第588話 覇王様の言う通り
ウルルの案内で技術開発局を進む俺達は、追加で五人の狂化した研究者と四人の遺体を発見した。
これで開発局の局員は全員だろう。
襲い掛かって来る連中は皆何らかの魔法を使って攻撃を仕掛けて来るので、非魔法使いが身代わりに研究員の格好をさせられて突撃させられているという訳ではない筈だ。
非魔法使い相手には完全に同じ人としての扱いをしないくせに、魔法使い相手には倫理観を見せるエルディオンだから恐らく身代わりという線はないだろう。
いや、もしかしたら魔法使いの犯罪者相手には容赦しない可能性もあるけど……この場でそれを確かめるすべはないし、何にしてもシュヴァルツが外を見張っている以上こっそり逃げるなんてことは不可能だし、研究員についてこれ以上考える必要はない。
しかしこの……正気を失った感じの連中に突然襲い掛かられる感じ……ほんとどっかにかゆうま日記とかありそうで怖い。
まぁそれはそれとして……一階部分だけで局長を除く研究員全員を発見してしまったな。
これは……どういうことだろうか?
捨て駒にしては野放しにしているだけで全然意味がない感じ……いや、狂化している以上放置しておくしかなかったって感じか?
普通に考えるなら、自分達が逃げる為の時間稼ぎってところだろうけど……誰かが何処かに逃げる様子はない。
ウルル達の調べで地下道とかがないことは分かっている。
研究所なら下水道とかありそうなもんだけど、それもない。
下水処理施設というか地下のため池みたいな感じになってるところはあるみたいだけど、そこからどこかに行けるような通路はないようだし……相手は何がしたいのだろうか?
この期に及んで色々実験がしたい……とか?
今なら今までできなかった実験が出来るぜひゃっはー!みたいな?
これで地下に降りたら、今度はゾンビやらキメラやらがいたりするのだろうか?
いや、ゾンビはこの世界普通にいるっぽいからないか……見たことはないけど。
うーん、地下に行きたくねぇ……。
こう、じわじわ来る系のホラーは比較的平気なんだけど、いきなりバーンと飛び出してくる系のホラーは苦手なんだよな。
来ると分かっててもビビっちゃうし、予想してなかった時はめちゃくちゃビビる。
何がヤバいって……今の俺覇王やん?
バーンからのびくぅ!ってのが覇王的にアウト過ぎるでしょ。
「地下にあるのは、局長専用の研究室と局員用の共同研究室だったか?」
「それと……実験場……があります……うちの訓練所の……半分くらいの広さ……」
結構広いな……。
うちの訓練所は城の中にあるとは思えない程広いからな……アレ絶対空間歪んでると思う。
その半分の広さでもかなりのもの……少なくとも百メートル走は余裕で出来るくらいの広さはあるという事だろう。
しかし実験場か……キメラがいるとしたらここだな。
いや、キメラは作ってないと思うけど……そんなの作ってたらウルルが確実に報告してくれているだろう。
でも、魔物を発生させる魔道具があるからな……生み出した魔物がぎっちり詰まってる可能性は否定できない。
実際、ギギル・ポーの坑道ではそんな風になってる場所があったしね。
まぁ何にしても実験場には用事はない、まっすぐ局長専用の実験室だかに向かえば良いからね。
俺がそんな風に考えた直後、俺を除く全員が同じ方向に顔を向ける。
「ウルル、向こうは?」
「……実験場」
「ふぅん……どっちにいくのかしらぁ?」
ナンノハナシカナ?
え?
カミラさん俺に何を聞いているんだい?
いや、カミラだけでなくリーンフェリアもジョウセンも……そしてウルルも俺の方を見ている。
……嘘やろ?
何があったん?
って悩んでる暇はない!
今だ!
今こそ覇王力を全開にして、知略85の頭脳をフル回転させるべき時!
この一瞬に全てを注げ!
大丈夫だ……皆の反応から予想すれば良いだけだ!
俺は局長専用の部屋に案内しろとウルルに命じた。
なのにこの場に止まり、実験場ともう一か所どちらに行くかと聞かれた。
もう一か所が局長専用の部屋と仮定するなら、実験場に誰かがいるのを皆が感知したと見て間違いない。
一階の時点で局員を全員発見している以上……死体が替え玉でなければだけど……残っているのは三名。
いくらウルル達でも、ここから実験場に居るのが誰かまでは判断出来ない筈……出来ないよね?
何より、俺が行きたい場所を伝えているにも拘らずこうして判断を求めるという事は、実験場にはそれだけ行く意味があるという事。
ならば結論は言うまでもないな。
ここまで約百ミリ秒、瞬きよりも速く結論を出した俺はきっぱりと告げる。
「くくっ……この状況だ、優先すべきは言うまでもない」
「了解です……」
完・全・勝・利!
これがはおうのじつりょくよ!
自分の意見は言わず全てを丸投げした俺の言葉に従い、ウルルは案内を始めてくれる。
……だ、大丈夫だ。
責任は全部俺が受け持つので……ごめんね?
「……」
暫く無言で進んだ先にあったのは……実験場。
やっぱね!
こっちだと思った!
いや、マジで!
だってそうじゃなかったらわざわざ聞かないっしょ!?
マジ分かってたし?
余裕っスわ!
寧ろ一択しかなくて辛かった的な?
……。
……。
……ほんとごめんなさい。
俺は申し訳なさに苛まれつつ実験場へと足を踏み入れる。
この想いは……予定外の場所にいるこの連中にぶつけるとしよう。
実験室の奥には二人の男が佇んでいる。
二人とも上の階にいた研究者と同じような服装だが、二人の様子は対照的だった。
一人はしっかりと背筋を伸ばして立っており、こちらに対してやや半身になっている。
もう一人は背筋を曲げて……というよりも前屈に近い体制で両手をだらんと投げ出し……体そのものはこちらに対して正面を向いているけど、物凄い前傾姿勢で顔は全く見えない。
なんというか……こっちは正気のような感じはしないね。
とまぁ……そんな姿を俺が認識した瞬間、二人は炎に包まれた。
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