第10話 召喚された理由



「改めまして、エインヘリア王陛下。此度は多大なるご迷惑をおかけしたこと大変申し訳ございません」


 案内された一室に入ったところ、もう何度目か分からない謝罪の言葉を発する王女さん。


「謝罪は不要だと言っているだろう?それよりも、何故このような事が起きたのか、レグリア王国とはどういう国なのか。この土地はどういう場所なのか……そういった話を聞かせてくれ」


 頭を下げる王女さんにため息交じりに俺が言うと、頭を上げた王女さんが真剣な表情で口を開く。


「畏まりました。今回エインヘリア王陛下を我が国に召喚してしまったのは、我が国に伝わる逸話……五十年程前、三代前の王の御世に国難に見舞われ、それを打破するために英雄召喚の儀式を行い国を救ったという逸話が元になっております」


「英雄召喚か……」


 その英雄ってのがこの国にとっての英雄なのか、それとも俺達の大陸で言うところの英雄なのか……って感じだが、まぁ、何にしても昔から誘拐行為を行っていたってことだな。


「英雄召喚は古代遺跡と呼ばれる遺跡に、数年単位で貯め込んだ魔力を注ぎ込むことで発動が可能となる儀式です。今回の儀式には十八年分の魔力を注ぎ込んでおりました」


 十八年って……中々の年数だな。


 しかし、発動までに十八年もかかるんじゃ、国がヤバいってなってから儀式行おうとしても絶対に間に合わないよね。


 それとも常に魔力を貯めまくってるとか?


 いや、前回が五十年前なのだとしたら、その儀式の直後からまた溜め始めればいい訳で……十八年って中途半端だな。


「古代遺跡に注ぎ込むために貯めている魔力ですが、これは王が代替わりする際に全て使用する習わしとなっておりまして、新たな王が即位すると同時に貯めた魔力は空となります。新たな王が戴冠するタイミングで膨大な魔力を使い奇跡を起こす……基本的には枯れた土地を肥沃な土地へと変えたり、大規模な治水工事や荒れ地の開墾に使われることが多いです」


 俺の疑問が伝わったのか、それとも既定路線なのか……王女さんは淀みなく疑問に感じたことを解説してくれる。


 ふむ、貯めた魔力は別に召喚に使わなくても他の事に使えるのか……それ中々便利やない?


 国民に魔力を貯めている事を知らせているかどうか分からないけど、代替わりの際の人気取りとしては相当良い感じだろう。


 わざわざ遺跡を聖域指定しているってことは、召喚の詳細は公にはなっていない。


 もしもの時の備えではあるけど、その備えを国民には知らせずにやっているとすれば……効果は絶大だろう。


 中々うまいやり方だ。


 英雄召喚は宝くじみたいなもんだし、メインは公共事業系に回すための貯蓄だろう。


 即位してすぐ大規模な事業で高評価を得られれば、余程下手こかない限り人気はばっちりだろうし……いや、今の王は間違いなく人気ないな。


 王都があの様だ……よっぽど下手こいたに違いない。


 それになんというか……物凄い小者臭してたしな。


「つまり十八年前に即位した王が、在位の間に貯めていた魔力を使って召喚を行ったと……その魔力というのは王本人が貯めていたのか?」


「いえ、貯めていたのはこの国の民です」


「民が……?」


 それって魔力収集装置的な?


「我が国では満月の夜、決められた施設で一晩を過ごさなくてはならないという決まりがあります。いかなる理由があろうとこれに違反すると一度目は罰金、二度目は禁固刑、三度目は死刑が課せられます」


「……その施設で魔力を徴収していると?」


「……はい」


 うちの魔力収集装置の方が効率的みたいだけど、魔力を徴収する方法があるのは驚きだな。


 そしてそれを十数年単位で保存しておけることも。


 王都を見た感じ、今にも崩れそうな国ではあるけど……魔法系の技術に関しては俺達の大陸よりも先を行っている気がするな。


 これは……その技術をゲット出来たら中々面白いかもしれん。


 この国に興味はなかったけど、やはり話はちゃんと聞いてみるものだね。


 意外と良い拾い物になるかも……いや、別にゲットしたわけではないけど。


「なるほど。民から強制的に集めた魔力を使って新王は人気取りをすると。中々面の皮が厚い……いや、悪いと言っているわけではないがな?」


「そういう側面がある事は否定できません。ですが、この政策は民に還元するためのもの……けして王侯貴族の私利私欲のために使うものではありません」


 ……生真面目な様子でそうおっしゃる王女さんだけど、正直私利私欲が無いとは欠片も思えないな。


 そもそも自勢力……派閥や自分の家の為、利権を求めるのは当たり前の考え方だしそれら全てが悪い事という訳でもない。


 道の敷設だろうと開墾だろうと治水だろうと開拓だろうと、それをすることによって経済は回る。


 まぁ、その貯めた魔力を使った作業がどういう物か分からんが、人気取りに使えるくらいの事業となるのだとすれば上の連中の利権が絡んだとしてもそれなりに民にも恩恵があるのだろう。


 結果を見れば、自分の懐は痛めずに人気を取りつつ民の暮らしを豊かにする……完璧としか言いようのないやり方だな。


 勿論、豊かになった分もっと沢山搾り取れるや……そんなアホな事を考えて増税とかしようもんなら人気も税収も駄々下がりだろうけど。


 ……やってそうなぁ、今のレグリア王。


 それはそうと……。


「しかし、代替わりの直後に召喚を必要とする事態になった時はどうするんだ?」


「……本来、召喚を必要とするということは、国が亡びる程の国難に見舞われていると言う事です。以前召喚が行われた際は……西の山からおびただしい数の魔物が国に押し寄せ、数日で西側の村や街は悉く滅ぼされ、魔物の群れはこの王都にまで迫ったそうです。その折に時の王が行った儀式で異世界より英雄が召喚されました」


 ……異世界ねぇ。


「英雄の力は凄まじく、あっという間に王都に迫っていた魔物の群れを駆逐。さらに国の西側に入り込んだ魔物を数年かけて倒してくださいました。その後英雄は西方守護として我が国の貴族に封ぜられております」


「それが国を救った報酬ということか。その英雄は帰る事が出来なかったのだな」


「……はい。本人がそれを望まなかったと聞いておりますが……」


「なるほどな。俺はそういうわけにはいかんが、本人が納得したのであれば問題なかろう」


 微妙に気まずそうに言う王女さん。


 まぁ、その英雄が何処から呼ばれようと別にどうでも良いし、その後の人生もどうでも良い。


 王女さんが気まずそうにしているのは……帰還する方法が分かっていないからだし、何より絶対に俺を帰還させなければならないからだろう。


 本人が本当に望んだのかどうかは分からないけど、前回の召喚者が帰っていないというのはあまり俺に伝えたい情報ではなかった筈だ。


 本当にこの王女さんは馬鹿正直というか……それを装っているのでなければ、あまり為政者向きの性格ではないね。


 いい人ではあるのだろうけど。


「それで、今回の召喚は何故行われたのだ?」


「……今回、エインヘリア王陛下をお呼びした召喚は……国が必要として行った儀式ではありませんでした」


「どういうことだ?」


 俺が首をかしげると、王女さんは今までで一番沈痛な表情を見せる。


「実は……我が国では先日政変がありまして、王とその側近……つまり国の上層部に対し武装蜂起が行われました」


「ほう。穏やかではないが……なるほど。その武装蜂起の旗頭は貴様か」


「御慧眼の通りです。極力血を流すことなく蜂起を成功させ、父を含む王派閥の者達を捕縛……その後は蟄居させ譲位する予定だったのですが、後処理のごたごたで逃亡を許してしまいました」


「随分とお粗末な話だ」


 普通、最重要人物をそんな簡単に逃がすか?


 反撃されたら普通に王女さん達は反逆者だし、それでなくとも王を担ごうとする勢力は王派閥の連中だけではない筈だ。


 これを機に勢力拡大……もっと分かりやすく実権を取りに行こうと野心を持っている連中はいくらでもいるだろう。


「王側についた宮廷魔導士に幻惑の魔法をかけられ、逃げられたことに気付かなかったのです」


 ……宮廷魔導士って、召喚された直後に声をかけてきた奴だよな。


 ふむ……人が使う魔法に関してもこっちの方がうちの大陸よりも上手く使っている気がする。


 うちの大陸は基本的に攻撃魔法しかないからな。


 それ以外の魔法となると……リズバーンや何色か忘れたけどエルディオンの将軍が使う空を飛ぶ魔法とか、フェイルナーゼン神教が管理している回復魔法くらいか?


 俺としては爆発したり切ったり引き裂いたりするような魔法よりも、もっと色々な可能性を求めて貰いたい。


 俺は使えないだろうけど……いや、使える可能性もあるのか?


 ……レギオンズの魔法はがっつりゲームの魔法!って感じの攻撃魔法が殆どだからな。


 幻属性の魔法だけバフデバフって感じのやつがあったけど……そこまで応用が利く魔法ではないか。


 まぁ、燃やしたり凍らせたりするだけよりは使い道があると思うけど……もしこの世界の魔法も使えるようであれば、エインヘリアの更なる戦力強化に繋がるだろう。


 ……これ以上の戦力が必要なのかどうかはさて置き。


 まぁ、ほら……停滞はよろしくないからね。


「気付いた時には既に王と一部の有力者たちは王都を脱し、聖域へと向かっておりました。恐らくですが、儀式を執り行い英雄を召喚し、自分達の味方につけ権力を取り戻そうとしたのかと」


 俺がそんなことを考えている間に王女さんの話は進む。


 他の勢力に助力を求めず、自勢力で一発逆転のギャンブルか……うん、九割九分九厘そのまま破滅するパターンだな。


 実際破滅したし。


 それにしても……。


「……随分とくだらない理由で召喚されたものだな」


「……返す言葉もございません」


 まぁ、どんな理由があろうと許すつもりはないけど……せめてもうちょいマシな理由で召喚されたいところだ。


 別に国の危機を救ってくれ的な展開を求めはしない。


 そんな事にかかずらっている暇はない……エインヘリアの王様はなんだかんだで忙しいのだ。


 いや、世界レベルでやべぇって言うのであれば、手を貸さないでもないけどね?


 この国も……エインヘリアと同じ世界に存在しているみたいだし。


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