第576話 やや混乱中
『問題ないのじゃな!?』
真剣な声音でフィオが尋ねて来て、俺は見えていないにも拘らず頷きながら答える。
『あぁ、大丈夫だ。魔道具を使用していた感じはあったが俺には効かな……』
そこまで言ってしまってから俺は失言に気付く。
『使われたじゃと!?』
『い、いや、わざとじゃないんだぞ?敵も英雄だったから反応が良くて……』
『……』
かなり全力で踏み込んだのに、こいつはしっかり俺の事を視認していたからな……。
俺はぴくぴくと痙攣している青の将軍を見下ろす。
っと……いかんな。
さっき持っていた魔道具を回収しないと……吹っ飛んでないよね?
俺は若干焦りつつ、先程ちらっと見えた魔道具を探す。
幸いというか、青の将軍が気を失ってなお魔道具を堅く握りしめていたので簡単に見つけることが出来た。
とりあえずこれは最優先で回収っと……いや、アレがブラフという可能性もあるし……武装解除するべきだよな。
ウルルを呼びたいところだけど……気を失っている振りでもされてウルルが操られたら最悪だし、もしそんなことになったら多分俺は今度こそ……。
『……フェルズ。敵はどうしたかの?』
俺の考えを読んだかのようなタイミングでフィオが尋ねて来る。
……心配してもらえるのは嬉しい反面、心配させすぎな感じがして申し訳無くなって来るな。
『白目剥いて伸びてるよ。武装解除しようとしていた所だ』
『……誰かに任せろと言いたい所じゃが、任せられるものがおらんか……』
『リーンフェリアが操られた以上、うちの子達は近づけるべきじゃないからな』
『リーンフェリアは大丈夫かの?』
『分からん……ウルルに任せて後ろに下げたからな。それも確認する必要があるな……』
『……待つのじゃ。まずは倒した将軍とやらが目を覚ます前に魔道具を取り上げるべきじゃ。リーンフェリアの事は気になるが、まずは危険の目を潰しておく方が良いじゃろう』
フィオの言葉に、俺は見えない事が分かっていながらも頷いてしまう。
『確かにそうだな。目を覚まされたらまた厄介だし、とっとと引っぺがすか……そうだ、フィオ。リーンフェリアが何を装備していたか分かるか?』
先程魔道具を使われた時、微妙な違和感は感じたが自由が利かなくなるほどではなかったのだけど、アレは装備のお陰なのだろうか?
俺が今装備しているのは覇王剣ヴェルディアと状態異常無効の指輪。
ゲーム的な話になるのだが……覇王ルートで邪神ルートに入るとラスボス戦は主人公一人で戦わなければならない。
覇王剣ヴェルディアには、その時の為の効果と言っても良い装備効果がこれでもかというくらいに詰め込まれている。
その一つが状態異常無効化だ。
ぶっちゃけ覇王剣を持っている状態の俺は、状態異常無効の指輪を持っておく必要はない。
ただ、普段から覇王剣を持ち歩いているわけではないので、状態異常無効の指輪を常用しており、わざわざ他の装備を倉庫なり宝物庫なりから持って来るのが面倒だったからつけっぱなしにしていただけだ。
そんな訳で俺は常に状態異常無効の指輪を装備しているけど、残念ながらうちの子達全員に渡せるほど状態異常無効の指輪は在庫がない。
毒や麻痺といった一種類の状態異常を防ぐ装備はよろず屋で買えるからいくらでもあるけど……俺が装備している指輪は開発部で開発しないといけないアイテムだ。
素材はゲームのモンスタードロップ素材が必要だから、この世界では手に入らないもんな。
まぁ、倉庫には腐るほど素材は余っているんだけど……貧乏性が災いしたか。
素材なんかよりリーンフェリア達の方が大事に決まっている。
……正直、うちの子達の強さがこの世界の人達に比べて突出しすぎていたこともあり、戦闘という面で相当舐めて掛かっていた。
本気で危機感を持って戦うのであれば、万全の状態を整えて然るべきだったのだ。
『リーンフェリアの装備……あぁ、ゲームのアクセサリーじゃな?その辺はお主の方が詳しかろう?』
『まぁ、そうだよな……その辺りは合流してから確認するか。とりあえずこの将軍の装備を引っぺがすか……あ』
武装を引っぺがそうと手を伸ばそうとして、今更ながらとんでもない事を思い出す。
『どうしたのじゃ?』
『サリアが今敵将軍と交戦中だ。それにカミラ達も無事か確認しないと……』
やばい……。
サリアが戦っている将軍は魔道具を持っていないだろうが、確かカミラの方の英雄は魔道具を持っていた筈だ。
『サリアは恐らく大丈夫じゃろ。ウルル達が調べた情報では魔物を操る魔道具を持っているのは青の将軍と黒の将軍だけのはずじゃ。そしてカミラの方は既に将を捕らえておるじゃろ?』
『……確かにフィオの言う通りだな』
うん、そう言えばとっくに北の方では戦闘が終わってたわ。
『カミラの戦った連中の持っておった魔道具は最優先で確保しておる。件の魔道具も既にこちらに届いておる筈じゃ。一応カミラ達には連絡をしておくべきじゃが、お主の心配しておる様な事にはなっておらん筈じゃよ』
『分かった……なら優先するのはサリアだな。技術開発局の人間が何処にいるか分からん……キリクの予定では、このままサリアに王都を制圧してもらう予定だったが……一度退くべきか?』
リーンフェリアが操られたのは偶然の筈だけど、出来れば開発局の連中とうちの子達の接触は避けるべきだ。
『その辺りは……すまんが私ではアドバイスは難しいのう』
『そう、だな……』
キリクに報告……優先すべきはエルディオンの王都ではなく技術開発局だな。
英雄のいなくなった王都なんて、それこそ俺達じゃなくても落とせるだろう。
英雄って存在は切り札であり精神的支柱……元々英雄がいない国よりも簡単に落とせるのは間違いない……。
……外交官見習いで動けるものは全員技術開発局の周りを固めさせて、代わりにウルル達は全員退避させた方がよいだろう。
カミラが持って帰っているであろう魔道具をフィオに調べて貰えば、有効射程や効果はすぐに判明するはず。
それが分かってから改めてエルディオンを攻めても良いのだが……安全を追うか、それとも覇王としての在り方を優先するか。
うん、考えるまでもないね。
ただし、調査等にあまり時間はかけられない……今技術開発局の連中に時間を与えるのは害しかない。
普段であれば、ウルル達を送り込んで監視させておけば何も心配はいらないんだけど、今回に限ってはその奥の手は使えないからな。
俺はサリアに連絡を取り王都進軍の一時中断を告げてから、素っ裸に剥いた青の将軍をどうやって本陣に運ぼうかフィオに相談することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます