第二部 序章

第1話 海の外からこんにちは



 俺の名はフェルズ。


 覇王フェルズだ。


 ……いや、中身は違う。


 中身は……まぁ、なんと言うかただのゲーム好きだ。


 日課であるソードアンドレギオンズというゲームを始めようとした瞬間、突如フェルズとして異世界に召喚されていた。


 まぁ、正確にはちょっと違った訳だけど……何にしても、俺はエインヘリアという国を率いる王としてこの世界に来てしまった訳だ。


 最初は状況が分からず途方に暮れていたが、すぐに状況が悪くない事に気付いた。


 アホ程やり込んだゲームの世界に、アホ程やり込んだセーブデータごとやってきたのだ。


 しかもアイテムや能力だけではない。


 ゲームで俺がエディットしたキャラクター達もそれぞれの意思を持って……実在の人物として存在している。


 美男美女の最強軍団が、俺に絶対の忠誠を誓う……。


 滾らなかったら嘘だ。


 そして調子に乗らない訳がない。


 ……まぁ、ゲームの世界に来たというのは勘違いだとすぐ分かったんだけどね。


 呼び出された場所が背景でよく見ていた城の中だったので、てっきりゲームの世界に来てしまったのだと勘違いしたがそうではなかった。


 ゲームとは全く関係ない世界に、ゲームの設定を引っ提げてやってきてしまっていた。


 そう……ゲームの設定だ。


 この世界の理とは異なるルールで動くエインヘリアはこの世界では相当異質な存在で、その強さや数々のトンデモアイテムや施設のお陰で、エインヘリアは瞬く間に他国を潰しまくった。


 別に侵略大好き!って訳ではなかったけど、自分達が生きる為には他国の領土というか……民を奪うしかなかったのだ。


 あ、もちろん民を虐げたりはしていないよ?


 まぁ、襲われる方にしてみたら溜まったものじゃないだろうけど。


 そんな風に苛烈に動く中……俺はこの世界に呼ばれた理由を知り、俺を呼び出した大昔の魔王の願いを受け入れ、大陸の全てにエインヘリアの影響を行き渡らせることを約束した。


 それから四年弱。


 エインヘリアは大陸中にその影響力を伸ばし、俺をこの世界に呼び出した魔王の願いを叶えることが出来た俺は、なんやかんやで元魔王のフィオと結婚した。


 嫁さん自慢をする訳ではないが……魔王という言葉の響きから想像できない程、フィオは凄まじく美人だし頭も良く……そして何より、慈愛の神として五千年後まで祀られている様な女性だ。


 正直、なんちゃって覇王には勿体ない……。


 いや、まぁ、かく言う俺も呼び出された大陸で……圧倒的武力を振るうというやり方ではあるが、とりあえずの平和を齎したことは事実。


 それなりの偉業と言ってもいいし、フェルズの外見は超美形なのでフィオの横に立っていたとしても見劣りはしない。


 ……世間的に見ればとんでもない偉業だけど、エインヘリアの全てを手にすることが出来れば誰でも出来る程度のものだけどね?

 

 さて、それはさて置きだ。

 

 なんやかんやあって大陸が平和になり、これからは内政に力を入れて技術と経済の発展を目指しつつ、前時代から残っている面倒事を片付けていく……そんな方針を考えていた矢先、新たな問題が発生してしまった。


 大陸外勢力の登場である。


 エインヘリアがかつて併合したスティンプラーフ地方の沖合に、この大陸のどの勢力にも属さない船団が現れたのだ。


 報告では、巨大な木造帆船五隻。


 過去から現在に至るまで、この大陸では見たことのない船旗を掲げた船団。


 俺はすぐにそれを別大陸からの先遣隊だとあたりをつけたが、帝国の皇帝であるフィリアやルフェロン聖王国の聖王エファリア、ブランテール王国のレイズ王太子、それに今はエインヘリアに代官として仕える元各国の重鎮達がかなり慌てていた。


 というのも、この世界の海はとにかく大型の魔物が幅を利かせており、下手をせずとも木造の船なんか一発で粉々という危険地帯。


 陸から少し離れただけでそんなレベルなのに、外洋を渡って来るなんて正気の沙汰ではないといった感じらしい。


 そんな危険地帯の向こうから大陸外勢力がやってきたのだ。


 魔物に負けないだけの戦力を有しているのか、それとも魔物を避ける何らかの技術があるのかは分からないが、少なくともこちらの大陸にはない何かを持っているという事だろう。


 未知の勢力の登場にフィリア達が慌てるのも無理はない。


 しかし、船団が現れたのがスティンプラーフ地方で良かった。


 下手に北方やそれ以外の小国辺りに現れていたら、面倒なことになっていた可能性が高い。


 帝国でも相手次第では面倒になっていたかな?


 なんせ、遠洋に出るのは危険というのがこの大陸の常識で、当然海軍を持っている国なんて存在しない。


 海上の敵相手に有効な攻撃手段を持っているのは、帝国の切り札である『至天』……その中でも『轟天』の二つ名をもつリズバーンのような魔法系の英雄か儀式魔法くらい。


 そして儀式魔法は発動までに早くても半日くらいの儀式が必要であることを考えれば……恐らく海から陸に向けて何らかの攻撃手段を有しているであろう船団には分が悪い。


 しかし、エインヘリアは違う。


 まだ距離がある為、流石に陸からでは宮廷魔術師であるカミラの魔法も弓聖であるシュヴァルツの弓も届かないが、エインヘリアには海上を進む船はなくとも空を行く飛行船がある。


 ゲーム時代はただの輸送船でしかなかった飛行船は、現実となった今あらゆる戦術を可能としている。


 召喚兵の空挺降下。


 カミラ達魔法兵による爆撃。


 シュヴァルツ達弓兵による空中戦。


 流石にドッグファイトが出来る程自由自在に飛び回れるわけではないけど、それでも弓兵が乗り込めば空中戦も相当強い。


 ただの帆船なら、英雄が十人乗ってようが大砲を積んでようがあっという間に海の藻屑と消えるだろう。


 勿論、船団が敵対勢力とは限らないが……友好的である可能性は、俺は低いと見ている。


 というのも、船団の姿をこちらが確認したのは一昨日の昼頃。


 それから丸二日、相手は動きを見せていないのだ。


 相手が最初から友好的な関係を結ぼうと遥々海を越えてやってきたというのであれば、まずは小舟を使い少人数を送り込んで来るだろう。


 まぁ、ありえないけどね。


 未知との遭遇で両手を広げラブアンドピースで握手を求めるなんて、相当頭が湧いてないと出来ない。


 警戒して武器を構えて当然だ。


 誰だって自分の家の中に突然他人がやってきたら有無を言わさず撃退するし、それを警戒しない侵入者はいない。


 それと同じ話だ。


 確実に相手はこちらの出方……正確に言うなら戦力を計っている。


 海上戦力や遠距離戦の兵装や魔法、そして即応力がどの程度のものか計り……それ次第で出方を決めるつもりだ。


 とりあえず俺はいつも通り……相手の油断を誘うように兵を少しずつ送り込んでいる。


 初日の昼過ぎに、槍兵であるロッズと剣兵であるリオに百人ずつ召喚兵を着けて海岸に配置。


 その後夕刻前にシュヴァルツを弓兵五十と共に配置……後はその三人に一定時間毎に百人ずつ召喚兵を増やして合流させるように指示。


 相手に動きがあるまでは防御用の柵を海岸に設置させている状態だ。


 恐らく相手はこちらのその動きを見てほくそ笑んでいることだろう。


 外洋を越えて船団を送り込んでくるような勢力だ。


 間違いなく技術力はこの大陸よりも先を行っている。


 そんな連中からすれば、一世代も二世代も前の兵装で慌てて準備をしている様はさぞかし滑稽に映る事だろう。


 戦力もいきなり数千、数万をドンと配置するのではなく……いかにも慌てて集まった兵を順次送っていますといった有様だ。


 しかも歩兵ばかりで海軍の姿は皆無。


 実にお手頃な美味しい餌にしか見えていないに違いない。


 まぁ、実際は転移を使い召喚兵を海辺の街に送り込んでいるんだけどね。


 一昨日の昼に姿を確認、夕方には大陸の主要な相手には外から船団がやってきたことを教え、夜は対策会議。


 まぁ、対策会議というか……うちで対応します、お任せしますって確認くらいだったけどね。


 俺の考えを伝え、攻めてくるようなら潰す……それを伝えたら皆安心していた。


 そして俺の予想通り、今日まで相手の動きは無かったのだが……。


「……フェルズ様……敵船団が……動きました……」


「二日か。予想通りだったな」


 会議が始まってすぐに相手が動いたと報告をしてくれた外務大臣のウルルに、俺は余裕を見せながら頷く。

 ……良かった。


 以前俺は、相手は二日以内には動くって思いっきり言っちゃってたからな。


 五日って言っとけばよかったって後からめっちゃ後悔したんだよね……。


 ほんと動いてくれて良かった。


 自信満々に予想通りだったなと言った人物とは思えない程内心冷や汗を流しまくっていると、参謀であるキリクが普段通り眼鏡をクイっとしながら口を開く。


「交渉役はシャイナでよろしいですか?」


 シャイナはうちの外交官。


 その能力には絶対の信頼を置いているが……如何せん、シャイナは見た目が少女だ。


 外交官として滅茶苦茶優秀だし、戦闘能力も文句のつけようがないが……見た目が美少女だ。


 普段の外交であれば、見た目と能力がミスマッチでも問題ない。


 いや、相手の油断を誘える可能性を考えれば、美少女という見た目も一つの武器だ。


 しかし、今回はちょっと勝手が違う。


 ほぼ間違いなく、相手とは言葉が通じない筈だ。


 だというのにシャイナのような少女が代表として振舞っても、相手は判断に困るだろうし、その判断をこちらが予想しにくい。


 であれば、別の外交官に任せた方が相手を誘導しやすいだろう。


「……いや、今回はクーガーに任せよう。恐らく言葉が通じない筈だし、クーガーの方が相手を誘導しやすいだろう?」


「畏まりました。方針は……向こうに先制攻撃をさせると言う事で?」


「そうだな。挑発というよりも、相手が何を言っているのか分からないと言うような態度で対応するようにクーガーには伝えておけ。それと、シュヴァルツに船は撃沈するなと釘を刺しておけ。出る前には伝えたが、興が乗ったとか言ってやり過ぎる可能性があるからな」


 シュヴァルツは厨二的なアレを患っているので、ノリでうっかりやっちまいましたってなる可能性を否定できない。


 直前にもう一度言い含めておいた方が良いだろう。


 折角の外洋船。


 今後の為にも、出来れば傷を付けずに鹵獲したいからね。


 

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