第559話 恐怖

 


「……五色の将軍の強さは……似たり寄ったり」


 ウルルがエルディオンについての報告を始めた。


 最初は戦力についてのようだね。


「……相性による得手不得手はある……でも……ほぼ同格。青の将軍……ヴェイン=リングロードは……土属性が得意。赤の将軍……ノリス=マハヴェルは……火属性が得意。黒の将軍……ネイリース=イシュライトは……水属性」


 青が土で黒が水……火以外は色のイメージとちょっと違う気が……あ、五行だったら水は黒だったか?


 うん、絶対関係ないな。


「……得意な魔法に特化していて……他の魔法は苦手みたい。それと……五色ではない英雄……バルザード=エヴリンとウルグラ=モルティラン。得意なモノに特化したタイプじゃなくて……二人ともオールラウンダー。苦手が無い分……五色と戦うと……二人が勝つけど……私達からしたら……特化型の方が……面倒……?」


 ……エルディオンの英雄の評価散々だな。


 まぁ、純粋な戦闘能力でうちの子達が負けるとは最初から思っていない。


 変な能力とか持っていたら嫌だなぁってくらいだ。


「この七人……特殊な能力を持つ人は……いない。各々の戦い方は……こっちの資料に……」


 そう言ってウルルは会議前に配っていた資料を掲げる。


 後で目を通しておこう。


「次に……エルディオン内の勢力について……エルディオンの派閥は……三つ。王統派と貴統派と中立……。王統派は王をトップとした……絶対王政を推進。貴統派は……上位貴族による……合議制を……推進。中立は中立……。今は王と英雄の……二つの大駒を有する……モルティラン家……貴統派が……主流」


 純血主義の一枚岩なのかと思ってたけど、やっぱり派閥は存在するのか。


 ……そりゃそうか。


 反対勢力のいない独裁体制とか上手くいけば伸びるけど、一度失敗したら地獄まで真っ逆さまだもんね。


 議論は大事、されど実現には大胆さも不可欠。


 独裁が悪いって訳じゃない……フットワークはすさまじく軽くなるしね。


 合議制はどうやっても初動が遅くなるから、緊急対応マニュアルみたいなものを作っておけば良いのだろうけど、マニュアル通りに万事ことが進まないのが世の中ってもんだからね。


 それにまぁ、権力争いってのは素晴らしいとは言い難いけど、争う心があるからこそ世界は発展し続けているわけで……頭ごなしに否定するものでも拒絶するものでもないだろう。


 まぁ、やりすぎは良くないし、辟易するのも確かだけどね。


「政治的には……そんな感じだけど……今急速に力を増しているのが……リングロード公爵家」


 リングロード……青の将軍の家か。


 まぁ、人造とはいえ英雄を有しているのだから力を持つのは当然か。


「リングロード家が力を増したのは……技術開発局局長のランティス=リングロードの存在と……青の将軍……ヴェイン=リングロードの存在のお陰……」


「技術開発局局長か」


 他意は込めずに呟いたつもりだったけど……俺がそう呟いた瞬間、皆が少し緊張した様な強張りを見せた。


 ……いかんいかん。


 大丈夫、怖くない、怖くないよー。


 他人にどう思われようと気にしないけど、うちの子達に怖がられるのは普通に辛い。


 俺が意識して肩の力を抜き表情を緩めると、先程より少し硬くなったウルルが報告を続ける。


「……技術開発局局長……ランティス=リングロード。かつては……リングロード家の鼻つまみ者……でも……ここ数年で……画期的な技術をいくつも発表して……権威を増している」


 画期的な技術ね……魔物を生み出す魔道具やら、人造英雄……もしかしたら妖精族を衰弱させる首輪辺りもそうなのか?


 ……どんな奴なのか知らないけど、そのランティスとかいうヤツとはきっちりお話しする必要がありそうだね。


「特に人造英雄……五色の将軍となった英雄達を作ったことで……その功績は比類なきものと……」


 まぁ、それは理解出来る。


 帝国が徹底的に戸籍管理をしてようやく召し上げた英雄が二十名強。


 魔法使いのみを英雄と認定するエルディオンで天然の英雄なんて早々出てくる筈がない……天然物が二人もいる時点でかなり凄いとさえ言えるだろう。


 そんな英雄を自在に生み出すことが出来る……もっと言えば、自分も英雄になれるかもしれないとあっては、そりゃ人気も出るだろうよ。


「……本人は……根っからの研究者。権力とか……権威とか……そういうのは興味がないみたい……ずっと……開発局に籠って……研究ばかり」


「自分の研究にしか興味がないタイプか」


「そんな感じ……です」


 俺の問いかけにウルルがこくりと頷きながら答える。


 最初ウルルから権威が増していると聞いた時は、研究だけじゃなく政治や軍事にも頭の回る万能天才タイプかと思ったけど、研究特化の変人タイプかな?


 ……正直嫌いなタイプではなさそうだけど、やってる研究が研究だし、倫理観がぶっこわれているからな……。


 いや、エルディオンの倫理観に照らし合わせれば問題ないのかもしれないけど、俺的にはアウトもアウト……スリーアウトどころか七回コールド二十一アウトくらいだ。


「今回の戦争……上層部が全会一致で賛同したのは……彼の新技術があってこそ。彼自身は……実験を優先したいからと……反対していたけど……」


 ……その意見は聞き入れられていない。


 まだ権力が集まり切っていないからか、それとも本人の政治力がゴミカスだからか……それとも。技術は認めてもランティスとかいうヤツに発言が認められていないのか……まぁ、なんでもよいか。


 エルディオンの中枢……権力機構は完全に解体する予定だし、今どんな権力争いが行われていても精々反目させて連携を取り辛くさせるくらいしか使い道がない。


 当然だけど、ウルル達が調べてくれた情報に意味がないと言っているわけではない。


 だた、エルディオンの上層部が行きつく先は……既に決まっているというだけの話。


 彼等に関しては、他の併呑した国みたいにある程度形は残して代官として登用ってのも基本的には考えていない。


 長年染みついた思想ってのは、そう簡単に消せるもんじゃないからね。


 エルディオンの民達も……現時点ではそれが当たり前だと思っていても、外の世界……エインヘリアと交われば、自分達の環境がどういうものであったのかはすぐに理解するはず。


 そうなった時……虐げられていた者達の怒りの矛先が向けられるのは、当然虐げていた者達。


 そんな連中がのうのうと上でのさばっていたら……内乱待ったなしだろう。


 勿論、その思想だけで根切りにするつもりはないけどね?


 ただ、権力は完全に剥ぎ取るし……その思想も、しっかりと教育し直す。


 主にクーガーとかが教師となって。


 一番大事なのは次世代にその思想を残さない事だ。


 それが難しい事は分かっているけどね……。


「我々としては、実に良いタイミングで動いてくれましたよ。向こうから動いて貰えなかったら別の手段をとる必要がありましたからね」


 キリクが再び眼鏡をクイっとする。


 ……今回エルディオンが帝国に仕掛けたのって、キリクの策略じゃないよね?


 ふとそんなことを覚えた俺は、キリクとは俺を挟んで反対の位置にいるイルミットをちらりと見る。


 彼女は普段通り……にっこりと微笑むだけだった。


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