第585話 結論
『なんか……一瞬ですげぇ疲れた』
『悪かったのじゃ』
『いや、フィオがそうやって調べてくれたからこそ、こっちも動くことが出来たんだ。感謝している……けど、やっぱりすげぇ心配するから、あまり無茶はしないでくれ』
『う、うむ……な、なんかあれじゃな?』
どことなく機嫌が良さそうな声をフィオが出す。
『先程と立場が逆になったというか……むず痒いが悪くないというか、じゃな』
……先程?
あぁ、あれか。
俺が青の将軍ぶっ飛ばした時にフィオに怒られて……ちょっとほんわかした気分になった時の……。
『……俺はあの時のフィオの気持ちが分かったよ』
『ほほほ……お互い勉強になったの』
フィオの笑い声に俺は小さくため息をついた後、話を続ける。
『話を戻すが、さっきの件は確定と考えて大丈夫か?』
『そうじゃな……ほぼ間違いなと踏んでおる。魔道具の解析を進めればもっと確実な事が言えるのじゃが……すまんのう』
『そうか……』
『その件の検証は何度もやりはした。エインヘリアの……オトノハ達は魔導具を起動すれば確実に効果を受けておったが、私に一度も通じなかったのは間違いないのじゃ。本当はお主にも一度こちらに戻ってもらって、確認してもらった方が良いと思うのじゃが……』
『確かにそうだが……帰る……』
か、帰ったら……
『い、いや、間違ったのじゃ!帰って来てはダメなのじゃ!』
えー。
『……あかんの?』
『あ、い、いや、だだだ、ダメではないのじゃが……』
フィオの反応に、約束がしっかり生きている事を感じた俺は小さくガッツポーズをとる。
……これ恥ずかしがってるだけだよね?
一瞬で思考が空の彼方に飛び去ろうとしたが、ギリギリで踏みとどまった俺は咳払いをしてから話を元に戻す。
『……まぁ、流石に今ここを放り出すわけにはいかないしな。技術開発局を放置することは出来ないが、うちの子達に任せるのは不安要素がある。かと言って魔王の事を考えれば、あの施設を消し飛ばすわけにもいかない。俺が直接行くしかないよな』
『待つのじゃ!流石にお主が行くのは危険すぎる!他にも隠し玉がないとは限らんのじゃぞ!?』
『……その可能性がゼロとは言わないが、ウルル達が調べてくれた限りではヤバそうなものは無かっただろう?』
俺はそう口にしたものの、正規の使い方とは違う使い方でリーンフェリアを操ったという事実を思い出し、説得力がない事に気付く。
『正直、何が起こるか分からん。お主も分かっておる筈じゃ』
『それはまぁそうだが……だがうちの子達にとって既に見えている危険がある以上、俺が行く方がいいだろう?』
リーンフェリア達よりも俺の方が対応力があるとは言わないが、皆が防ぐことが出来ない攻撃を俺ならば無効化することが出来るというのは事実。
またあの光景を目にした時、今度こそ自制出来るかは分からないけど確実に対処出来る俺が出るのは仕方ないだろう。
『……いや、あの魔道具は英雄か私達にしか起動することは出来んのじゃ。恐らく魔王の魔力の保有量が起動条件になっておるのじゃろう。人造の英雄はもう残っておらんはずじゃし、魔道具を起動する事は出来んはずじゃ』
『……魔王の魔力の保有量か。原因が分かっているなら、それを誤魔化すような魔道具を作っていてもおかしくないんじゃないか?』
『む……』
魔物を操る魔道具を普通の人が使えない原因は作った連中なら当然分かっているだろうし、それを克服する何かを用意していてもおかしくはない。
他の魔王の魔力を利用とした魔道具があるのであれば、それを研究者自身が使用不可の状態に満足できるとは思えないしね。
フィオもその考え……いや、開発者としての気持ちが分かったのだろう。
あの魔道具がいつ開発されたものかは分からないけど、多分フィオ達のような研究者は欠点を欠点のままにしておけないタイプだと思う。
いや、研究者なら誰でもそうなのか?
まぁ、その辺はよく分からんけど……イメージ的にはそんな感じだ。
『確かに、お主の言う通りじゃな。その対策をしている可能性は低くはない』
『だろ?まぁ、可能性を考えていたら身動きが取れなくなる。だから現時点で判明している事だけに目を向けよう』
俺がそう言うと、フィオはまだ言いたい事がありそうだったが提案には乗ってくれた。
『……敵は魔王の魔力について研究しておる』
『人工的に英雄を作り出す。魔物を生み出す。その魔物を操る……主だったものはこんな感じだな』
『それと、恐らくじゃが魔王が居る』
『魔王がいるとなったら吹き飛ばすわけにはいかないし、研究成果は回収したい。しかし技術を外に流出させるわけにはいかない。そして技術開発局の誰が何処までその技術を知っているか分からないから、ひとまず全員を監視下に……』
あかん……面倒過ぎる。
『なぁ、フィオ。なんか良い手はないかな?』
『厄介じゃな。相手が只の研究者であれば、そこまで厄介ではなかったかもしれんが……話を聞く限り、それなりに融通は利きそうじゃが、しっかりとエルディオンの思想を受け継いでおるようじゃしのう。特に……他種族や非魔法使いに対して人体実験を施すのに何とも思っておらぬようじゃし、お主とは上手くやっていけんじゃろうな』
『そう、だな』
フィオの言う通り、俺は技術開発局局長に良い感情は持っていない。
技術的には取り込みたいけど人間的には非常にいらない……いや、エルディオンの思想を骨の髄まで信じ込んでいる人達は正直現時点では使い辛いのは全員一緒か。
それをキリク達に矯正してもらうんだけど……うん、矯正することを考えれば局長もまともになるか?
……そうだな、現時点で問題があるからといって、未来の可能性まで否定するのは違うよな。
腐ってもエインヘリアのトップである俺は、自分の感情よりも国の利益を優先させなければならない。
だったら技術開発局の連中も飲みこんで、腹の中に収めなければならないのだろう。
……腹壊しそうだけど、キリク達の手腕を考えれば何とかしてくれそうな気もする。
『王としては、難しい所じゃな。じゃが、お主が気にしておるのは相手をどうこうした後ではなく、その前段階じゃろ?』
『……そうだな。最悪、ケリがついた後はキリク達に丸投げしてしまえば良いからな。俺の目的は敵を外に引きずり出して研究成果から離す。それと魔王と思われる人物の件だな。何故そこにいるのか、研究に協力しているのか、それとも協力させられているのか……それによって魔王への対処も変わるしな』
フィオの事もあるし、出来れば魔王は保護する方向でいきたいんだけど……会ってみない事には分からんしなぁ。
ノリノリで研究に参加してる可能性もあるし、エルディオンの思想に染まっている可能性もある。
うん……見つけた場所が最悪やね。
エルディオンで見つかったのでなければ思想の心配なんてしなくて良かったし、エルディオンでなければ妙な研究を進める事もなかっただろう。
まぁ、魔王が傍に居ようと居まいと魔王の魔力は大陸中に蔓延しているんだから関係なかったかもしれないけど、傍にいるからこそできた研究もあったかもしれない。
魔法大国と呼ばれるエルディオンと魔王というイレギュラーな存在……最悪な組み合わせのような、至極当然のような組み合わせのような……まぁ、俺達からすれば厄介極まりない組み合わせと言えよう。
『……やはり、俺が乗り込むしかないな』
『……』
『いや、一人では行かないぞ?』
フィオから無言の圧力を感じた俺は、咄嗟に言い訳じみた感じで言葉を続ける。
『リーンフェリアとカミラ、ジョウセン、ウルルを連れて開発局に。シュヴァルツと外交官見習いを外に配置して監視させるれば……取り逃しはないだろうしな』
今エルディオンに来ている人材から最高の人材を選択する。
王都の方も放置できないけど、戦力的にはサリアやリオ達がいるし……そもそもキリクがいる時点で妙な事は出来ないだろう。
クーガーがいれば連れて行きたかったけど、流石にまだこっちに戻って来てないしね。
『結局……ロクな案は出んかったが、良いのかの?』
『いや、十分だ。フィオと話していたおかげで考えは纏まった。やはり、時間をかける方が危険だってのが俺の意見だ。リーンフェリア達を操れることもまだバレてない……ササっといってパパっと片付けるのが良いだろう』
まぁ……結局こうなるよね。
真っ直ぐ行ってズドンはエインヘリアの得意技とも言えるし。
所謂アレだ、最初は強く当たって後は流れでって奴。
大丈夫……最悪魔王さえ確保すれば、後は本気でやってしまっても構わない。
色々知りたい事もあるから話を聞きたい気もするけど、それよりもまずは安全確保が最優先。
最終的に相手の事を何一つ理解出来なくても問題はないのだ。
研究成果と魔王……この二つを確保してしまえば後は野となれ山となれだ。
そう結論付けた瞬間扉がノックされ、部屋の外からウルルの声が聞こえてきた。
「フェルズ様……技術開発局が……」
……。
覚悟を決めた瞬間、厄介事か……?
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