第573話 最強の盾と……
View of ヴェイン=リングロード リングロード公爵家三男 青の軍新将軍
突如すさまじい勢いで視界が変わり、地面を転がり、次いで腹に激痛が走る。
突然訪れた事態に私の意識が状況を受け入れるよりも早くエインヘリア王の言葉が耳に届く。
「む、手加減し過ぎたか?まぁ、英雄がどの位頑丈なのか知る良い機会か」
足を下ろすエインヘリア王の姿を見た時、私は蹴り飛ばされたことをようやく理解した。
「っ!?」
理解と同時に込み上げてきた吐き気を飲み下し、私は急ぎ立ち上がる。
「思った以上に余力がありそうだな」
そんな呟きが真横から聞こえた瞬間、今度は横向きに吹き飛ばされた。
「っぁ!?」
目まぐるしく変わる視界……今何が起こっているのか視覚からは一切理解が出来ない。
一瞬足りとて同じ映像を移さない自分の目と流れ込んで来る映像情報を認識できない頭。
「防御しないのか……?」
降りかかる状況に翻弄され、混乱から抜けきれない私にそんな言葉が投げかけられる。
「ぐ、ああああああああああああああああああ!!」
今自分がどんな状態になっているかさえ判別がつかないが、それでも長年染みついた詠唱を一瞬で終わらせて悲鳴と共に石弾をばら撒く。
狙いをつけるどころか相手のいる方向に撃てたかどうかも分からないが、体勢を立て直す時間は稼ぐことが出来たようだ。
「咄嗟に魔法が撃てるのは流石と言ったところか。狙いも何もあった物ではなかったが……詠唱というのがどんなものかは知らんが、こういった接近戦で多少なりとも意識をそちらに割かねばならないというのはやはりネックだな。やはり魔法は戦闘よりも別方面に伸ばしていく方が便利な世の中になりそうだ」
私の方に顔を向けてはいるものの、私の事は一切見ていないエインヘリア王がそんな呟きを漏らす。
エインヘリア王にとって、私の放った魔法は戦闘に使うに値しない……そう言っているのだろう。
私が不甲斐ないばかりに、他国の王に英雄となった私がこれ程までに舐められる……。
その事実に憤りよりも、今まで連綿と研鑽を重ね続けてきたエルディオンの歴史に申し訳なさを覚えた。
だが……。
「っけぇ!!」
立て直すと同時に詠唱を終わらせた魔法を気合いと共に放つ!
石の杭を地面より無数に生み出し鉄の鎧程度なら簡単に貫くことが出来る威力がある魔法だが、詠唱が短く使い勝手が良い。
攻撃範囲は狭いが、対個人用の魔法としてはかなり優秀な魔法だ。
しかし、エインヘリア王が手にした剣で無造作に石杭を振り払うと、布でももう少し抵抗出来るだろうと言いたくなるほど簡単に切り裂かれる。
「ふむ、英雄であってもやはりこういった牽制程度の魔法が関の山か。魔法使いの戦場での役割が防御魔法が第一と言われるわけだな」
やはり確認するように呟きながらエインヘリア王がこちらに視線を向ける。
先程の魔法が牽制程度にしかならない事は織り込み済み……いや、予想を大きく上回られたことは否めないが、それでも私の魔法を対処した後に動きを止めてくれたおかげで時間は稼げた。
石の杭を放つと同時に開始していた詠唱が終わり、続けざまに魔法を解き放つ。
浮遊岩盾……私を自動で守る四つの岩の盾だ。
例え岩が砕かれたとしても即座に集合して防御してくれる魔法で、術者である私自身が反応出来ないような速度の攻撃でも確実に防いでくれる。
発動さえしてしまえば鉄壁を誇る魔法だが、魔法の維持に膨大な魔力を消費する為長期戦には向いていない。
キュアンのオリジナル魔法……圧倒的な手数と速度で攻撃してくる光の矢を防ぐために開発した魔法で、皆の中で一番防御が得意と言われる所以と言える魔法だ。
この魔法の効率化が現在の私の研究課題……そこさえ克服できれば常にこの魔法を使っていられるだろう。
今回の戦いも……最初にこの魔法を選択することも出来た筈だ。
まぁ、今更言っても意味は無いが。
とにかく、この魔法を発動した以上守りは十分……同時に魔力が枯渇するまでの時間もそう長くはない。
時間を稼ぐのに適した防御魔法である筈なのに、最も時間稼ぎに向いていない魔法。
それがこの浮遊岩盾。
バルザード様が助けに来て下さるまで持久戦をする腹積もりだったが、それは不可能だと判断した。
大人と子供……そんな表現さえ生ぬるい程、私とエインヘリア王の力には差がある。
だが、ここで諦めるわけにはいかない。
エインヘリア王を捕らえる……その一手が成功さえすれば、ここまで追い込まれている状況をひっくり返すことが出来る。
ここで勝利できれば……帝国も、エインヘリアも我々の敵ではなくなるのだ。
だがここで私が敗れれば、恐らくエインヘリア王は後ろに下がる……そうなれば、いくらバルザード様であってもエインヘリア王をどうこうするのは難しいだろう。
そもそもエインヘリアはあの空飛ぶ船を使い、好きな場所に好きなだけ兵を送り込むことが出来るのだ。
この戦いでエインヘリアを追い返せたとしても根本的な解決にはならないし、兵の質を考えれば王都はいずれ陥落する。
王都が陥落すれば、技術開発局も遠からず接収……そうなれば、バルザード様やウルグラ様が健在であってもエインヘリアに勝利することはほぼ不可能となるだろう。
だから……ここで私は絶対に勝利を納めなければならず、その為に必要なのは乾坤一擲の一撃。
エインヘリア王の攻撃に、私自身が耐えるのは間違いなく不可能。
浮遊岩盾に防御してもらい、至近距離から全力の一撃を叩き込む……これしかない。
これが通じなければ……エルディオンが負ける?
改めてその事実を認識した瞬間、私は体の芯まで凍り付くような悪寒を覚えた。
私がこんな勝負をしなければならないとは……いや、まだバルザード様が居られる以上保険が全くないという訳ではないが……。
去来した不様な思考を、私は全力で握りつぶす。
今、余計な事は考えるべきではない。
私が覚悟を決めると同時にエインヘリア王が口を開く。
「見た感じ防御魔法か?よし、折角だ。これも試すか『フレイムアロー』」
良い事を思いついたとでも言いたげな表情で炎の矢を撃ち出してくるエインヘリア王。
相変わらずいつの間に詠唱したのかと言いたい所だが、今の私に余計なことをする時間なぞありはしない。
先手を取られてしまったが、炎の矢程度は問題なく防げる。
寧ろ一手こちらが上回ったとさえ言える……私はここに来て初めてエインヘリア王を上回ることが出来た喜びを感じつつ、間合いを詰めるために地面を蹴る。
詠唱のタイミングはぎりぎり……肉薄すると同時に叩き込める!
炎の矢が飛来……盾の一枚が自動で私を守り消し飛ぶ。
……は?
たかが炎の矢の一撃で、盾が消し飛んだ?
弾かれたでも砕かれたでもなく……文字通り盾が一枚消し飛んだ……馬鹿な!?
キュアンの光の矢ですら数十発は耐えられるのだぞ!?
「なるほど。四回だけ敵の攻撃を防げる魔法という事か」
エインヘリア王の呟きが私の耳に届くが、私は全力で駆けながら詠唱を続ける。
余計なことをしている暇はない……だが、一言だけ言わせて欲しい……ふざけるなよ!?
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