第7話 乱入者



 突如としてやってきた騎兵は次々と周りにいた連中を捕縛していく。


 最初はこの連中の援軍かと身構えたのだが、俺の事を素通りして周りの連中にがんがん攻撃を仕掛けている。


 いや、素通りというか……明らかに避けている感じだな。


 俺を囲んでいた連中の中には一撃かましてやった大男のように、鎧を着て武器を持った連中もそれなりに居たのだが、後からやってきた騎兵連中は全員が戦闘員で、元々ここに居た連中よりも数が多い。


 まぁ、個々人の強さはどちらもたいしたことがないし、そりゃ数が多い方が勝つだろうね。


 あちこちで魔法も飛び交っているようだけど……この混乱した状況で俺の方に一切攻撃が飛んでこないのは、少し離れた位置でこちらに攻撃が飛んでこないように必死に防いでいる奴等が数人いるからだろう。


 その連中は……全員後からやってきた連中だ。


 っていうか、暴れようと一歩足を踏み出したところでこの騒ぎ……俺としては肩透かしというか、置いてけぼりを喰らったような気分だ。


「なんだかな……」


『何か問題かの?』


 俺がため息交じりに呟くとフィオが即座に反応してくる。


「いや、俺を召喚した連中が突然やってきた騎兵に攻撃を受けている。後から来た連中は俺に害意はないようだが……」


『真意は分からぬといったところかの?』


「あぁ。どこもかしこも、権力を持っている連中は面倒臭いな」


『ほほほ、エインヘリアの最高権力者が言うと皮肉じゃな』


「うちは一極集中だから、こういう争いとは無縁だろ」


 後から来た連中は基本的にここに居た連中を捕縛しようとしているし、恐らくお互い同じ国に属する連中なのだろう。


 襲われた方は全力で抵抗しているようだけど……明らかに後から来た連中は最小限の被害に抑えようとしている節がある。


 それがい良い事なのか悪い事なのか……この捕縛劇も用意されていたシナリオなのかそうではないのか、現状俺達では判断出来ないけど……少なくとも状況が動いたことは間違いない。


「さて、どうなるやら」


 そう呟きながら俺は傍で緊張した表情のまま周囲を警戒しているプレアの方に向き直る。


「大丈夫かプレア」


「は、はい!大丈夫です!」


「こんな事態になった以上、色々と不便をかけると思うが……キリク達が迎えに来るまでの間、頼りにさせてもらうぞ」


「はい!お任せください!」


 肩のあたりで切りそろえられた金色の髪を揺らしながら、プレアが深々と頭を下げる。


 少し……いや、かなり方に力が入り過ぎているような気もするけど、ここに居るのは俺とプレアとウルルの三人だけ。


 緊張するのも無理はないか。


 頭を上げたプレアの瞳をじっと見る。


 色は……桃色か。


 金髪に桃色の目ということは、魔法の属性は光と聖。


 ゲーム時代、何十人もいるキャラの魔法属性をひと目で分かるように、髪の毛の色と目の色で属性を統一したんだよね。


 主要メンバーであればそんなことしなくても大丈夫なんだけど、まだ成長させずにキャラクターを作っただけといったメイドの子達は人数も多いし、ゲーム時代は魔法属性どころか名前もちゃんと覚えていなかった……この世界に来て全員の名前を必死に覚えたよ。


 エディットの時に色分けしていた俺……本当に良い仕事してくれた。


 それはさて置き、回復魔法である聖属性をプレアが使えるのは僥倖と言える。


 俺は普段からポーションを何個か持ち歩いているし、うちの子達にも最低三個はポーションを普段から持つように厳命してあるから、三人合わせて十個くらいはポーションを持っている筈だけど、補充が出来ないからな。


 まぁ、魔法も魔石チャージが出来ない以上使用回数に制限があるけど、一番弱い回復魔法なら殆ど鍛えていないプレアでも多分二十回くらいは仕える筈。


 最上位の回復魔法は下手したら二回くらいしか使えないかもだけど……その辺りは落ち着いたら話そう。


 俺もウルルも回復魔法は使えないからな……この辺りは慎重に。


 まぁ、俺は覇王剣ヴェルディアの効果で攻撃すれば、ある程度回復するんだけどね。


 覇王・邪神ルートはラスボスとソロで戦わないといけないこともあり、専用装備である覇王剣にはソロ戦闘向けの能力がふんだんに詰め込まれている。


 攻撃時の自己回復なんてその最たるものだろう。


 でもウルルとプレアはそういう事できないからな。


 怪我をした時にすぐに治せるポーションや回復魔法は、二人の為に使うべきだ。


 俺が怪我をしたら……二人とも全力で俺に使いそうだけど、覇王剣と時間さえあれば俺は回復可能だから後回しで構わない……って言っても聞いてくれ無さそうだよな。


 ウルルはともかくプレアは突出して強いって訳じゃない。


 この国に英雄がいるかどうかは微妙なラインだけど……まぁ、この国に限らず英雄に狙われたらプレアでは勝てないだろう。


 勿論……何が何でも阻止してみせるが。


「状況が落ち着いたら、ウルルを含めて打ち合わせをせねばな」


「ウルル様……ですか?」


 プレアが目を丸くして驚いた表情を見せる。


「あぁ。気付かなかったか?ウルルにはここに来てすぐ姿を隠すように命じていた」


「そ、そうだったのですね……」


 若干悔しそうにプレアが言う。


 いや、気付かなくても無理ないと思うよ?


 俺が姿を隠すように命じたのはまだ光に包まれている最中……あ、どっかに転移したわと気付いた瞬間だ。


 かなり眩しかったし、プレアは目をつぶっていた筈。


 それにウルルは外務大臣、プレアはただのメイドさん。


 その隠形に気付かなくても無理はない。


 ……いや、肩書だけだと意味が分からんな。


「因みに武器は何を使える?」


「は、はい!わ、私は弓を!」


「弓か。護身用に用意しなければな」


 ポーションは常備させているけど武器は常備させていないからな……プレアはメイドだし、訓練以外で武器を持つ事は無かったはず。


 武器を用意することもだが、いざという時ちゃんと戦うことが出来るか……確かめておいた方が良いだろう。


 勿論、積極的に戦わせるようなことはしない。


 あくまで自衛の為。


 まぁ、自衛の武器が弓ってちょっと使い勝手が悪い気もするけど、こればっかりは彼女をエディットした時に弓を選んでいたのだから仕方ない。


 偶々今日の会議室付きのメイドがプレアで、偶々彼女の適正に弓を選んでいたというだけで……誰が悪いという話じゃないしね。


 プレアを強化してやれないのはちょっと痛いけど……こればっかりはな。


 玉座の間じゃないと強化メニューとかを開けないのが辛いところだ。


「も、申し訳ありません」


「気にするな。突然このように召喚されることなぞ、予想すら出来なかった。メイドであるプレアが武器を所持していなくて当然だ。因みにアクセサリーは何を着けている?」


「『毒無効の指輪』です」


「このような事態だ。毒を盛られる可能性も低くはない……少しは安心出来るな」


 良かった……これもポーションの常備と同じく俺の指示だ。


 向こうでも毒を盛られる可能性はゼロではない。


 だからうちの子達は基本的に『状態異常無効の指輪』か『毒無効の指輪』を装備しておくように言ってあった。


 こういう……周りに全く味方が居ない状況で毒が効かないというのは非常に心強い。


 こちらの立場を考えれば、暗殺を狙ってくる連中は多そうだしな。


 寧ろ俺達を殺そうとするならこの場で直接殺すんじゃなくって、歓待して毒殺って方が簡単だったと思う。


 おっさん等がそうしなかった理由は……この攻めてきた連中にあるのかもしれないな。


 そんな事を考えていると、周りの喧騒が静かになってきた。


 どうやら決着がついたようだ。


 偉そうに座っていたおっさんも、通訳していたおっさんも後ろ手に縛られて……猿轡までされている。


 恐らく一番自由なのは……俺のすぐ傍で未だに悶絶している大男だろう。


 好きなだけびくんびくんしていなさい。


 ……そういえばさっきの魔法、確実にコイツを巻き込む形で撃たれたよな。


 相手方の切り札的な奴かと思ったけど、実は使い捨てだったか?


 もしコイツが武力的に厄介な奴だとしたら、後から来た連中も最優先で捕縛しようとすると思うけど……ここに至るまでその様子はない。


 まぁ、切り札にしては弱すぎたし後回しでも構わないという判断か……もしくは俺達に近づいてくるのを躊躇っているかだろう。


 そんな事を考えつつ、痙攣している大男を見下ろしていると二人の人物がこちらへと近づいてきた。


 二人ともがっつり鎧を着こんでいるけど、大男と同じく兜はつけていないので顔が見える。


 うん、二人とも女の人……一人は小柄だけでキリっとした感じで前を歩いている。


 少女と言うほど幼くはなさそうだけど、大人の女性と呼ぶにはやや若い……まぁ成人はしているのだろうけど。


 パールディア皇国のリサラ皇女より若干上で、フェイルナーゼン神教のクルーエル教皇より若干下って感じかな?


 もう一人は見た目はゆるふわって感じだけど、背が高めで鎧姿がしっくり来ている。


 年齢は……フィリアと同じくらいに見える。


 二人ともかなりの美人さんだけど……揃ってあまり顔色がよろしくない。


 そんな二人は俺の前に来ると片膝をついて頭を下げる。


「英雄様、このような事態に突然巻き込んでしまい申し訳ありません。早急にご説明したいとは思うのですが、その前にそちらの男を捕縛させて頂いてもよろしいでしょうか」


 小柄な女性の方が丁寧に……俺達に分かる言葉でそう言ってきた。


 あのおっさんの持っていた指輪と同じ効果のものを持っているのだろう。


 言葉が通じる相手がいるのは助かるし……あのおっさんに比べるとこの女性は慇懃無礼な感じがない。


「あぁ、構わん」


 俺の返答を聞き、小柄な女性が後ろに控えていた背の高い女性にちらりと視線を送ると、すぐに女性は立ち上がり蹲っている大男を縛る。


「ありがとうございます、英雄様。この者は我が国でもそれなりの強者。暴れられると非常に厄介でしたので……」


「ふむ」


 これがそれなりの強者でしたか……。


 とりあえず、この国の武力はたいしたことないという事が判明したな。


 うちの大陸で言うなら小国か中堅国ってところだ。


「申し遅れました。私の名はレヴィアナ=シス=レグリア。このレグリア王国の第一王女です」


 ……へぇ。


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