第14話 ある王女の懊悩
View of レヴィアナ=シス=レグリア レグリア王国王女 暫定代表
我がレグリア王国は、魔導に優れた国として近隣諸国ではそれなりに力を有した国でした。
それも全て我が国の領内に点在する遺跡の存在があったからです。
我が国が建国されるよりも遥か昔……今よりも遥かに魔導技術に優れていた時代の遺跡……それらの一部を解明するだけで、帝国や聖国といった大国よりも優れた技術を手に入れることが出来ました。
しかし、いかに優れた技術を持っているとはいっても、それを使用するのはあくまで人。
魔導研究の分野では優れた人材を持っていた我が国は……学者馬鹿と言いますか、研究分野に特化していたと言いますか、技術はあれど使い方が悪かったと言いますか……政治や外交、軍事といった点で誇れるところが殆ど無いというありさまでした。
無論、それらを高いレベルで保有していた時代もありました。
いえ、それは言い過ぎかもしれませんが……少なくとも軍事力という点では、遥か遠き世界より呼び寄せた英雄……グレンタール=エスリクが力を振るった時代は、有していた魔導技術と英雄の力で聖国や帝国とも渡り合えるだけのものがありましたし、その力を背景に外交でも非常に強くありました。
しかし、英雄が世を去り、我が国は一気にそれ以前……いえ、以前よりも遥かに弱い立場になってしまいました。
英雄の力に頼り、本来の力よりも強く周囲に当たっていた反動ですね。
ですが、我が国が隆盛を誇った時代を知っている父はそれを受け入れられませんでした。
自分の理想と出来る事の乖離。
それらは父の目を曇らせ、現実の見えていない政治を強行させてしまいました。
諫言をする者は遠ざけられ、追従しその場限りの甘い汁を吸うものばかりが重用される。
絵にかいたような愚王の道を邁進する父と、それに伴い疲弊していく我が国。
さらに追い打ちをかけるように、霊峰の向こうから魔王国なる国が西側諸国へと攻撃を開始。
我が国は比較的魔王国の侵攻が激しくなく、現時点では西の守りを突破されていませんが……それももう限界。
英雄の家……エスリク家と辺境守備軍は、五十年前の大侵攻以降度々姿を見せる魔物たちと戦い続けた精兵。
しかし、それも補給が滞ってしまえば一気に崩れてしまいます。
ヒエーレッソ王国への援軍にエスリク家の支援。
ただでさえ父と上層部の執政によって財政状況が悪化し始めたところに、跳ね上がる軍事費。
我が国が傾くまではあっという間でした。
まぁ、私自身……既に傾ききったレグリア王国しか知らないのですが。
それでも、我々王族には民を守る義務があります。
さしもの父もこの状況で軍事費を削る事は出来ない……そう考えていたのですが、父とその側近達はあっさりとヒエーレッソ王国への支援打ち切りを決めてしまいました。
かの国とは長年の盟友という関係もさることながら、南側の盾として非常に重要な役割を果たしてもらっています。
ヒエーレッソ王国が魔王国に屈したら……間違いなく次は我が国となるでしょう。
勿論西の国境を疎かにするべきではないけど、それでも出来る限りヒエーレッソ王国を支援しなければならなかったのは間違いありません。
幸い……といって良いのか微妙な所ですが、我が国から支援を受けられなくなったヒエーレッソ王国はオロ神聖国の同盟国……とは名ばかりの属国となり、その軍事力によって防衛を続けています。
その点だけを見れば……我が国は軍事費を抑え南を安定させたと言えますが……また違った種類の厄介事を引き入れてしまいました。
オロ神聖国……そしてランティクス帝国。
二つの強国に挟まれている我が国は、常にその脅威にさらされていました。
それでも我が国が侵略されなかったのは、優れた魔導技術と五十年前に召喚した英雄の存在があったからです。
しかし英雄の威光も薄れ、財政状況が傾き、要であった魔導技術も資金難によって満足に使うことが出来ない現状……両国にとって我が国は狩場でしかありません。
幸いというか、怪我の功名というか……魔王国の侵略が激しい昨今。
我が国を落として領土を広げるよりも、独力で魔王国軍と戦わせた方が旨みがある……可能であるなら属国としてその戦力や魔導技術を自由にしたいというのが本音でしょう。
と言いますか、日に日にその圧力は高まって来ております。
当然ながら……属国となる事を受け入れるわけにはいきません。
属国となり魔導技術を奪われ、民には塗炭の苦しみを味合わせる……それで済むならまだマシな方と言えます。
西側各国が魔王国に攻められている昨今、属国の民は間違いなく死地に送り込まれるでしょう。
魔王国との戦いはこちらが一方的に攻められるだけで、こちらから攻めることは出来ません。
相手がどれほど戦力を送り込めるか分からない中、こちらは耐える事しか出来ない。
いつ終わりが来るともしれない防衛戦……自国の民を守るために死んでも良い戦力から消費していくのは当然のやり方と言えます。
勿論、犠牲にされる側である我が国としては、到底受け入れられるものではありませんが。
しかし、父達はこともあろうに民の全てを奴隷とするような条件で帝国の属国になろうとしておりました。
自分達を帝国の貴族として地位を約束させる……ただそれだけの為に全ての民を、国ごと売り渡そうとしていたのです。
まぁ、そのような手段で帝国貴族になったとしても蔑まれるだけでしょうが。
帝国貴族は気位が高く、誇りを大事にします。
王侯貴族にあるまじき行い……本来庇護すべき民を生贄に貴族位を得た相手を、帝国貴族はけして認めることはないでしょう。
そもそも最初から貴族として認めたくはないでしょうが、そういう契約をした以上帝国はその威信にかけて契約を遵守する……あの国はそういう国です。
残りの人生を針の筵で過ごす……自分で選んだのであればそれも良いでしょうが、巻き込まれる身としては堪ったものではありませんし、生贄に捧げられる民からすれば到底許せるものではないでしょう。
帝国の凄いところは……そういう行為を忌避する癖に、契約で手に入れた生贄には一切の慈悲を与えない事ですね。
まぁ、オロ神聖国の方に降ったとしても似たり寄ったりですが……父としては帝国の方が美味しいと考えたのでしょう。
オロ神聖国の方は……貴族よりも聖職者の方が権力的に強いところも、父としては受け入れがたい事だった筈です。
父や側近達は即物的かつ短絡的なので、我が国を帝国に売り渡すことにしましたが……当然それを認めるわけにはいきません。
私と腹心達……王によって遠ざけられていた文官や騎士、それに私付きの近衛騎士であるレインとその実家であるエスリク家。
この国と民の為に全てを投げうってでも事を成そうとする同志。
遅きに失した感はありますが……私達は父を打倒することを決意しました。
クーデターそのものは然程難しくはありませんでした。
父の周りにはまともな戦力がありませんでしたし、他人を貶める様な謀は得意としていても、既に自分達の手で排斥してしまった相手には気が回っていませんでしたからね。
敵が弱いのはこちらとしてもありがたいですが……そう考え油断していた私達も同じくらい間抜けでした。
クーデターは速やかに行われ、父を筆頭に全ての上層部を捕らえることが出来ました。
ですが父を始めとした一部の貴族達に逃げられてしまったのです。
大失態というのも烏滸がましい程の失態。
まさかあの筆頭宮廷魔導士が王の為に動くとは思いませんでした。
……彼等が脱したことに気付いたのは日付をまたいでから。
その事に気付き……すぐに父達が向かった先は予測がつきました。
聖地。
五十年前にレインの曾祖父を召喚したあの地に、一発逆転を狙い父は向かっている。
それだけは阻止せねばなりません。
五十年前の召喚は……奇跡的に上手くいきました。
ですが、二度目はありません。
起こる筈がないからこそ奇跡なのです。
以前の召喚の時は、確か十年分の魔力を使って儀式を執り行ったと記録に残っていましたが……今回貯め込んでいる魔力は十八年分。
その魔力だけで現在の食糧事情を改善できるとは言いませんが、他国に売れば纏まった金額が得られたでしょうし、農地に使用すれば暫くの間豊作が約束されます。
もしくは辺境防衛軍やエスリク家に融通すれば、数年は魔石の供給をしなくても戦えた筈。
それだけの魔力を持ち逃げ……まぁ、徴収した魔力は王が管理していたから仕方のない部分もありますが、本当に頭が痛い。
召喚を阻止できなかったら……どうしたら良いでしょうか?
私は聖地に馬を走らせながら、頭を抱えていました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます