第3話 覇王様のお仕事
落ち着け……一つずつ考えてみよう。
えっと、相手はこちらに害を成してくるかどうかは……俺達の中ではほぼ確定しているけどまだ分からない。
もしかしたら友好的に来る可能性もある。
その場合は……当然こちらもぶん殴ったりはしないので、相手は当然友好を築けたと連絡を入れる。
その後の関係は、まぁ外交次第だろう。
……この場合は、連絡されたところで特に問題はない。
いや、寧ろ連絡をしてくれた方が動きやすいと言える。
次に、相手が敵対的な行動に出てきた場合はどうだ?
さっきも考えた通り、こちらに上陸する前に本国に連絡をする……ここまでは一緒だ。
その後通信が途絶えれば、本国は占領が失敗したことを悟る。
いや、流石に先遣隊だけで大陸一つを占領できるとは考えないか。
となると……最初は足がかりを作るか、とりあえず友好的に出て橋頭堡を築くって動きかもしれん。
っていうか、いきなり攻撃仕掛けて来るよりそっちの方が普通というか……可能性が高そうだな。
本国は海の向こうで援軍や補給は簡単には届かない。
その状況で居丈高に出る奴は相当頭がおかしいと思う。
まぁ、よっぽど武力や技術力、国力に差があるなら強気に出るかもしれないけど……船五隻の戦力だからな。
ある程度の戦力は有しているだろうけど、英雄は……乗ってないと思う。
先遣隊は何が起こるか分からないし、切り札とも言える英雄を乗せることはまずないだろう。
……他所の大陸にも英雄がいるかどうかは知らんけど。
それはさて置き、侵略パターンの場合、先遣隊から連絡が途絶えた本国は……少なくとも先遣隊を潰すくらいの戦力がこの大陸にあると考えるだろう。
となると次の動きは……再び調査団を送る?
少なくとも相手は何かを求めて海を渡った筈。
土地か人か資源か……攻撃をしてきた以上、奪う事を主に考えて行動している勢力だ。
先遣隊が潰れたなら次を送り込んで来るかな?
それとも使節団を派遣してきて言い訳をするか?
まぁ、どちらにせよ……一度攻撃をしてきた以上、徹底的に戦う事になるから相手の次の動きがどうだろう関係ない。
俺達……エインヘリアに攻撃してきた以上、ぶっ潰すだけだ。
……この大陸では考えられない程化け物揃いの国だったら嫌だなぁ。
でも流石に生まれた大陸が違うからと言って、そこまで人としてのスペックが変わる事はないと思う。
この大陸でも一般人と準英雄、そして英雄の間にはそれぞれ越えられない壁が存在するし、魔神という存在もいる。
英雄と魔神では、肉体的な能力は魔神の方が優れている。
しかしそこは越えられない壁という程ではないし、各々の技量次第であっさりとひっくり返る。
そんな魔神や英雄といった存在からさらに越えられない壁の向こうに、うちの子達は存在するんだけどね。
外洋船とはいっても、木造帆船クラスの技術力でうちの子達をどうこうするような兵器が作れるとは思えないし……海の向こうにも英雄がいたとして、そこまで脅威ではない……はずだ。
元の世界の記憶から考えればあり得ない程個々人のスペックに大きな開きがあるけど、その振れ幅から大きく逸脱した位置にうちの子達はいる。
それは生まれた大陸がちょっと違う程度では埋められない開きだ。
因みにこの大陸でランク分けをするなら……弱い順に、一般人族、一般エルフ、一般ゴブリン、一般ドワーフ、一般ハーピィ、魔族、一般兵、武勇に優れた将、初期値のうちのメイド、準英雄、鍛えてしまったうちのメイド、英雄、魔神、戦闘部隊のうちの子達……ざっくりこんな感じだろうか?
大枠で適当に言っただけで、個々人で入れ替わったりはするだろうけどね。
この中で越えられない壁があるのは……武勇に優れた将と初期値のうちのメイドの間、準英雄と鍛えてしまったうちのメイドの間。
最後に魔神とうちの子達の間だ。
まぁ、初期値のうちのメイドや鍛えてしまったメイドは、その気になれば壁をひょいひょい乗り越え……いや、叩き壊して最上位である戦闘部隊のうちの子達の所まで行っちゃうけどね。
その為には魔石を大量に使って能力値やアビリティをしっかり整える必要があるけど、今のエインヘリアの収入であれば不可能ではない。
現在の収入から考えれば……多分一年と掛からずに初期値のメイドが最強の仲間入りを果たすことだろう。
……それで……なんだったけ?
……。
あぁ、そうだ。
こちらに手を出してきた時点でぶっ潰すわけだから、相手がどう出ようと関係ないな。
別に海を越えて奇襲をかけたいわけじゃないし……。
いや、普通であれば欺瞞情報を流したりして有利を取るものなんだろうけど……まぁ、その辺はキリクに任せるか。
とりあえず通信手段を持っているかもって話だけ伝えておくか。
「キリク。船に本国と連絡が取れる様な物があるかもしれないな?」
「通信機能を持つ何かですか?」
「あぁ」
キリクは考えるそぶりを見せたが、それは本当に一瞬の事ですぐに頷き口を開いた。
「私はその可能性は低いと考えております。ですが、仮に本国と通信を取れるような何かがあった場合……非常に面白いですね」
どうやら一瞬あった間は、通信設備があるかどうかではなく仮にあった場合どう利用してやろうかってのを考える時間だったようだ。
頭の回転が早すぎてこわ……いや、頼もしい。
「くくっ……俺もその可能性は低いと思うが、もし通信技術を持っていた場合は任せるぞ?」
本日二度目の伝家の宝刀をあっさりと抜く覇王。
眼鏡をクイっとする参謀。
うむ……実にいつも通りだな!
俺とキリクが満足気な笑みを浮かべていると徐にウルルが立ち上がり、会議室のドアの方へと向かう。
これはアレだな。
誰かが情報を持ってきたとか……そんな感じだよな。
俺は相変わらず気付かなかったけど他の皆はさも当然って顔しているし、扉の脇に控えている近衛騎士長のリーンフェリアも全く反応をしない。
部屋の中から外が見えない様に……あるいは外から中が見えない様に少しだけ扉を開いたウルルが報告を受けている間、俺は少し別の話をすることにした。
「そういえば、ブランテール王国のレイズ王太子から、国内がようやく落ち着いて来たからそろそろ属国化の話を進めたいと打診があったな」
「現ブランテール王は万能薬で体調は治ったとはいえ高齢。譲位の前の……最後の仕事として属国となり、エインヘリアと親交のあるレイズ王太子に後を任せたいと以前から言っておりました。時期的には良い頃合いかと」
そんな話は以前から聞いていたけど……属国かぁ。
正直属国になってもらう利点が全然分からん。
エファリアやリサラ……ルフェロン聖王国やパールディア皇国はうちの属国だけど、特に何かこういう政策を取れとか指示してはいない。
まぁ、魔力収集装置の設置や関税に関することなんかは推し進めているし、両国間の移動の自由なんかもこの大陸の常識からすればあり得ない事みたいだし、色々押し付けていると言えば押し付けているのか?
でも同盟国であるブランテール王国もほぼ同じ条件なわけで……属国でも同盟国でも扱い殆ど変わらんくね?
ただ国民感情的には属国よりも同盟国の方が良いだろうし……わざわざブランテール王国が属国になる必要はないと思うんだけどなぁ。
勿論属国が攻められるようなことがあれば、エインヘリアは宗主国として救援しなくてはならないけど……少し前と違って周囲に敵対している国は存在しないし……庇護下に入るメリットって無さそうな気がするんだが。
同盟国であってもこちらとしては助けることは変わらない。
いや、それは俺だから言えることか。
向こうの立場からすれば、圧倒的な強国に周囲を囲まれている状況……同盟国として独立していてもいつ攻められるか分かったものじゃないって恐怖は付きまとう。
だったらいっそのこと、対等な関係ではなく傘下に入るという形で国を残したほうが良いと考えても不思議ではない。
何と言ってもエインヘリアは四年足らずで十カ国以上も滅ぼした、超好戦的な国だからね。
でも、そんな状況なのにわざわざ属国になりたいって言ってくるのだから、そこには何かしらのメリットがあるのだろうね。
勿論、俺達にも理由があったからではあるが……滅んだ国の面々からすればそんなこと知った事かって感じだし、同盟国とは言え周囲をそんな国に囲まれていてのほほんとしていられる為政者はいないだろう。
元々ブランテール王国からは、同盟を結んだ時点で将来的には属国か併合かみたいな話はあったし……何にしても、平和的に事が進むのであれば俺としては文句はない。
今後は、海の向こうとやり合う訳だしね。
国内は安定してくれている方が助かる。
……まぁ、俺達の目が外に向いていると判断して動き出す連中も出て来るだろう。
しかし、そういった連中には外交官見習いと治安維持部隊が連携して事に当たる。
彼等はそう簡単に出し抜ける様な練度ではないし、隙があるように見えたのなら……それは確実に罠だよ?
まだ見ぬ国内の火種に若干の同情を覚えつつ、俺はイルミットの方に視線を向ける。
「ブランテール王国の件は任せる」
「畏まりました~。属国の条件は既に話してありますので~フェルズ様には~調印の時のみご足労いただければ~」
「あぁ、そのくらいはこなしてみせよう」
俺が肩をすくめて言うと、イルミットもにっこりと微笑む。
……調印は、手が震えないようにするのが一番難しいんだ!
だからそのくらいなんて冗談っぽく言って見せたけど、実はかなり難しい仕事なんじゃよ?
俺はふと目に入ったお茶に手を伸ばしながら、心の中で言い訳を続ける。
例えばですよ?
意識せずに、こうやってお茶に手を伸ばして飲むことは簡単です……でもね?あ、注目されてるから手が震えない様に気を付けないと……そんなことを一瞬でも考えてしまったらさぁ大変。
もう覇王の心は、お茶にさざ波を立たせないようにすることでいっぱいいっぱいになる訳ですよ。
幸い、今回の会議は緊張する程の内容でもなかったので、カップの中の緑茶は不自然な揺れ方をせずに俺の胃の中へと落ちて行った。
……どうでもいいけど、ティーカップで緑茶飲むのってなんか慣れないんだよな。
湯のみが欲しいぜ……。
緑茶をすすって飲むことも出来ないしなぁ……そんな風にしみじみしつつ空になったカップをソーサーに戻すと、壁際に待機していたメイドの子が慣れた手つきでお茶の用意をする。
それと同じタイミングで、入り口で報告を受けていたウルルが書類を手にこちらに戻ってきた。
ウルルは基本的に無表情というか、感情が見えないからな。
良い報告だったのか悪い報告だったのか、その表情からは全く読めない。
まぁ、すぐ教えてくれるだろうけど。
「……フェルズ様……リオから……報告書……」
「リオの?もう報告書が……?」
会議の最初の方に相手が動き始めたんじゃなかったっけ?
もう終わって書類まで作ったん?
早すぎひん?
俺がウルルから報告書を受け取ると、メイドの子の淹れてくれているお茶の香りがふわりと漂ってくる。
特に喉が渇いている訳じゃないけど、その香りに誘われた俺はカップに手を伸ばしながらウルルに話を聞こうと声をかけようとして……突然、俺の周りが光りだした!
「な!?」
その一言……俺が言えたのはそこまでだった。
その一言を発した直後、視界を塗りつぶさんばかりに強くなった光に包まれ……次の瞬間、まだ光に包まれていて周囲の様子は見えないものの、俺は空気が一変したのを感じた!
「ウルル!身を隠せ!」
何かが起きているのは間違いない!
咄嗟にウルルの名を呼ぶと、俺の傍にあった気配が消えるのを感じとることが出来た。
流石のなんちゃって覇王も、報告書を受け渡しするような距離にいる人物の気配くらいは何となく分かる。
だがもう一つ、俺の傍に誰かが居るのを感じる……それが誰なのか確認するよりも早く光が収まっていき……少し離れた位置で、俺の周囲を囲むように大勢の人がこちらを睨んでいた。
……は?
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