第578話 故に覇王
「では、完全に意識が無かったという事か」
「はい。気付いた時にはウルルに拘束されていました」
意識が無かったか。
意識があれば抵抗を試みる事も出来たかもしれないが……使われた時点でアウトか、相当厄介だな。
一瞬、口の中に血の味を感じた気がした俺は口元に手を当て、少し考えるようなそぶりを見せながら口を開く。
「分かった、もし何か思い出したことがあったらすぐに教えてくれ。ウルル。俺が呼び出した召喚兵に青の将軍とその装備を見張らせている。すまないが、それらを城にいるフィオの元まで運んでもらえるか?」
「……運ぶのはクーガーでも……良い……ですか?」
「あぁ、構わん」
「……了解。私は……護衛に……残る」
ウルルはそう言うと、俺の前から姿を消した。
恐らくクーガーに指示を伝えに行ったのだろうけど……クーガーも戦場に来てたのか?
まぁ、外交官達が何処に居ても驚きはしない。
俺はゆっくりと立ち上がり、天幕に残っている二人に顔を向ける。
「リーンフェリア、サリア。城で魔道具を調べているフィオに情報を伝えて来る。隣の天幕にいるから何かあったら来てくれ」
「「はっ!」」
リーンフェリアも落ち着いてくれたようだし、少しの間席を外しても大丈夫だろう。
念の為サリアも残しているし、何かあっても問題はない。
俺は天幕を出る直前、リーンフェリアには気付かれない様にサリアに目配せをする。
それを受けたサリアがさりげなく目礼をするのを確認し、俺は本幕に併設された小さな天幕へと入り一息ついてから『鷹の声』を起動した。
『フィオ、今いいか?』
『うむ。そっちは大丈夫かの?』
『あぁ。リーンフェリアも元に戻って、落ち着いてくれたと思う。話を聞いたからその情報を共有しておこうと思ってな』
『うむ。よろしく頼むのじゃ』
俺はフィオにリーンフェリアが操られていた時の状況と状態を俺とウルルの視点、そしてリーンフェリア本人の視点からそれぞれ伝える。
『何か前兆を感じることもなく、一瞬で意識を失い気付いた時にはウルルに拘束されていたか。中々厄介じゃな』
『あぁ。それとリーンフェリアが装備していたのは状態異常耐性の指輪だ。リーンフェリア本人のアビリティと合わせて全状態異常無効と同じ効果だな』
『ゲーム由来では防げぬということじゃな。となると、やはり根幹部分の魔王の魔力を操作していると見て間違いないようじゃ』
フィオの声音が深刻さを増す。
『ただ、効果範囲はあまり広くはなさそうだ。元居た場所から百メートル程離れた時点で意識を取り戻したみたいだからな』
『ふむ』
『それと、さっき言ったかもしれんが、操られている時のリーンフェリアは動きがぎこちなかった。リーンフェリアの能力をフルで活用出来るなら戦力的にも脅威だったかもしれんが、現状は人質以上の役には立たないだろうな。まぁ、俺の防御を貫くくらいの攻撃は出来るが、アレは俺が油断していたせいだしな』
いくら身体能力のスペックが高くても動かす奴がポンコツだったら意味がない……って結論がブーメラン。
いや、フェルズの身体を十全に使いこなせていないのは百も承知ですよ?
でもそれ以上に操れていなかったからね?
ぶっちゃけ、リーンフェリアが油断してる俺の背中から普通に攻撃したら……流石に死にはしないけどかなりやばかったと思う。
防御系に特化しているとはいえ、普通に剣技は凄いからな……何故か英雄と戦う時は盾でぶん殴ってばかりいるけど、手加減しやすいのかな……って、あれ?
リーンフェリアに剣で斬られたのって……ルモリア王国の王と俺だけじゃね?
……なんか……ちょっとアレだな。
『恐らく魔物を操る魔道具の効果じゃろうが、もしかしたらその将軍の特殊能力という可能性もあるからの。武装解除してあっても油断してはならぬぞ』
『確かにそうだな。その可能性は考えていなかった。ウルルの報告では特殊能力持ちはいないという話だったが、奥の手として隠していた可能性はゼロではないか』
気絶はさせたけど、クーガーに忠告しておくべきだな。
魔道具ばかり気にしていたけど、フィオの言う通り特殊能力の線も十分ありうる。
……抜けが無いようにしようとしている傍からこれだ。
ほとほと自分の間抜けさに苛立ちが募る。
『こちらもカミラが回収した魔道具を調べ始めたところじゃが、まだこれが原因だと断定は出来ぬ。取り扱いは慎重にせねばならんし……何より出来る限り他の者に知られぬようにした方が良いじゃろう?』
『そうだな……だが、その辺りの調査に関しては俺には分からないし、必要ならオトノハやヘパイ達を使ってくれ。うちの連中なら技術が漏れたところで変なことにはならないだろうからな。というかこの件は最優先で調べて欲しいし、積極的に手伝わせてくれ』
『ふむ、そうじゃな。ではオトノハ達に声をかけるとするのじゃ』
『頼む。それとクーガーが将軍と装備一式をそっちに輸送中だから、それも合わせて調べておいてくれ』
『了解したのじゃ。取り急ぎ、魔道具の有効射程や効果時間あたりを調べておくから一時間後にまた連絡くれるかの?もし原因が件の魔道具でなかったとしても、そのくらいあれば判明するはずじゃ』
『分かった、よろしく頼む』
よし、これで一時間後にはある程度今後の動きを決められる筈だ。
だがそれまでぼーっと待っているわけにはいかない。
とりあえず『鷹の声』をクーガーに繋ぎフィオに指摘してもらった件を伝え、警戒を厳にするように命じておこう。
元々警戒はしていただろうし、クーガーであれば失敗はしないだろうけど連絡は大事だからね。
それと、キリクにも連絡をしておいた方が良いだろう。
本来の予定とは動きが異なっている……キリクの計画は非常に緻密なものなので、予定の遅れは致命的な物になるかもしれない。
いや、キリクだったら予備プランやリカバリーの準備も完璧に整えていそうだけど……それでもまずは連絡が必要だろう。
後は……エルディオンの技術開発局監視の強化をウルルに……これは言ったっけ?
外交官見習いを使って徹底的に監視するように言っておかないと……。
『……』
そんなことを考えていた俺は、ふとフィオの息遣いのようなものを感じ『鷹の声』をまだ切っていなかった事を思い出した。
『っと、すまん。アビリティを切り忘れていたようだ』
『……待つのじゃフェルズ』
『ん?』
忙しいであろうフィオに俺は謝り『鷹の声』を切ろうとしたのだが、それをフィオに止められてしまう。
まだ何か聞いておかなければならない事があっただろうか?
『その……あれじゃよ……』
『なんだ?』
『う、うむ……つまりじゃな……?』
なんか妙にまごまごしているというか、言い難そうにフィオがしている。
『何か話があるなら一度城に戻るか?』
『いやいやいや、そうではないのじゃ。寧ろこの方が都合が良いのじゃ!』
『そ、そうか?』
何故か急に勢いを増したフィオに押され、とりあえず『鷹の声』を繋いだままにする。
まぁでも、こちらでまだやらなければならない事もあるし、思い付きで帰ると言ってしまったのは失敗だったな。
もしフィオに頷かれていたら、多分帰っていただろうし……いや、無責任すぎるな。
今俺がやってるのはちょっとしたお使いではなく戦争……一瞬の判断ミスが死につながる戦争なのだ。
王都にまで攻め寄せられているエルディオンからすれば、例え英雄がいなくとも……命を賭して俺達を排除したいと今この時も考えているだろう。
子供の遊びではない。
軽々にこの場を放棄する等と口にして良い筈がないのだ。
そもそも俺は自分の迂闊さを……。
『その……あれじゃ……帰ってきたら……さ……触っても良いのじゃ』
よし、帰ろう。
いや、違う!
え?
何?
どゆこと?
何?
触る?
何処……いや、何を!?
『さ……触るとは……一体何の話だね?』
何か覇王の中から変なジェントルメンが出てきた!?
『……そ、それは……お主……次第じゃな……』
俺の判断で!?
ど、どこでもええのん!?
それなんてフロンティア!?
いや、違う!
『ど、どういうことでゲスか?』
何か覇王の中から変なゲスが出てきた!?
おちゅちゅけ!
ちゅっちゅっ!?
『と、とりあえず、しっかり働いて、後は帰って来てからじゃ!ではまたの!い、いや!一時間後にまたの!あ!リーンフェリアはまだ普段通りでは絶対ないからの!注意してやるんじゃぞ!』
『う、うん!?』
『……』
『……』
『……』
『……』
『……は、早く切るのじゃ!』
『お、おう!』
え?
マジでどゆこと!?
何が……ナニが起きているんだ!?
俺は混乱したまま天幕を出て……リーンフェリア達のいる天幕へと戻る。
そこには既にウルルも戻って来ていたのだが……天幕にいた三人が俺の方を見て驚いたような表情を見せる。
「どうかしたのか?」
俺は変な顔をしていただろうかと内心焦りながら尋ねる。
「……凄い」
何が?
凄い変な顔してた!?
「驚いたであります」
何に!?
ほんとやめて!?
「流石はフィルオーネ様……ですね」
一体なんなんなんですか!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます