第9話 死ぬかもしれん



 レグリア王国に召喚された翌々日、俺は王城へとやって来ていた。


 俺達が召喚されたあの遺跡はレグリア王国の聖域だったらしく、国によって厳重に管理された森の中にあった。


 管理されているだけあって、森の入り口から遺跡までの道はしっかりと作られていたし遺跡周りは公園の様に整えられていたようだ。


 どうりで森って言うほど深くなさそうって印象を受けた訳だね。


 それはさて置き、遺跡のあった森は王都から少々距離があり、森の中から王城まで馬車で一日以上かかった。


 そう……馬車である。


 俺……馬車……嫌い……身体……痛い……。


 ルフェロン聖王国に初めて行った時もそうだったけど、ほんと他所んち行くと馬車移動があって辛いよな。


 しかも休憩を挟んでいるとはいっても一日以上……危うく馬車に乗り殺されるところだった。


 せめてもうちょっとこう……快適な馬車と舗装された道を用意してもらいたい。


 まぁ、フェルズの身体スペックのお陰で、実際体が痛かったりはしていないと思うんだけど……精神的な物だよね。


 ほんともう……馬車から降りて走るって言うのを堪えるが大変でした。


 まぁ、馬車の中で俺は大事な仕事をしないといけなかったから、乗り心地をずっと気にしていられた訳でもないんだけどね。


 俺とプレア……そしてずっと隠れていたウルルの三人しかいない馬車の中、俺はエインヘリアでやきもきしていたキリク達への連絡を行った。


 キリクやイルミットやアランドールはとても冷静……表向きは冷静だった。


 しかし、言葉の端々に物凄い怒りの感情を感じさせられて……結構宥めるのは大変でした。


 実は沸騰しているのに表面上はまだしていないように見える、しかし何かのきっかけで一気に弾けるような……そんな冷静と激情を同居させた怒り。


 理科の実験とかで使う突沸を防ぐ石……アレが必要だと思う、


 あれなんて名前だったっけ?


 まぁ、それはさて置き次にカミラとエイシャ。


 この二人はもう……烈火のごとくという表現が弱火程度に感じられるほどブチ切れておりました。


 こちらは宥めるのが不可能じゃないですかね?ってくらいの怒り様でしたが……がんばった。


 覇王とてもがんばった……滅茶苦茶頑張った。


 その結果、何とか二人とも納得してくれたんだけど……何故か俺が何でも一つ言う事を聞いてあげることになったんじゃが?


 解せぬ。


 誘拐された上に怒りを宥める為に言葉を尽くし、その挙句何でも言う事聞きますって約束させられるって……踏んだり蹴ったりじゃないですかね?


 まぁ、約束した以上それは守るし、ブチ切れた二人に我慢をさせる訳だから……安い出費と言えるだろう。


 二人とも……何を願うか予想出来ないけど、妙な事は言ってこないだろうし、問題はないと思う……多分。


 ……。


 大丈夫だよね?


 そんな心配もしつつ、俺は他の子達に……一人一人丁寧に説得して回った。


 皆ガチでぶち切れていて、直接……アビリティ越しではあるが……声をかけて本当に良かったと思う。


 そんな中でも本当に大変だったのは……リーンフェリアとオトノハの二人だろうか?


 二人とも……それはもうボロボロと泣いて中々会話にならなかった。


 特にリーンフェリアはほっといたら自殺しそうな勢いだったけど……以前、死ぬことは責任を取る事にはならないと言っておいて本当に良かったと思う。


 俺が召喚された時、リーンフェリアは会議室のドア付近にいたから俺を守ることが出来なくても仕方がなかったと思うんだけど、リーンフェリア的にはそもそも傍に控えていなかったことが問題だったのだろう。


 この二人に関しては宥めるというよりも励ますというか……他の子達とは違った方向に大変だった。


 リーンフェリア達には……ゲーム時代のエンディングの記憶があり、そのエンディングの中で覇王フェルズは皆の前からいなくなってしまう。


 だからこそ、エインヘリアの皆は俺が居なくなることに対して物凄い拒絶反応というか、恐怖を覚えている。


 そんなリーンフェリアに、俺は絶対に居なくならないって約束したんだけど……御覧の有様である。


 そりゃぁもう……覇王の面目丸つぶれだし、皆には本当に申し訳ない事をしたと思う。


 あの召喚した連中マジで許さん。


 そんな感じで、なんとかうちの子達全員に連絡を取って無事を伝えることが出来たのだけど、一通り声をかけ終わる頃には既に日が昇り切っていた。


 それから仮眠を取りつつ、今度はスティンプラーフ地方にやってきた船団に関する報告書を確認……船員は全員捕虜にして船も全部鹵獲したとのことで、問題らしい問題はなかったようだ。


 予定通りクーガーを交渉役として前に立たせ、にこにこと何を言っているのか分からない振りを続ける。


 まぁ、細かい内容はさしものクーガーも分からないだろうけど、相手の表情や態度で凡そ言いたい事は分かったようだ。


 しびれを切らした相手が暴発しこちらに攻撃を仕掛けてきたので、さくっと返り討ちにして捕縛したとのことだった。


 相手は小舟十二舟に五人ずつ、計六十名で上陸。


 偉そうな奴が三人と残りは普通の兵だったようだけど、ある意味予想通りというか……敵兵の武装は剣と銃だったようだ。


 ゲーム時代に銃を使う固有キャラが居たので、うちの子達は銃の存在は知っている。


 その固有キャラは性能的にはそこそこ……戦争では弓兵として登録されていたけど、他の弓兵に比べると射程が短く火力が高いという感じだった。


 当然、今回の連中の銃は鹵獲済み。


 調査はこれからだけど、威嚇射撃を見た感じ火薬式ではなく魔法を撃ち出す銃のようだ。


 詳細はこれから調べるとの事。


 他にも船には大型の大砲が搭載されていて、こちらも魔法式のようだけどこちらは威嚇射撃もさせていないのでこちらも調査後に報告。


 これから王都に送って取り調べを行う……報告書はそこで終わっていた。


 流石リオ……うちの中でもトップクラスの真面目さだからな。


 報告書の作成速度が半端ない。


 なんだったら敵が動く前から報告書作ってたんじゃないの?ってくらい早い。


 とりあえず連中に関しては取り調べ後にキリク達と打ち合わせだ。


 言葉が分からない相手への取り調べ……どうやるんだろうね。


 まぁ、キリク達ならさくっとやってくれることだろう。


 そこに不安はない。


 エインヘリアの方は問題ない……帰還の手立てもフィオを中心に考えてくれている。


 この国とエインヘリアの時差は十時間ほど。


 まぁ、日の出だけを見た超おおざっぱなものだけどね。


 標高だの気温だの緯度だのと何にも考慮に入れてない適当なものだけど、まぁおおよその目安にはなる。


 細かい情報は落ち着いてからウルルが調査して報告って感じになるから……とりあえずエインヘリアから東に向かって探してもらう感じだね。


 ほぼ星の裏側といった感じだし……飛行船でこちらを探すのは中々骨かもしれない。


 まぁ、力技で探そうとしそうな気もするけど……ここが大陸だったらともかく、島とかだったら本当に見つけるのはきつそうだ。


 とりあえず、そんな感じで馬車の旅の間……俺は結構忙しくしていた。


 レグリア王国の王都に着いたのは夕方頃。


 馬車の窓からちらっと見えた王都の街並みは、お世辞にも発展しているとは言い難い……というか、活気が全く感じられなかった。


 エインヘリアの夕暮れ時といえば、仕事を終えた人達が意気揚々と酒場に繰り出したり、学校帰りに遊んでしまい慌てて帰路に就く子供達や晩御飯の買い物をする主婦達の鬼気迫る様子が見れたりと……一日の中で一番カオスな時間帯だ。


 そこで見られる表情は……鬼気迫る恐ろし気なものを除けば……皆幸せそうというか、希望に満ちた明るいもの。


 俺はなんちゃって覇王だけど、エインヘリアに住む人達に明るい表情をさせることが出来ているという手ごたえを感じられる……そんな光景だ。


 しかしここは違う。


 大通りも人はまばらだし、そもそも店が殆どやっていない。


 ぽつぽつと食料品を売る店もあるようだけど、気のせいか野菜とかもしなびているように見える。


 ちらほら見かける人の半数位は地面に座り込んでいるし……今にも滅びる直前って雰囲気の王都だ。


 その割には召喚直後に俺を囲んでいた連中はそれなりの身なりだったし、何より奴等にあまり悲壮感は無かったと思う。


 圧政で苦しむ民と、搾り取って裕福に暮らす王侯貴族って感じか?


 あの王女さんはそういうの嫌いそうだけど……理想だけ見ていて現実が見えていないタイプかもしれないが……まぁ、これから色々と話を聞く予定だ。


 よそ様の事情に興味はないんだけど、情報収集は必要……話は聞かんといかん。


 相手との話を聞くときはフィオに『鷹の声』を繋げておくので、俺が多少抜けていても大丈夫……聞きたい事があったらフィオが言ってくるだろうしね。


 この国自体はあまり愉快な状況じゃなさそうだし、王女さんはクーデター起こしちゃってるし……為政者として他人の失敗談を糧とさせてもらおう。


 覇王……ブーメラン投げるのは得意だけど、それに対して一切悪びれないのも得意よ?


 退かない、媚びない、顧みない!


 内心ドッキドキだけどね!


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