第627話 倉庫整理をしよう!
人間……忙しい時にこそ、別の事をやりたくなる生物だ。
試験勉強中に始める掃除からの読書タイムしかり、試験勉強中に大作RPG開封しかり、試験勉強中に作るインスタントラーメンをめっちゃ凝ることしかり……試験勉強をさぼる話しかしてないな。
それはさておき……現在覇王は、まぁ、そこそこ忙しかったり忙しく無かったり……そんな時にふと思った訳だ。
そうだ、倉庫整理をしよう……と。
こっちの世界に来て早四年。
エインヘリアはとんでもない勢いで領土を拡大してしまった。
そんなことになってしまった要因は……挙げていけばキリがない。
うちの子達の強さや賢さ。
兵が無限にいると言っても過言ではなく、更にその兵は恐怖も痛みも感じない。
徒歩なのにフル装備で車並の速度で行軍が出来る。
兵站不要。
転移可能。
資源がほぼ無限に獲得可能。
諜報力が異次元。
食料がいくらでも採れる。
他国には無い飛行船の存在。
他にも色々あるけど……まぁ、これを一言で断ずるなら、ゲームと現実をごっちゃにするな。
これに尽きるだろう。
勿論その事実を知っているのは俺とフィオの二人だけだが……。
そんな訳で、エインヘリアで起こること全ては現実であって非現実的なものばかりと言える。
しかし、それも後数年もすれば大陸標準となるだろう。
エインヘリアの国土自体は大陸の三分の一より少し大きい程度だけど、その影響力は大陸全土に行き渡っているからね。
エインヘリアの当たり前が大陸全ての当たり前となるのは当然と言えよう。
しかし……その時が来る前に、俺はやらないといけない事があるとふと気付いたのだ。
それは倉庫や宝物庫に眠るアイテム……それらの効果を確認する事。
ゲーム内で効果が分かっている物に関してはそこまで面倒はない。
いや、厄介なアイテムは山ほどあるけど、効果が分かっているのだから問題ない。
しかし、ゲームのアイテムが現実になったことで、俺も知らない効果を発揮してしまうアイテムがあるのだ。
……完全に知らないという訳ではない。
ただ、ゲーム内では説明文でそういうアイテムと書かれているだけで、ゲームの中ではイベント用のアイテムという扱いだった物だ。
何度か使ったことのある『韜晦する者』や、バンガゴンガの大好きな『飛翔マント』なんかが該当する。
今一瞬凶悪な顔をしたバンガゴンガが脳裏をよぎったが……きっと笑顔だろう。
とりあえず、それらのアイテム。
基本的にエディットキャラ以外を仲間にする時に必要だったり、キャライベントで必要だったりするアイテムなのでその効果についてはあまり深く知らない物が多いのだ。
これらのアイテムはダンジョンの宝箱やイベント、もしくは開発部で生産したりすることでゲット出来るのだけど、アホ程周回した俺はそれらが倉庫に大量に存在する。
因みに、倉庫と宝物殿の違いは収められている物が一品物かどうかって感じだ。
宝物殿のアイテムはトロフィー的な意味もあって、周回しても複数得る事は出来ない。
倉庫のアイテムは、貴重品であっても周回すれば複数持つことが出来る。
だから、必ずしも宝物殿のアイテムの方が強力とは限らない。
例えば、ジョウセンの持っている剣『天羽々斬』は汎用剣最強だけど倉庫アイテム。
しかし、とあるダンジョンで入手する『フレイムソード』は、中盤くらいまでしか使えないけど宝物殿アイテムといった感じだ。
レギオンズはRPGとSLGを合わせたゲームだが、メインは戦争パートであるSLG。
非常に多くのキャラがあちこちの戦場で同時に戦ったりするので、倉庫に収められるような汎用の武器の方が使い勝手が良く重要なのだ。
宝物殿で強いアイテムは……やはり固有キャラの専用装備だろう。
俺の持っている『覇王剣ヴェルディア』を始め、特定の固有キャラのみがその装備の真の性能を引き出すことが出来る専用装備はそのどれもが厨二心をくすぐるというか、美術品としても大変素晴らしいデザインとなっている。
展示したら客を集められそうだけど、盗まれたら最悪だし……だからといって、外交官をそこに張りつけておくわけにもいかないしな。
まぁ、展示についてはその内考えても良いだろう……博物館的な施設の建造も出来るし、そこに展示しても良いかもしれない。
ゲーム時代は人口増やす効果以外はイベントが発生するくらいしか博物館の効果はなかったけど、娯楽……いや、芸術支援の一環として建てるのもありだろう。
それに……専用武器が盗まれたとしても、デメリットを無視してその武器を使うのはほぼ無理だ。
ゲーム的な言い方をすれば、毎ターン最大体力の二割のダメージを喰らう剣や、攻撃力は高いけど防御と素早さがゼロになる斧。
高火力だけど命中率が一割以下の弓に、必中だけど一撃で相手を倒せなかったら自分が死ぬ槍……デメリットがデカすぎてここぞという時ほど使えない代物だ。
まぁ、最後の槍なんかは暗殺者とかに使わせるのもありかもしれないけど……めっちゃ豪華な槍だから全然忍べないだろうね。
博物館に展示するのであれば、使い勝手を精査した上での展示にしないと思わぬ使い方をされて大事件が起こりかねないな。
これは俺だけじゃなくキリク達も交えて話すべき案件だろう。
さて、それはそうと何の話だったっけ……あぁ、そうだ倉庫整理だったな。
素材系やポーションの類は良いとして、やっぱりイベントアイテム系をしっかり把握しておくべきだよね。
ってわけで、やってまいりましたエインヘリア城倉庫。
……そういえばこの倉庫も、アレなんだよね。
所謂不思議空間の一つ……ここは無限に物が入るし、食材の類が腐らない。
多分経年劣化もしない。
ゲーム時代は一つのアイテムにつき999個が限界だったけど、今はそんな制限もなく放り込めば放り込んだだけ入る。
そんな不思議倉庫の管理はメイドの子達の仕事の一つだ。
責任者はイルミットだけどね。
因みに、ゲーム時代にアイテムとして存在しなかった物については普通に劣化するので、そこは注意が必要だ。
そんな不思議倉庫の一角……イベントアイテム系が置かれたエリアへと俺はやってきた。
きっちりと箱に詰められて整理されている為雑然とした感じはしないものの、開けてみるまで何が入っているか分からない。
箱に品目とか書いておかないと、いざって時に困りそうだな……イルミットとかメイドの子達は中身まで把握できていそうだけど、緊急で必要なものがある時とかに困りそうだ。
とりあえず手近なところから適当に開けてみるか……『魔女の媚薬』。
媚薬……なるほど。
なんかエロいやつですね?
……。
よし、封印しよう。
試してみるのは怖すぎるしね!
次だ……『世界樹の苗』。
これは……植えたら世界樹とやらになるのだろうか?
でもゲームで世界樹とか出てきた記憶がない。
他のゲームではしずくで回復したり葉で生き返ったり……なんやかんや素材アイテムになったりする中々有名な木だけど、レギオンズではこの苗くらいしか出てこないし、これも仲間をゲットするイベントアイテムだからその後どうなったかとか分からん。
植えてみるのも面白いかもしれないけど……保留だな。
次『最強殺虫スプレー・改』。
虫が物凄く苦手なキャラを仲間にする時に必要だったアイテムだな。
最強の筈なのに改変されている不思議なアイテム……下手に使ってこの大陸から虫が死滅したりしたら困るからこれも封印。
『永眠ピローセット』……ほんとに永眠する可能性があるので封印。
『至高のプロテインγ』……飲んだ瞬間ゴリマッチョになりそうで怖い。
『壊れた懐中時計』……壊れとる。
……なんか、碌なもんが無いぞ?
いや、なんか使える物があったはず!
なんかこう……パッと思いつかないけど素敵なヤツが!
うちのレギオンズは凄いんだ!
ゴミばっかとか言わせねぇ!
そんな意気込みの元、俺は次の箱を開ける。
『虹の絵筆』……これはあれか、絵の具を使わなくても好きな色を自在に描くことが出来るとか……一見素晴らしい道具だけど、顔料とかで生計を立てている人とかの仕事無くなるな。
それに思い描くだけで好きな色を出せるってことは、秘伝の色とかを簡単に再現できちゃうわけで……それはそれで良くないよな。
これがある事で芸術の分野が発展する可能性もあるけど、既存のものと棲み分けが出来ないというか……上から塗りつぶしてしまうのは色々と良くない。
しかし、有用なのは確か……とりあえず保留かな。
取扱注意だけど、活用は出来そうだしね。
さてお次は『性転換薬・甲』『性転換薬・乙』か……。
読んで字のごとくだが、ニーズがないとは言い切れない。
しかし、大々的にはばら撒きがたい。
かと言って望んでいる人の元に届けるのも難しい……扱いに困る。
『毛生え薬』とはちょっと違うからな……ぱっと見で分からん。
いや、世の中の頭が涼しげな方たち全員が『毛生え薬』を求めているとは言わんし、『毛生え薬』要りますか?とは尋ねにくいが……性転換薬よりはお勧めしやすい。
これは……時が来たらだな。
フェル子になるつもりはないが、うちの子の中で性別変えたいって子もいるかもしれないしね……。
しかし本人が望んだとしても、フィ男が誕生するのだけは絶対に阻止だ。
いざとなったら土下座も辞さない所存。
さぁ次だ次!
『綺麗なオルゴール』……なるほど、確かに箱自体も装飾が細かく非常に綺麗だね。
ネジを回してオルゴールを鳴らしてみると、とても澄んだ音で聞き覚えのある曲が流れてきた。
これは確か……ゲーム中でちょっとしんみりしたシーンで流れる曲のオルゴールバージョンだな。
もの悲しさや切なさを覚える旋律だけど、オルゴールの澄んだ音色に非常にマッチしており芸術に疎い俺でも思わず聞き入ってしまった。
ふむ……この世界にオルゴールがあるかどうかは知らないけど、これは良いかもしれない。
残念ながらこの一曲しか聞くことは出来ないけど、オルゴール自体を作って売りに出すというのは悪くないね。
オルゴールはゼンマイやらネジやらギアやらコームやら、他でも使えそうな技術が盛りだくさんだし、芸術の観点でも技術の観点でも非常に良いものだ。
とりあえずこれは採用……持ち出すとしよう。
……ゲーム的にも変な効果は無かったはずだしね。
さて、お次は『呪われた鏡台』……封印!
うん、とんでもない危険物も普通にあるな……気を付けないと。
よし、細心の注意を払って次を……『犬耳メイドセット(尻尾付き)』『猫耳メイドセット(尻尾付き)』『狐耳メイドセット(尻尾付き)』『狸耳メイドセット(尻尾付き)』……なるほど。
……なるほど。
なるほど……。
実に興味深い。
……。
んなるほどぉ……。
……よし。
とりあえず、試しに一セットずつ持ち出してみよう。
もしかしたらふぃ……げふんげふん。
さて、次は……『痛くない鞭』
……武器かな?
多分武器だな。
うん、武器だ……痛くない必要性は良く分からんが、これは武器だ。
間違いない。
……俺はそっと箱を閉じた。
----------------------------------------------------------------------------------------
ひとまず今回がこの章の最後の閑話になります!
今回の閑話に出てこなかったキャラでもエピソードを考えているキャラはいますし、第二部でも閑話は書くつもりです。
というか、あのキャラ書きたいこのキャラ書きたいとやっていくと中々キリがなく、いつまでたっても第二部に手が回らないので……。
そんなわけで、第二部開始まで少々お時間を戴きたいと思います。
遅くとも今月中には再開いたします!
お待たせしてしまって申し訳ありませんが、今後ともお付き合いいただければ幸いです!
あ、コンテストに応募したので応援してくれたら嬉しいです!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます