第608話 ラーメンとすき焼き丼とかつ味噌煮込み

 


 覇王の結婚が決まりました。


 完。






 いや、終わってないんだわ!


 フィオへのプロポーズの翌日キリク達に結婚式やるぞと告げて、それはもう結婚式当日かって言うくらい盛大にパーティーが開かれめっちゃ喜ばれた。


 ドラゴン肉を使った料理とかも出され……大変美味しゅう御座いました。


 まぁ、それはそれとして、結婚式の日程だけど……色々な準備が必要なので半年後に執り行う事が決定……ふぅ、四歳で結婚か。


 字面だけ見たらこれ以上ないくらいに政略結婚だな。


 俺の年齢を知っているのはフィオだけだが……そのフィオも一歳だしな。


 年齢差は至って普通の夫婦だが、年齢自体は欠片も普通ではない。


 まぁ、生まれた時点で身体的には成熟しているし、精神的にも十分大人……である。


 だから別に結婚の一つや二つでガタつく俺じゃないんだぜ?


 そんなことを心の中で叫びつつ、俺はかつ味噌煮込みを頬張る。


 これがまた御飯と合うんだ……。


 カツの衣に甘めのミソダレが染み込み、ご飯と一緒に口に放り込めば一口ごとに溢れ出るタレと白米が絡み合いそれをとんかつがフォローする……無限に、無限に食べられる!


「ここで飯を食ってる時は、お前も普通の人なんだと実感できるよ」


「まぁ、バンガゴンガ様。それではフェルズ様が普段は人外の化け物と言っているみたいではないですか」


「いや、そこまでは言わねぇが……」


 俺の向かい側でラーメンと餃子セットを食べるバンガゴンガと、俺の隣ですき焼き丼と豚汁セットを食べるエファリアがそんな会話をする。


 二人とも箸の使い方は完璧だ。


 何だったら俺より上手いかもしれない……大豆を皿から移動させるゲームをやったら負けると思う。


 特にバンガゴンガはあんな大きな手と指で凄まじく器用だよな。


 後どうでもいいけど……何時までエファリアはバンガゴンガを様付けで呼ぶのだろうか?


 君は一国の王様ですよ?


「食事とは、人生におけるもっとも機会の多い幸福であるべきだ。日々食事が出来る事の感謝を噛みしめながら食せば……そこに王も民も違いはあるまい」


「フェルズ様がおっしゃられるととても説得力がありますわ。エインヘリアの王がこうしてみなと同じ食堂で普段から食事をされているのですから……」


 俺の言葉にエファリアが感心するように頷き、バンガゴンガも同意するように頷く。


 俺達の周りではリーンフェリアとルートリンデがパスタを食べているし……何だったらメイドの子も少し離れた位置で食事をしている。


 そこまで人数は多くないけど……それでも十人以上は現在食堂で食事をとっているようだ。


「そうだな。俺はイメージでしかないが……貴族や王族ってのは静かな場所で黙々と、マナーを大事にしながら食事をするもんだとばかり」


「確かにバンガゴンガ様のおっしゃる通りですわね。一般的な貴族や王族はそういった食事の取り方が多いかと。ですが彼らがどれだけ贅を凝らそうと、エインヘリアで食べるご飯の足元にも及びませんわ」


「食材はともかく、料理はそうそう広まる物じゃないしな……」


 バンガゴンガが最後の餃子を口に入れてからしみじみと言う。


 うちの食堂で食べられる料理はレシピを小出しにしているからな……俺としてはとりあえず各地方の食材や調味料を向上させて、その土地独自に料理を発展させて貰いたいと思っているからね。


 だからエファリア達にレシピが欲しいと言われたモノ以外は、基本的に一部の場所でしか食べられない様に制限をしている。


 こうすることで俺の知らない料理が大陸各地で生まれる筈……それを食べることも俺の今後の楽しみの一つだ。


 ゲテモノはちょっと遠慮したいけど……どんな料理が出て来るのか中々楽しみではある。


 現時点のこの大陸の料理は……激辛料理しか記憶にない。


 もう少し甘いのや酸味が効いたのや程よい旨辛を食してみたいと思う。


「食事と言えば、バンガゴンガ家はどちらが料理を作るんだ?」


「ん?」


「バンガゴンガとリュカーラサ、どちらが料理をしているんだ?」


「あぁ、特に担当は決まってないな。俺だったりリュカだったり、二人で作る事もあるな」


 そう言って凶悪な笑みを浮かべるバンガゴンガ……多分照れている……のか?


 バンガゴンガとリュカーラサが仲睦まじくキッチンに並んで料理をする姿……うん、なんかほのぼのとするね。


「仲が良さそうだ何よりだな」


「えぇ、とても羨ましいですわ」


 俺とエファリアの言葉にますます顔を凶悪なものに染めていくバンガゴンガ。


「そ、それはそうと、フェルズもいよいよ結婚式を挙げるんだな」


 これ以上は勘弁とでも言いたげに、バンガゴンガが話題を変えて来るが……お、俺の事はほっといてくれていいんじゃよ?


「……あぁ、情勢も落ち着いて来たからな。これから来る新しい時代の始まりとして……大々的にやらせて貰おうと思っている」


 個人的には盛大な結婚式とかほんと勘弁って感じなんだけど、残念ながらこれは俺の個人的な行事ではなくエインヘリアの公的な行事だ。


 俺の我儘を通すわけにはいかないし……キリク達が滅茶苦茶気合い入れちゃってるからな。


 フィオに申し訳なく思ったが、エインヘリアの王妃になるという事はこういうことだと理解していると言われてしまった。


 恐らく、エインヘリアの王として理解……いや、納得しきれていないのは俺なのだろう。


 王様ってのは本当に大変だよな。


 行動の全てに政治や利権が関わって来ると言っても過言ではない。


 そりゃつけ入れられない様に私心を殺して公人として生きる訳だよ。


 まぁ、その辺りは……エインヘリアはかなりマシだと思うけどね。


「フィルオーネ様はとても聡明でお優しい方ですし、お二人の御結婚は今から楽しみですわ」


「エファリアは国賓として招くことになると思うが、その時はよろしく頼む」


「ふふっ。勿論、全力でお二人を祝福させていただきますわ」


 エファリアが満面の笑顔を見せながら言う。


 何故かバンガゴンガが訝しげな表情だけど……あぁ、そうか。


「バンガゴンガはエインヘリアの重鎮として出席するか、妖精族の代表の一人として出席するか悩みどころだな」


「あ?あぁ、俺はフェルズさえよければエインヘリアの者として出席させて貰いたいと思っている」


「良いのか?」


「勿論だ。俺は妖精族ゴブリンの代表よりもエインヘリアの……フェルズの臣としての意識の方が強い。それにゴブリンもエインヘリアの民としてかなり安定した生活を送る事が出来るようになっているし、そろそろ代表を後任に任せたいと思っている」


 バンガゴンガの言葉に俺は少し驚いたが、バンガゴンガに任せている仕事の量を考えれば後任に任せられるものはどんどん任せて行った方が良いのは確かだ。


 そういえば、かなり前に部下を鍛えて仕事を分散させるって言ってたけど、代表を任せられるくらいに鍛えたんだな。


「既に副代表という形で仕事を回しているから、半年後のフェルズの結婚式までに代表として推薦できるかもしれん」


「なるほどな。まぁ、その辺の差配はバンガゴンガに任せよう。バンガゴンガがゴブリンの代表であるのと同時に、エインヘリアの重鎮であることは各国も十分理解しているからな。例え代表の引継ぎが間に合わなかったとしても、その者を次期代表……バンガゴンガの代役として立てれば良い箔付けとなるだろうしな」


「なるほど。そこまで箔の必要ない仕事だとは思うが、代表交代を周知させるには良いかもしれないな」


 バンガゴンガの言う通り、妖精族の各代表は権力のある立場ではなく相談役や問題が起きた時の調整役って感じだからな。


 気苦労ばかりが多くて実入りはあまりない……それに同胞から煙たがられるというか疎まれるというか……まぁ、損な役回りだ。


 真面目かつ苦労性でなければ中々こなせない仕事と言える。


 唯一の楽しみは他の妖精族代表との飲み会だとか……。


 おそらく愚痴大会なんだろうな。


「それにしても、やはりフェルズは大変だな?」


「ん?何がだ?」


 俺としてはバンガゴンガに振った仕事の量の方が大変だと思うけど……。


「結婚式にも政治が絡んで来るだろ?」


「あぁ、そういうことか。確かにそう見えるかもしれんが、正直そこまでではないぞ?」


「そうかぁ?」


 俺の返事に全く信じていないというような相槌を打つバンガゴンガと、俺の横で苦笑するエファリア。


 俺もチラッと考えたけど……でもやはり政治ガッチガチって言う感じはしない。


「あぁ。貴族や王族の結婚式にしては、随分と綺麗なものだ。利権も、政治も殆ど関わらん……多少はあるがな。エファリアもそう思うだろう?」


「……そうですわね。私もフェルズ様に同意いたしますわ。流石はエインヘリア……という事だと思います。それに何より、フィルオーネ様はあらゆる意味でフェルズ様にとって最高のお相手だと思いますわ」


 俺が同意を求めるとエファリアは頷き、バンガゴンガは首を傾げる。


「どういうことだ?」


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