第587話 見えたら終わる
「随分と派手な歓迎だな」
一瞬で俺達の前に出たリーンフェリアが盾を使い、押し寄せるように飛んできた火の玉を防ぐ。
振り払われた炎が俺達を包み込むように広がるが、温い風って感じだね。
広がった炎は何かに引火するわけでもなくあっという間に消失する。
いつも思うんだけど、魔法で出来た火ってなんなんだろうね?
何が燃えてんの?
火そのものが空中にあるってどういう事?
魔力ってやつが燃えてんの?
今回連れてきた完璧な布陣のお陰で、俺は突然炎に包まれようと余裕をもってそんなことを考えられる……いや、油断はしてないけどね?
炎が消えたことで、開いた扉の中が見えるようになったが……俺達の視線の先……廊下の奥にはウルルが立っており、その足元には二人の人物が倒れ伏していた。
うん……見敵必殺ね。
うんうん、俺の言う事をしっかり守ってくれてるね。
俺がしょうもない事を考えている間に、しっかりとウルルは仕事をしてくれている……頼もしい限りだ。
「リーンフェリア、ウルル。良くやってくれた。ウルル、そいつらは見習い達に預けておけ」
俺がそう言うと、ウルルは気絶した二人をずるずると引きずりながらこちらに連れてきたが、そのまま外には向かわず俺の傍で立ち止まる。
「これ……多分……英雄……見習いだと……厳しいかも……」
「英雄だったのか?」
俺は白目を剥いて倒れて……いや、白くない……赤?
あれ?こいつら二人とも、白目の部分が真っ赤だぞ?
充血?
「妙に目が赤いが、最初からか?」
「はい……最初から赤かった……です」
目が赤い……研究にのめり込み徹夜しまくって目が充血してるって可能性もあるが、この場合……。
「狂化か?」
狂化した魔物やギギル・ポーのドワーフ達。
それに狂化しかけたバンガゴンガ……皆目が真っ赤になっていた。
魔王の魔力で色々と研究している施設にこんなのが現れたら……狂化していると見て間違いない。
問題は……コイツ等は人族ってことだ。
妖精族や魔族に比べ、人族は狂化しにくくはある……しかし、全くしない訳じゃない。
この二人は血統主義のエルディオンにおいて研究員の格好をしているし、間違いなく人族だろう。
一人なら偶然の可能性もあるけど、この場所で二人が狂化しているってことは……間違いなく人為的な物と見て間違いない。
魔王の魔力、人工的な英雄、その研究所。
これだけの材料が揃えば答えは一つしかないだろう。
……この技術開発局というところは、本当に俺をイラつかせてくれるね?
「急いで人造英雄を作ろうとして狂化した……そんなところか?」
「うーん、それにしてはぁ、早すぎるんじゃないかしらぁ?人造英雄を作るにはぁ、魔道具を体の中に埋め込むのよねぇ?攻め込まれて半日くらいしか経ってない訳だしぃ、お腹を開いて魔道具を埋めてぇ……そんなにすぐに動けるようになるかしらぁ?」
「ふむ」
確かにカミラの言う通りだ。
俺達にはポーションや聖属性魔法があるから、外科手術直後でも普段同様動くことが出来る。
だけど、この世界の回復魔法は……フェイルナーゼン神教が管理しているとかで見せて貰った事はあるけど、ゲーム的な回復魔法の様に一瞬で怪我が治ったりするようなものではない。
自然回復力を高めるといった感じだろうか?
まぁ、魔法というだけあって効果は凄いけど……それでもお腹を開いて手術して閉じて……半日も経たずに元気いっぱいとはいかない。
うちのポーションも、エルディオンには流れない様にキリクがしっかりと管理していたみたいだしね。
そもそも鎖国状態で流通の制限が極端に厳しいエルディオンには、キリクがやろうとしない限り得体の知れないポーションなんてものは持ち込み不可能だった筈だ。
無色の軍に入れられなかった……所謂実験の失敗作……犠牲者の可能性もあるか?
いや、さっきの火の玉は多分魔法だろうし、何より格好が研究者のそれだからな。
被検体に相応しい恰好ではないだろう。
だとすると……手術自体は予めやっていた?
研究員が自らを実験体に……うーん、しない気がする。
いくら技術開発局が鼻つまみ者達の集まりであったとしても、彼らは特権階級である魔法使い。
その気になれば実験体なんていくらでも手に入れられるし、エルディオンは自国だけでなく他国からも実験体を集めていたんだ。
わざわざ、研究開発をしなければならない人間を被験者として選ぶわけがない。
魔法使いへの実験ということであれば、その被験者たちは五色の将軍達がなっているのだし……やはり彼らが実験を受ける必要はないと思う。
だとしたら……偶然狂化して暴れてただけ?
いや、偶然はありえないな。
常日頃から狂化しまくっているならともかく、ウルルの話では開発局内であまり騒ぎが起きることは無かったって話だし、そんな中突然二人も狂化とかありえないっしょ。
「捕縛用ロープはあるか?」
「二人分なら……これ以上増えたら……足りない……」
ウルルの言葉に、俺は開発局の奥へと目を向ける。
……とてもじゃないけどこいつ等だけとは思えない。
狂化しているしていないに関わらず、この奥には英雄クラスの敵がいると考えるのが妥当だろう。
「両手足砕いて猿轡を噛ませておけば、見習いでも大丈夫か?」
「……万が一の場合……殺しても良いなら……」
「問題ない。狂化している以上、この者達は魔王ではありえないからな。問題が生じた場合は殺して構わん」
「なら……大丈夫……」
そう言ってウルルは、倒れていた研究員の手足を何の躊躇もなく踏み抜いて骨を砕くと、開発局の外に二人を引きずっていった。
……こわっ。
じゃなくて、俺の指示なんだからそんなこと思っちゃいかんな。
それにしても、ちょっと失敗したな。
捕縛用ロープを多めに持ってきておけばよかった……まぁ、今更言っても完全に泥縄だけど。
初っ端から想定外……所詮俺の想定なんてそんなもんよ……。
先を見通す目が欲しい……。
そんな風に若干敵地で遠い目をしていると、ウルルがあっという間に戻って来る。
さて、気を取り直して……ちょっと確認し忘れていた件を聞いておこう。
「局長と魔族、そして例の男を除いて……ここには何人研究員がいる?」
ゆ、油断はしてないよ?
ちょっと確認し忘れてただけなんです。
「全部で十三人……二人は外に出したから……後十一人……」
「ふむ。今みたいに向かって来てくれれば話は早いが、何処かに英雄並みの力を持った者が隠れていた場合、それが逃げ出したとして見習い達は追跡できるか?」
「……厳しい……です」
少し肩を落としながらウルルが答えたので、俺は軽くウルルの頭を撫でながら『鷹の声』を起動する。
『シュヴァルツ、俺達以外の者が出てきたら射て』
『承知した、我が主よ。殺してしまわんように……足を射抜くとしよう』
『それで頼む』
何故かシュヴァルツのどや顔が脳裏に浮かんだが、とりあえずこれで外に逃げる奴はシュヴァルツがどうにかしてくれるだろう。
「外に逃げる者はシュヴァルツに任せた。ウルル、案内を頼む」
「了解……です」
俺の言葉にウルルが先頭に立ち案内を始めてくれる。
技術開発局内は建物としては非常に清潔感のある雰囲気だけど、何か非常に荒れている感じだ。
魔道具による明かりがあるから不気味な感じはしないけど……なんかあれね?
生物的な災害がアレする奴をちょっと彷彿とさせるね?
……やっべ、何かちょっと怖くなって来たんじゃが?
いや、リーンフェリア達がいるからそこまででもないけど……。
そんなことを考えながら横に視線を向けると、壁に穴が開いており外が見えた。
あぁ、爆発はこれが原因か?
周りには何かが燃えた様な後と……二名分の遺体が倒れている。
……あと九人ってことか。
俺は少しテンションを下げつつ……ウルルの案内に従って地下に降りる階段を目指した。
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