第617話 異世界を蹂躙する我覇王

 


「それと飛行船の発着場だけど、エルディオン地方の二都市で着工したよ。完成予定は十五週後だね。今月は北方と帝国の一都市で発着場が落成になるけど、こっちは今まで主要都市に作っていた物に比べれば小さい物だね」


 飛行船の発着場が大陸各地に出来ていくな。


 鉄道より先に空路が出来上がってしまいそうだけど……まぁ、高価な飛行船と低価格な鉄道という感じに棲み分けしてもらおう。


 空港と違って発着場って結構簡単に作ることが出来ちゃうから……鉄道かなり分が悪い気もするけど……。


 まぁ、俺には分からんけど……鉄道には鉄道のいいところがあるはずだ。


 例えば……飛行船は本数増やすのが大変!


 でもないんだよな……。


 オトノハ達が動くと魔力収集装置並みに簡単に建造できちゃうし……しかも魔力収集装置と違ってドワーフの技術者じゃなくても建造可能みたいだし……。


 ……がんばれオスカー。


 いやぁ、自分で作ってと命じておきながら……覇王ってほんと無責任だわぁ。


「最後に大将に命じられた鉱山の件だけど……」


「オトノハ~そちらは私から説明します~」


 オトノハにそう告げたイルミットが立ち上がる。


 普段通りのんびりした口調で笑みを浮かべているけど、本当に機嫌が良いかは分からないので油断は禁物だ。


「フェルズ様の御命令通り~この大陸では得られない鉱石や金属を得るために設置した鉱山ですが~問題なくミスリル等の鉱石を得ることに成功しました~」


 おぉ!


 成功したのか!


 農産物や海産物の件もあったから、多分鉱石とかも行けると思っていたけど……よかった、ちゃんと採れたか。


「こちら~稼働初月の報告書になります~。まずは実験という事で~設置した鉱山は一つだけですが~順次設置数を増やしていきますので~すぐに開発部で使えるようになります~」


 そう言ってイルミットが渡してくれた書類には……責任者としてバンガゴンガのサインが入っている。


 先日ゴブリンの代表を後進に譲ったバンガゴンガだが、早速新しい事業の責任者に納まっている。


 いや、違うよ?


 俺が押し付けたんじゃないよ?


 ただ、食堂で新しい事業に手を出そうと思うって話をしたら、即座に任せろと来たもんだ……男前が過ぎて思わず頼むって言っちゃったんじゃよ?


 因みに鉱山ということで、ゴブリンだけでなくドワーフも働いている。


 鉱山の数が増えたらそこも国営鉱山と呼ばれるようになるだろう。


 まぁ、ギギル・ポー地方にある鉱山もスティンプラーフ地方にある鉱山も……レギオンズ産じゃないだけで国営鉱山だけどね?


 しかしまぁ……この鉱山も野菜とか海産物と同じく、採れるのは一ヵ月に一回だからな。


 バンガゴンガ達がどんなふうに働いているか分からないけど、近い内に視察に行った方が良いだろう。


「鉱山に関しては以上です~。次に~公共事業に関して~エルディオン地方で街道整備や治水工事を進めておりますが~」


 農場や生簀に比べ、鉱山は色々と危険が多い筈だ。


 バンガゴンガはいつも新しい事業の時は率先して動いてくれようとするが、いつもそれに甘えてばかりなのは心苦しくもある。


 しかし……やはり、バンガゴンガ以上にそういったことを任せるのに頼りになる人材はいない。


 バンガゴンガはこの大陸において一番のエインヘリア理解者だ。


 勿論、困惑することも多々あるとは思うが……それでも受け入れ、そしてこの大陸の者の目線で周りを引っ張ってくれている。


 バンガゴンガが居なければ、こうして事業をこの大陸の者に任せることは難しかっただろう。


 それにうちの子達を責任者に据えていれば、この大陸の者の目線での報告は得られなかったのは間違いない。


 うちの子達にとってレギオンズの施設の効果は当たり前のものだからね……だからバンガゴンガがうちの無茶苦茶なやり方に困惑しながらも受け入れ、責任をもって仕事をしてくれている事は本当にありがたい事だと思う。


 この大陸の人で一番信頼できるのはバンガゴンガだし、フィオに対するものと同じくらい感謝している。


 もしバンガゴンガがいなかったら……エインヘリアは今ほどうまく回っていなかっただろうね。


 凶悪な笑みを浮かべる友人の顔を脳裏に描き、内心苦笑する。


「以上で私からの報告は終わります~」


 はっ!?


 何かイルミットの報告が終わってる!?


 なんで!?


「カミラ、魔王については何かありますか?」


「特に問題はないわよぉ。あ、でもぉ、フィルオーネ様が二、三年もすれば学校に入れて学ばせるのも良いとおっしゃっているわぁ」


「魔力収集装置の影響下でも精神の成長が確認出来たのは何よりですね」


「えぇ。フィルオーネ様も非常に心を砕いていらっしゃるしぃ、フェルズ様も一安心ですねぇ」


「そうだな」


 俺が短く答えると、カミラだけでなく会議室に居た全員が柔らかい表情でこちらを見る。


 フィオはレヴァル達を保護してからずっと気にかけていて、彼等の元に足繫く通っていたからな。


 意外とすんなりと保護することが出来て本当に良かった。


 話がこじれていたら厄介なことになっていたかもしれないからな……。


 そんなことを思いつつ、俺は話を進める。


「魔王の魔力に関する研究はどうだ?」


「今の所目立った成果はないわねぇ。後遺症なく人造英雄を元に戻す方法もぉ、もう少し時間が必要かしらぁ」


「フィルオーネ様とリコンが中心となり研究しているけど、もう少しで動物実験が出来そうって感じだね」


「ふむ」


 カミラとオトノハの言葉に、俺は神妙な面持ちで頷いて見せる。


 まぁ……既にフィオから結構詳しく聞いているんだけどね。


 勿論、この場で共有することに意味があるから聞いたわけで……けして皆の生暖かい視線から逃げる為に問いかけた訳ではない。


 断じて!


「魔神の戦闘力計測は……次で三回目じゃったかのう?」


「次で四回目よぉ。本人はそろそろ勘弁してほしいって言ってるけどぉ……お仕置き込みって言ったら納得してたわぁ。まぁ、次の相手は私達じゃないけどねぇ」


 リコンには魔神としての能力を計るためにうち子達と模擬戦をして貰っているけど、結構苛酷みたいだね……初戦はたしかリーンフェリアだったかな?


 アランドールとカミラの会話を聞きながら、げっそりしたリコンの顔を思い出す。


 リコン自身、戦闘訓練自体はしてこなかったものの、その力には自信があったみたいだけど……まぁ、深くは言うまい。


 次の模擬戦は確か『至天』の第一席であるリカルドが相手をするらしい。


 この世界の英雄としては最高峰の人材だ……どんな結果になるかは分からないので楽しみではある。


 リコン本人が言うには英雄よりも遥かに強いとのことだけど……技術的にはリカルドの方が遥かに上だしな。


 放浪したりしていた期間も長く、ずっと研究室に籠って魔王の魔力について研究していた研究者とは違うんだろうけど……専門的に訓練をした軍人に勝つのは中々厳しいだろうね。


 圧倒的に身体能力に差があればゴリ押し出来るのだろうけど……リコンが言うほど圧倒的な能力差はないような気がする。


 エリアス君は『至天』の中でも特に身体能力に優れている英雄だし、リカルドよりもエリアス君の方が検証相手としては都合が良いんじゃないかな?


 そんなことを考えていると突如、ウルルが何も言わずにスッと立ち上がり扉の方へと移動する。


 他の皆も口を閉じて扉の方に視線を向けるけど……リーンフェリア達が警戒した様子はないから、多分何か知らせが届いたとかだろう。


 当然俺も……当たり前の様に扉の方に視線を向けている。


 だがしかし、一つ皆に聞きたい。


 扉がノックされたわけでも無し、何で気付いたん?


 扉を少しだけ開けたウルルが小さく頷くのを見ながら、そんな思いに駆られるが……まぁ、今更と言えば今更だ。


 覇王耳には何も届かなかった……まぁ、当然だ。


 会議室の防音は完璧だし、外の音なんてそうそう聞こえてはこない。


 だというのに、皆計ったようなタイミングで会話を止めて扉の方に視線を向けたからな……四年以上フェルズとして過ごしているけど、未だに気配とか殺気とか……よく分からんぜ。


 そんな俺の内心を他所に、報告を聞き終えたウルルが戻ってきて口を開く。


「スティンプラーフ地方より……報告。南の沖合に……巨大な船が……五隻……」


「船?旗は……?」


 ウルルの報告にキリクが目を細めながら問いかける。


「……大陸に現存する国の旗ではない……過去に存在した国を含め……調査中……」


「船の型は?」


「見たことがない……大型の物……商人関係を……アーグル商会に確認中……」


 船って……もしかして外洋船?


 この大陸で船を使った貿易は行われているけど、あまり陸からは離れずに船は移動している。


 というのも、海には大型の魔物がいるらしく外洋は超危険だからだそうだ。


 外洋を目指して進んでいた船が魔物の攻撃一発で木っ端みじんになったり、ひっくり返されたりしたのは一度や二度ではないらしく、陸地からある程度の距離以上離れてはいけないというのがこの大陸の常識らしい。


 だから海に面した国でも海軍を持っている国はほぼ存在しない。


 輸送船として使うにしても、船がたくさん集まるとそれだけ魔物を呼び寄せやすいらしく無駄に兵を失う事になるのだとか……だから船を使った貿易は命がけで、その分リターンも大きいのだと以前レンブラントが話していた。


 だというのに大型の船が五隻……艦隊っていうんだっけ?


 まぁ何にしても……。


「ウルル。その船はこちらを目指して進んで来ているのか?」


「……いえ……沖合で停泊している……みたいです……」


「ふむ」


 魔物パラダイスの遠洋で停泊ね……俺達の知らない魔物避けの方法があるのか、襲われても問題ないだけの武力があるのかは知らないけど……。


「この大陸の船ではなさそうだな」


「「……」」


 俺の言葉にキリクとイルミットが目を細め、他の子達は表情を険しくする。


「フェルズ様、どうされますか?」


「そうだな……いつも通り、対処するとするか」


 俺がそう言うとキリクは眼鏡をクイっとあげて、イルミットは目を細めながら微笑む。


「相手が沖合に停泊しているということは……こちらと敵対する意思があると見て良いだろう」


「どういうことだい?大将」


 俺の言葉にオトノハが首を傾げる。


「くくっ……簡単なことだ。その船団が何処から来たのかは知らぬが、時間をかけて海を渡って来たに違いない。当然……陸が見えたなら喜び勇んで上陸するだろう?」


「そうだね。長い航海ってのはしたことがないけど、飛行船でも長時間乗っていると陸が恋しくなるし、似たようなもんだとは思うよ」


 実際はそれ以上に恋しいと思うけどね……飛行船の旅は相当快適だけど、船はどう頑張ったって波の影響を受けて揺れるし、自然相手に命懸けで移動しているのだから常にどこか緊張している状態と言っても過言ではない。。


 慣れてる人たちでも陸と同じとはならない……ましてやこの世界の木造船なら……あれ?


 巨大船って空母とかじゃないよね?


 鉄の船って言ってなかったし、普通にガレオン船とか……帆船だよね?


 っと、それはそれとして話を続けねば。


「だというのに、連中はやっと見えたであろう陸に飛びつかない。報告では小舟を送り込んでくることもないのだろう?」


 俺がウルルの方を見ながら問いかけると、ウルルはコクリと頷く。


「……上陸する意思がないってことかい?」


「いや、そうではない。確認しているんだ」


「確認……あ、あぁ、そういうことかい?」


 何かに気付いたようにオトノハが声を上げる。


 俺の言いたい事が分かったらしい……まぁ、俺も良く使う手ではあるしね。


「分かったようだな。そう、連中はこちらの海軍戦力や防衛力がどの程度のものか量ろうとしている。見知らぬ旗を掲げた船団が近づいてくれば、当然その海岸を有している国は軍を差し向ける……得体のしれない外敵相手だ、当然の反応と言えるな」


「その対応によって、出方を変えるって訳だね」


「そう。自分達よりも技術力は上か、戦力は上かを相手の出方で確認し、それ次第で友好的に出るかそれとも高圧的に出るかを決めようとしているという訳だ。浅ましい事だな」


 俺がそう言って肩をすくめてみせると、キリク達が冷ややかな笑みを浮かべる。


「短くて一日、長くても二日以内に相手は上陸してくる筈だ。陸を目の前に船員たちをあまり長い事上陸お預けとは出来ないだろうしな」


「じゃぁ、その前に飛行船を出すかい?」


 オトノハの言葉に俺はかぶりを振る。


「いや、折角だ。ここは一つ思いっきり調子に乗ってもらおうじゃないか」


 俺が普段通り皮肉気な笑みを浮かべながら言うと、キリクとイルミットは何処か嬉しそうな雰囲気を滲ませ、リーンフェリアは表情を変えず、エイシャとカミラは薄く笑い、オトノハとアランドールは困ったように苦笑……ウルルは普段通り表情を変えずに頷いた。


 これだけで、俺が何をしたいか皆が理解してくれたことを嬉しく思いつつ、俺は相手さんの事を考える。


 恐らく相手は大航海時代の侵略国って感じだろう。


 魔法による物か火薬による物かは分からないけど、恐らく大砲を所持しており、一般兵も銃かそれに類似する遠距離のお手軽攻撃手段を保有。


 海を渡って他所の土地に乗り込み、相手に同等以上の文明レベルが存在すれば交易相手に、自分達以下の文明レベルであれば攻め滅ぼして土地や資源を奪うか植民地支配……そんな感じだろうね。


 勿論、魔法だ英雄だ魔物だってのが存在する世界だ。


 攻撃手段は俺の想像も出来ない代物の可能性も十分あるけど……船でえっちらほっちらやってきている事からして、飛行船を所持している俺達の敵ではないだろう。


 まぁ、航空戦力は使わず船だけで移動してきた可能性もあるけど……どちらにせよ船団五隻程度なら先遣隊とか調査団とかそんな類の連中の筈だ。


 当然言葉は通じないだろう。


 大陸の何処で話を聞いても、海の向こうから人がやってきたなんて話は無かったし……これがファーストコンタクト。


 敵が予想通りの行動をとってくれるようなお馬鹿さんであれば……俺達は良い口実を得ることが出来るだろう。


 別の大陸に攻め込むね。


 争いは好きじゃないけど、攻め寄せて来るなら仕方ない。


 火の粉は振り払い、匂いは元から断たないと……ね。


 そんなことを考えつつ笑みを浮かべると、キリク達が目を輝かせながら俺の方を見て来る。


 折角大陸が落ち着いて来たというのに、また新たなる火種か。


 本当にこの世界は楽をさせてくれないな。


 とか考えながらも……俺は新たな戦いの気配を感じ、意識したものではない笑みが口元に浮かんでいる事を自覚していた。


 俺はフェルズ……覇王フェルズだ。


 何の因果か魔王に異世界へと呼びだされた後結婚した、異世界を蹂躙する覇王だ!















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当作品を読んでいただきありがとうございました!

覇王になってから異世界に来てしまった!これにて第一部完結となります。



モチベーションを下げずにここまで投稿出来たのも応援して下さった皆さんのお陰です。

レビューを書いてくれたり、コメントを送ってくれたり、誤字報告をしてくださった皆さん。

そして何よりここまで読んで下さった皆さん……本当にありがとうございました!



と謝辞を述べましたが先程第一部完結と言った通り、既に第二部を考えておりますが……まだ最初の方しか考えていないので、もう暫く構想を練る時間を戴きたく思います。

第二部が始まるまでの間、今までも書いて来た閑話を投稿するつもりではありますが第二部開始時期は未定とさせていただきます。

その時までお待ち頂けると幸いです!



……沢山☆をくれるとモチベーションが上がって、第二部開始時期が早まる可能性は否定できません!



それと閑話で読みたいエピソードやキャラがいれば、コメント欄に書いていただければ書けるかもしれません。

二部とかで予定していたりすると書けないかもしれませんが、その辺りはご了承ください。

あ、それと温泉とかRoundとか日記とかご褒美とか……定番シリーズ以外でお願いします!


あとがき失礼しました。


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