゃんと寝てる?
俺が指示しておいてなんだけど、ウルルの健康状態がちょっと心配になる。
「……陛下。先程お聞きした優先順位とこちらの一覧とで少し違いがあるのですが……」
とりあえず目の前にある現実を受け入れた様だけど、言い辛そうにしながら王女さんが指摘してくる。
まぁ、自信満々に出してきた書類に不備があって、しかもそれを出してきたのが上司だったらそんな気分になるよね。
「ふむ?」
どこが?
とは聞きません……何故なら俺はその文字が読めないからね!
「例えば……このレイフォン伯爵ですが、優先順位が最下位になっております。しかし、彼は私の側近の一人でして……」
「あぁ、その者は裏切り者だ。聖国と繋がっている。お前の傍にいたのは王が帝国に国を売ろうとしていたからその妨害の為だ。まぁ、それなりに優秀なようだがな」
側近でありながら他国と繋がっている時点で、アホじゃすぐばれちゃうだろうしね。
「っ!?」
プレアから俺達の大陸の文字で書かれている書類を受け取り、レイフォン伯爵の欄に視線を落とす。
そこには王女さんの方の資料には書かれていない備考欄がついて、貴族達の情報が簡単に書かれている。
レイフォン伯爵については、王女さんから絶対にツッコミが入ると思って予め覚えておいたのだ。
「他にも気になるものがいるだろう?例えば……ラング子爵とかな」
「ラング子爵というと……確か地方の小領主でしたか?優先順位が三番目……?」
首を傾げる王女さん。
うん、やっぱりこの王女さん、派手ではないけど良いリアクションしてくれるんだよな。
何か接待でもされているかの様に良い気分になってしまう。
「流石に小領の領主がどんな人物かまでは把握していないか。まぁ、その者に関しては置いておくか。それよりも、レグリア王国を裏切っている者やそこに転がっている者の話をするか」
俺の言葉に、ようやく王女さん達は床に転がるおっさんの事を思い出したようで、二人揃ってハッとした表情を見せた。
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