第579話 緊急会議

 


 前回までのあらすじ。


 なんやかんやあってお触りのオッケーが出た、完。


 はっきり言おう。


 俺は今城に帰りたい気持ちでいっぱいです!


 もうエルディオンとか戦争とか責任とかどうでもいい……とはならないんだよなぁ。


 いや、エルディオン自体はほんとどうでもいいんだけど、うちの子達を操る魔道具とそれに繋がる研究……魔王の魔力関連の研究を放置するわけにはいかない。


 でも正直色々めんどくさいから、技術開発局とやらにエリア系を五、六発叩き込んで研究成果ごと更地にしてしまいたい。


 いや、あかんけどね?


『取り急ぎの報告じゃ。リーンフェリアの事を操ったのはエルディオンで作られた魔道具で相違ない。射程距離は十八メートル。ただし一度操る事に成功した場合、魔道具から五十八メートル離れた位置まで効果は残る。操られている最中は完全に意識を失い、魔道具を使われることを認識していても抵抗は不可能じゃ』


 俺は『鷹の声』の会議モードで繋いだフィオの報告に耳を傾ける。


 会議参加者は俺とフィオ、キリク、イルミット、リーンフェリア、ウルル、サリア、カミラの八人。


 フィオが会議に参加するのは初めての事だが……一切緊張を感じさせずに説明を続けられるのは流石としか言い様がない。


 正直……俺が突然こんな会議に参加させられたら声が震えるね。


『操った相手を動かすにはかなりの集中を要するが、操ることが出来る状態にするだけならば目標を定めて魔道具を起動するだけなので戦闘中でも容易に行える。一つの魔道具で一人を操る事が出来るが、一人で複数の魔道具を起動するのは不可能……二つ目を起動した時点で一つ目は効果を失う感じじゃ。状態異常無効の指輪を含む耐性系のアクセサリーでは防ぐことは出来ん』


 リーンフェリアの耐性を抜けたからある程度予想していたけど、状態異常無効の指輪でも防げないのか。


 ……じゃぁなんで俺には効かなかったんだ?


『現時点で分かっている事はこのくらいじゃ。何か気になる点、もしくは優先して調べて欲しい事があったら言ってくれ』


『俺が操られなかった理由は分かるか?』


『……それについてはこちらで調べられた訳ではないからの。はっきりとしたことは言えぬ』


 俺の質問に、少しだけ間を空けて答えるフィオ。


 もしかしたら既に仮説くらいは立てているのかもしれないが……軽々には口に出せない、いや、皆には聞かせられないってことか?


 後で個人的に聞いておくか。


『フィルオーネ様。エインヘリアが保有している既存のアクセサリーではその魔道具の効果を防ぐことは難しいとの事でしたが、新たに防ぐ手立てを開発することは可能でしょうか?』


『恐らく可能じゃ。じゃが、それを開発する為には、まず件の魔道具を解析する必要があるのじゃが、流石にそれは一朝一夕とはいかぬ。解析さえ済んでしまえばそこから先は早いのじゃがな』


 キリクの質問に、少し申し訳なさそうな雰囲気を滲ませながらフィオが答える。


『なるほど……』


『これに関しては技術が技術じゃし、人手を増やすのもマズかろう?』


『確かにそうですね。解析ともなれば当然関係者はその魔道具の仕組みを正確に把握することになりますし……その者自身に信が置けたとしても、技術を手にしているというだけで何が起こるか分かりません』


『まだ蓋を開けておらぬから何とも言えぬが、早くとも一週間、長ければ半年くらいは解析に時間がかかるかも知れんのう』


『随分と幅があるな?』


『魔道具といってもピンキリじゃからな。作り手の独自ルール……所謂癖のようなものが強いと解読に時間がかかるのじゃよ。それにどれほどの規模の魔術回路が組み込まれておるかは開いてみなければ分からんしのう』


 解析に掛かる時間の幅が凄まじいことを指摘すると、フィオはやはり困ったような色をにじませながら返事をくれた。


 まぁ、プロの技術者がそういうのであればそういうものなのだろう。


『なるほどな』


『その辺りはオスカーが得意として居る分野じゃの。他人の作った回路を解析して改良を加える事に関してはヤツが一番上手い』


『オスカーが?』


 俺は脳裏に元禿のロン毛ギャルゲー野郎の顔を思い浮かべる。


 ムカつく面してやがる……。


『うむ。あんなんじゃが、優秀な技術者じゃよ』


 フィオがオスカーを褒めるのは物凄く複雑な気分だ。


 正直奴の頭に『白炎』かましたくなる。


『よし、もや……いや、オスカーだけでなく、開発部にいるエインヘリア出身の者以外にも解析をさせよう』


『フェルズ様、それは……』


 俺の提案にキリクが難色を示したのでひとまず制する。


『まぁ、聞け。ウルルの報告では、確か件の魔道具はまだ試作品段階ということだったが、既にエルディオンの手で開発されてしまったものだ。ここで俺達が秘匿し、闇に葬ったとしても……いずれ誰かがこの地点に辿り着くぞ?既に到達できることが証明されているのだ、第二第三の魔道具が開発されるのは時間の問題よ。違うか?』


『……それは、お主の言う通りじゃな』


『『……』』


 フィオが硬い声で同意すると、会議に参加していた者達が重い空気を醸し出す。


 音声のみの会議だけど、意外と感情も伝わって来るものだね。


 そんなことを思いつつ俺は言葉を続ける。


『いくら俺達でも一人一人の思考まで統制出来る訳ではないし、そもそもするつもりはない。自由な発想が国をより豊かにしていくのだからな。無論失敗すれば大きな痛手になる事も多いが、俺達の役割は民が失敗した時の尻ぬぐいだ。禁忌だなんだと制限を課すことではない』


 寧ろ禁忌だなんだと制限してしまえば隠れてこそこそ研究するに決まっている。


 人ってのはそういうもんだ。


『我等がやらなければならない事は制限ではなく、この技術に先んじること……対抗手段の確保だ。それには多くの有識者たちの知恵が必要だろう?無論、矢鱈めったらに協力者を募って技術を拡散しろという訳ではない。この技術の危険性を理解出来る者達に……それこそオスカー達に手伝わせるのは、今後の事を考えても必要だろう』


 正しいとは断言できないけど、まだエルディオンにこの事を知られていない今だからこそ急ぐ必要があると思う。


 危険な技術だからこそ、研究を進めなくてはいけない。


 正直、臭いものには蓋をして跡形も残さずに消し飛ばしてしまいたいけど……自分で言ったように一度生まれた技術は、例え今どうにかしてもいずれまた生まれてしまうからね。


 管理できる状態にしておいた方が絶対に良い。


『俺達の元での技術発展であれば管理もしやすいからな。だからフィオ、面倒をかけるが対抗手段を最優先に、解析研究を進めてくれ』


『了解したのじゃ』


『では次に、エルディオンの件だ。キリク、考えを述べよ』


『はっ!まずエルディオンの王都に関してですが、こちらは予定通り……いえ、人員を少々増やしてから進めましょう。魔道具の射程が十八メートルであれば、サリア、リーンフェリア、問題はありませんね?』


『大丈夫であります!その範囲内に敵を近づけない様にすれば良いでありますね?』


『問題ありません。二度と不覚はとりません』


 リーンフェリア達は同じ天幕に居るのでその表情まで見えるが、サリアはともかくリーンフェリアは鬼気迫ると言った表情だ。


 リーンフェリアのその態度は仕方ない事だろうけど……まぁ、俺としては自責の念で潰されそうになるよりも安心してみていられるね。


 あ、リーンフェリアに罰を与えるって言っちゃったな……正直俺としてはそんなの要らないと思うけど……。


 あんな初見殺し、どうこう出来るわけがない。


 偶々リーンフェリアがそこにいたから被害に遭ったというだけで、それを罰するというのはどうもな……とか考えている場合じゃないな。


『予定通りか……技術開発局に関してはどうする?』


『そちらは……今の所は監視強化だけにします。幸い、既に内部構造や中にいる人数は把握できておりますので直近の監視は外交官見習いに、外交官は遠巻きの監視にしましょう。ウルル、問題ありませんね?』


『大丈夫……ネズミ一匹……逃がさない』


 ウルルが言うと、本当にネズミ一匹技術開発局から外に出ることは出来なさそうだよね。


『ならば、当初の手筈通りことを進めるとしよう。これより、エルディオン王都を制圧する』


『『はっ!』』


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る