第12話 結局滅亡前夜



「魔王国は魔物を操る術を持っているようで、魔王国の軍勢に加えルーレアン連峰の魔物までもが襲い掛かってきたのです。初めて魔王国が連峰を越えて進行してきたのが十二年程前……」


 魔王……魔王か。


 すげぇな。


 こっちの魔王、ちゃんと魔王してる。


 うちの大陸の魔王は……今頃ぬいぐるみ抱いて寝てるだろうな。


 元魔王の方は夜更かししながら俺の声を聴いているけど……夜更かしって言うか徹夜か。


 ……まぁ、魔王はさて置き、魔物を操るか。


 エルディオンが魔王の魔力から生み出された魔物を誘導したり、魔道具で操ったりしていたけど……なかなか面倒な話だ。


 攻め込まれた帝国には魔法使い系の英雄が複数いたから鎧袖一触って感じだったけど、群れた魔物は一般の兵にとっては殆ど津波みたいなものらしい。


 人為的に発生する津波……恐ろしい話だ。


「魔王国が名乗りを上げ、たった十二年で四つの国が滅びました。そして今もなお魔王国は攻撃の手を緩めておりません」


 十二年で四か国は……早いのだろうか?


 分からん。


 いや、うちが頭おかしいペースで他国潰して回っていたのはちゃんと理解してるよ?


 でもほら……スラージアン帝国の先代が在位中結構他国潰して回ってたし……。


 何年くらい皇帝やってたんだ?あのおっさん。


「幸いと言いますか……我が国は今の所大きな侵攻を受けていません。勿論全く攻撃をされていない訳ではありませんが、辺境守護となった英雄の家と辺境守備軍が撃退してくれています」


「召喚された英雄はまだ存命なのか?」


 五十年前なら生きていてもおかしくはないし、リズバーンみたいに現役バリバリでも全然おかしくはない。


「いえ、こちらに来ていただいた時点で壮年だったこともあり、二十年程前にお亡くなりになられています。今の辺境守護は英雄の孫……三代目が担っております」


「ほう、その者も英雄なのか?」


「……知勇兼備の将ではありますが、流石に一人で万の魔物を屠るような規格外の強さはありません」


 ほぼ間違いなく、王女さんの言っている英雄というのは俺達の大陸で言うところの英雄と同じ存在だろう。


 英雄の力は遺伝するものではなく一代限りの力……だからこそスラージアン帝国は優秀な人間を国のあちこちから集め教育を施し英雄を育てていたわけだけど、この国は他所から攫ってくるわけだね。


 案外その英雄も俺達の大陸から召喚されたヤツなのかもな。


 まぁ、どうでも良いが。


「ふむ。それで……今大きな侵攻を受けた場合は、どうなると見ている?」


「我が国を五つ目の国にしない為に、私は父を排斥しました。しかし……」


 王都の状況を見る限り、トップが変わった程度で何とかなる状況ではなさそうだもんな。


 戦術や戦略で……指揮を執る者達が変わったくらいでどうにか出来るレベルではないと思うし、いつ来るか分からない魔物に対して準備を整える時間はない。


 昨日の今日で変えられるものには限界がある。


 言い淀むのも無理はない。


 今この国が存続しているのは、魔王国軍が本気でこの国を潰そうとしていないからだろう。


 そこに理由があるのか気まぐれなのか、現時点では分からないけど……。


「俺は王都しか見ていないが、上が変わったところで対応出来るような状況ではなさそうだな。軍を国境に配置しているのか?」


「五十年前の大侵攻のこともあり最精鋭である辺境守備軍を置いていますが……本格的に魔王国が侵攻してきた場合、国境を守り切れるとは……」


「随分な国に呼び出されたものだ」


 俺は肩を竦めながら言うけど、この国のやり方だとこういう状況だからこそ召喚が行われるのだろうね。


 攫われる方からすれば堪ったもんじゃないと思うけど……問題解決の手段だからな、仕方がないと言える。


 ……一瞬、フィオの申し訳なさそうな表情が脳裏に浮かんだけど、それはそれこれはこれだ。


 とりあえず、大体の事情と状況は把握出来ただろうか?


「状況は大体理解出来た。帰還の手立てをそちらが持ち合わせていない事も、俺達を必ず帰すと言ったもののその余裕がない事もな」


「……」


「他に何かあるか?」


「……いえ」


「ならばいくつか質問させて貰うとしよう。レグリア王国は海に面してはいないようだが、例えばランティクス帝国やオロ神聖国、もしくは東方の小国辺りが海を越えて外洋を航海することは可能か?」


「いえ、海には陸とは比べ物にならない程強大な魔物が存在しています。なので陸から大きく離れることは自殺行為と言われ、帝国や聖国ですら海に出ることを避けているのが現状です。小国も独自に航行技術を得ているという話は聞いたことがありません。遠方の事ですので絶対とは言い切れませんが」


「ふむ」


 もし、うちに船を送り込んできた連中がこの大陸の勢力だとしたら、それなりの軍事力を保有している筈だ。


 自国の周辺が安定していないのにいきなり海の向こうを目指すのは危険すぎる。


 この大陸の情勢は海外進出をするには向いていないだろう。


 下手に他所に力を向けている間に本国が滅びそうだしね。


 大陸から脱出するための外洋船?


 いや、そんなものに研究開発費を割くくらいなら、戦う為の研究に回すだろう。


 それにリオの報告書を読んだ限り、うちにやってきた連中には悲壮感が感じられなかった……切羽詰まっての脱出って感じじゃない。


 ……残念だ。


 物語の複線回収みたいな簡単な話では無かったね……ワンチャン魔王国の船って可能性もあるけど、そんな偶然はないと考えるのが妥当だな。


 現実を認識して若干残念に思いつつ、俺は質問を続ける。


「では次に近隣諸国とこの国の関係についてだ。南のヒエーレッソ王国は同盟関係とのことだが……」


「はい、ヒエーレッソ王国は同盟関係にあります。ですが、最近は疎遠になっております」


「疎遠?」


「我が国よりもヒエーレッソ王国は魔王国軍の侵攻が激しく、度々我が国に援軍を求めて来ておりました。我が国にとっても対岸の火事とは言えず、積極的に援軍を送っていたのですが……最近はその要請に応えることが出来ず」


 まぁ、援軍どころか自国の防衛すらおぼつかない雰囲気だからな。


 そりゃ援軍を求められても出せないだろうし、向こうは向こうでピンチに助けてくれない同盟国を快くは思わないだろう。


 これに関してはどちらが悪いとも言い難い。


 ない袖は振れないし……ピンチに助けてくれないなら何のための同盟だって思うのは当然だ。


 俺もスラージアン帝国がエルディオンに仕掛けられた時は迅速に援軍を送ったし……多分フィリアもエインヘリアが攻撃を受けたら援軍を送ってくれることだろう。


 お互いにとって益が無ければ同盟を組む意味は無い……うちの場合は、軍事同盟とか経済協力とかよりも魔力収集装置を設置するって目的があって同盟を組んでいる。


 まぁ、魔力収集装置を設置した結果、魔石をがっつり貰えるようになるわけだから滅茶苦茶利益出てるわけだけど……。


「数年前よりヒエーレッソ王国はオロ神聖国と同盟を結び援軍を送ってもらっている様です。我が国の援軍よりも遥かに強力で数も多いでしょうし、戦線はかなり安定していると聞いています。我が国とヒエーレッソ王国はオロ神聖国にとっては使い勝手の良い盾ですし、魔王国に滅ぼされるのは放っておけないというところもあるのでしょう」


 まぁ、それはそうだろうね。


 オロ神聖国に西側には両国が存在しており、魔王国の侵攻経路であるルーレアン連峰とは接していない。


 戦線は自国から遠ければ遠い方が良いし、他国が防波堤になるのであれば支援くらいは惜しまないだろう。


 しかしその理屈で言うと……。


「この国にもオロ神聖国から接触があったのではないか?いや、オロ神聖国だけではないか」


 多分関係が冷え込んだとはいえ、ヒエーレッソ王国からも打診があった筈だ。


 レグリア王国とヒエーレッソ王国……オロ神聖国にとって両国は魔王国に対する失い難い盾だ。


 そして両国にとっても、どちらかが潰れれば必ずもう片方も潰れるという関係……一蓮托生と言っても良い関係だ。


 お互い独力で対応するには限界が来ているのは分かっており、喉から手が出るほど支援が欲しいのも分かっている。


 ならば先に支援を取り付けた身として、仲介をして恩を着せるという発想になっても何ら不思議ではない。


「はい。おっしゃる通りオロ神聖国、そしてランティクス帝国から同盟の打診を受けております」


 ……あー、はいはいはいはい!


 そっちの二国ね!

 

 だよね!


 そりゃ北側に位置するランティクス帝国からも声かけられるよね!


 南側が不安定になるとランティクス帝国もこっちに戦力回さんといかんもんね!


 予想通り過ぎて怖いわ!


「我が国は帝国、聖国の両方と国境を接しておりますし、お互いに我が国と軍事同盟を結べば相手を牽制することが出来ます」


「レグリア王国のこの位置、それぞれの領土に食い込んでいるとも言える。両国にとって非常に目障りな位置にあるな。お互いに手を伸ばしたいが妨害は必至という訳だ」


 魔王国という脅威があるのにお互いに隣国を信用していないという訳だ、実に愚かで実に分かりやすい連中だね!


 予想通りだわ!


「はい」


「概ね周辺国との関係は分かった。同盟国と言えば聞こえは良いが、実質はどちらの手を取ろうと属国扱いと言った感じだろう?」


「実情はそうなります。そして、どちらかの手を取ればもう片方から制裁を受けるでしょうし……」


 そう言って苦しそうな表情を見せる王女さん。


 そうなった時、同盟を結んだ方は恐らく助けてはくれない。


 国土を、民を真っ二つに割り、両国の代理戦争の舞台とされるだけだ。


 しかしまぁ、色々聞いておいてなんだけど……王女さん、めちゃくちゃぶっちゃけて来るよな。


 属国か。


 うちのお隣の国は属国だけど、そこの王様は毎週最低でも一回は宗主国の王城で美味しそうにご飯食べてるよな。


 まぁ、それは特殊に過ぎるのだろうし、本来の属国ってもっと悲惨な扱いを受けるらしいし……受け入れ難いものだろう。


 王族も貴族も民も塗炭の苦しみだとか……王女さんが苦しそうな表情を見せるのも仕方がない。


 民からすれば併呑されてしまった方が楽だとか……まぁ、国にもよるんだろうけど。


 敗戦国の民を併呑しておきながら虐げるとかも、普通にあるみたいだしね。


 それにしても魔王国に帝国に聖国。


 聞けば聞く程酷い状況だね。


 そんな国でクーデターまで起こして……王女さんは何をしたいのかねぇ?


 権力欲でない事は……今までのやり取りからも分かるけど。


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