第607話 大事な話
「あー、フィオさんや?お茶会はどうでしたかな?」
「そうじゃな。お主の目を通して見るのと、自分自身が参加するのとでは随分と雰囲気が違ったのう」
「ふむ、そんなもんですかな?」
「うむ……それは良いのじゃが、さっきから口調がおかし過ぎやせんかの?」
「そうでござりまするか?」
自分でもぎこちなさを感じながら俺は答える。
俺達がいるのはベッドルーム……あ、いや、アレな事はしてませんよ?
普通にソファーに向かい合わせに座っている状態であります。
因みにルミナはフィオの横でお腹を見せて転がっており、フィオはそんなルミナのお腹を俺と話しながら優しく撫でている。
「お主がそういう態度の時は……まぁ、アレじゃな、気まずかったり恥ずかしがっていたりするのを誤魔化す時じゃな」
「……」
俺ってそんなに分かりやすいかしら?
「そんなことないのだわ?」
「それで誤魔化せると思っておる所が恐ろしいのう」
呆れたようにフィオは言った後、ルミナを撫でていた手を止めポンと軽くルミナのお腹を叩く。
撫でられる時間の終わりに気付いたルミナはソファーから飛び降り……今度は俺の横に来てごろんと転がる。
当然俺はそんなルミナのお腹をゆっくりと撫でる。
「俺もお茶会の方に行きたかったな」
ため息交じりに俺が言うと、フィオは苦笑しながらテーブルに置かれているお茶に手を伸ばす。
「ほほほ、帝国の先代皇帝か……まぁ、懸念は分かるがのう。エインヘリアはあまりにも強大じゃ。属国となった国ならばともかく、同盟を結んでいるだけの帝国としてはいつ自国が脅かされるか戦々恐々として居ってもおかしくはない。今両国間の緊張が薄いのは帝国上層部による情報操作の賜物じゃろうな」
「……なんか苦労をかけているみたいだな」
「仕方あるまい。帝国の上層部はエインヘリアの力をよく理解しておる。じゃが、地方派閥の連中は違う……西の連中は直接エインヘリアの力を見たから問題ないじゃろうが、他の地方は直接相対していないからのう。それに跳ねっ返りというものは何処にでもおるからの、それらを抑え込めなければエインヘリアとの関係は著しく悪化するじゃろう」
思慮の浅いもの程声が大きいって言うしな……そして、人は声の大きいものに従ってしまう。
賢明な意見が採用されるとは限らないのが集団心理というものだ。
だからこそ、そうならないように帝国上層部は情報操作をして、上手く地方の手綱を握っているということか。
「エルディオンも潰して大陸は平和になると思ったんだが、やはりそう簡単にはいかないか」
「そうじゃな。空しくはあるが仕方のない事じゃ。何もしなければ平和が続くというのは、現状に満足しておるから言える言葉じゃからの。お主とて、全ての民を満足させるなんてことは不可能じゃろ?」
まぁ、それは無理だね。
個人的な不満は、お金や生活環境だけで解消出来るものじゃない。
代官に任じている者の中にも、もっと権力が欲しいとか甘い汁を吸いたいとか考えている奴が居ないとも思えない。
そしてそれ自体は別に悪い事ではないと思う。
不満や欲っていうのは、成長していくための糧だ。
俺は別に、民の思考を統制してディストピア的な国を作りたいわけじゃない。
各々が自由に生きて、その生を満喫してくれればよいと思う。
勿論、他人に迷惑の掛からない範囲でだけどね。
「まぁ、帝国に関してはフィリア殿が上手くやるじゃろ」
「そうだな。先代のオッサンも納得してくれるといいんだが……」
っていうか、本気でフィリアに首を狙われる前に大人しくした方が良いと思う。
先日謝罪に来た時のフィリアの目……完全に据わってたからな。
「ほほほ、そこに関してもフィリア殿に期待じゃな。さて、フェルズよ。そろそろ本題を話してはどうかの?」
にんまりと笑うフィオに、俺はルミナを撫でる手が早くなる。
突然加速した手つきに、ルミナが不満そうにこちらを見るが……許してつかぁさい。
「あ、あー、この前作った温泉宿の話は知ってるか?」
「ん?あぁ、少し小耳にはさんだくらいじゃが……なんでも随分と盛況だそうじゃな?」
「あぁ。それで、どうせならどこかに温泉郷を作るのも良いかと思ってな」
「ふむ、良いのではないかの?娯楽に金銭をかけるだけの余裕があるのは素晴らしい事じゃしの」
そう言ってフィオはすっかり温くなったであろうお茶を一口飲む。
「それで本題は……」
「つきましては!今まで建設していなかったレギオンズの施設についても、そろそろ設置してみようかと思っていてな?」
「……」
フィオがジト目を送って来るけど、フェルズ負けない。
「といっても、役に立たなさそうな……例えば、大神殿とかは必要ないと思うし、その辺を厳選しようと思ってな?」
「……ふむ」
フィオのジト目は変わらないけど、その奥に若干好奇心が生まれたことを俺は見逃さなかった。
行ける……いや、勝つる!
「砦とかの軍事拠点系の施設も必要ない。各種種を使った畑は既に全種類国営農場で栽培しているし、生簀も既に設置済み。個人的に次に設置するのは……鉱山辺りが良いと思うんだが、どうだろうか?」
「鉱山かの?」
「あぁ。ゲームでは最初の周回くらいでしか設置しない施設だけど……金銀銅鉄は採れるし、黒鉄、アルミニウム、クロム鋼、ミスリル辺りがレア素材で採れたはずだ。今後研究開発をしていく上で、よろず屋で買えないレア鉱石は確保しておいた方が良いだろう?」
「そうじゃな……色々ツッコミどころの有る金属もあるが、可能であれば欲しいのう」
研究者モードに入ったのか、ジト目を止めたフィオが口元に拳を当てつつ言う。
「ゲームだと中級の装備しか作る事が出来ないから死に施設だけど、枯れない鉱山はこの世界では凄まじい価値があるよな。それによろず屋では買えないものもあるし、国の運営に余裕が出てきた今なら設置しても良いと思う」
「……枯れない鉱山か。他所の国の人間が聞いたら発狂しそうじゃな」
ゲーム中では一回設置したら毎月必ず素材が大量に手に入ったからな。
野菜の種とか生簀とかと同じ分類だ。
リアルになるととんでもない話だね……鉱山夫とか必要なのかな?
設置してるだけで勝手に鉱石が手に入ったりしないかな?
あれ?
そういえば鉄鉱石とかも取れてたけど、普通にインゴット状態のものも採れてたよな?
その辺りもどうなっているんだ?
……要検証だな。
「正直、経済のバランスがどうなるか分かんないから導入を見送っていたんだが……倉庫に腐るほどあるとはいえ、レア金属は鉱山を設置しないと手に入らないよな?」
今でも金銀銅鉄はよろず屋で購入した物を市場に流しているけど、イルミットがしっかりとコントロールしてくれているので市場が混乱してはいない。
鉱山を一つ作ったところで採石量は大したことない……でもレア鉱石を確保したいなら、国営農場みたいな感じで鉱山エリアみたいなものを作って、大量に鉱山を設置する必要があるだろう。
ゲームと違って一個や二個の装備を作る為ではなく研究開発を大規模にやるわけだし、素材は大量に必要だ。
恐らく倉庫にあるゲーム時代に集めた素材を放出しても、あっという間に使い切ってしまうだろう。
もし、レア素材を今後使いたいとなったら、鉱山を大量に作る事は必須と言える。
「ミスリルは間違いなく鉱山でしか採れんのう。クロム鋼は……科学が発展すればいずれは合金鋼として生成できるやもしれぬし、アルミニウムもボーキサイトが見つかればいずれ……といったところじゃろうか?黒鉄は……本来ただの鉄鉱石と同じはずじゃが、レギオンズ的には違ったから何とも言えんのう」
「そういうものか……この辺はちょっとフィオの方でオトノハやイルミットとかと話をして貰っても良いか?」
「了解したのじゃ」
もはや一切疑うような眼差しをこちらに向けてこないフィオ。
俺は心の中でガッツポーズをとりつつ、考えを巡らせる。
後はどんな施設があったか……モニュメント的なのは人口を増やす効果しかなかったし、公園や学校なんかも同じだ。
設置することで固有キャラを仲間に出来る系の施設は、基本的に人口を増やす効果しかなかった。
当然特殊な効果は期待できないし、設置する必要はないだろう。
となるとあとは……。
「家畜小屋か」
牧場ではない……家畜小屋である。
設置効果は、敢えて言う必要もないくらい明白だろう。
ビーフだろうがポークだろうがチキンだろうが……シカやクマとかも毎月手に入る。
何故か羊肉だけは手に入らない……やはり植物だからだろうか?
後は卵とかミルクも手に入るね。
「肉関係はこの世界のもので代用可能じゃろ?」
「まぁ、そうなんだけど……モンスター系の肉や卵が家畜小屋のレア素材なんだよな」
モンスター系の肉や卵はこの世界で手に入れるのはほぼ不可能だ。
唯一手に入れたドラゴン肉も……あの一匹しか見かけたこと無いし……どこにいるんだろう?
まぁ、それはさて置き……そんなドラゴンの肉も極稀に家畜小屋からゲットできてしまうのですよ。
家畜ドラゴンですよ……まぁ、滅多に採れない上に個数も少ないんだけどさ。
でもゲームと違って大量に家畜小屋を建てることが出来る訳で、数が増えればその分レア素材もゲットできるわけで……レア素材で美味しいご飯食べたいやん?
まぁ、採れるモンスター系の肉や卵はほんの一部だけだから、微妙っちゃ微妙なんだよね。
「家畜小屋は……ちょっと難しいところじゃな。今後人口増加によって家畜の数が足りないという状況にでもなれば建てても良さそうじゃが、現時点では農場や鉱山以上に周囲への影響が大きそうじゃ」
「まだブランド牛とかは存在しないからな……野菜や果物みたいに種類があるわけじゃないし、大量に家畜小屋を作るとなったら城の中だけで消費しきれないか」
「そもそも城の中だけで消費するにしても、元々購入しておった分を止めるというのは関係各所が困るのではないかの?」
「それもそうだな……家畜小屋は止めておくか」
地元の産業を潰してまで家畜小屋を作る必要はない。
どうしてもモンスター系の料理食べたくなったら、倉庫から引っ張り出せばよいだろう。
「それが良いじゃろうな。さて……それで、本題はまだかの?」
「……」
鋭く切り込んで来たフィオの一撃に、俺は完全に動きを止めてしまった。
うん、全然忘れていなかったようだね……いや、色々な意味で腹をくくらないといけないのだから、これ以上躊躇っていても仕方がないか。
だ、大体俺達はもう婚約している訳で、そこから一歩関係を進めるだけですよ?
この期に及んでノーとは言われないのは間違いない……言われないよね?
「……あー、フィオさんや」
「またそれかの……」
じわじわとフィオの大きい瞳が細くなっていく。
じ、ジト目になる前に話を進めねば……。
「フィオ。俺達はこ、婚約している。そうだな?」
「む……う、うむ。そ、そうじゃな?」
よ、よし、フィオが動揺しているぞ!
さっきまでのじっとりした視線が霧散して、俺に向けられていた視線が若干斜め方向に逃げていく。
我、優位を得たり!
「後始末は残っているが、エルディオンは片付いたし、レヴァル達も保護することが出来た。今後は今まで以上に内政に力を入れて、外交も穏やかなものになっていくだろう」
「そうじゃな……お主には本当に感謝しておるよ」
「それは本当に気にしないでくれ。何度も言うが俺は俺のやりたいようにやっただけだ。結果としてフィオの願いを叶えられた……その程度に想っておいてくれた方が俺としても気楽だ」
「……うむ、承知したのじゃ」
逸らしていた視線を戻し柔らかく微笑むフィオに一瞬見惚れてしまった俺は、一度咳払いをしてから話を続ける。
「それでだ……そ、そろそろ、あれだ……」
俺は前のめりになり、膝に肘をつきながら両手を握り合わせる。
あ、手汗がすんごい事になってる。
しかし、緊張しているのは俺だけではない……筈だ。
「フィオ……結婚しよう」
俺の一言に、目を潤ませたフィオは……とても綺麗な笑みを見せながらゆっくりと頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます