閑章

第618話 仄暗い部屋の中で ep.2

 


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 薄暗闇の中、複数の影が蠢いている。


 それは人影。


 だが、その誰もが一様に頭まですっぽりとローブを被り、更には顔に仮面を付けていて個人が特定できないようにしていた。


 そんな怪しげな一団の中から一人の人物が前に出て、厳かな声で開会を宣言する。


「それでは定刻になりましたし『語る会』を始めます」


 涼やかな声が薄闇に響き、ローブを着た人物達が拍手をする。


 何について『語る会』なのか、彼らにとってはわざわざ言うまでも無い事なのだろう。


「では、まずは私から……」


 開会を宣言した人物がそのまま続けて話をするようだ。


「今日のフェルズ様はフィルオーネ様、バンガゴンガ様と共に『海鮮丼』を食堂で食べていらっしゃいました」


 その人物の言葉に、仮面をつけた人物達から「おぉ」というどよめきが生まれる。


 ここは覇王フェルズの住まうエインヘリア城。


 城の主であるフェルズも把握していない集い……『フェルズ様について語る会』である。






「生簀を作ってから大将は定期的に海鮮丼を食べてるよね。あたいも結構好きだけど……大将は本当に美味しそうに食べるのがまた……」


「おっしゃる通りですね。私は少々海産物の香りが苦手なのですが……フェルズ様が好まれるお食事。絶対に克服してみせます」


「最近特に思うのですが……フェルズ様が食事されている時の姿はとても嬉しそうで……不遜ながら少々可愛いと思ったりしてしまいます」


「あぁ、それわかるわぁ。なんか食事中のフェルズ様ってぇ、あどけないって言うかぁ……少し幼く見えるわよねぇ」


「フェルズ様は常々、食事とは一番機会の多い幸福であるとおっしゃられているであります!それを体現されておられるのでありますな!」


「エインヘリアの食事だけでなく~この大陸の色々な地方の料理も大事にされていますね~。我が国の食文化は~この大陸の食文化と比べるとかなり進んでいるようですが~フェルズ様は今後が楽しみだとおっしゃられていますし~私も楽しみです~」


「そういえば、前お祭りで……ふ、ふふっ」


「……?」


「い、いや、ごめんよ。ちょっと思い出しちゃって……以前大将と出かけた時に、ギギル・ポーの屋台で定番料理って言われたのを食べたんだけど、物凄く辛くってさ。大将、口に入れた瞬間咽ちゃって……ふふっ」


「……」


「……」


「あ、あれ?」


「フェルズ様は辛いの苦手なの?」


「えっと……苦手って程じゃないと思うけど」


「でも咽たって言ったの」


「あー、いきなりだったからびっくりしたんだよ」


「フェルズ様がびっくりすることなんてあるの?」


「そりゃ大将だって……いや、あの時くらいしか大将のあんな顔見たこと無かったけど……」


「オトノハちゃんばっかりずるいの……」


「マリー……今は名前呼びは禁止だよ」


「間違えたの!」


「うん、気を付けてな?後……なんか皆目線がきつくないかい?」


「そんな事無いわよぉ。ちょっとデートの経験があるからってぇ、優越感を滲ませていたのにイラっとしただけだしぃ」


「そ、そんなの出しちゃいないよ!」


「そうかしらぁ」


「だ、大体、大将と出かけたことがあるのはアタイだけじゃないだろ!?」


「それはそうだけどぉ」


「ほら!そこの……目を逸らして逃げようとしてる奴がいるよ!」


「わ、私は別にそういうアレでは……」


「……フェルズ陛下とデート?」


「お、おねぇちゃん……目が怖い……」


「そんな話聞いていないのだけど……。夜景を楽しんだり……腕を組んだり……あまつさえ抱き着いたり……したりしてないわよね?」


「……」


「どうして目を逸らすのかしら?おねぇちゃんとても悲しいわ」


「……」


「いつもフェルズ陛下のお傍に居て……そんなふしだらなことしたの?」


「ふ、ふしだらって……」


「ふしだらといえば~貴女はフェルズ様と一緒に寝たのよね~?」


「うん、よく寝た」


「本当に寝ただけなのが貴方らしいところよねぇ」


「どういうこと?」


「なんでもないわぁ。そういえば貴女もその権利を持ってるのに、ずっと使ってないわよねぇ?」


「えぇ~時が来るまで温めておく必要がありましたから~」


「時でありますか?」


「何を狙っているのかしらぁ?」


「ふふふ~、大したことではありませんよ~」


「間違いなく何か企んでいるわねぇ」


「大したことじゃないですよ~。とはいえ~すぐに権利を行使してしまったのは~勿体ないと思いましたけどね~」


「どういう意味ですか?」


「まだ話は終わっていませんよ?」


「えっと……おねぇちゃんその話はまた今度に……」


「そちらの姉妹は置いておいてぇ、狙いを聞かせてくれるわよねぇ?」


「本当に大した話じゃないですよ~?ただ~フェルズ様とお出かけするのであれば~一日中お付き合いして頂きたいですよね~?」


「……それはそうねぇ」


「ですが~フェルズ様は自分に厳しい御方ですし~姦淫に耽るのを良しとされない御方です~。そういった欲を持たれていないのであれば~そういう御方だと諦めもつくのですが~フェルズ様の場合は~そうではないですよね~?」


「……」


「自制していた理由は私には分かりかねますが~フェルズ様がそう言ったことを前向きに考えて下さるタイミングは分かります~」


「……それってぇ」


「ようやくその時が来ましたね~。勿論~今日明日という訳ではありませんが~準備は整ったといったところかと~」


「フェルズ様が結婚されるのを待ってたのぉ?」


「以前お酒を一緒に楽しんだ時に~それが最善だと思ったので~」


「……」


「ふふふ~一足先に行かせてもらいますよ~」


「「……」」


「どういうことなの?」


「さぁ?」


「あ、あんたたちは気にしなくていいんだよ!」






「兄上。今日は城内に人が少なくありませんか?」


「うん?そうでござるか?」


「はい。明らかに……女性と会わないような……」


「……言われてみれば、今日は訓練所にレンゲもサリアもいなかったでござるな?」


「フィルオーネ様の護衛でしょうか……?」


「はて?確か今日は殿と御方様は部屋にて寛がれているので、護衛は最小限の筈でござるが……」


「そうなのですが……あら?あちらに居られるのはシャイナ様ですね」


「そのようでござるな。ふむ、ウルルもいる様でござる」


「おう、イズミとジョウセンか」


「……イズミ……久しぶり……」


「御無沙汰しております、ウルル様、シャイナ様」


「どうした?イズミ。安心したみたいな顔してるけど」


「……ジョウセン……迷惑?」


「あり得ないでござる!拙者がイズミに迷惑をかけるなど!」


「……」


「いや、ちょっと面倒だなぁって思ってると思うぞ?」


「そんなことないでござろう!?」


「……勿論です兄上」


「……」


「……イズミも甘やかすからいけないんだぞ?まぁ、別にいいけどよ。それで、どうかしたのか?」


「今日は城に人が少ない気がすると思いまして」


「あ、あぁ……それか」


「……大丈夫」


「何か知っているでござるか?」


「大したことじゃないよ。ちょっとした打ち合わせみたいなもんだ。っと、あたしはそろそろ護衛に行かないといけないんでね。イズミ、言いたい事ははっきり言わないと男には通じないぞ?」


「……打ち合わせの予定なんてあったでござるか?」


「……全体ではない……一部だけ……」


「ふむ?」


「……イズミも……多分……その内……」


「私もですか?」


「拙者は?」


「……ジョウセンは……ない……」


「どうしてでござるか?イズミと一緒に行くでござるよ?」


「……絶対……ない……」


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