第586話 技術開発局へ
俺はリーンフェリア達を連れて技術開発局のある場所へとやってきた。
王都から少し離れた位置にあるこの場所は、王都の防壁の外にあるということで完全に国として守る気が無いように見える。
普通、研究機関なんて国家の秘中の秘でもおかしくはないのに、隔離するというよりも遠ざける様なやり方。
技術開発局の扱いはあまり良いものではなかったようだね。
まぁ、そんな中とんでもない研究成果を出したわけだから……上層部的には扱いに困ったのかもしれない。
そんな技術開発局の一角から、現在もうもうと黒煙が上がっている。
「ウルル、外に出た者はまだ居ないんだな?」
「はい……爆発があったのが……約十分前……その間……誰も……出入り……してません……」
部屋にウルルが知らせに来てくれたのは、技術開発局で爆発が起きたという情報だった。
爆発に紛れて何か事を起こすんじゃないかと監視を強化してもらっていたんだけど……どうやら特に動きは無かったようだ。
しかし……なんで爆発?
実験失敗か何かか?
……国がやべぇって時でも実験に明け暮れているって感じ?
マッドの巣窟って感じだね。
「爆発の原因は分かっているのか?」
「現在……開発局内には……入るなと言われているので……」
「そうだったな」
ちょっとウルルから非難めいた感情を向けられた気がするんだけど……これは気のせい……俺が後ろめたいと思っているからそう感じたのだろう。
俺は改めてウルルを見てみるが……うん、普段通りのぼーっとした雰囲気。
やっぱり気のせいだな。
「何が起きているかは分からんが、直接行くしかないか」
「お待ちくださいフェルズ様。まずはウルルを先行させて状況を調べるべきではありませんか?」
珍しく、リーンフェリアが俺に意見を申し出て来る。
その真剣な様子は、一切油断をしてなるものかという気迫に満ちている。
普段であればその進言を聞き入れただろうけど、今単独で行動させるのは……ないな。
いや、でもな……って、またフィオと話した時と同じこと考えてるな。
もう覚悟は決めたんだ……。
「確かに情報は必要だが、今は拙速を尊ぶ。それに……俺はこの技術開発局という場所に煩わしさしか覚えていない。だからこの手で直接潰してやりたくてな」
……正直、青の将軍と戦った時と同じような我儘とも言えるが、あの時のような浮ついた気分ではない。
俺自身が行くことに意味がある。
俺の安全を確保しなければならないリーンフェリア達としては納得しがたいだろうけど、俺は俺でうちの子達を危険から遠ざけたいのだ。
「……ですが」
「それと、これはフィオが調べてくれたんだが、あの意識を失わせ操る魔道具……アレは俺には通じないらしい。どうも、しばらく神界に居た影響らしいが……実際効かない事は確認済みだ。だから最低限、その部分の心配は必要ない」
俺が操られるってのは、考えられる中でも最悪のパターンと言えるが……その可能性がないってのは大きいし、リーンフェリア達としても安心出来る材料だろう。
「……」
まぁ、それはそれとして俺が技術開発局に行くのを許してくれるかってのは別問題だよね、危険なことに違いはないし。
「だから、今回は俺を先頭に立たせてくれ。無論、後ろや脇はお前達に任せる。俺はどうも脇が甘いからな……」
皮肉気な笑みを向けると、リーンフェリアは真面目な表情を崩し困ったような表情を見せる。
なんか、子供の我儘を聞いている母親みたいな表情だが……そんなしょうがないなぁみたいな空気になる様な事言った?
「フェルズ様……あまり無茶はして欲しくないのですが……」
「くくっ……この程度の相手、無茶という程ではないだろう?少々小賢しい道具を有しているようだが、それだけだ。無論、注意は必要なんだがな」
「……」
リーンフェリアがやはり困ったような表情のまま小さくため息をつく。
その様子を見て俺は肩をすくめてみせる。
「リーンフェリアも納得してくれたようだし……ウルル、局内の案内は任せる。最優先は以前話していた局長と魔族の男しか入ることが出来ないという部屋だ。その奥にいるという男……それが魔王であるならば確実に接触したい」
「了解……です……爆発は……調べなくても……?」
「中に入れば分かるだろう。分からなければ……後回しで構わん。優先すべきは先程伝えた通りだ」
俺はそう言って技術開発局の建物に視線を向ける……あ、また爆発。
「……今まで監視をしていて爆発を確認出来た事はあったか?」
「ないです……」
……なるほど、平時から爆発しまくってるわけではないのか。
どう考えても厄介事が技術開発局で起きているようだね。
まぁ、平時から爆発している研究施設は嫌だな……いや、案外そういう理由で王都の外に置かれているって可能性もあるよな。
マッドサイエンティストを隔離的なね。
ぼんぼんと景気良く爆発しているみたいだけど……あれは実験とかではなく、俺達への対抗手段を急いで用意している……その可能性もあるか。
いや、余程暢気じゃない限り、何らかの手を打とうとしていてもおかしくはない……例えば、英雄を作ったりとか?
人造英雄を作る手術がどのくらい時間がかかるのかは知らないけど……それを強行したりしていそうな気もする。
それが原因で爆発……あり得るのかな?
……もしくはあれか?
実験を強行したせいで英雄が暴走した……?
ありそうだな……。
相手の切り札がそれだったら……こちらとしては願ったり叶ったりだ。
英雄なら……ダース単位出来てもここに居るメンバーならちょちょいのちょいどころか、ちょっ……くらいなもんでしょう。
まぁ、リズバーン達が戦ったような……特殊能力を持っているような英雄だと、その能力次第では厄介なことになり得るか。
うん、油断はダメだな。
それで今日痛い目に遭ったばかりなんだ……よし、サーチアンドデストロイ……見的必殺でいこう。
あの研究所内にいるやつは……全員敵だ。
普通の研究員も、目に付いたヤツは全員無力化してゴールまで突き進む……俺達が突入しても外の監視は解かないから逃げられる心配はほぼ無い。
とは言っても殺してはダメだ。
俺達がぱっと見で魔王かどうか判断出来るかどうかも分からないし、うっかりやっちゃったら大変なことになる。
「全員、これから開発局内に突入するが、エルディオンの者を見つけたら即座に制圧せよ。遠慮はいらんが、けして殺すな。魔王がうろついている可能性もあるからな、うっかり殺してしまった場合どうなるか分からん」
魔王と思しき人物は奥の部屋から出てこないという話だったけど、今は平時ではないから普段とは違う行動を起こしていてもおかしくはない。
「畏まりました」
俺の言葉にリーンフェリアが代表して返事をする。
魔道具の射程は十八メートル。
新しい人造英雄がいる可能性もあるし、敵の魔道具の範囲は気を付けなければならないが……屋内だと壁越しとか、違う階からの攻撃とかもあり得る。
相手は俺達を操ることが出来る魔道具がある事を知らない筈だけど……油断はできないからね。
「けして油断はするな。注意すべきは件の魔道具だけとは限らんからな」
ちょっとしつこいくらい言っているけど……まぁ、それだけ危険視していると皆に伝わってくれれば良い。
「では、ケリを付けにいくか」
俺はそう告げて技術開発局へと足を踏み出す。
外から見る限り、結構大きい石造りの建物だ。
ウルルの話では二階建て。
後は地下一階があるらしい。
目指すのは地下……技術開発局長専用の部屋。
そこに目的の人物たちがいる筈だ。
ウルルが技術開発局の扉を開けて……正面から火の玉が押し寄せ、俺達は炎に包まれた。
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