第574話 戦闘

 


 岩で出来た盾を三枚従えながら青の将軍の……名前はちょっとパッと出てこない……青の将軍が突っ込んで来る。


 普通の人に比べたら早いんだろうけど、ジョウセンに稽古をつけて貰っている俺からすればティーブレイク前といった速度だ。


 ……そもそも朝飯前ってどういう意味なんだろうか?


 起きてから朝ごはん食べる前にちゃちゃっと終わらせられるって意味……?


 正直現代人の朝は相当忙しいと思うんだけど……とまぁ、そんなことを考える余裕があるくらい楽勝だ。


 しかしあの盾の魔法、特定回数の攻撃を防ぐことのできる防御魔法って感じだけど、なんかゲームとかでよくあるよね。


 特定回数の攻撃を問答無用で防ぐ技とか魔法。


 ボスの強力な一撃とかを防ぐのに重宝するやつだけど、ターン制のゲームならともかく現実世界で四回攻撃を防ぐ魔法って……微妙じゃない?


 連続攻撃で一瞬で剝がれるし、そもそも現実で分かりやすい強力な一撃なんてそうそう飛んでこないでしょ。


 まぁ、でもこうやってそれに防御を任せ突っ込んで来るって事は……それだけ防げれば十分って考えているのかな?


 じゃぁ、折角だし……『白炎』や『神雷』は流石にマズいよな……範囲系のストームとか撃ったらどうなるかな?


 ウォールに突っ込ませるのも……いや、ゲームじゃないんだから完璧に防げるとは考えない方が良い。


 殴ったり蹴ったりしてみた感触からして、アローの一撃くらいなら直撃しても平気そうだけどウォールやストームは長時間その場に残るからな……普通に死ねそう。


 とりあえず一発サンダーアローでも……うん、フレイムアローと大して違いはないね。


 盾が一個消滅して防がれたと。


 とりあえず他の魔法は別の機会にってことで、接近戦でもするか。


 実戦で英雄と戦う最後の機会かもしれないってことで、ちょっとキリクやリーンフェリアに無理を言って戦わせて貰ったんだ。


 気になる事は試しておこう。


 といっても、流石に覇王剣の一撃は防げそうもないから……蹴って殴って、それで盾は全部なくなるかな?


 程よいタイミングで近づいてきた青の将軍に前蹴り一発……盾消滅、からの正拳突き……盾消滅。


 うん、やっぱり特定回数防御魔法だったみたいだね。


 なんか青の将軍が理不尽な物を見たみたいな顔しているけど、気のせいだろう。


 その証拠に、青の将軍は腰だめに構えた右掌底を俺の顎目掛けて放って来る。


 ここにきて魔法じゃなくて格闘戦……?


 とか、流石の俺でも騙されないよ?


 下から放つ掌底で俺の視界を遮るように死角を作っておきながらの……俺の真後ろから魔法の一撃だ。


 とりあえず自分の後ろに『フレイムウォール』を発動させ攻撃を防ぎつつ、掌底を放つ青の将軍の手首を掴んで一本背負い……ってあかん!


 思いっきり後ろに『フレイムウォール』が!


 誰だ!こんな所に炎の壁を作ったの!


「このっ!」


 俺は一本背負いの途中で強引に手を離し、無理やりな体勢からオーバーヘッドキック!


 青の将軍が丸焼けになる直前で救出に成功した。


 いや、オーバーヘッドかました時にかなり痛そうな音がしたけど……丸焼けになるよりはマシだろう。


 オーバーヘッドキックの後も覇王は華麗に着地……我がことながら身体能力が化け物過ぎるな。


 そんなことを思いながらサッカーボールの如く吹っ飛び、地面にバウンドしてなお飛んで行く青の将軍に視線を向ける。


 ……すんごい勢いだけど、生きてるよね?


 中々えぐい勢いで飛んで行った青の将軍が、もみくちゃになりながらようやく止まり……よし、動いてるね。


 体を起こそうとしているのか、ぎこちない動きでもがくように体を動かす青の将軍。


 全く体は起こせていないけど……とりあえず大丈夫そうだね。


 うっかりでやってしまわなくて良かった……そもそも一本背負いを途中で止めてオーバーヘッドキックかませるんだったら、一本背負いの向きを変えるとか他にもっと穏便な方法あったよね?


「フェルズ様、大丈夫ですか?」


 俺が焦って声を出したのが聞こえていたのだろう。


 リーンフェリアが気遣わしげな顔を見せながら小走りに近づいてきた。


 護衛であるリーンフェリアとしては俺が敵英雄と戦うのは中々許しがたい事だろうけど、ちょっと強引に意見を通したからな……。


 心配をかけて申し訳ないけど、今後こういう機会は減るだろうし……安全マージンを取っているし、英雄との戦いは経験出来る内にしておきたかったんだよね。


「あぁ。問題ない、少し力を入れ過ぎてしまったかと思ったが存外丈夫だったようだ」


 なんとか上半身を起こした青の将軍は俺達の方を泣きそうというか、絶望的な表情で見ている。


 何か右肩が不自然なくらいに下がっているけど……あれかな、俺のオーバーヘッドが肩に入ったのかな?


 何度か俺にどつかれて吹っ飛んで行った青の将軍だけど、今回の一撃はかなりダメージが大きかったようで、先程までだったらすぐに立ち上がって反撃の意思を見せていたけど……今は座り込んで呆然とこちらを見ている。


 ……後なんか顔がめっちゃ赤くなってるな。


 あれは俺に惚れた……訳じゃなく、一本背負いで顔から『フレイムウォール』に突っ込むところだったからだろう。


 かなりの熱量だから近づいただけで火傷をしたんだろうね……俺はちょっと気温が上がったかな?って程度だったけど。


 まぁ、彼の気持ちは分かる。


 王都にまで攻め寄せられた時点でかなり絶望的な状況……そこに降って湧いた光明、敵国の王が最前線に出て来るという愚行を犯してくれた。


 しかも自分は英雄……ここで俺をどうにかできれば一発逆転も夢じゃない!って勢い込んでみたものの、敵の王が化け物過ぎて手も足も出ない……そりゃあんな表情にもなるわ。


 ……なんか弱い者いじめしたみたいで罪悪感を感じるのだけど……いやガチ目の英雄と戦っておくのは今後の為にも必要な経験だよね?


 あとどのくらい手加減すればダメージが通るとか、殺さないくらいの威力で攻撃できるとか……知っておいた方がいいじゃない!?


 以前ほら……商協連盟の英雄の何とかいうヤツ。


 あいつに三発だか四発だか叩き込んでやろうとした時は、うっかり一発でノックアウトしてしまったやん!?


 そういうミスをなくすためにもこれは必要だったのだよ!


 けして弱い者いじめしながら俺TUEEEEってやりたかったわけやないんよ!


「……さて、大体把握出来たしそろそろ終わりにするか」


 内心の気まずさを誤魔化す様に、普段通りの笑みを浮かべながら俺はゆっくりと青の将軍に近づく。


「……な、なんで……」


 顔に恐怖を張りつけつつ呆然と呟く青の将軍。


 やり過ぎた感は否めないけど……これもキリクのオーダーだしな。


 カミラもサリアもこれ以上ないくらい他の将軍達の心を折っている筈だ。


 俺だけが手心を加えるわけにはいかない。


「人の手によって造られた英雄。どれほどのものかと思ったが、警戒する必要はなかったな。これでエルディオンの英雄は全滅……後は面倒な思想の駆逐と、技術開発局とやらだな」


 俺の言葉に若干虚ろだった青の将軍の目に意思が宿る。


「英雄が……全滅?それに……技術開発局?」


「あぁ、安心しろ。全滅と言っても全員命は無事だ。命を取らねばならん程厳しい相手ではなかったからな」


「……」


 再び目が虚ろになりかけた青の将軍だったが、すぐに色を取り戻す。


「それに技術開発局の局長……あぁ、貴様の叔父だったか?彼とは色々と話をする必要があるからな」


「な、何故……」


「それは貴様には関係ない……とは言い切れないか。まぁ、お前の叔父が手を出した領域は、こちらとしても色々と思うところがあってな」


 魔王の魔力の軍事利用。


 個人的には禁止したい所だけど、こういう連中は禁止したところで気にせず研究を続けるだろうしね。


 なら手元に置いてこちらでコントロールしてしまった方が良い。


 フィオは……研究畑の人間だし、軍事利用はともかく魔王の魔力に対する研究には前向きだ。


 まぁ、魔王自体……死ねば次の魔王が誕生するという仕組みみたいだし、その魔力を利用して何かに役立てるという考え方は悪いものではないだろう。


 個人的には思うところはあるけど……フィオが乗り気なんだったら俺がとやかく言う事ではない。


 それにまぁ技術の発展は軍事、医療からって言うしね。


 そちら方面で発展した技術が、日常に役立つ者に転用されるなんてことは珍しい事でもない。


 ならば俺は、為政者としてその研究を後押しして、エインヘリアがもっと豊かになれるように利用すれば良いのだ。


「お、叔父上……」


 青の将軍がそう言って立ち上がろうとするが脳震盪でも起こしているのか、下半身に力が入らないようで立ち上がることが出来ない。


 そういえば、青の将軍は技術開発局の局長を慕っているって話だったし、余計な情報を与えてしまったかもしれないな。


「無駄話が過ぎたな。では、そろそろ……」


 俺がそう口にした瞬間、衝撃が走り……俺の腹から剣が生えていた。


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