第589話 魔族

 


 それっぽい感じで佇んでいた二人が炎に包まれました、エルディオン編、完!


 よし!


 帰っておっぱ……いや、ルミナをもふもふしながらフィオに会おう!


 レッツゴ―ホーム!


 そんな風に俺が心の中で喝采を上げていると、隣にいたカミラの目がスゥっと細くなると同時になんとなくジョウセンが動く気配を感じる。


「ジョウセン、待て。ウルル、周囲の警戒を任せる。誰もこの場に近寄らせるな」


「……はい」


「殿、よろしいので?」


「あぁ。ウルルがいる以上、ここに近づける者はいない。外はシュヴァルツが見張っているしな。ならばあの二人は、外に出ることはないとされている男を除けば最後の者達。見敵必殺とは言ったが、少しくらい話を聞いてやっても良いだろう」


 俺がそう言うと、二人を包み込んでいた炎は最初から何もなかったかのように唐突に消え失せる。


 そこには手を正面に翳した男と先程と変わらず脱力した感じの男……そしてその周りを囲むように薄っすらと色のついたガラスの膜のようなものがあった。


 防御魔法って奴か?


 カミラの魔法をアレで防いだ……?


 ……カミラが手加減をしたのは間違いないが、少なくとも英雄を一撃で倒せるくらいの力は込めた筈。


 それを無傷で防ぐってのは……中々凄くない?


「驚いたな。いきなり殺しにかかって来るとは、咄嗟に防御できなければ話も出来ずに死ぬところだったぞ?」


 周囲に出来た膜を消しながら、こちらに顔を向けていた男がどこか面白そうに言葉を発する。


 その言葉にうちの子達が反応を返すことはない。


 まぁ、当然だね。


 俺が話すって言ったんだから。


「さて?殺すつもりなぞ一欠けらもなかったが……お前はこの技術開発局の局長か?」


 俺はそう質問しつつも、この男が技術開発局局長ではない事が分かっていた。


 ウルルから聞いている感じ、開発局局長はこういうタイプではない。


 恐らくコイツは……。


「はは!何を言っている?俺が局長な筈がないだろう?あぁ、もしかしてエインヘリア王陛下は魔族を見るのは初めてだったかな?」


 そういって男は髪をかき上げる。


 その額には、魔族の特徴である赤く光る指の先程の宝石のようなものがついている。


 魔族という種族はあの様に額に小粒の石……魔石が生来備わっているとのことだった。


 エインヘリアでは魔族もどんどん保護しているけど、実際に目にするのは初めてだったから彼の言葉は間違ってはいない。


「くくっ……そうだな、魔族を見るのは初めてだ。我が国では魔族の保護をしているのだが、生憎と俺は機会が無かったので直接会う事が出来なかったのだ」


「……魔族を保護?何の話だ?」


 訝しげな顔を見せる魔族の男……確か名前はウルルに聞いていたけど、何だったっけ?


 なんか……二日酔いに効きそうな名前だった気がする。


「このような穴倉に閉じこもり研究ばかりしているから世事に疎くなるのだ。まぁ、鎖国をしていたエルディオンの者共も似たようなものだがな?広い知見が、新たな知見がインスピレーションを刺激して新しいものを生み出すのだ。研究をする上で重要なことだと思うぞ?」


「……これはこれは、王である貴方に研究者を語られてしまうとは。確かにここに居ると世情には疎くなるが、生憎と新しい発見には事欠かないのでね」


 肩を竦めながらこちらを見据える魔族の男。


「くくっ……まぁ、好きにすれば良い。それで貴様は何者だ?このエルディオンで魔族がどういった立場にあるか程度の知識は有しているのだがな?」


「これは失礼。私はリコン。生憎家名などと言う洒落たものは持ち合わせていないので、名だけで勘弁して頂きたい。魔族というあまりこの国では歓迎されない種族ではあるが、ここに居る技術開発局局長の個人的な仲間として、籍こそ無いものの研究者として働かせて貰っている」


 そう言って隣で前屈した状態の男の背中を軽く叩くリコン。


 リコン……そうか、リコンだったか。


 ウコンじゃなかったな。


「仲間か……見たところ、そんな良い関係のようには見えないがな?」


「それは心外だ。俺はランティス……あぁ、局長の事だが、コイツにはとても感謝しているんだぞ?私一人ではここまで研究を進めることは出来なかったし、先程エインヘリア王陛下もおっしゃられていたが、私にはない知見を持ったランティスは非常に良いパートナーだった」


「それを得意気に過去形で語るあたり、お前の考えが滲み出ているようだがな?」


 なんというか、コイツは自分以外を完全に馬鹿だと思っているタイプのように感じられる。


 局長は、ウルルからの報告を聞いた限り研究馬鹿って感じのタイプだったからそういう事自体気にしていなかったのだろうけど、そう言った態度を隠そうとしている節がない。


 気付かれないと思っているのか、それとも気付かれても問題ないと思っているのか、まぁ、どちらにせよ……コイツの底は知れたように思う。


 魔族ではあるが、コイツはコイツで他のエルディオンの者達となんも変わりない……自分より下の存在を意図的に生み出し安心したいだけなのだろう。


 下を見て安心する気持ちは……分からないでもないし、そういった国の治め方も一つの方法だと理解は出来る。


 しかしそれは傍から見ていて気分の良いものではないし、作られた優越感は滑稽過ぎて……なんか見ていて痛々しい。


 もしこのリコピン?がエルディオンの出身だとすれば……まぁ、決して楽しい人生でなかったことは想像に難くないし、虐げられてきたからこそこういう考えになってしまったというのも分からないでもない。


 まぁ、全て憶測にすぎないけどね。


「はは!言ってくれるな?エインヘリア王」


「敬称が無くなったようだが、何か気に障ったか?」


「いや、別に?ただすぐに別れる相手に敬意を払っても時間の無駄だと思っただけだ」


 そう言いながらも戦闘を始めるを素振りを見せないので、まだ向こうも話をしたいという事だろう。


「しかし……そちらは随分と焦っているように見えるな?エインヘリア王」


「焦る?意味が分からないな」


「はは!出会い頭に即死級の魔法を放ち、上の階でも姿が見えると同時に研究員たちを倒してきただろう?確かにその戦闘力は見事なものだが、それだけ我々を……いや、私達の技術を恐れているという事だろう?」


 さっきのカミラの魔法はともかく、上の階の事をまるで見てきたように言うね……もしかして監視カメラ的な物があったのか?


 魔道具……すごいな。


 いや、この場合凄いのは技術開発局ってことか?


 他の国ではそういう魔道具なんて見たこと無かったし……やっぱりこいつらの技術力は欲しいよな。


 技術だけは。


「恐れているという発想は無かったが……そう見えていたか?」


「流石は一国の王。とても虚勢を張っている様には見えない態度だ。だが、そちらは間違いなく警戒している筈だ、この魔道具をな」


 そう言って懐から取り出した魔道具は、俺が青の将軍から回収した魔物を操る魔道具と同じ物のように見える。


 ……どう考えても、コイツはあの魔道具の使い道を知っているようだ。


 監視カメラ的な魔道具で青の将軍の戦いを見ていたのか?


「いや、驚いたぞ?まさかこの魔道具にそんな使い道があろうとはな。だが実験してみたが、人を操る事は出来なかったし、英雄の出来損ない共も操る事は出来なかった。天然物の英雄も本質的には人工的に造った英雄達と変わらない筈だが……お前達は何なんだ?」


「何なんだと言われてもな。俺達は俺達としか言いようがないな。その答えを俺達は有していないが……一つ気になる事が出来たな」


「気になる事?」


「確かあの魔道具は人造英雄達でしか使用することが出来なかったはずだ」


「……まさかさっきの今でもうそこまで解析出来たのか?ふむ……エインヘリアという国をもっと早く知っていれば、そちらに潜り込んだほうがより研究が進んでいたかもしれないな」


 心底驚いた様子を見せる男に俺は普段通りの笑みを見せる。


 まぁ、確かに早すぎるよね……青の将軍を倒してから半日も経過していないし、その間に俺達は王都を制圧して城を消し飛ばしたりしていた訳で、魔道具の解析をする暇なんて殆どなかった。


 まぁ、実際はその前に倒した黒の将軍から魔道具をゲットしていたし、魔道具の件をアビリティを使って遠く離れたフィオに相談したりしているので、コイツが思っている以上に調べる時間はあったんだけどね。


 無論そんなことは教えたりしないけど。


 俺は相手の疑問には付き合わず言葉を続ける。


「研究所内の様子を見る限り、誰かに使用させて調べるというのは無理そうだ。だが、お前自身は魔族。人造英雄と同じやり方は出来ない筈だ」


 あの魔道具は魔王の魔力を使って人工的に英雄を作り出す為の核となる代物。


 魔族であるコイツが使えば狂化待ったなしだろう。


「……どういう意味だ?」


 どこかこちらを見下す様に見ていた男が目を細め、初めてこちらを警戒するような表情を見せる。


「当然だろ?あのやり方では確実に貴様は狂化する」


 俺のその言葉に、男は大きく目を見開いた。


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