第17話 ぐだぐだ



 俺のこれ以上ない程明確な言葉に、王女さんは一瞬だけ痛みに堪える様な表情を見せたけど、すぐに元の真面目な表情へと戻る。


 国滅ぼすわ……正面からそう言われてほんの一瞬しか動揺を見せない。


 凄い胆力だよね……いや、王族とはかく在るべきものなんだろうか?


 フィリア達も簡単にやりそう……いや、フィリアとかエファリアだったら多分笑みを浮かべていそうだな。


 クルーエルも国や王って訳ではないけど、同じく微笑んでそうだ。


 リサラは……多分この王女さんと同じように動揺を見せるかな?


 まぁ、トップとトップでないものの差ってところか。


 といっても、一瞬で動揺を呑み込みこちらの話を聞く体勢になっている王女さんはやっぱり凄い。


 なんちゃって覇王だったら……内心動揺を隠すのでいっぱいいっぱいになっていると思う。


 気合でそれを外に出さないように……出来ればいいなぁ。


 因みに王女さんの護衛についている女騎士は思いっきり目を見開いており、感情が動きまくっているのが分かる。


 今は翻訳の指輪をしっかり装備してるからな、俺の言葉が伝わって当然……状態異常無効の指輪を装備したままでも使えて本当に良かったと思う。


 ……どうでもいいけど、今の俺は状態異常無効の指輪と翻訳の指輪、そして結婚指輪を着けているので……正直指輪つけ過ぎだと思う。


 まぁ、海外ドラマとかでよく出て来るラッパーの方々よりはマシだけど……でもやっぱり三個は多い。


 いや、どれも絶対外せないけどさ。


 そんな事を考えつつ、俺はこちらを真剣な表情で見つめる王女さんに皮肉気な笑みを向ける。


「嘆願出来るような立場にない事は重々承知しておりますが……一つ願いたき事がございます」


「聞こう。それに疑念があるなら全て問えばよい。お前にはその権利がある」


「ありがとうございます、エインヘリア王陛下。我が国は陛下に対し大罪を犯しました。故にその滅びは必定と言えますが、どうかその責は我等王族と国という枠だけに留めては頂けないでしょうか?どうか、民には累がおよぶことが無きよう……取り計らっては頂けないでしょうか?」


 王女さんがそう口にした瞬間、護衛の女騎士さんが何か言いたげに体を揺らしたけど奥歯を噛み締めるようにするだけで何も言わない。


 物語とかだと、こういう時に口を挟んで来る護衛の人とかいるけど……普通に無礼だし、ありえないよね。


 首脳会談中に口挟んで来るSPとかいないでしょ……伏せて下さい!的な奴やつならともかく。


「自分は死んでも良いから民は見逃せと。ふむ……」


「無論、陛下を召喚した下手人たちを全員御引き渡しします。エインヘリアの法に則り裁いていただければと」


 おっと、その話が出ちゃったか。


 王女さんとの会談を迎えるにあたって、俺は前回の会談から三日の猶予を貰った。


 その間俺はのんびり過ごしていた訳ではない。


 目立つように城内をふらふら。


 目立つようにお忍びで王都をふらふら。


 偶にのんびり部屋でごろごろ……は出来ないんだよなぁ。


 部屋にはずっとプレアが待機しているし、ウルルが俺の傍から離れて情報収集に行ったから防諜関係がスッカスカ……いつどこで覇王のだらけている姿を見られるとも分らない現状、一瞬たりとも気を抜くことが出来ないのだ。


 これはキツイ。


 まだこの国に来て一週間も経ってないけど、はっきり言って死ぬほどキツイ。


 俺の覇王力は、瞬発力こそあるけど持久力はないのよ……。


 もうね、俺は休みたいんじゃよ。


 ベットでゴロゴロしながらルミナのお腹に顔を埋めつつ、もふもふわしゃわしゃしていたいんじゃよ。


 フィオに膝枕とかして貰いたいんじゃよ……。


 もうねほんと……って、イカン。


 王女さんとの会話の真っ最中たったわ。


 しかも、ちょっと王女さん的には問題ある話なんだよな……いや、お前の国潰すわ以上の衝撃ではないと思うけど。


「あぁ、その事だが……全員を引き渡すというのは難しいのではないか?」


「……?どういう意味でしょうか?」


「そのままの意味だ。あの聖地に居た連中……そのうちの一人が既に逃げているぞ?」


「え!?そんなはずっ!?あ、し、失礼しました」


 驚愕の声を上げながら王女さんが立ち上がり、すぐに顔を赤くしながら頭を下げる。


「筆頭宮廷魔導士だったか?俺が召喚されてすぐ声をかけてきた痴れ者は」


「は、はい。エインヘリア王陛下に声をかけたのは、確かに元筆頭宮廷魔導士のサンザ=エルモットと聞いておりますが……」


「その男が逃げたぞ」


「っ!?」


 目を真ん丸に見開いた王女さんが、物凄い勢いで護衛の女騎士の方に顔を向ける。


 首……グキってなっちゃうよ?


 王女さんに顔を向けられた女騎士は顔をこわばらせながら首を横に振る。


「あり得ないと言いたい所ですが……」


 すぐに確認をと口にする女騎士に最後まで言わせずに俺は口を挟む。


「あぁ、確認を取る必要はないぞ?こちらで捕まえたからな」


「は、え!?」


 俺の台詞に、今度はこちらにぐりんと顔を向ける王女さん。


 確かにこの三日間、俺は適当にふらふらしていただけだけど……ウルルがそれはもう全力で諜報活動に勤しんでくれた。


 それはもう獅子奮迅……たった三日でレグリア王国を丸裸にしてくれたし……なんだったら文字も習得してきちゃったよ。


 ウルルいわく……言葉も分かるし、暗号よりも遥かに楽だったと。


 なるほど。


 これは本国の方で捕縛した船の連中の尋問も、余裕で進んでそうだね……。


 ウルルの報告を聞き、エインヘリアがある筈の方角に目を向けながら俺はそんなことを考えました。


 とまぁそんなわけで、うちの可愛い外務大臣の大活躍により、俺はこの国の情報をそれはもう隅から隅までおぼ……知ることが出来る。


 はい、覚えてはいません。


 でも聞いたら即レスが貰えます。


 大丈夫、サポート体制は万全だ。


 さて、そんなウルルさんが集めてくれた情報の中には、当然俺達を召喚した連中の情報もある。


 その中に少々興味深いものがあった。


「今朝方のことだが、幽閉塔から逃げ出した筆頭宮廷魔導士が王都から出ようとしていてな。放置しても良かったが、俺をこのような目に合わせておいて自由にしてやるのも面白くない。それに背後関係を調べる必要もあったしな」


「そ、あ、いえ……申し訳ありません、エインヘリア王陛下」


 何がどうなっているかわからないという状態の王女さん。


 まぁ、気持ちは分かる……エインヘリア国内で逆の事されたら、間違いなく大混乱だろうしね。


 ……うちでそんなこと出来る奴がいたら、それはもう誰にも止められない相手って感じだけど……。


「くくっ……混乱させてしまったな。本当は順序立てて説明するつもりだったが、仕方ない。ウルル」


「……はい」


 俺の呼びかけに応え、ウルルが何処からともなく現れる……宮廷魔導士のおっさんを床に転がしつつ。


 突如部屋の中に現れたウルルと王女さんの間に素早く割り込み、武器をすぐに抜けるように構える女騎士。


 いきなりの事態に対し中々良い反応だ。


「っ!?え、エインヘリア王陛下?そちらの方は?」


「彼女はウルル。我が国の外務大臣だ」


「外務大臣!?」


 今までよりも一回り大きな驚きの声を上げる王女さん。


「あぁ。別に本国から遥々俺を迎えにやってきたわけではないから安心しろ。彼女は、俺達と共に召喚された三人目だ」


「……三人目」


 軽く言った俺に対し呆然とする王女さん。


 ウルル登場の衝撃が強すぎて、ぐるぐる巻きの猿轡状態で床に転がってる宮廷魔導士の方には目が行ってない気がする。


「……聞き取りをしましたが、エインヘリア王陛下とそちらのメイドの方二人を召喚してしまったと……」


「あぁ、召喚直後……まだ光に包まれている時点で彼女には姿を隠す様に命じたからな。誰にも姿を見られる前の話だ、あの連中が気付かなかったのも無理はない」


「召喚直後の光に包まれている時点で!?エインヘリア王陛下はその時点で何が起こっているか把握されていたのですか!?」


「そうだな。少し驚いたが、どこぞに転移させられたことはすぐに分かった。ならば、可能な限りこちらのカードは伏せておくべきだろ?」


「……突如召喚されて、一瞬でそんな判断を……?」


 王女さんだけでなく女騎士も絶句してこちらを見ている。


 まぁ、あの一瞬の判断は、我ながらかなり良くやったと褒めてやりたいくらいだからね。


 もっと絶賛してくれても良いんじゃよ?


「大したことではない。それよりも、話を戻すとしよう。この国の事、そして我がエインヘリアの話だ」


「は、はいっ」


 まだ若干呆け気味だった王女さんだったけど、俺の言葉に正気に戻った。


 大事な国の話だし、何より俺滅ぼすわって言ったからね。


 そりゃ呆けてる場合じゃないよね。


 ……床に転がってるおっさんはとりあえず放置だ。


 

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