第563話 争いは絶えない
「人は何故争うのだろうか?」
俺の呟きに応えるものは誰もいない。
唯一反応を示したルミナも、俺の膝の上から突然何ゆうとんの?といった目でこちらを見上げるだけだ。
俺はその表情に癒されつつ、ゆっくりと頭を撫でる。
婚約発表からの挨拶地獄……からのエルディオンへの宣戦布告と、エインヘリアは中々に忙しかった。
まぁ、エルディオンへの宣戦布告に関しては向こうが自主的に動いた結果ではある……一瞬キリクとイルミットの顔が脳裏に過ったけど、それはそれだ。
さて……別に俺はアンニュイな感じで呟いたわけではない。
人が何故争うのか……そんなもの考えるまでもない。
きのこ派とたけのこ派しかり、犬派と猫派しかり、虚……巨〇派と貧〇派しかり。
人が二人以上集まればそこに派閥が生まれ、そして隣人よりも自身が優れていると思わなければ己を保つことが出来ないのだ。
きのことたけのこ……どっちも美味しいじゃない。
犬と猫……どっちも可愛いじゃない。
巨〇と貧〇……我、全ての胸を愛す。
と言うようなことを言い出すと、第三派閥として認識されるのが人の世と言うものだ。
まぁ、何が言いたいかというと……不毛だよなってことだ。
隣の家が、隣の街が、隣の国が……範囲が広がろうが狭まろうが、結局人は隣人が嫌いで嫌いで仕方ないのだ。
誰かが言うように隣人を愛せば世界は平和になるんだろうね、絶対無理だけど。
誰しも主義主張があるのは当然だし、二つの主義主張がぶつかればそこで争いが起こるのも当然だ。
複雑怪奇な世の中にあって、これだけは非常にシンプルな真理と言えるだろう。
エルディオンは自分達の価値感を唯一絶対のものにするために外征を開始したが、これもまた問題解決手段として実にシンプルなやり方だ。
無論障害も多いけどね。
エルディオンとしてはその最大の障害が帝国であると考え、自分達の情報を知られる前に電撃作戦で一気に帝国にダメージを与えるつもりだったのだろう。
無色の軍による攻撃からの白と黄の軍による攻撃。
帝国には悪いけど、この三つの軍による攻撃は帝国では耐えきれなかったように思う。
まず無色の軍の持っている魔法の力を減衰させる能力。
リズバーンの攻撃をほぼ無力化することが出来るし、リカルドの思考高速化を無効化することも出来る。
ついで……ではないのだろうけど、魔法使い系の『至天』が三人もその能力によって捕まっていたしとんでもない成果と言える。
その上、なんやかんや上手くやれば帝国のツートップを落とすことが出来ただろうし、その後に現れた白と黄の将軍の魔法も中々すごかった。
特に黄の将軍はリズバーンの専売特許だった飛行魔法を実現させてたからね。
もしリズバーン達が無色の軍にやられていたら、帝国は立て直すことが出来ずにそのままエルディオンに飲み込まれていたと思う。
まぁ、その目論見もうちのキリクによって美味しく頂かれたわけですけどね。
因みに現在キリクの仕込みというかクーガーの働きによって、エルディオンの英雄連中は帝国との国境側に意識が向いている。
まぁ、国境というかエインヘリア最強の魔法使いカミラに、だけどね。
天然物の英雄の一人と赤、黒の将軍が北に向けて行軍を開始する準備を進めているらしい。
いや、その情報はまだ入って来てはないけど……キリクが言うにはそういう事になっているらしい。
うん、キリクが言っているんだから相手さんは全力で準備中なのだろう。
さて……今後の流れはもうキリク達から説明されている。
エルディオンの残る英雄五人の内、三人はカミラ目掛けて突っ込んで来るらしいのでお任せする。
その間に俺はセイアート領からエルディオンの王都に向けて進軍開始……飛行船で。
ちなみに、エルディオンの王都にはリズバーンおよびドラゴン対策として対空兵器があるらしい。
魔道具で作られた兵器で、カタログスペック的にはリズバーンよりも高所を飛んでいる飛行船に攻撃は届かないみたいだけど、攻撃が届く可能性は十分ある。
なので飛行船でそのまま王都に乗り込むことはせず、ある程度離れた位置で飛行船を降りて召喚兵を布陣……王都外で青ともう一人残っている将軍と決戦。
撃破後王都に入りなんやかんややった後技術開発局へと向かう……といった流れだ。
カミラの方の戦術はお任せだし、俺の方も特にどんな風に戦った方が良いとかの話は全く無い。
カミラはともかく、俺の方は何か戦術を授けてくれてもいいんじゃよ?
ぶつかる予定の将軍の情報は貰っているから……後は自分でどうにかしろって事でしょうね。
今までも俺が戦場に出る時は俺が全部指揮を執っていたし、今更と言えば今更なのだろう。
青の将軍は土系の魔法を使う防御が得意な魔法使い。
もう一人の将軍は満遍なく色々な魔法を使うけど、接近戦が好きな魔法使い。
魔法使いなのに接近戦するの?とは思うけど、この世界の魔法使いは別に鎧を着てはいけないってこともないし、ごりごり接近戦をする魔法使いがいてもおかしくはないのだろう。
詠唱しながら接近戦が出来る人はかなり少ないみたいだけど、リカルドみたいに一度発動させたら暫く持続したり任意のタイミングで魔法を放ったりすることが出来る魔法もあるらしいので、接近戦用の魔法というのもあったりするんだろうね。
まぁ、何にしても……俺達相手には防御が得意だろうが近接戦闘が得意だろうが、あまり関係ない。
基本的に……真っ直ぐ行ってドンで勝てるしね。
勿論油断するつもりはない。
ちゃんとした陣容を整えてエルディオン王都を襲撃するつもりだ。
俺は来るべき日に備え……とりあえず、ルミナのブラッシングを始めた。
---------------------------------------------------------------------------------------
あけましておめでとうございます。
お正月早々大変なことが色々と起きていますが、今年一年皆様が健やかに過ごすことが出来る様お祈りいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます