第11話 レグリア王国と周辺国



「召喚の経緯は以上となります」


 権力争いで勝てば官軍を狙い召喚を行ったら、どっかの王様がやってきたと。


 んで、流石に王様誘拐はやべえと思って召喚後即殺そうとして失敗……クーデターを起こした王女さん達に追いつかれて捕縛。


 何処の世界にもアホはいるもんだが、それに巻き込まれる側は溜まったもんじゃないな。


 今回の件で一番の被害者は俺達エインヘリアだが、この国の民も被害者だろう。


 アホ共を逃がした王女さん達は……彼女達からすれば被害者だろうが、俺からすれば加害者とまでは行かなくとも原因の一つと言っても良い。


 ……エインヘリアに残っているうちの子達からしたら、主犯格の一人かもしれないけど。


「……そうか。では次に、この国や周辺国について話しを聞かせて貰おう」


 とりあえず召喚された経緯は分かったので、今度はこの辺りの情報収集を始めるとしよう。


 俺達が帰還する……あるいはフィオ達が俺達を見つけるのに役立つかもしれないからね。


「畏まりました」


 尊大な俺の態度に一切嫌な顔をせずに対応してくる王女さん。


 まぁ、それも当然か。


 クーデターを起こした理由は知らんけど、王都の様子を見る限りダメな王や上層部を排除する的な感じだったのだろう。


 ……その結果、クーデターを切っ掛けに国が滅びるのだから、上層部の自業自得と言えばそれまでだけどね。


 俺の帰還が果たされれば……間違いなくこの国は亡びる。


 こればっかりは、俺がどうキリク達を宥めようと確定事項だし、そもそも宥めるつもりもない。


 俺がストップをかけるのはこの国を土地ごと消滅させるとか、民も皆殺しとか……そういう責任を波及させることだけだ。


 俺を召喚した連中は確実に全員処刑だし、この王女さんも……それなりの対応はせざるを得まい。


 個人的には、王女さん達側まで処刑はしたくないけど……その辺は説得次第か?


 そんな事を考えていると、王女さんは傍らに置いていた紙をテーブルの上に広げる。


 羊皮紙か……エインヘリアの城では普通にA4サイズの上質な植物紙が使われているけど、場所によっては羊皮紙も使われているんだよね。


 まぁ、うちでは羊はいくらでも採れるから……羊皮紙は加工の手間の方が問題だろう。


 皮は沢山取れても職人の数は増えないからな。


 結局値崩れはしていないけど……今後の事を考えるなら植物紙も事業として立ち上げるべきだろう。


 流石にいきなりペーパーレスの時代にはいけないだろうし、今後学校を卒業した子達が社会に出ていったら読み書き計算の出来る人材が一気に増える。


 書類や表の書き方も教えているし……確実に多くの紙が民の間でも使われていくようになる。


 そうなれば、城のよろず屋からの供給では間に合わなくなる日が必ず来るだろう。


 その辺イルミットに言っておかないとな。


 召喚された先でも国を想って事業を考える……覇王マジ覇王だわ。


 広げられた羊皮紙を見てそんなことを考えていたのだが、思考を切り替えその紙に描かれているものに意識を向ける。


「地図か……?」


「はい。この国と周辺国を描いた物になります」


 地図といっても本当に大まかに周辺国の位置を書き記した物に過ぎないようだけど、今はそんな情報だけでも値千金と言えるだろう。


 問題は……文字が読めないのでレグリア王国がどれかってのも分からないところだが。


 普通は自国を中心に書くよな?


 ってことは、この一番でかい国か?


 俺がそんな風にあたりを着けていると王女さんが地図の一か所を指し示す。


「ここがレグリア王国になります」


「ふむ」


 王女さんが指し示した場所、それは地図の左端の方にある国だった。


 国の大きさは……この地図に書かれている中では三番目に大きい。


 でも一番目と二番目がでかすぎるな。


 特に一番でかい国はレグリア王国の三倍くらい広そうだ。


 まぁ、大雑把過ぎる地図だから縮尺とかは適当そうだし、実際の所はわからんけどね。


 ただ少なくとも自分達よりも強国が二つ、それ以外は自分達と同等かそれ以下……そういう風にレグリア王国は考えているということだろう。


 といっても、国名みたいなのが書いてあるのは西側の六ケ所くらいだけどね。


 ……左側が西だよな?


「御覧の通り我が国は大陸の西の端にあり、ここより西は世界の端と呼ばれるルーレアン連峰です」


 そう言って地図の左側を指で撫でる王女さん。


「王都へとやってきた折、遠方に山が見えていませんでしたか?」


「あぁ、随分と高い山がずっと続いていたな」


「あれがルーレアン連峰です」


「なるほど、世界の端とはよく言ったものだな」


 まぁ、普通に山を越えることは出来ると思う……飛行船を使えばね。


 しかし、歩いて越えろと言われたら……フェルズであれば大丈夫だとは思うけど、相当キツイ山登りになりそうだ。


 かなり遠くにうっすらと見えていたのだけど、そんな距離から見ても壁のように感じる高さだったしな。


 俺の感想に満足したのか、少しだけ表情を柔らかくした王女さんだったがすぐに顔を引き締めて説明を続ける。


「我が国の南には同盟国であるヒエーレッソ王国。そして北には大陸最大の国ランティクス帝国が存在します。そして帝国の北西にギボトゥス部族国。我が国を合わせた四か国がルーレアン連峰に沿うような形で存在します」


 自国に近い位置から一つ一つ指で示しながら国名を挙げていく王女さん。


 四か国……地図を見た感じ名前が書かれていない空白地帯がちらほらとあるみたいだけど……それを尋ねる前に王女さんはレグリア王国の東側にある国を示す。


「こちらはオロ神聖国。大陸で広く信仰されているオロ神教の総本山です。帝国と聖国……この大陸における二大強国で、領土こそ帝国の方が広いですがその国力は五分五分といったところです」


 宗教国家……しかも武力もしっかりあるタイプ。


 あぁ、嫌なタイプ。


 関わりたくない相手だけど……この国に手を出すならそうも言ってられんよな。


 国を潰すだけとか無責任な事は出来ないし……潰したらここはエインヘリアの飛び地になる訳で……そしたら隣に宗教国家……めんどくさいわぁ。


 いっそのことそこも潰しとくか?


 って待て待て、ここに来てからめちゃくちゃ物騒な思考になってるぞ。


 エインヘリアから切り離されただけでこんなに不安定になるのか……。


 しかし二大強国に挟まれた状態か。


 シミュレーションゲームで考えると中々厳しい立地だな。


 しかも片方は宗教国家。


 恐らく敵対したら領内で一揆的な蜂起が起こったりするだろう。


 武力や権力をしっかりと確保している宗教ってほんと嫌いだわ……フェイルナーゼン神教の清廉さを見習ってほしい。


 変な思想持ち……いや、外部の人間からしたら理解出来ない思考回路を持つ相手はエルディオンだけで充分だわ……。


 まぁ、今のところ敵ではないけど……レグリア王国領を取ったら、確実に絡んで来る立地だもんな……。


 めんどくせぇ……。


「東方の国については以上です」


 そんなこと考えてたら説明終わってた……。


 ま、まぁ、東の方は名前が書き込まれていない小国がちらほらあるだけで、王女さんも国の名前をあげるだけだったし……別に良いよね?


 後六個目のなんか書いてある場所……聖国とやらの中にポツンとあるけど……これはあれか?聖地的な?


 ……後でプレアかウルルにさりげなく聞いておくか。


 なんとなく王女さんの指がその辺を撫でていた映像の記憶があるし、説明済みの筈だ。


「東の小国はともかく、西側にちらほらとある空白地帯はなんだ?」


 とりあえず聞き逃した部分はさて置き、直近で関係のありそうな疑問を尋ねる。


 東の方はぼーっとしてて聞き逃したけど、西の方は間違いなく何も言ってなかった。


 間違いない。


 覇王はそこまで抜けていない!


 ……と良いなぁ。


 若干、聞き逃してただけで説明してた?とドキドキしていると、王女さんは一瞬悲しげな表情を見せた後口を開く。


「西側……ルーレアン連峰に隣接する位置にある空白地帯は……近年までそれぞれ小国があった場所になります」


「近年までということは滅んだということか。しかしそれならば何故近隣国が併呑していないのだ?他の小国ならいざ知らず、ランティクス帝国ならば領土を広げる余裕もあるのではないか?」


 うちの大陸の……スラージアン帝国みたいにパンパンまで領土を広げているって可能性もあるけど、それでも国が滅んで出来た空白地帯をそのまま放置するとは考えにくい。


 変な輩が旗揚げする可能性もあるし、何より国が滅んでもそこに住んでいる人たちまで消えてなくなるわけじゃない。


 そこに住む連中が庇護を求めてきてもおかしくはないのだ。


 この世界……魔物やら野盗やらと、一般人がのんびりと過ごすには危険が多すぎる。


 国の庇護下に入らずに生きるのは、村はおろかそれなりに大きい街でも恐らく不可能だろう。


 何せ、国の庇護下にあっても集落間の移動は非常に危険が多い……その辺の事情はこちらの大陸も同じはずだ。


 貧すれば鈍する。


 国の庇護下にあっても危険が多いのに、その庇護する国がなくなれば状況の悪化は加速するばかりだろう。


 食いっぱぐれた者達が徒党を組んで貧しい者達から物を奪い……後には死体が残るか新たな野盗が生まれるかという連鎖。


 最終的には野盗の国が生まれる……まぁ、国の起源なんて基本そんなもんか。


 だが周辺の国としてはそんなもの認めるわけにはいかないだろう。


「確かに帝国はその領土を広げる余裕はあるでしょう……ですが実は、大陸西側にある空白地帯はある勢力の支配地域となっているのです」


 ……それは空白地帯ではないのでは?


 そう思ったのだが、俺は余計な口は挟まずに王女さんの話に耳を傾ける。


「有史以来、ルーレアン連峰を越えようとした人や国は数多ありましたが、その悉くが失敗に終わっています。かの霊峰には強力な魔物が住んでいる他、環境も人にとって決して優しいとは言えず、志半ばで引き返してきたのならまだ良い方で、大多数はその消息を絶っております」


 突然山の厳しさについて語りだした王女さん。


 ……なるほどね。


 つまり、ある勢力ってのは……魔物か。


 五十年前に英雄を呼び出したのも魔物による大侵攻が理由だったし……滅ぼされた国は英雄というカウンターウェポンを用意できなかったということか。


 二大強国である帝国も、魔物が跋扈する土地を再び人の手に取り戻すという面倒な仕事はしたくないと……。


 俺が得心がいったという様に頷くと、それが王女さんにも伝わったのだろう真面目な表情をしたまま王女さんも呼応するように頷いて見せる。


「お察しいただけた通り……ルーレアン連峰の向こうより、我々の認識していなかった国……魔王国を名乗る軍勢が各国に攻め込んできたのです」


 ……お察しとは?


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